三重県情報公開審査会 答申第144号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の存否を明らかにしない決定を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年12月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定神社(宗教法人)の財産目録の内預貯金の内容、入手先文書」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成14年12月27日付けで行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人が所轄庁に提出するとしている書類提出制度は、従来、所轄庁が宗教法人の実態を把握できる場合は、制度上、規則変更の認証や登記事項の変更等の場合に限定されていたことから、一定の備え付け書類の写しの提出を義務づけることにより、宗教法人がその目的に沿って活動していることを所轄庁が継続的に把握し、宗教法人法を適正に運用できるようにしたものである。
よって、書類が提出されなかった場合、当該法人は活動していないものと判断される。
つまり、提出書類の存否を明らかにすることにより、不活動法人かそうでない法人かという、条例第7条第6号(事務事業情報)により非開示とすべき情報が開示されることとなる。
そのことは、不活動法人の解散を推進し、法人格の悪用防止といった所轄庁の不活動法人対策に著しい支障を及ぼすおそれがある。
不活動法人の法人格については、宗教活動に全く無縁のものが、虚偽の登記申請により当該法人の代表役員に就任したり、宗教法人格の買い取りなどの方法により法人格を取得した後、脱税の隠れ蓑にするため、金儲けを主目的にした霊園経営を行うため(霊園事業の主体は、公共団体、公益法人、宗教法人に限られる)、さらには宗教行為に名を借りた詐欺等の犯罪行為を引き起こすために利用される危険性がある。
そのため、所轄庁では、不活動に陥った宗教法人については、法人格が悪用されることを防止するために、不活動に陥ったことが公になる前に、鋭意解散手続きを進めているところである。こうした不活動法人対策に支障を来すおそれがあるため、文書の存否を明らかにしない必要がある。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当該宗教法人の代表者は、申立人の催促にもかかわらず、ペイオフ対策を取らず職務を怠っており、信者として、当然かつ正当な請求に応えようとしていない。このまま推移すれば、預貯金を失う危険がある。申立人は、預貯金の存在を、信者として閲覧請求で知っている。そして、ペイオフ対策をするよう催促してきたにもかかわらず、その対策が取られておらず、信者の一人として放置、黙認はできない。信者として不正をただすことが今回の目的であり、預貯金の点についてのみ情報を公開せられたい。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。
そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第11条の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則である。しかし、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。本条は、この決定の枠組みの例外を定めたものである。
(3) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人から提出される当該書類が、その存否を答えるだけで、当該法人が不活動法人かそうでない法人かが開示されてしまうことになり、不活動法人対策事務を行う上で著しい支障を及ぼすと認められるため、その情報の存否自体が条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するとして、当該文書の存否を明らかにできない、と実施機関は主張している。
確かに、ある宗教法人から提出されるべき書類については、その存否を明らかにするだけで、不活動法人であるかどうかがわかり、不活動法人であることが公にされる前に、所轄庁として解散の手続をすすめる等の事務に支障を及ぼすおそれがあることは否定できない、という実施機関の説明も理解できなくはない。しかしながら、公文書の存否を明らかにしない決定については、公文書の存否自体を明確にしないで拒否処分をなし得る例外的なものであり、その存否を明らかにすること自体が即座に条例上非開示とすべき情報を開示することとなるような極めて限られた場合にのみ許容し得るものであるというべきである。
本件事案の場合、公文書の存否を明らかにすることで、ある宗教法人が不活動法人であるか否かがわかることとなることについては、確かに実施機関が説明するとおりであるが、そのこと自体が即座に実施機関の不活動法人対策に著しい支障を及ぼすとまでは言えない。
よって、実施機関は本決定を取り消し、改めて開示・非開示等(不存在を含む。)の決定を行うべきである。
なお、異議申立人は、自身が当該宗教法人の信者であることを本件異議申立ての理由として強調するが、情報公開制度は開示請求者が誰であるかなどの個別的事業によって開示決定等の結論に影響を及ぼすものではなく、当審査会としても異議申立人のかかる主張については斟酌していない。
ところで、当審査会は、過去の同種の事案において、「不活動法人であるという事実が判明すると、法人格の売買等により悪用されるおそれから、事務執行上支障があるとする実施機関の主張には理由があり、事例は少ないとはいえ、実際に法人格の売買が行われている例がある以上、実施機関の本条による存否応答拒否は妥当であると認められる」旨、平成15年3月11日付け答申第136号で答申したところである。しかしながら、同種の異議申立てが繰り返し提起されていることから、県が保有する、あるいは保有すべき宗教法人に関する情報に対して県民の関心が少なからず存在していること、また、他の都道府県においては、公文書が存在している場合であっても存否応答拒否とはせず、部分開示で対応している自治体が見受けられるにもかかわらず、全国的に見て実施機関が危惧しているような事態が発生していないこと等を総合的に勘案し、さらに慎重な審議をしたうえで今回の結論に達したものである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙 1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 1.14 | ・諮問書の受理 |
15. 1.16 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 2.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 2.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 5. 9 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 (第174回審査会)
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15. 5.27 | ・審議
(第175回審査会)
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15. 6.13 | ・異議申立人の口頭意見陳述実施機関の追加非開示理由説明の聴取 ・審議 (第176回審査会)
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15. 7.11 | ・審議 ・答申 (第178回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。