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平成25年06月01日

情報公開・個人情報保護

三重県情報公開審査会 答申第2号

答申

1 審査会の結論

 「平成元年度 ゴルフ場の維持管理に関する指導要綱第8に基づく報告書受付簿」については、ゴルフ場の名称、所在地等ゴルフ場が特定される部分、農薬管理責任者名等個人が識別され、又は識別され得る部分及び委託業者名等取引先に関する部分を非開示としたことは妥当であるが、防除対象面積、農薬の年間総使用量等ゴルフ場が特定され得るとして非開示とした部分は開示すべきである。

2 異議申立ての内容

1 異議申立ての趣旨

 異議申立ての趣旨は、平成2年9月17日、三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成元年度ゴルフ場の維持管理に関する指導要綱第8に基づく報告書受付簿」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事が平成2年10月1日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。

2 異議申立ての理由

 異議申立人が、異議申立書、実施機関の部分開示理由説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。

  1.  ゴルフ場で大量使用される農薬の汚染が社会問題となっており、水、大気汚染のほか、農薬の中には急性毒性だけでなく、慢性毒性を有するものもあり、長期的にみた場合、人の健康への悪影響が心配されている。
     環境保全の立場から、農薬の適正使用、減量化に努力すべきにもかかわらず、現在、ゴルフ場においては、農薬の適正使用のための専門家がおらず、営業上の理由等で過度に使用される傾向が強い。
  2.  行政では、指導指針の策定、使用実態調査、水質調査等の種々の施策検討がなされているが、各ゴルフ場において、どのような農薬が、いつ、どのように、どのくらい使われ、ゴルフ場外への農薬の流出がどうなっているのか、県は適切に対応しているのか等は、周辺住民にとっての重大関心事であり、人の健康に係わるこれらの情報は、常に白日の下にさらされ、衆人監視の中で一般市民の利用に供されるべきものである。
  3.  今回の部分開示された情報をもとに、県へ個別具体的な請願、要望をする場合、ゴルフ場名が不明では手だてがない。ゴルフ場名の開示が困難であれば、記号化して開示すべきである。
  4.  ゴルフ場事業者からの報告書のとりまとめは開示されたが、平均値程度の簡単なもので、ゴルフ場ごとの農薬使用量の差異やその原因等はわからない。
     県は、報告書に基づいて、もっと詳細な分析結果を出すべきである。

条例第8条第2号(法人情報)に該当しないことについて
 昭和63年8月25日付け農林水産省農蚕園芸局長通達「ゴルフ場における農薬の安全使用について」の中で、ゴルフ場における農薬使用も農薬取締法を適用することを明示している。また、県が「ゴルフ場の維持管理に関する指導要綱」(以下「指導要綱」という。)を作成し、これに基づく行政指導をしているにもかかわらず、無登録農薬が違法に使用されている。
 県は、本号に該当すると主張しているが、無登録農薬を散布している違法業者をかばっているにすぎない。

条例第8条第2号ただし書きイ及びロに該当することについて
 本号ただし書きイで、事業活動によって生ずるおそれのある危害から人の生命、身体及び健康を保護するため、開示することが必要であると認められる情報は開示しなければならないとしており、ゴルフ場で散布されている無登録農薬の使用業者を隠すことは不当である。
 ただし書きロで、違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある支障から県民の生活を保護するため、開示することが必要であると認められる情報は開示しなければならないとしており、ゴルフ場に散布されている無登録農薬の使用業者を隠すことは、この点でも不当である。

条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当しないことについて
 県は、条例第8条第4号の意思形成過程情報に該当するから、情報を公開できないと主張している。しかしながら、行政の資料は、常に何らかの政策を形成する過程での過渡的なものである。
 現に、県は、指導要綱ができる以前は、指導要綱作成中との理由で、情報を公開しないできた。そして、指導要綱の運用段階に入ると、今度は、次の指針の策定のために「意思形成過程における審議、検討、調査研究等に関する情報」であるとして公開に応じない。次の「指針」が策定されても、更に「新指針」策定途中を理由に公開しないであろう。
 即ち、行政の事業は、完結することのない絶え間無い次の目標に向かっての事業であって、意思形成過程に関する情報の範囲を広く解釈すると、すべての行政情報を非公開とする理由になる。
 全体的なマスタープランを示すことなく、具体的な目的や手法も示さず、何かやっていくために開示しないという理由では、本号の要件には当たらない。
 情報公開制度の趣旨からしても、住民自身が参加できる体制が必要であり、その方法として情報公開制度があるのではないか。指針作りの過程であるからとの理由で開示されないとすれば、住民が意見を言える機会がないではないか。業者だけでなく、住民の声も聞いて指針策定を成すのが本来の姿ではないのか。

条例第8条第5号(行政運営情報)に該当しないことについて
 県は、情報を公開すれば、ゴルフ場事業者の協力が得られなくなると主張しているが、無登録農薬を大量使用している悪質なゴルフ場事業者等は別として、農薬・肥料を適切に管理しているゴルフ場事業者は、むしろデ-タの公開を望んでいる。公開することによって困るのは、ゴルフ場事業者一般ではなく、無登録農薬を使用している一部違法業者と、水道水源地など立地の不適切な所にゴルフ場を開発し、農薬を水源地に流入させている一部の問題事業者だけである。
 このような、悪質事業者及び問題事業者をかばうために、情報が非公開とされてよいはずがない。
 以上の理由により、情報の全面開示を求めるものである。

3 実施機関の説明要旨

 実施機関の主張を総合すると、次の理由により、ゴルフ場の名称、所在地等ゴルフ場が特定される部分、農薬管理責任者名簿等個人が識別され又は識別され得る部分及び委託業者名等取引先に関する部分を非開示としたというものである。

1 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について

 個人の氏名及び印影の部分は、開示すると特定の個人が識別され得るので、条例第8条第1号に該当する。

2 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について

  1.  委託業者名等の部分は、事業の取引内容に関する事項であり、開示すると、ゴルフ場事業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
  2. 現段階では、各ゴルフ場ごとに、その立地条件,気象条件及び芝の管理方法、病害虫の発生状況等に差異があり、しかも病害虫等防除の基準がないために、各ゴルフ場とも模索しながら種々の防除方法がとられているのが実態である。
     このため、県では、「ゴルフ場における芝等の病害虫雑草防除指針」(以下「本指針」という。)の策定作業中である。現時点では、農薬の必要性や適正使用による適正管理よりも、農薬のもつ毒性の一面だけが強く意識され、農薬は悪という風潮が強い。このような状況の中で、ゴルフ場が特定され得る部分を開示すると、農薬使用状況、例えば、使用量の多少等が評価の一方的な判断材料となり、ゴルフ場事業者の社会的評価、社会活動の自由等が損なわれ、競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第8条第2号に該当する。

3 条例第8条第2号ただし書きイ及びロの該当性について

 県としては、県民の健康を保護するため、ゴルフ場における農薬の使用については、指導要綱に基づき、ゴルフ場事業者に対し、適正使用を指導しているところであり、ゴルフ場における農薬使用をもって直ちに住民の生命、身体等に危害を及ぼすおそれがあるとはいえない。
 また、現在のところ、ゴルフ場の事業活動に起因して人への危害が現に発生しているか、又は将来発生するであろうことが確実であるとまではいえず、同号ただし書きイ及びロの情報に該当するものではない。

4 条例第8条第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)の該当性について

 ゴルフ場における芝等の病害虫雑草に対する安全防除対策を確立するため、県では、平成2年度から3年間「農薬適正使用緊急対策事業」(国庫補助事業)を実施し、周辺環境に対する影響を十分考慮した本指針を策定することとしている。
 このため、現在、県下ゴルフ場の協力を得て、病害虫の発生生態、土壌条件等の調査を実施中であり、この調査結果と指導要綱に基づく報告の内容及び学識経験者の意見等をもとに、平成2年中に暫定措置として「ゴルフ場における病害虫、雑草安全防除暫定指針」(以下「暫定指針」という。)を策定し、ゴルフ場事業者に対し、農薬の減量、適正使用を指導することとしている。
 本件対象公文書は、指導要綱に基づく事業者からの報告であるが、本指針策定の検討資料として重要な情報であり、このデ-タを得るためには、ゴルフ場事業者の協力を得て、病害虫の発生生態等の調査を実施しなければならない。
 このような状況にあって、ゴルフ場が特定される部分を開示すると、県と各ゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれ、本指針策定の検討に必要かつ正確な資料等を得ることが困難となることが予想される。
 また、毎年行っているゴルフ場の点検パトロール等各種事務事業についても、ゴルフ場事業者の協力に負うところが大きく、その協力関係、信頼関係を損なうと、ゴルフ場事業者に対する指導など行政の公正又は円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがある。ゆえに、条例第8条第4号及び第5号に該当するものである。

4 審査会の判断

1 本件対象公文書の性格及び本件審査の中心争点について

 ゴルフ場事業者は、指導要綱第8の規定により、前年のゴルフ場維持管理状況について、毎年2月末日までに、関係市町村を経由して県に報告することが義務づけられている。
 本件対象公文書は、平成元年分のゴルフ場事業者からの報告書―防除計画書(様式-1)、農薬使用状況等記録簿〔日報〕(様式2-1)、同〔年報〕(様式2-2)、水質検査結果報告書(様式-3)、残置森林等維持管理報告書(様式-4)、調整池等維持管理報告書(様式-5)、農薬使用管理責任者設置(変更)報告書(様式-6)―である。
 本件対象公文書の内容は、1.各ゴルフ場のグリーン、ティーグランド、フェアウェイ、ラフ等の施薬場所ごと及び殺菌剤、殺虫剤、除草剤の農薬の用途ごとの防除面積、目的(対象病害虫名、雑草名)、薬品名、月別施農薬回数、施薬方法、年間施薬量合計等の記載項目からなる防除計画書、農薬使用状況等記録簿〔年報〕、2.日々の農薬使用状況を記録した農薬使用状況等記録簿〔日報〕、3.排水口における水質検査結果、魚類の飼育状況、飲料水の水質検査結果、浄化槽の維持管理状況、動植物調査結果からなる水質検査結果等報告書及び関係法規に基づく測定結果、検査結果の写し等の添付資料、4.残置森林、造成森林、保安林等の状況及び維持管理に係る残置森林等維持管理報告書、5.堤体、放流施設、安全施設、堆砂状況、排水路等の点検項目からなる調整池等維持管理報告書、6.農薬使用の管理責任者を届け出るための農薬使用管理責任者設置(変更)報告書からなっている。
 実施機関の部分開示決定の概要は、以下のとおりである。
 上記1及び2について、実施機関は、ゴルフ場が特定される部分としてゴルフ場の名称及び所在地を、ゴルフ場が特定され得る部分として、全面散布の場合の防除対象面積、農薬使用量、一部のゴルフ場に記載のあった年間施薬量合計(1㎡当たりの年間施薬量合計は開示)等を非開示とし、施薬場所、薬品名、1㎡当たりの施薬量、希釈倍数、スポット散布の場合の防除対象面積、農薬使用量等は開示した。また、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報として、個人の印影(1ゴルフ場)を非開示とした。
 同3については、ゴルフ場が特定される部分としてゴルフ場の名称及び所在地等を非開示とし、ゴルフ場の取引先に関する情報として、水質検査の分析機関、浄化槽の保守点検業者の名称、所在地等を非開示とし、検査結果のデータ等は開示した。また、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報として、検査者、点検者等の個人の氏名及び印影を非開示とした。
 同4及び5については、ゴルフ場が特定される部分としてゴルフ場の名称及び所在地等を非開示とし、残置森林等の維持管理のデータは開示した。
 同6については、ゴルフ場が特定される部分としてゴルフ場の名称及び所在地等を非開示とし、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報として農薬管理責任者名を非開示とした。
 これに対し、異議申立人は全部開示すべきだとしている。
 当審査会は、ゴルフ場が直接特定される部分だけでなく、特定され得る部分までも非開示としたことを中心に、実施機関の本決定の妥当性について、以下検討する。

2 基本的考え方について

 条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
 条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外のものの権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として、限定列挙した非開示規定を定めている。
 本件では、実施機関は、条例第8条第1号(個人情報)、第2号(法人情報)、第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)に該当することを理由に非開示の決定をなし、異議申立人は全面開示を求めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重して条例を解釈し、以下において、個々の非開示規定に即してその妥当性を判断する。

3 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について

 条例第3条において、実施機関は個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならないと規定している。また、個人のプライバシ-を最大限保護する必要があるため、条例第8条第1号において特定の個人が識別され、又は識別され得る情報は、非開示とするとしている。
 ところで、本件対象公文書の中で、農薬管理責任者、ゴルフ場の委託先からの報告、証明等に係る書面に記載された水質検査の検査担当者、採水者、分析者、浄化槽の保守点検者等個人の氏名、印影の部分は、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であるから、本号に該当するとの理由で非開示とすることは妥当である。
 なお、上記の情報は、本号ただし書きイ、ロ、ハで規定するいずれの情報にも該当しないものと判断する。

4 条例第8条第2号(法人情報)の該当性の有無について

  1.  本号は、事業を営む個人又は法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要上設けられた規定であり、開示することにより、当該個人又は法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものは、非開示とすることを定めたものである。
     競争上の地位その他正当な利益が害されると認められる情報とは、例えば、生産、技術、販売、営業上のノウハウに関する情報、経理、人事等の内部管理に関する情報のほか、開示することにより、社会的評価、社会活動の自由等が不当に損なわれる情報をいう。
     本件対象公文書では、法人情報として、取引先に関する情報と、農薬使用状況に関する情報が含まれているが、両者は性格を異にするので、以下、分けて検討する。
  2. 委託業者名等取引先に関する情報
     まず、本件対象公文書の中で、ゴルフ場の委託業者である水質検査業者、浄化槽業者、清掃業者名等に関する情報は、企業の本来自由に決すべき事業に関する情報であって、他の競業者に対して非開示とすることを正当とするものであるから、本号でいう法人情報として非開示とすることは妥当である。また、取引先に関する情報の開示が公益上必要とされているとも考えられないので、企業の社会的責任及び公益性確保の観点から、例外的に開示を必要とする本号ただし書きイ、ロ及びハで規定するいずれの情報にも該当しないものと判断する。
  3. 農薬使用状況に関する情報
     次に、ゴルフ場における農薬使用状況に関する情報については、ゴルフ場による環境汚染等が社会問題化している中で、ゴルフ場が特定され、又は特定され得る部分を開示すると、農薬使用量の多少等によって一面的に、あるいは不適切な評価がなされることになり、ゴルフ場事業者の社会的評価が損なわれる可能性がある。もっとも、各ゴルフ場において、いかなる農薬をどの程度使用しているかは、元来秘密にすべき情報(企業秘密)といえるか疑問もあり、ゴルフ場の農薬使用に対する住民の不安を取り除く上でも、積極的に開示すべきであるとも考えられる。したがって、本件情報が条例第8条第2号本文に該当するものであるか否か、にわかに即断できないうえ、仮に条例第8条第2号本文に該当するとしても、以下で述べるように、本号ただし書きハに該当する可能性は十分あり、本号をもって非開示の理由とした原処分は妥当とはいえない。
  4.  条例第8条第2号ただし書きイは、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体及び健康を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」は、条例第8条第2号本文に該当する場合であっても開示とすることを定めている。
     条例第8条第2号ただし書きロは、「違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、生ずるおそれのある支障から県民の生活を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」は、同様に開示とすることを定めている。
     また、条例第8条第2号ただし書きハは、「イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上開示することが必要であると認められるもの」は、同様に開示とすることを定めている。
     異議申立人は、ゴルフ場における農薬使用状況に関する情報は、ただし書きイ及びロに該当すると主張する。しかし、ただし書きイでいう危害は、事業活動に起因して現に発生しているか、又は将来発生するであろうことが確実であるものを指しているところ、ゴルフ場における農薬使用をもって直ちに人の生命、身体等に危害を及ぼすおそれがあるとまではいえないから、同ただし書きには該当しない。もっとも、ただし書きイに直接該当しなくても、開示することが、公益上ただし書きイと同程度必要であると認められるものは、ただし書きハに該当するので検討するに、ゴルフ場の農薬使用が社会問題化している昨今の状況を考慮すると、本件対象公文書を開示することの公益上の必要性も認められるので、本号ただし書きハに該当する可能性は十分にあるものと判断する。

 以上のとおり、本号をもって本件対象公文書のゴルフ場が特定され、又は特定され得る部分を非開示とした原処分は妥当とはいえない。

5 条例第8条第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)の該当性の有無について

 第4号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定めたものである。
 具体的には、例えば、最終的な意思決定に至らない段階で、開示することにより、県民に誤解を与え、又は無用の混乱を招くおそれのあるもの、あるいは、事務事業の企画、検討等のために収集した資料等で、今後の企画、検討等に必要な資料等を得ることが困難になるおそれのあるもの等は非開示とすることを定めたものである。

 第5号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
 具体的には、例えば、開示することにより、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解、協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなるおそれのある情報等である。

 本件対象公文書は、指導要綱により報告を徴したものである。また、実施機関の説明要旨にもあるように、県は、平成2年度から3年間「農薬適正使用緊急対策事業」を実施し、平成4年度をめどに本指針を策定することとしており、そのための重要な基礎資料を得るために病害虫の発生生態、土壌条件等の調査を県下ゴルフ場事業者の協力のもとに実施しているものである。
 ところで、本指針の策定には、まだなお年月を要するうえ、ゴルフ場に係る環境汚染が社会問題化していることに鑑み、平成2年12月暫定指針が策定され、県では、これをもとに、ゴルフ場事業者に対し、農薬の減量、適正使用を指導するべく、平成3年3月からの適用に向けて準備が進められている。
 以上のごとく、本件対象公文書は、指導要綱に基づくものであるが、一方では、暫定指針策定における参考資料となり、更に策定予定の本指針にも生かされることは事実である。なお、暫定指針が、平成3年3月から実施となれば、平成4年2月に報告される平成3年の報告書から適用されるものである。
 しかるに、本件対象公文書である報告書は、平成元年分であり、まだ具体的な病害虫等防除の基準がない中で、各ゴルフ場とも模索しながら種々の防除方法がとられてきた実績、実態を示すものであり、本指針策定途中での未成熟な情報であるといえる。もっとも、過渡的、未成熟な情報であっても、本件で問題となっているのは単なる事実の記録であって、意見の表明ではなく、また、農薬の使用状況に対する住民の関心も高いことなどからすれば、農薬の年間総使用量や防除対象面積等までを非開示にすることが妥当か否か疑問もある。
 そこで、以下では、ゴルフ場の名称、所在地のようにゴルフ場が直接特定される部分と、特定され得るに過ぎない部分に分けて検討する。

【ゴルフ場が直接特定される部分について】

 まず、第4号について検討する。
 異議申立人は、本件対象公文書は、県の主張する意思形成過程情報に該当せず、たとえ広い意味で該当したとしても、「著しい支障を生ずるおそれ」は存在しないと主張する。また、行政の資料は、常に何らかの政策を形成する過程での過渡的なものであるといえるので、意思形成過程に関する情報は厳格に解釈すべきであり、情報公開制度の趣旨の一つに住民参加もあるから、政策形成過程―指針策定の途中段階で、住民に情報を流し、その声を汲み上げて、指針策定を進めるべきだとも主張している。
そこで、まず、異議申立人の主張の前段の「著しい支障を生ずるおそれ」について検討する。
 本件報告書は、ゴルフ場における農薬の適正使用のための指針を策定するためのものであって、個々のゴルフ場の使用状況の適否を判断するためのものではない。また、報告書の内容も各ゴルフ場ごとにまちまちであり、これは具体的な基準のない中で各ゴルフ場とも模索しながら種々の防除方法をとってきたことを示している。このような中で、ゴルフ場が直接特定される部分を開示することは、ゴルフ場事業者との信頼関係、協力関係を損ない、今後、本指針策定の検討に必要な資料を得ることが困難になることが予想され、また正確な資料の入手についても、同様に危惧される。
 農薬取締法に基づく調査によって、資料を得る方法もないではないが、迅速、適切に資料を得るためには、指導要綱に基づく報告書による方法が効率的であり、そのためにはゴルフ場事業者との信頼関係、協力関係が必要であると考えられる。
 なお、異議申立人も、個々のゴルフ場名よりは、農薬の年間総使用量や防除対象面積の開示をこそ求める旨の意見を述べている。
 次に、後段の主張について検討する。
 意思形成過程情報についての解釈は、異議申立人の主張にもあるように、とりわけ厳格な判断を要し、行政における当該情報は、できる限り公表して、そこに県民の意見を反映させるべきであると考える。しかし、本件においては、薬品名、1㎡当たりの施薬量、希釈倍数等のデータは開示されており、住民参加に必要な情報はほぼ満たされているものと思われる。

 以上総合的に判断するに、本指針策定までの過渡的段階で、各ゴルフ場の協力を得て進めてきた調査結果報告書の開示において、ゴルフ場が直接特定される部分を開示することは、ゴルフ場事業者との信頼関係、協力関係を損ない、本指針の策定に著しい支障を生ずるおそれがあるものと認められる。よって、第4号の意思形成過程情報に該当するとの理由で非開示とすることは妥当である。

 次に、第5号について検討する。
 異議申立人は、複数のゴルフ場事業者から聞いたところ、ゴルフ場事業者は報告書の開示については支障がなく、県の指導で開示されなかったと陳述していることに対し、実施機関は、一部のゴルフ場事業者には、そのような意見のあることは承知しているが、ゴルフ場連盟の支配人会議において、現時点でのゴルフ場名を含めた全面的な開示については、個々のゴルフ場の評価につながり、また、数字が一人歩きする心配があるので、御容赦願いたいとの意見であったと申し述べている。
 本件対象公文書は、法律や条例に基づくものではなく、指導要綱に基づくものであること、第2は、本件対象公文書は、近く適用される暫定指針及び今後策定が予定されている本指針にとって重要な資料の一つであること、更に、第4号の検討でも述べているように、現在、県が進めている本指針策定のための「農薬適正使用緊急対策事業」及び県が毎年行っているゴルフ場の点検パトロ-ル等その他各種事務事業の執行面、更にはゴルフ場側の開示するについての意見等を考慮すると、ゴルフ場事業者との信頼関係及び協力関係を堅持する必要があり、ゴルフ場が特定される部分を開示すれば、「当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」ものと認められる。
 以上のことから、本件対象公文書のうちゴルフ場が直接特定される部分を開示すれば、ゴルフ場事業者に対する指導など県の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、第5号の行政運営情報に該当するとの理由で非開示とすることは妥当である。

【ゴルフ場が特定され得るに過ぎない部分について】

 本件対象公文書のうち、防除面積、年間総使用量等、ゴルフ場が直接明らかにならない情報は、農薬の適正な使用方法について住民も含めて討論する上で必要な基本データであり開示すべきである。なお、これらの情報は、仮に、他の資料との突合等により、かなりの可能性でゴルフ場が特定され得るとしても、それはあくまでも推定に過ぎず、ゴルフ場名を開示した場合と比較して、ゴルフ場事業者との信頼関係、協力関係を損ない、行政運営に著しい支障を生ずおそれがあるとまでは認められない。
 したがって、当該情報は先に述べた非開示理由には該当せず、開示すべきである。

6 結論

 3~5において具体的に検討してきたところをまとめると、本件対象公文書については、ゴルフ場の名称、所在地等ゴルフ場が特定される部分、農薬管理責任者名等個人が識別され、又は識別され得る部分及び委託業者名等取引先に関する部分を非開示としたことは妥当であるが、防除対象面積、農薬の年間総使用量等ゴルフ場が特定され得るとして非開示とした部分は開示すべきである。

5 審査会の処理経過

 当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

6 実施機関に対する要望・提言

 ゴルフ場名の開示に代えて、記号等で表示した個別のゴルフ場ごとの農薬使用状況が明らかにされる資料を提示されるよう、また、本件報告書の分析結果の情報提供についても配慮されるよう、審査会として要望・提言する。


別紙

審査会の処理経過

年月日 処理内容
2.11.14 ・諮問書受理
・実施機関)に対して部分開示理由説明書の提出要求
2.11.29 ・部分開示理由説明書受理
・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付び意見書の提出要求
2.12.13 ・意見書及び口頭での意見陳述申出書受理
2.12.25
(第3回審査会)
・審議
2.2.6
(第4回審査会)
・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取
・実施機関からの部分開示理由説明の聴取
3.3.1
(第5回審査会)
・審議
3.3.29 ・答申

本ページに関する問い合わせ先

三重県 総務部 情報公開課 情報公開班 〒514-0004 
津市栄町1丁目954(栄町庁舎1階)
電話番号:059-224-2071 
ファクス番号:059-224-3039 
メールアドレス:koukai@pref.mie.lg.jp

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