三重県情報公開審査会 答申第98号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年11月6日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号(以下「条例」という。)に基づき行った「社会福祉法人にかかる匿名の投書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成12年11月13日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)に該当するとして非開示決定が妥当というものである。
(1) 第2号(個人情報)の該当性について
ア.投書の対象となった社会福祉法人理事長の個人情報
本件対象公文書には、投書の対象となった社会福祉法人の理事長個人の名誉、社会的評価にかかわることがらが記載されておりたとえその内容が事実でないとしても保護すべき個人情報に該当する。本件事案の場合、投書の対象となった社会福祉法人理事長は、異議申立人である法人の理事長であるが、条例上は第三者からの請求に対しても同様の開示決定等を求められるため、本決定をしたものである。
イ.投書者の個人情報
そもそも匿名の投書は、投書者自身を特定してほしくないがためであり、特定されても構わないのであれば、当初から氏名等を明記して投書されるものであると考える。匿名であるとは言え、投書者自身が特定され、投書者自身に不利益な結果を招来する可能性も否定できず、また、投書者自身も本件対象公文書が開示されることを予想しているとは思えない。
(2) 第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書には、投書の対象となった社会福祉法人の名誉、社会的評価にかかわることがらが記載されており、たとえその内容が事実でないとしても、法人自体の社会的評価の低下につながる可能性があることから、非開示が妥当である。本件事案の場合、投書の対象となった社会福祉法人は異議申立人と同一であるが、条例上は第三者からの請求に対しても同様の開示決定等を求められるため、本決定をしたものである。
(3) 第6号(事務事業情報)の該当性について
県は、社会福祉法人等の運営が適正になされているかどうかなどを調べるため定期的に監査を行っている。本件対象公文書に記載されているような内容は、監査をする側にとって非常に貴重な情報である。このような情報が公開されたならば、そのことにより法人並びに投書者に不利益な結果をもたらすことが充分考えられ、また、以降の貴重な投書までが封殺されてしまう結果になることは否定できない。匿名文書を公開することは、今後の監査事務の適正な執行に対し、著しい支障を及ぼすことは明らかである。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 何ら根拠もない匿名文書の誹謗中傷を取り上げ、不本意な発言と共に悪意を持つ匿名者のプライバシーをことさら擁護すべきは、理に適わない。
- 非開示理由としている法人とは、異議申立人のことであり、個人とは、異議申立てをした法人の理事長のことである。両者は、情報開示によって不利益を被ることを認めたうえで、今回の異議申立てを行っている。
- 県は、投書の内容をもとに監査をしたのであり、監査において特に問題がないとした以上、その内容を具体的に公表すべきである。
- 投書者が実名を記入して、匿名を希望としたのであれば理解できるが、単なる匿名の投書の場合は、開示しても問題ないと考える。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び、第6号(事務事業情報)に該当するため非開示が適当であると主張している。
なお、実施機関は、原決定で第3号に該当するとして非開示としたが、審査会での説明等で第2号(個人情報)及び第6号(事務事業情報)にも該当するとして非開示理由を追加したいとしている。本来、非開示理由の付記が行政手続きの一環として条例上規定されているにもかかわらず、異議申立ての段階で追加を無制限に認めると、非開示理由の付記を求めた条例の趣旨が没却され、信義に反する結果となる。したがって、異議申立人の攻撃防御の機会を実質的に奪うような理由の追加は許されないと解すべきである。しかし、本件事案の場合、追加した理由についても十分異議申立人に意見陳述の機会が付与されているので、本件事案について再度異議申立てと再決定が繰り返されることなく紛争の一回的解決が可能となり、迅速な最終決定に資すると考えられるので、これを認めるものとする。
そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3)第2号(個人情報)の該当性について
ア.投書の対象となった社会福祉法人理事長の個人情報該当性について
本件対象公文書には、異議申立人である法人の理事長個人の名誉、社会的評価にかかわることがらが記載されており、非開示が妥当である、と実施機関は主張している。本件事案の場合、投書の対象となった社会福祉法人の理事長は、異議申立人である法人の理事長であるが、条例上は第三者からの請求に対しても同様の開示決定等を求められるため、本決定が妥当である、と実施機関はあわせて主張している。
一般論として、投書の内容に記載されている個人の名誉、社会的評価を保護する趣旨で当該情報を非開示とすべきであるとの実施機関の主張は理解できなくはない。しかしながら、開示によって不利益を受ける社会福祉法人の理事長自身が、第三者からの開示請求があった場合、開示されることについても受忍していることから、実施機関の上記主張を積極的に認めることはできない。なお、本件事案の場合、投書の対象となった社会福祉法人理事長からの開示請求であるため、開示しないことができる例外を除き、本人に係る部分を開示しなければならないことと規定している条例第8条の本人開示の規定を適用すべきではないかという疑問が生じうる。しかしながら、本件対象公文書の内容をみると、異議申立人本人の情報であるという側面と、投書者の個人情報であるという両方の側面があると認められるため、ただちに本人情報にあたるとは言い切れない。
したがって、投書者の個人情報に該当するか否かについて、以下に検討する。
イ.投書者の個人情報該当性について
実施機関は、匿名であるとはいえ、投書者自身が特定され、投書者自身に不利益な結果を招来する可能性も否定できず、また、投書者自身も本件対象公文書が開示されることを予想しているとは思えない、と主張している。他方、投書者が実名を記入して、匿名を希望としたのであれば理解できるが、単なる匿名の投書の場合は、開示しても問題ないと考える、と異議申立人は主張している。
本件事案の場合、本件対象公文書が匿名で投書されており、匿名とした趣旨から、投書の内容は明らかにされても構わないが、誰が投書したかについては明らかにしてほしくないという投書者の意思を推測し得る。
当審査会が、インカメラ審理により本件対象公文書を検分したところ、明らかに投書者が特定できるとまではいえないものの、関係者であれば投書者を特定し得る部分が全くないと断定することもできない。したがって、投書者が特定される可能性が残る以上、実施機関の主張には合理性があり、第2号(個人情報)に該当する。
(4)第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる
(5)第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書には、異議申立人である法人の名誉、社会的評価にかかわることがらが記載されており、非開示が妥当である、と実施機関は主張している。本件事案の場合、投書の対象となった社会福祉法人は、異議申立人である法人であるが、条例上は第三者からの請求に対しても同様の開示決定等を求められるため、本決定が妥当である、と実施機関はあわせて主張している。
一般論として、投書の内容に記載されている法人の名誉、社会的評価を保護する趣旨で当該情報を非開示とすべきであるとの実施機関の主張は理解できなくはない。しかしながら、開示によって不利益を受ける社会福祉法人自身が、第三者からの開示請求があった場合、開示されることについても受忍していることから、実施機関の上記主張を積極的に認めることはできない。
(6)第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7)第6号(事務事業情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されているような内容は、監査をする側にとって非常に貴重な情報であり、このような情報が公開されたならば、以降の貴重な投書までが封殺されてしまう結果になることは否定できない、と実施機関は主張している。
確かに、県が社会福祉法人の運営を監査することは容易なことではなく、同監査が有効適切に機能するためには、通常入手される情報だけでなく、本件対象公文書のような情報を含む、多くの情報を入手することが必要である。したがって、本件投書を開示することにより、今後、このような情報が提供されにくくなることは、今後の監査事務の適正な執行に対し、著しい支障を及ぼすおそれは否定できず、第6号(事務事業情報)に該当する。
(8)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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12.11.22 | ・諮問書の受理 |
12.11.24 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
12.12. 6 | ・非開示理由説明書の受理 |
12.12. 6 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
12.12.11 | ・意見書及び口頭での意見陳述申出書の受理 |
12.12.13 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
13. 1.17 | ・補充説明書の受理 |
13. 3.23 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第128回審査会)
|
13. 4.20 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第129回審査会)
|
13. 5. 1 | ・非開示理由追加説明書の受理 |
13. 5.18 | ・審議
(第130回審査会)
|
13. 6. 1 | ・審議 ・答申 (第132回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。