三重県情報公開審査会 答申第195号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成16年5月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年 三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の日時に発生した特定の刑事事件について、現場を撮影した防犯ビデオの写し及び捜査に使用している資料」の開示請求に対し、三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成16年6月4日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書は「特定の日時に発生した特定の事件について、現場を撮影した防犯ビデオの写し及び捜査に使用している資料」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第48条(適用除外) に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 訴訟に関する書類の一般的な意義
刑事訴訟法(昭和23年 法律第131号。以下「刑訴法」という。)第53条の2の「訴訟に関する書類」とは、被疑事件・被告事件において作成又は取得された書類であると解されている。同条が「訴訟に関する書類」を行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)の適用除外とした趣旨は、
① 訴訟に関する書類は、刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること
② 刑訴法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、被告事件終結後においては、刑訴法第53条及び刑事確定訴訟記録法により、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続によることとされるなど、これらの書類は、刑訴法及び刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること
③ これらの書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであること
によるものである。
すなわち、訴訟に関する書類については、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査や公訴維持等に支障を及ぼすおそれが大きいものであることや、刑事手続の特殊性を総合的に考慮した結果、これら書類の取扱いは刑事訴訟手続に委ねることとされ、情報公開法の適用が除外されたものである。
これを受け、条例第48条においては、情報公開法が適用除外とされる刑訴法の規定する訴訟関係書類及び押収物を、条例の適用除外とすることを定めたものである。
(2) 本件対象公文書が刑訴法第53条の2の「訴訟に関する書類」に該当することについて
ア 「現場を撮影した防犯ビデオの写し」について
一般的に県警察が本件対象公文書である「現場を撮影した防犯ビデオ」を保有するとすれば、
○ 任意に提出を受けて領置する。
○ 差し押えを行い、押収物として保有する。
○ その写しを入手し、捜査報告書や関係者の供述調書に添付する。
などが考えられ、いずれの場合も、事件捜査の過程において取得することとなる。
したがって、本件対象公文書については、仮に県警察が保有しているとしても、刑訴法第53条の2に該当し、条例第48条に定める適用除外とされることは明白である。
イ 「捜査に使用している資料」について
一般的に県警察が、犯罪を認知した場合、被疑者を検挙する過程においては、さまざまな捜査書類を作成し、事件捜査を行うこととなる。
これら捜査書類は、被疑者が検挙されれば、検察庁へ送致・送付することとなり、起訴され、証拠として公判に提出されれば、訴訟記録となる。
本件対象公文書は、仮に県警察が保有しているとしても、特定事件の捜査過程で作成された捜査書類であり、刑訴法第53条の2に該当し、条例第48条に定める適用除外とされることは明白である。
(3) 本件対象公文書の写しが、刑訴法第53条の2の「訴訟に関する書類」に該当することについて
開示請求者は、本件開示請求の中で、「現場を撮影した防犯ビデオ」の「写し」を請求しているものであるが、その内容は原本と何ら変わらないものである。
この点について審査会は、平成16年10月19日付けで「警察署が執行した特定の者に対する逮捕状(写し)の非開示決定に対する審査請求事案」及び「特定の者に対する告訴状(写し)の非開示決定に対する審査請求事案」に対し、「本件対象公文書は、刑訴法に従い、開示・非開示の判断がなされるのが相当と認められるから、刑訴法第53条の2に定める『訴訟に関する書類』として、条例第48条により除外される公文書とするのが相当である。」旨答申し、「写し」の「訴訟に関する書類」の該当性を認めている。
5 審査請求の理由
審査請求人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
(1) 条例第7条第1号(法令秘情報)該当性
条例第48条により、本件対象公文書を適用除外とし非開示にしたのは、不当とまでは言えない。
しかし、刑訴法第47条は、公益上の必要があれば、公にできると明示しており、訴訟に関する書類は、法令秘に当たる文書ではない。
(2) 社会に対する説明と立証義務
県警察は、現場を撮影した防犯ビデオの写しを公にすることで真を問うべきである。
訴訟に関する書類であるという1点をもって本件開示を逃れようとしているが、警察の責務は、「個人の生命、身体、財産の保護」にある。
県警察は、特定の事件に対する「捜査の妥当性や疑義」について社会に説明し、立証する義務がある。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第48条(適用除外)の意義について
本条は、情報公開法が適用除外としている公文書について、条例の適用除外とすることを定めたものである。
情報公開法の適用を除外することが定められているのは、刑訴法に規定する「訴訟に関する書類及び押収物」や漁業法に規定する「免許漁業原簿」等、個別の法令で自己完結的な閲覧・複写の制度が認められるものは、当該制度に委ねるという趣旨であり、いわば制度の棲み分けを図ったものである。
(3) 本件対象公文書が、刑訴法第53条の2の「訴訟に関する書類」に該当することについて
刑訴法第53条の2に規定する「訴訟に関する書類」を定義した規定はなく、同書類の範囲が明文上必ずしも明確であるとは言い難い。
しかし、実施機関の説明によれば、本件事案(死亡した男性に対する被疑事件)は、重要な参考人が判明しておらず、真相が解明されていないので、現在なお捜査中の事件とのことである。
これに対し、一部報道によれば「男性に対する容疑はなくなり、無実であることが確定した。」旨の掲載記事が認められるが、この点実施機関は、「無実であるとは断定していない。」と説明する。
そうであれば本件対象公文書は、現に捜査中の捜査記録であり、刑訴法第47条により、原則非公開と規定された「訴訟に関する書類」(刑訴法第53条の2)に該当すると認められる。
なお、審査請求人は、同条ただし書で公益上の必要等が認められる場合は、公開できる旨の規定の存在を主張し、本条例により開示すべきであるとしているが、同規定は刑訴法上の例外規定であり、本条例により開示を求める根拠とならないことはいうまでもない。
以上のことから、本件対象公文書は、条例第48条により除外される公文書とし、非開示とした実施機関の決定に誤りがあったと言うことはできない。
(4) 結論
よって主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙「審査会の処理経過」のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 8.11 | ・ 諮問書の受理 |
16. 8.13 | ・ 実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 9.17 | ・ 非開示理由説明書受理 |
16. 9.28 | ・ 審査請求人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出 依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16.10.15 | ・ 意見書受理 |
17. 1.18 |
・ 書面審理 ・ 審査請求人の口頭意見陳述 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 (第213回審査会)
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17. 2.23 | ・ 審議 ・ 答申 (第216回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。