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平成24年03月09日

平成19年度三重県食の安全・安心フォーラム 基調講演1

基調講演1

「食の安全・安心ブランドを語る!食品企業の安全への取り組みと消費者心理」
 講師 日経BP社バイオセンター 中野 栄子さん

皆さん、こんにちは。日経BP社の中野でございます。今日はこのような機会を与えていただきまして、三重県の関係者の皆様に厚く感謝申し上げます。ありがとうございます。
 私は、日経BP社というところに勤めております。日経BP社と聞いて、まだよくご存知じゃない方がいらっしゃるかと思いますので、ちょっと簡単に自己紹介から始めさせていただければと思います。
 ここに出ておりますのはインターネットのWEBサイトですが、これは「Food  Science(フードサイエンス)」という名前の食の安全をテーマにした専門情報WEBサイトです。実は、私はこれを2003年に会社で立ち上げまして、それ以来4年間、日本で今起こっている食の安全・安心の問題をいろいろな角度から取り上げ、特に科学者の視点、科学の視点で科学的に食の安全をとらえて、それでどのように考えていったらいいのかというようなことを、こういったWEBサイトでやっているんです。
 その前に、日経BP社を知らない方がいらっしゃるかと思うんですが、日本経済新聞社の100%出資の子会社で、出版社です。親会社は新聞社ですけれども、私がいるところは出版社です。それで、出版社でいろいろな雑誌の編集をやってきたんですが、最近、出版社というのも雑誌を作っているだけではダメだぞ、最近流行りのインターネットもちゃんとやりなさいということで、インターネットWEBサイトをやっているんですが、そのインターネットWEBサイトの中でも、特に今言いました「食の安全と安心」をテーマにした、それを科学で評価しながら、科学で考えていく専門情報サイトがこれです。URL、アドレスと言うんですが、ここに書いてありますが、こちらにアクセスしていただければ、皆さんどなたでも見ていただくことができますので、お帰りになってから、もし見てみたいなと思われる方がいたら、ぜひどうぞご訪問いただければと思います。
 それで、「Food  Science(フードサイエンス)」には具体的にどんなコンテンツがあるのかなと。コンテンツというのは、雑誌で言うところの記事ですね。どんな記事をこの「Food Science(フードサイエンス)」は出しているのかということなんですが、食の安全行政、食の安全に関する政府の動きなどをとらえています。例えば食品安全委員会が集まってどんなことを審議しているか、農林水産省とか厚生労働省がどういう観点で食の安全をとらえているか、政策にどういうふうに生かしているか、どういったことを審議しているか、そういったことを追いかけています。
 それから、食品企業の取り組みも勿論やっています。食品企業の食品衛生の取り組みであるとか、また何か事件や事故が起こった時にどういうふうにフォローしていくか、そういったようなことを取り上げています。それから、まさにこの食品の事件や事故が起こっています、そういったことも、どういった原因で起こって、どういうふうに対処しているのか、そういったことを取り上げています。それから、機能性食品、「健康食品」という言い方もされていますが、こういったことの安全性も今問われ始めています。こういったことも取り上げています。
 共通しているのが、いずれも科学がベースということです。ファクト、事実ということなんですが、私たち記者は取材をする時にちゃんとファクトをしっかりとらえて取材するんですね。結果、取材して帰って来て、それを記事にしてはデスクなり編集長に見せたりすると、「ちゃんとこれは裏が取れているのか」とよく言われます。刑事ドラマみたいなんですが、ちゃんとこれは裏が取れているのか、つまりある人が言ったことを鵜呑みにして、何の確認もしないで書いているんじゃないだろうな、ちゃんと裏は取れているんだろうなと。で、私たちはちゃんと裏を取って、要するに確認をしっかりして記事を書いているわけなんですね。「Food Science(フードサイエンス)」はそういう出版社が出しているインターネットWEBサイトですから、他の雑誌と同じようにしっかり裏を取っています。
 プラス、これは科学をベースにしているものですので、科学ですからエビデンソーサーを取ります。つまり、いろいろな専門家の学者の先生が「こういう科学的な事実があって、こうですよ」と言われても、本当にそれがそのとおりエビデンス、ちゃんと論文に書かれて学会で発表されて、それがしっかり認められているものかどうか、そういったようなこともきっちり取って活動しています。それが特徴です。
 そういう観点から、この1年どんなことがあったのか、2007 年に入ってからのことを振り返ってみたいと思うんですが、1月、年が明けて早々、『発掘!あるある大事典』というテレビ番組、すごい人気の番組ですね。あの番組の中で「納豆を2パック食べるとダイエットに成功しますよ」ということで、もとからすごい視聴率の番組だったんですが、その番組はものすごく高視聴率で、次の日は納豆がスーパーのお店から全部消えてなくなるぐらい、もう大変な反響を呼んだんですね。
 ところが、その番組は捏造だったということで、結果的には制作会社の社長が辞任して、会社も大変なことになり、勿論その番組もなくなるぐらい、世の中に大きな影響を与えました。納豆を使ってダイエットをするという発想はすごく素朴なものだったんですが、大変な事件になったのは記憶に新しいところだと思います。
 それから、最近は毎日毎日新しい事件や事故が起こるので、もうかなり古い話のような感じにも思えてきてしまうんですが、1月は不二家事件です。不二家ということで、あのペコちゃんのブランド、企業が創り上げたあのブランドが、そういうニュースの見出しにペコちゃんが泣いているというようなことが毎日毎日出て、そのぐらい衝撃的な事件でした。
 それから、不安を煽るベストセラー、これはもう今年ではなくて去年からずっと続いていることなんですが、食品添加物とか牛乳とか、そういったものが体に非常に悪いものですよというような不安を煽る、これ、体に悪くないですよ、食品添加物は体に悪くないというのは、後で長村先生がじっくりご説明すると思うんですが、食品添加物は体に悪くない。牛乳はましてや体に良いから飲みなさいと言われるものです。こういったものが体に悪いぞなんていうような本がベストセラーになってしまう。ベストセラーになったことで、それだけ売れている本に書かれていることは正しいのかなということで、大変な問題になっている。
 それから中国問題ですね。これは中国製の練り歯磨きに毒が入っていたりとか、中南米のほうでそれを食べた人が死んでしまったりとか、ペットが死んでしまったりということで、もう中国製品は全部悪いみたいな、そんな「中国製品恐い、恐い」というような騒ぎになってきました。
 それから、健康食品についても、安全性がいろいろと取り沙汰されていたんですけれども、とうとう今年は厚生労働省が腰を上げまして、検討会を開いて、ちゃんと確認をしましょうということが始まっています。
 これは発端が昨年の「アガリクス」というキノコなんですが、例えば末期ガンの患者さんが藁をも掴む思いで健康食品としてのアガリクスを買ったり食べたり飲んだりという、そのアガリクスが、実はガンを引き起こす作用があるんじゃないのかなというものがちょっと出てきたりとか、あと、COQ10健康食品とか大豆イソフラボンという健康食品の成分が、ちょっと問題があるのではというようなことがきっかけになって、じゃあ今国民が混乱を来たしているので、厚生労働省がしっかりと検討をしなければいけないということで、検討会を始めたものなんです。
 それから、ミートホープ事件というのは、牛ミンチを「100%牛ミンチ」と表示して、実はいろんな物を混ぜていたと。とうとう社長はこの間逮捕されてしまいましたが、次から次へといろいろな悪事が出てきました。
 そのミートホープ事件の頃、今回のこの三重県さんで講演をしてくださいというお願いが来まして、「分かりました。じゃあこういったことをお話ししましょうかね」というふうにその時は思っていたんですが、それからまた次から次と、お話を最初にいただいた時から今日に至る間に、『白い恋人』『比内地鶏』、そしてこちらでも『赤福』さんとか、それから『吉兆』の問題もあります。次から次と起こっています。
 但し、これは大まかにだいたいの傾向があるんです。何かと言いますと、これを見て、例えばこれに関係している事件で誰かが中毒になったり、誰かがその食品を食べて死んでしまったり、そういうことは全然起こっていないんです。中国製の練り歯磨きとか中国製でアメリカでペットが死んだとかはちょっと別なんですが、だいたい今年起こって大騒ぎになっているというものは、どなたも亡くなっていません。どなたも健康被害を起こしているわけではないんです。
 それで、ここで特に皆さんに最初にお伝えしたいのは、食の問題、また食の安全が損なわれたと。テレビが『白い恋人』の時も、「また食の安全が損なわれた」と。『比内地鶏』の時も「また食の安全が損なわれた」と。『赤福』も食の安全が損なわれたと。みんなテレビは「食の安全が損なわれた」と言うんですね。でも、それは違うんですね。どなたも健康被害には遭われていない。じゃあ、遭っていないからいいのかと、そういうことを言っているのではなくて、これは食の安全を揺るがす事件ではなくて、食の安心が揺らいだ事件。
 安全と安心はどこが違うかというのは後でゆっくり説明したいと思うんですが、安心というのは、その企業であるとかブランドであるとか、製品に対する信頼感なんですね。やっぱり事件を起こすと信頼が確かに損なわれます。だけれども、今回の件で安全が損なわれたわけではないのです。要は、今年だいたい起こっている事件というのは、食品には絡むけれども、その食品によって健康が損なわれたことではなく、食品企業の詐欺事件、たくさん売るための偽装をしたり、たくさん売るために、たくさん並べたいがために偽装をした、嘘をついた、詐欺をした、そういうことが問われているわけです。
 ですので、そこはきっちり分けて考えたほうがいいと思います。というのは、きっちり分けて考えないと、一方で食中毒とかカビが生えたりとか、食品が原因で本当に人が亡くなるぐらい重要なことが起こり得るわけなんですね。ですけれども、ちゃんと健康被害に関係するほうの事件なのか、単なる企業が悪事を働いている事件なのか、しっかり見極めないと、本当の健康被害を受けるような事態になった時、これはどっちかなというので分からずに健康被害を受けてしまうというようなことがあるかも知れません。ですので、今回はどういう種類のものなのか、どういう種類の事件なのか、よく見極める必要があるかと思います。
 それで、私は冒頭にも言いましたように、出版社でずっと記者をやっております。いろいろ取材活動をしております。取材活動を通していろいろ見聞きしたことを皆さんのお役に立てるように、ここでその経験を踏まえてお話ししていきたいと思います。
 今もちょっと話をしたんですけれども、今年起こった事件とは別に、日常生活を見てみますと、食に関してもいろいろな「リスク」と言われているものがあります。今は落ち着いていますけれども、BSE(牛海綿状脳症)、昔は狂牛病と言ったものなんですが、未だにBSEのことはよく思い出します。それから鳥インフルエンザ、冬になるとまた今年もインフルエンザが流行るんじゃないのかなと。人が罹る新型インフルエンザも恐いですが、今年の1月に宮崎県で鳥インフルエンザが発生しましたね。2、3ヶ所発生して、どうなることかなんて思いましたが、それとかカドミウムとかダイオキシンとか、そういう重金属による食品の汚染問題があります。それから食中毒、O157ではまさにお年寄りが亡くなったりしています。それからノロウィルス、最近のノロウィルスは人から人への感染で、必ずしも食品が原因でないことが多いんですが、食中毒としてもノロウィルスは依然注意しなければいけないものです。それから残留農薬とか食品添加物とか、食品アレルギーの問題、それから健康食品の問題。
 ここにまとめましたのは、前に私が言ったように、食品企業が悪事を働いて、詐欺をして、偽装をしてというものではなくて、こちらは本当に「食のリスク」と言われているものをまとめてあります。
 じゃあ、この「食のリスク」と言われているものですが、皆さん、何となく恐いな、嫌だなというふうに思っていらっしゃるかと思うんですが、なぜ恐いんでしょうか。よく考えてみましょう。まずはこの鳥インフルエンザとか、O157 のまさに病気ですよね。ああいう感染症。病気になるのが恐いから、ああいう食べ物を食べて病気になる、病気がうつる、そういったことが恐い、恐いと。病気になって、ひどい時には死んでしまう。先ほど言いましたように、O157とかノロウィルスでお年寄りとか小さなお子さんとか亡くなる方もいらっしゃいます。確かに死ぬから。それから、自分は今平気だけど、子どもや孫の代に何か良からぬ影響が出てくるのではないか、それが恐い。もっと言えば、それによって人類が滅亡してしまうんじゃないかというのは、もっと恐い。
 でも、一番多いのは、何となく気持ちが悪いとか、何となくすっきりしないとか、何か嫌だなぁという、そういったボヤッとした、そういったことが原因で「恐いな」と言っていることが多いんじゃないかなというふうに思います。
 実際に何で恐いのかというのを消費者調査をしていろいろ詳しくみたんですね。どういう時にどういう状況で恐いんでしょうかということで調査をした結果、二つ理由の側面が出てきました。
 一つは、気持ちの内面が原因となっているものです。例えば若い妊婦さんが、今まで何も考えていなかったんだけど、すごく恐くなっちゃったのをよくよく考えたら、妊娠をきっかけに、やっぱり将来生まれてくる自分の子どものことを思うと、今まで何とも思っていなかったんだけど、残留農薬ってやっぱり気になる、恐いのかななんて思って、気になるようになりましたとかですね。
 今まで別の趣味だったんですけど家庭菜園を趣味で始めて、そうしてみると農薬というのは使わないとやっぱりうまく育たないようなこともあったりして、そうすると、普通、私たちが食べている野菜はどうなのかなと意識が高まって、いろいろ恐くなってしまったとか。
 そしてもう一つの状況は、今度は外からの影響です。これは例えばBSEが発生した時に、イギリスの状況を知らせるテレビの映像で、BSEに罹った牛はフラフラ歩いてバタンと倒れる様子とか、あと、ヤコブ病の患者さんが若くして罹って病院に入院して、それでまもなく亡くなってしまうという、そういう映像を見たら、やっぱり恐いなとか。
 それから、もう3年前になりましたが、妊婦の方は1週間に2回以上キンメダイを食べないほうが良いというような、キンメダイは高級魚なので、なかなか食べようと思っても、私なんかは食べられないですが、そういったことで、その時にキンメダイの中にメチル水銀というものが蓄積しているからですよということで、「じゃあ水銀って何?」と言う時に、昔の水俣病の古い映像が流れたんですね。水銀と名前が出ただけで全然違うものなのに、「え?キンメダイを食べただけであんな恐ろしい水俣病がまた来るのか」なんていう恐い気持ちにさせられた。要は、恐い気持ちになるという、外から恐いものを連想させる映像なり情報なりを受けたからですね。
 二つあります。整理すると、自分の内面から変わるものと、それから外からの影響を受けて変わる、そういったようなことで食のリスクに対して恐い、恐いというふうに思うようになるわけなんです。
 じゃあ、その食のリスクということについて、大きいものから小さいものまでいろいろあって、とにかく普通の人が普通に生活しているところのリスクの大きさというのはなかなか分かりにくいものなんですね。実際、私のところにある大学の新聞部の学生さんがやってきました。食の安全のことを私がインターネットサイトをやっているものですから、食の安全についていろいろ教えてくださいということでやって来たんです。若い学生さんが3人来ました。女子学生1人と男子学生2人。
 それで、私は話し始めたんですが、全然分かっていなかったので、じゃあこっちからクイズを出しますよ、いいですかと言って、「食品添加物と健康食品、どっちが危ないと思いますか?」と聞いてきました。3人のうちの2人は食品添加物、1人は健康食品。
 食品添加物が危ないと言った学生さんたちに何でと聞いたら、食品添加物は化学的な物で、何だか体に悪そうと。一方、健康食品は「健康」と言うぐらいだから、健康に役立つ物だから、そっちは安全なんじゃないですか、そう思いましたと。
 正解は、実は食品添加物こそ安全、健康食品は逆に何が入っているか分からない。勿論、健康食品にもまともな物はたくさんありますけれども、例えば2、3年前に中国製の健康食品で、それを食べるとダイエットに役立つような健康食品。ところが、日本で未承認の医薬品成分が入っていて、肝臓障害を引き起こしたとか、そういうような例があります。ですから、物によっては危険で、本当に危ない物もあります。
 食品添加物のほうは安全。なのに、やっぱり普通の人たち、普通の学生さん、普通に生活をしている人たちというのは、食品添加物はダメなんじゃないかと。じゃあ、残りの3人のうちの1人の学生さんは、「偉いなぁ、この子は。一生懸命頑張ってちゃんと分かっているのかな」と思って聞いていたら、「全然分かりませんでした。きっと引っかけ問題じゃないかと思ったので、違うほうを言ってみました」とか、そういう子だったんですけれども。そのぐらい一般の人、普通の人というのは分からない。
 先ほども言いましたけれども、なぜ恐いのかといったところで、一番多い理由は「何となく」。そんな人類が滅亡するから恐いと言うよりも、何となく恐い。やっぱりこの食品添加物のほうが恐いと答えた2人の学生さんは、何となく体に悪そう、「何となく」なんです。要は知らないわけですね。
 なので、せっかくなので、食品添加物とは食品を安全に保存する物で、私たちが食中毒にもならずに、しっかり生活を送れるのは、この食品添加物のおかげでもあるんですよというようなことを詳しく説明してあげたら、「そうなんですか、分かりました」と言って帰って行きました。ちょっとしたエピソードなんですが、こういったことがありました。
 あと、これもクイズと言えばクイズなんですが、これはすごく有名なお話です。皆さんもどこかで聞いたことがあるかと思います。発がん性が最も高いと思うものは何でしょうと。それで選ぶんですが、食品添加物とか残留農薬、遺伝子組換え食品、タバコ、大気汚染、普通の食品、いろいろな物が選択肢としてありました。ガンの専門医が答えたものと、一般の消費者が答えたものがあります。勿論、ガンの専門医が答えたほうが正解です。先生たちはもうそれを研究していますし、それで患者さんをたくさん診ています。
 一般の消費者の人たちが答えたものは何だったかと言うと、食品添加物、残留農薬が二大悪いガンになる物ということで、食品添加物と残留農薬、その二つが一番悪いような答えになりました。一般の人、ここにいらっしゃる方ももしかしてそういうふうに答えるのかなというふうに思います。
 ところが、正解は、ガンの専門医が答えると何かと言うと、タバコと普通の食品です。もうとにかくタバコを止めれば、日本中の肺ガンがグッと減るというのは確実に言われているんですが、それでも好きで吸われている方がたくさんおられるので、そこらへんのことまでは言いませんけれども、とにかくタバコと、もう一つは普通の食品なんですね。
 普通の食品がどうして危ないのか。普通の食品よりも農薬や添加物のほうが恐いんじゃないのかというふうに普通の人は思います。だけれども、やっぱり専門の先生たちがそういうふうに答えているというのは、それが正しいんでしょう。
 それをもうちょっと詳しく説明したいと思うんですが、じゃあ、普通の食品が危ないと、ガンの専門医の先生たちも言っています。普通の食品の何が危ないのか、なぜ危ないのか。
 まずジャガイモというのは、普通の八百屋さんにも売っています。誰でも買えます。安いです。ですけれども、ジャガイモは買ってきて放っておくと芽が出てきて、その芽にソラニンという毒素が入っていて、それを食べるとまさに死んでしまう。それからデザートでおいしいタピオカ、これはキャッサバという芋みたいな物から作るんですが、これを生食すると、やっぱり死んでしまう。それから、日本人で有名なのはフグですね。フグもトラフグの肝を食べると死んでしまう。それから毒キノコ、時々事件が起こります。日本で食品が原因で亡くなる方というのは世界に比べてみるとものすごく少なくて、それほど日本は食品の衛生管理がすごくきっちりできていて、食品企業もちゃんとやっているし、市民もやっているし、学校給食もやっているし、ほとんど食品が原因で死ぬ人というのはいないんですね。
 年に数人いて、数人のうちのほとんどがフグの毒で亡くなっているんです。つまり、どうしてもおいしい物を食べたいので素人調理で、フグはそれこそものすごい毒で死んでしまうので、フグ調理師免許という免許がしっかり別にあるぐらいのものなんですが、素人の人がどうしてもフグを食べたいと言って、素人が見様見真似で調理して、それで毒で死んでしまうと。なので、やっぱりフグの毒というのは恐いなと。フグの毒をとらえて「普通の食品」という言い方もちょっと行き過ぎなんですが。
 つまり、もともとのジャガイモを、普通に八百屋さんで売っている、安くて誰でも買える。これが危ないから売るにも許可が必要ですとか、普通の人は買ってはいけませんとか、そんなことは誰にも言われていません。普通にジャガイモは買ってもOK。キャッサバは日本では普通には売っていませんが、他にもそういった物はたくさんあります。要は、普通の食品でも、取り扱いの仕方、調理の仕方、保管の仕方、食べ方によって、リスクが高まる。場合によっては死んでしまう。だけれども、上手にと言うか、普通に決められたとおりに、歴史的に今まで先輩たちがやってきたように普通にやれば、それはもう普通の食品で、むしろ普通の食品というのは、栄養もその食品から取らなければいけないので、もしかして毒かも知れないからまったく食べないなんていうことはないわけですね。とにかく普通の食品でも、場合によって、状況によって、全然違ってくるんですよということです。
 じゃあ、一方で普通じゃない食品、さっきの話で言えば、食品中の残留農薬というのは、食品の中にそういう化学物質が入っているという、それはもう普通じゃないだろう、それは危ないだろうと、普通の人は思ってしまいます。
 残留農薬でこれだけ騒がれるようになったのは、中国から輸入のホウレン草に基準値を超える農薬が発見されてという、それがきっかけだったんですが、そうしたことがもとになって、昨年5月に残留農薬の規制が強化されました。ポジティブリスト制という制度ができて、簡単に言うと、それ以前よりものすごく厳しくなったということなんですね。今まで全部に網がかけられてなかった基準値というものが、もうほとんどすべての農薬、この作物に使うこの農薬はこれぐらいにしなくてはいけませんと、全部決められました。
 じゃあ、それだけ厳しく取り扱っていて、そもそも農薬が原因で野菜を食べて残留農薬が原因で何か健康被害が出たことがあるのかと言うと、まずは聞いたことがない。それこそ大昔は、農家で自殺をする時に農薬を飲んで自殺をしたなんていう話を聞いたことがあるんですが、今や、勿論農薬の種類もあるんですが、最近の農薬は、農薬を飲んだぐらいでは自殺もできないようなものらしいです。昔の農薬は確かに危ないこともあったけれども、今は分解性も非常に高まっているので、まずあり得ない。野菜の中に農薬が残っていて、それが原因で体がおかしくなってしまうということは、まずと言うか、もうないことなんですね。それなのに、さっきのガンになるんじゃないかというような不安が頭をもたげてきています。
 去年、残留農薬の規制が強化されたんですが、その強化された基準というのもものすごく厳しいんです。例えば今までにこの作物にこの農薬と決められていたものはそういう基準値なんですが、今まで使ったことがない農薬、例えば外国から輸入してきた物に日本で使っていない農薬があるとか、それでも基準値を決めるんですが、すぐに基準値は決められないので、ものすごく厳しい、0.01ppm以下にしてくださいというような、すごく厳しい基準値が当てはめられています。それで0.01ppmって、厳しいんですが、どのぐらい厳しいのか皆さん想像がつかないと思うんですが、学校にある25メートルプール、あの中に農薬を1滴落とした。それが0.01ppmなんです。そのぐらい、そこに入れたら薄まってしまって、むしろプールの塩素のほうがよっぽどすごいじゃないかと。とにかくそれぐらいのものなんです。
 去年この規制が強化されて以来、規制が強化されたから、「ほら、出た!残留農薬基準値違反!」という見出しを時々見たかも知れません。例えばどこどこから輸入された、よく出たのはチョコレートの原料のカカオ豆ですね。それに「早くも基準値を上回る!何たることか!」と。その基準値オーバーと言っても、0.01 が基準値で、0.02だったら基準値オーバーなんですよ。でも、さっきの25メートルプールに1滴はOKなんだけど、2滴はダメ。じゃあ、2滴たらしたからと言って、その濃度のカカオを食べてどうかなるかと言ったら、他の原因でどうかなっちゃうほうがよっぽど可能性が高いんですね。
 そのぐらいのものなんですが、それはマスコミにも原因があります。私もマスコミの一人ですが、「そら見たことか!いきなり基準値オーバー、こんなにオーバー」と。でも、基準値オーバーだけど、どれぐらいオーバーしたかというのは記事に全然書いてないんですよ。だけど、新聞は「基準値オーバー、基準値オーバー」と言って「悪い、悪い」と言う。でも、そこはちゃんと正しく書いて、正しく説明しないと皆さん分かりませんよね。そういうことが起こっているんです。
 もう一つ、普通じゃない食品、食品添加物。さっき言った食品添加物についての大ヒットした本があるんですね。皆さん読まれているかどうか分からないんですが、その本の中に「あなたは毎日こんなにたくさんの食品添加物を食べていますよ、どうだ、恐いだろう」みたいな、そういう勢いで書いています。例えばコンビニのお弁当を買うと、裏を見ると、こんなにたくさんありますよ、いくつありますか。こんなに何十も食べているんですよと。そういうふうに恐さを煽っているんですね。
 ところが、結構カウントにマジックもあったりして、ビタミンCとかビタミンEとかアミノ酸とか、そこらへんはむしろ皆さんが最近健康ブームで、そういうサプリメントは一生懸命せっせと高いお金を出して飲んだり食べたりしていますよね。そういうものも食品添加物扱いになっているんですね。だからそういうのも全部カウントするのですごい数になるし、量もすごいと。
 食品添加物は、まさに後で長村先生がここのところをすごく詳しく説明してくださると思うので私は省きますけれども、食品衛生法でしっかりちゃんと規定されて、ちゃんと安全に使われていますので、むしろこれがないことのほうが恐いです。これは食品を安全に保存するための物ですから、それを外したりすると、安全に食べられなくなってしまう恐れが出てくるわけです。これは後で長村先生の話をじっくり聞いていただければと思います。
 だからと言って、残留農薬も食品添加物も安全です、中野さんがこの前安全だと言ったから、じゃあ山盛りいっぱい食べましょうとか、そういうことではないですよね。安全だからたくさんモリモリ食べるという物でもないと。じゃあ何かと言うと、ああいった物は、わずかなリスクはある。量がたくさんはダメだけど、ちょっとはいいと。量が問題なんです。量がどのぐらいあるかということなんですね。だから、基準値はあるんですよ。基準値があるということは、危ないから基準値を作っているんじゃないのかと。それはそうなんですが、じゃあ普通の、食品添加物じゃなくて、普通に日常で私たちが料理に使っているお塩、お塩も、あれはすごく食べ過ぎると死んでしまいます。ところが、ちょっと塩味を効かせないとおいしい食事は作れません。なので、あれだって量が問題なんですね。食べ過ぎたら、もうバケツいっぱい、そんなに食べられませんけど、仮に食べたら死んでしまうんです。ですので、塩も毒です。塩でも死んでしまいます。だけれども、塩がないと、それこそまったく塩がない状態だと、人間は健康に生きられない。なので、量が大切です。
 そのために、じゃあどれぐらいの量が適当なのか、安全に取っていくためにはどのぐらいの量が必要なのかということで、専門的にADIという1日摂取許容量というものを決めているんですが、これも長村先生のレジュメを拝見したら、詳しい説明があったので、先生のご専門ですから、後で説明してくださるので、ぜひ聞いてください。要は、量が大切だということなんですね。
 そもそも、リスクの量、「リスク」って一体何でしょう。カタカナで書いてあるのですごく分かりにくいですね。日本語に訳すと「危険」とか「危機」とか、いろいろ訳されることがあります。英語ですと、「リスク」の他に危険とか危機に相当するものは「デインジャー」とか「ハザード」とか、言葉はいろいろあるんです。
 ぴったり、しっくり理解できるものはないんですが、一つおもしろい比較で、リスクの概念を知る言葉として、西洋では、もともと「リスク」という言葉は西洋の発想なんですが、西洋ではリスクを取る、take a riskと言いますね。「リスクを取る」という言い方をします。それはどういう意味かと言うと、多少の危険、多少のリスクはあるけれども、チャレンジして、頑張って挑戦していこうというポジティブな意味なんだそうです。
 それに対して日・{は、「リスクを避ける」という言い方をします。「リスクは恐いものだから、とにかく嫌だ、係わらないようにしておこう」みたいな、リスクを避ける。だから日本は「リスクを避ける」というような意味で定着してやっているんですが、実は多少の危険、多少のリスクはあっても、頑張って挑戦していこうという、そういうのが本来の意味なんだそうです。これは保険用語として使われていて、最近、投資信託とか株とかを買う時に、「為替リスクはあるけれども、リターンはこのぐらいですよ」と、そのような使い方をしていますね。あと、リスク分散投資とか。そのリスクというのは、ハザードというおおもとの危険がどのぐらいの確率で起こるかというふうに計算することができます。
 ハザードというのは、危ない要素そのものなんですが、例えば地震について考えてみた場合に、神戸の大震災がありました。神戸でマグニチュード7だか、ものすごく大きな地震でしたよね。マグニチュードというのはそのハザードですね。すごく大きな地震で、それが起こる確率、それでリスクになるんですが、どんなに大きくても、東京にいれば安全です。あれは神戸で起こったので。ですので、東京でもそれが起こる確率はあると言いますが、どんなに大きな被害をもたらすものでも、それが本当に起こるかどうかという確率を考えなければ、そのリスクということはうまく考えられない。
 もう一つ、リスクについて触れておきたいのは、ゼロリスクはないということです。多少のリスクはあるということですね。そのリスクの大きさというのは、1から9の間でどれぐらいかと分布しているんですが、ゼロリスクを求めようとすると、それはもともとないものなので、求めようとしても、それを求める努力がバカみたいということになってしまいます。
 ある衛生管理請負会社さんが、お客さんから「うちの食品工場の菌数をゼロにしてください」と言ってお願いされたそうなんですが、これは科学的にまずできない話なんですね。それこそ白血病の患者さんが手術の前に入るクリーンルームとか、特別なそういう部屋にしないと、それでも菌数がゼロになるのは難しいと。普通の食品工場、衛生的に努めていても、ゼロはない。だから、ゼロを求めるというのはいかにバカげた話か、あり得ない話か。
 それから、最近、食のリスクが増えたというふうに感じることもあると思うんですが、例えば検出技術がどんどん進歩すればするほど、昔は検出できなかったから、「菌は出てきませんでした。安全ですよ」と。この頃、技術が進めば、昔は出てこなかったものも出てきてしまう、見えるようになってしまう。そうなると、昔のほうがなかったんじゃないのというふうにも錯覚します。
 要は、100%の安全はありません。一方で、ゼロリスクというのもないんです。ですから、そういったことをよく認識して、どっちかを求めるというのは意味がないということをよく認識しなくてはいけないというふうに思うわけなんですね。
 それから、もう一つよくある間違った考えなんですが、天然物が良いということです。例えばウナギでも、天然ウナギとなるとすごく高く売れるとか人気があるとか、養殖ウナギだと何か嫌な感じがするとか、安いとか。じゃあ、天然が安全で、養殖が、例えば養殖は薬を入れたりしているから悪いのか、養殖は安全じゃないのか、どっちが安全かという議論なんですが、じゃ、天然が全部安全かと言うと、全然そんなことはなくて、前にアカネ色素という食品添加物の着色料が問題になりました。これはもともとその天然の植物から取っているものですから、天然だから安全ですよというフレーズに乗っかる物なんです。ところが、これが発ガン性が確認されて、今は使えなくなっています。そういった物はたくさんあります。
 野生のエゾジカを刺身で食べてB型肝炎になったとかいう話も聞きます。野生ですから、まさに天然です。でも、天然だからこそそういう危ない物があるわけなんです。
 あと、それからよく地鶏でも問題になっていますけれども、地鶏がなぜ良いかと言うと、平飼いにして、元気に活動しているから平飼いが良いんだよ。一方、ウィンドレス鶏舎のような、鶏舎の中に入れられているブロイラー、それは窮屈なところにギュウギュウに詰められて、薬の入っている餌をたくさん食べさせられているから、ウィンドレス鶏舎に入っている、ウィンドレスというのは窓がない、窓がないようなところに押し込められて、ただ太らされて出荷される。それはもう体に悪いんじゃないかと。
 そんなことはないんですね。どちらもいいわけです。ウィンドレス鶏舎は、それはそれで空調管理がすごくしっかりしていて、人間も入れないぐらいクリーンに保っているようなところです。ですので、ウィンドレス鶏舎が安全性に問題があって、平飼いが良いということではない。むしろ平飼いは外に出ていますので、外からの菌が入ってこないように、衛生管理がそれはそれなりにすごく大変だと聞いています。
 それからもう一つ、最近流行りの無添加志向。これが本当に安全なのかということなんです。これもいろいろカラクリがあります。「人工着色料無添加」と大きく書いてあります。でも、後ろをひっくり返してみると、天然着色料はたくさん使っているとか、そういうようなマジックはたくさんあって、一般の消費者の人たちを惑わしているのかなというふうに思います。
 遺伝子組換え大豆不使用という、納豆やお豆腐の表示が最近目立ちますが、じゃあこの不使用のほうが、まったく表示がしてないものより安全なんでしょうか。答えは、どっちも安全。任意表示ですから、書きたい人は書いているんですね。書いてはいけませんという決まりもないから、書きたい企業は書いている。書けば、先ほどから議論しているように、やっぱり安心するというのがあるので、わざと書いているというところがあるんですね。
 だけど、これ、外国では不使用表示は禁止されているんです。なぜ禁止されているかと言うと、「使っていません」という表示をすることによって、他の物より実は安全性は同じなのに、片方よりも安全性が高いと誤認させる恐れがありますよと。「優良」誤認という言葉がありますけれども、そうやることによって優良誤認を招く恐れがあるということで、外国ではほとんど禁止になっています。
 日本では禁止になっていないので、一生懸命「無添加」「不使用」と書いて、そっちのほうがたくさん売れて、気が付くと、使っているほう、あるいは表示がないほうはすごく悪い物というふうにとらえられている。実は同じ物なんですね。
 他にもたくさん恐くなる原因があるんですが、回収騒ぎ、これは不二家事件以来、回収がものすごく増えたと言います。これは新聞などで「おわび広告」を時々目にします。時々と言うよりも、最近は頻繁に目にします。それで、「食べても健康上問題はありませんが、回収いたします」という文面になっています。そうしますと、でも、やっぱり回収するということは健康に問題があるからじゃないかというふうに疑って、消費者の人たちは不安になってしまうんです。これは、法律がそういうふうになっているので、メーカーさんとしては仕方なしに回収して大量廃棄するんですが、それはしょうがないと。で、実際に食べても健康上問題はないというのは確かなんだけど、それがなかなか伝わらない。
 それから、私たちマスコミにも責任があります。さっきの残留農薬の0.01ppm の話もそうだったんですが、ちょっとのことを大袈裟に書く。針小棒大に記事を書く。針小棒大に記事を書いて、その記事が売れればいい、その雑誌の部数が上がればいい、視聴率が上がればいいと。一応テレビ局も雑誌社も新聞社も民間企業なので、たくさん売れるようにはしたいんです。それでちょっと筆が進み過ぎると言うか、大袈裟になって、実際よりもかなり大袈裟な記事を書く。実際よりもかなり大袈裟なんだけど、それによって視聴者の人たちの不安が一層高まってしまうのは、私たちの反省するところです。
 それから風評被害も問題があります。これは今年も宮崎で鳥インフルエンザが発生しましたけれども、例えば国はこういうことをやってはいけませんよと言っているんですが、発生した途端、「うちは宮崎県産を扱っていません」というような、そういう表示を出すんです。それをやることによって、他の県は売れるかも知れないけど、最終的に宮崎県は拒否される。でも、他の県で何か起こった時に逆に同じことが起こってしまうという。これも鳥インフルエンザに罹った鳥を食べることによって、人が鳥インフルエンザになったという例は世界的にも例がないと再三言っているにもかかわらず、「うちは何々県産は扱っていません」と書いた瞬間に、やっぱり危ないんだというふうに思われてしまう。実際にそういう事実がないのに、噂が飛び交うことを「風評被害」と言うんですが、そういうことが起こってしまいます。これも非常に、皆さんがますます恐くなるような事件です。
 結局、一体何がリスクに対して恐いということなのかということなんですが、リスクではなくて、リスクに怯える私たち、「恐いから恐い」みたいなことであると思うんですね。そういう状況だと思います。どうしてかと言うと、情報がまずない。マスコミなどの情報を鵜呑みにするから、マスコミの情報はさっきも言ったように大袈裟で、嘘もあります。それから感情的になると冷静な判断ができない。ゼロリスクがないことを認識しないことも問題になります。こういったようなことが原因で、消費者の人たちというのは「何となく恐い」というふうになる。
 安全と安心は違うんですよということで先ほども申し上げました。安全というのは科学で担保されるものです。一方、安心というのは心理的なもので、気持ちの問題ですから、一致しない部分があります。じゃあ、何とか一致させようとしてその手段は何かと言うと、リスクコミュニケーションという手法があります。これは、食のリスクに係わる科学者とか生産者とか流通業者とか消費者とか、いろんな食のステイクホルダー、ステイクホルダーというのは「関係者」という意味なんですが、そういう人たちの間で情報や意見交換をするプロセスのことです。つまり、その情報がないことによって恐かったりしたと先ほど言いましたが、これをやることによって情報をお互いにたくさん持ち合って、それで理解し合えば、少しは食のリスクに対する恐さというものが解消されるのではないかなということです。食品企業も、食のリスクに対するコミュニケーションをこれからやりたいなということですね。やりたいなと思っているけれども、実際にほとんど企業とかはできていないんですね。
 それでもう一つ、じゃあ何でリスクコミュニケーションをしなければいけないのかということなんですが、一つだけ強調しておきたいのは、食のリスクに関して、そのリスクに関して対策を立てるというのは、実は国とか県とかいろいろなところがお金を出して対策をします。例えばBSEが流行った時には全頭検査ということを、今でもまだやっています。国はもう止めたんですが、県レベルでやっているので、国が県に対して補助を出しているという状況です。
 つまり、BSEが恐い、だからそれに対して対策を立てる。全頭検査という対策を立てる。それには税金がものすごくたくさん使われるんですね。ある経済学者が試算したんですが、全頭検査などの日本のBSE対策というのは、実は4,000 億円以上のお金がかかっていると。1人の人が変異型クロイツフェルト・ヤコブ病といった、BSEの牛を食べることによって罹るかも知れない病気ですね。じゃあ、その病気になる、1人の日本人がこの病気で死んでしまうのを避けるのにどれぐらいお金がかかったかというのを計算したら、5兆円になったそうなんです。でも、日本で1人もまだ亡くなっていません。日本人でイギリスにちょっとだけいたという方がお一人亡くなっていますが、ちょっとそれは例外として、まさに1人いるかいないかですね。それでそれだけお金がかかっている。
 であるならば、それだけお金がかかるんだったら、他にも日本には食のリスクはたくさんあります。その日本の他のリスクと比べてみて、もっと効率的にこっちのほうから対策を立てていったほうがいいんじゃないかとか、優先的にお金をどこから使うのがみんなのためになるのか、そういったことも考えなくてはいけない。そういった考えをみんなで理解しないとダメですよね。だから、そういった意味でもリスクコミュニケーションをしなくてはいけないという考えがあります。限られた予算を適切なリスク対策にして配分しないと、社会にとっての損失になるということは、私たちにとってもすごく不利になるということなんです。
 消費者の人たちが、じゃあリスクを把握するためにはどうすればいいかということなんですが、一つ帝塚山大学の心理学者の先生が提案しているんですが、リスクの物差しを作ればいいじゃないか。つまり、例えばこの先生が言うには、10 万人のうちガンで亡くなる人は統計的に250人、だとすると、自殺で亡くなる人は24人、交通事故は9人、落雷は0.002人、さっきのBSEであの病気で亡くなる人はゼロ人ですね。そうなると、いかにBSEの牛肉を食べてあの病気で亡くなるというリスクはすごく低くて、交通事故のリスクがすごく高いかということが分かります。そうやってリスクを物差しにして比べてみると、すごく分かりやすい。なので、普通の消費者の人たちが、リスクはさっきから量が大事だと言っていますが、その量を比較するのに、こういった比較例があると分かりやすいんじゃないかなというふうに思います。
 先ほど示した図では、丸が二つあって、一部は重なっているけれども、全部重なっていない。何とかその丸を一つにする、つまり、安全を安心に変える情報提供が必要だということが、今まで見て来て、議論してきた中から分かってきました。
 消費者の人たちにもうちょっと聞いて見ました。じゃあどんな情報提供がいいですかとお聞きしましたら、意見は入らない、事実が欲しいと。つまり、「こうこう、こうしたほうがいいですよ」じゃなくて、「今はこういうことが起こっています」という事実を教えてくださいと。これは仕方がない。正直に話して欲しい。例えば過去の雪印の事件で、私たちは調査をやって、その後数年経って雪印に対する評価は逆に上がっているんです。一回事件を起こした会社だから、頑張って反省して、今なかなかよくやっているじゃないかと、そういったような調査結果が得られました。
 ですので、例えばここ三重県さんでも事件が起こりましたけれども、でも、「三重県はあの事件以来すごく変わったね。取り組みがすごく目立ってきたね」と、そういうふうに言われるかも知れませんね。なので、失敗は仕方がない。この先どうするのかといったようなことを教えて欲しいというふうに出ました。
 それから、やっぱり科学が関係してくることなので、言葉が非常に難しいんですね。だから、それをなるべく簡単な言葉で伝えて欲しい。そして全体像を把握できるようにして欲しい。中立機関の言葉は信じられる。ある一企業の人が言っても、「エーッ、そこの会社の商品を売りたいからじゃないの?」なんて言われてしまいます。ですので、なるべくいろいろな立場の多くの人から共通の意見が出ればいいなということですね。そして、双方向の情報交換をしたい。消費者の人たちも、こういう行政やいろいろな立場の人たちと意見交換をすることによって理解が深まると信じています。
 こういったリスクコミュニケーションが進めば、食のリスクは恐くなくなり、最終的にどうすべきがいいのかと言うと、とにかく情報を幅広く収集しましょう。そして科学的に判断しましょう。これは感情的に判断するのは止めましょうということでもあります。そして、バランスを持った食行動が大切ですということです。
 こういったことを冷静に理解した上で、私たちはもっと重要な問題を考えなきゃいけないんです。それは何かと言うと、今年、食料自給率が40%を切って、39%になりました。これは大変なことなんですけれども、日本人には危機感がまるでないんです。これをちゃんとしっかり理解して、そうすると無添加を要望するコンビニさんがあって、「うちは全部無添加です」と。その裏で大量廃棄が進んでいるんです。それが食料自給率39%の国の人たちがやることかと、アフリカのどこかで飢餓で苦しんでいる人たちがいますとか、そういったようなことを総合的に考えられるようにしなくてはいけないんじゃないのかなというふうに思います。
 ですので、食のリスクに対していろいろありましたが、それを冷静に皆さん理解して、さらに次の世代の日本を考えていけるように、ぜひ今後ともお互いに考えて行きましょう。私たちマスコミも考えて、過剰な報道にならないようにしますし、皆さんもこういう機会を利用しながら、ぜひ考えていっていただきたいと思います。
 最後駆け足になってしまいましたが、ありがとうございました。

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