訓練課の紹介

はじめに

訓練課は、理学療法部門・作業療法部門・言語聴覚療法部門・発達療育部門・心理判定部門から構成されています。

訓練課が対象としているのは、入所・外来の子どもやさわやか教室通所児・者が中心です。外来に関しては、草の実を退所し既に成人されている方も含まれますし、そのご家族の方や近隣お住まいの中枢性疾患の方にも、門戸を開いています。

センター外に目を向けますと、地域療育センターでの療育相談や、巡回療育相談、養護学校療育相談、そして、居住地保育園や小学校での生活に必要な助言をする等、専門知識を生かしつつ県内の各箇所と連携をとっています。また、併設の養護学校とは、各担当同士が集まって療育計画を作成したり、療育検討会や連絡会等を定期的に開催して、連絡を密にとっています。

また、年度に1回職員研修会を開催したり、様々な勉強会に自主的に参加する等、知識・技術向上等にも努めるとともに、療育センター保育士や各種専門学校の実習生を受け入れています。

近年、周産期医療の進歩に伴い、早産低体重出生児の生存率が上がり、脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺児が増加する等、時代と共に臨床像も変化してきており、治療内容も変革が求められています。そして、国際障害分類(ICIDH)においても、機能障害の結果、能力低下が生じ、その結果社会的不利が発生すると提唱されていたものが、2001年の新しい障害分類では(ICF)、「機能障害=能力低下」ではなく、能力低下の原因は、障害を持たれた方を取り巻く社会的、物理的、制度的な環境因子の影響を受けているという考え方に変わってきています。その為に、それぞれのスタッフが、医師の指示の基、それぞれの患者さんのニーズに応えられるように、幅広い知識の吸収と技術の習得に努めています。 


スタッフ構成

・理学療法部門(PT) 理学療法士(8名) マッサージ師(2名) 
・作業療法部門(OT)  作業療法士(2名)
・言語聴覚療法部門(ST) 言語聴覚士(1名) 
・発達療育部門(DT) 保育士(1名)  心理判定員(1名兼務)
・心理判定部門 心理判定員(1名兼務)

各部門紹介

@ 理学療法部門(PT)

   対象は、脳性麻痺等の中枢神経疾患・二分脊椎・ペルテス病・発達遅滞等です。多様な障害を持つ子どもに対して、子どもを取り巻く様々な職種や家族等と連携を取りながら、その子が持っている能力を最大限に生かし、それぞれの生活場面や環境に適応し、また、自分でできた喜びを感じていただけるよう、下記のような取り組みをしています。

 

○ 低年齢の子どもを対象とした発達支援
○ ライフステージにあわせた生活支援(身体の管理・生活しやすいような環境設定等)
○ 福祉用具(補装具・車椅子・座位保持装置等)の適応、評価、情報提供
○ 排痰などの呼吸理学療法
○ 整形外科手術の後療法
○ 重症心身障害児・者への機能や体力維持のための取り組み

子どもの運動機能は、精神発達・認知・学習能力・情緒・経験・環境等と密接に絡み合い、相互に影響しながら発達していきます。そのため、発達途上において、何らかの問題が生じた場合、単に運動機能の障害にとどまらず、様々な問題が出現します。その様々な問題によって、日常生活動作をはじめとして、社会生活において多くの経験を得る機会(特に成功体験)を失います。自分らしく生きていくために、いろんな体験をとうして、やりたい気持ちを実現し、個々の希望や目標にあわせた姿勢の保持や移動手段の獲得をめざしています。

  入所の子どものカリキュラムは、個々の必要性に応じて、併設の養護学校の時間割に合わせ、一週間のカリキュラムを組みます。そして、年度毎に医師・病棟・学校と話し合いを行い、本人やご家族の希望に添えるよう、共通の療育目標を立てています。PTでは、この療育目標に添って、専門性を生かしたプログラムを進めています。また、日常生活の中での姿勢管理や、装具・器具の作製および適合のチェック、適切な移動手段の検討など、生活全般に関わって、病棟や学校と連携して、子ども一人一人の生活を支援しています。

 また、県内の他の病院で整形外科的手術をされ、手術後の理学療法を目的に入所する子どもに対しても、訓練時間の枠を優先しつつ、上記同様にプログラムを進めています。

  
  また、ペルテス病の子どもに対して、水治療法を周一回実施しています。この病気は、股関節への荷重が禁忌であるため普段の活動が大きく制限されますが、水中で歩行運動を行うことにより、股関節に負担をかけない状態で活動量の増大や筋力増強の効果が期待できます。

また、外来の子どもに対しては、基本的に担当PTとマンツーマンで40分間の理学療法を行います。三重県は、地理上からも南北に長いことや、交通機関が充実していないため、遠隔地から通院される方も多く、頻繁に通うことができない子どもさんのために、自宅等日常生活の中でできる姿勢管理、ハンドリングの方法についても指導を行っています。

排痰・呼吸理学療法や、重症心身障害児・者への取り組みについては、入所・外来・さわやか教室等、対象の子どもに対して、各担当がプログラムを計画しています。

また、入所・外来の子どもだけでなく、ご家族や近隣の施設を利用されている方を対象に、物理療法やマッサージ・徒手矯正療法を施行しています。

 主に腰痛や変形性関節症等、疼痛や痺れ等の症状を訴える脳性麻痺の方の二次障害や、手術後の後療法対して行っています。 

A 作業療法部門(OT)

  対象は、脳性麻痺・脳外傷・精神発達遅滞・先天性異常・筋ジストロフィー・分娩麻痺・学習障害・自閉症・ADHD等、様々な子どもたちです。

 肢体不自由児を主に対象としていた過去では、「作業療法は手の訓練」というイメージでしたが、多種多様な子どもたちを対象とするようになった現在では、変化がみられてきました。それは、子どもが抱えている問題の改善だけに注目するのではなく、育つ過程そのものを全体的に見ていき、子どもや家庭が抱える悩みに対して、「どう支援すれば生活しやすくなるか」と考えるようになったことです。

 例えば、肢体不自由児の子どもに電動車いすを考えていくとき、移動手段の自立だけでなく、自分で動く楽しさを感じ、生活しやすくすることを目的にします。また、行動を理解されにくい子どもたち対して、行動の原因を探り、それに対応する方法や、子ども自身がパニックを起こさないように自己抑制する方法等を、家族や療育関係者と一緒に考えていきます。

作業療法では、子どもの発達のあらゆる側面に目を向けた「遊び」を提供します。これには、「子どもが何をしたいのか?」主体的であること、それには、未経験の遊びもあれば、何度でも繰り返して達成感を得られる遊びもあります。そして、子どもの発達段階や個々のペースに応じ、次のステップになるような遊びを考えます。その時に、治療者としてではなく、子どもと一緒に楽しむことができるような共有関係が大切だと感じています。また、子どもの生活年齢に応じた移動方法や食事、排泄、更衣、入浴、整容動作の中から子どもが取り組みやすい方法を見つけ練習することもありますし、自助具の工夫で自立に近づける場合もあります。そして、成人になって必要となるであろうと思われる、基礎学習能力や生活能力としての作業活動を課題としていきます。それには、子どもが自信となるような能力を見つけ出すこと、作業しやすい姿勢や工夫を考えていきます。

子どもや家族、療育関係者と関わる中で、健常児と障害児がお互いの相互関係において人間関係が発達していくことを感じます。そして、日々、子どもや家族、療育関係者から力を与えられていることの多さに気づきます。それに、少しでも応じることができるように、努力していきたいと考えています。

 

B 言語聴覚療法部門(ST)

  言語聴覚療法は、現在200名以上の需要があります。対象は、脳性麻痺やダウン症などの染色体異常、事故後の脳原性疾患、広汎性発達障害、精神発達遅滞等です。
 なかでも、脳性麻痺の子どもたちについては、乳児期の哺乳障害、幼児期・学童期の摂食障害をもつ子どもが多く、半分以上を占めています。特に、摂食機能訓練に関しては、平成8年に、多くの保護者からのニーズを受けて開始しました。当初から県内他院の耳鼻科医師とチーム医療を結成し、センター外では三重県摂食嚥下研究会を立ち上げる等、子どもたちの食べる様子の観察等、保護者の方をはじめ摂食に関わって下さる各職種の方々と共に歩んできました。現在では、JASPERによる評価法を導入し、子どもたちが安全かつ安心して食事ができるように、センター内でも看護師や栄養士とともに、摂食委員会を設けて、チーム医療に取り組んでいます。

 一方、脳性麻痺の言語訓練は、言語発達を促す訓練をはじめ、発声発語器官の運動訓練や構音訓練を行ってきました。最近では、日常生活動作(ADL)に生活援助技術(AT)を取り入れ、重度な脳性麻痺の子どもたちにも、コミュニケーションが取れやすい等、環境設備に対する支援も行っています。

今後、めまぐるしく変化する社会情勢とともに、STもますます多様化していくと思われますが、摂食については摂食委員会を中心に安全な摂食環境を整えること、言語訓練については、子どもたちの言語発達を支援していけるよう、取り組んでいきたいと考えます。 

 

C  発達療育(Developmental Therapy=DT)部門

発達療育では、主に外来の発達障害のある乳幼児を対象に、子どもたちの発達に合わせて、訓練的な要素を遊びに取り入れた、個別保育を行っています。

 開設当初(32年前)より、発達療育での原則は、“楽しく遊ぼう”です。子どもたちの気持ちに寄り添った言葉かけと関わりによって、子どもたちが楽しい遊びをたくさん経験し、コミュニケーション意欲を高められることを目標としています。そして、遊びの中で成功体験を多く持つことにより、意欲の引き出しや自信につながるように努めています。

 遊びは、子どもたちの運動、認知、社会性の発達に不可欠なものです。しかし、発達障害の子どもの保護者の多くが、「遊ばせ方がわからない」という悩みを抱え、戸惑っています。そのため、親子のふれあいが不足し、大切な愛着関係がうまく育っていない場合もあります。発達療育では、保護者にも子どもとの遊びに参加してもらい、遊ばせ方(遊びの目的や方法の説明)、遊びやすい姿勢の工夫、意欲を引き出す言葉かけの仕方などをアドバイスしています。

また、保護者が、育児に前向きになれるよう、発達障害児を育てる思いや痛みを受け止め、日常生活全般の悩みも一緒に考えていくようにしています。

 発達障害児の保育に最も必要とされることは、自分の要求や気持ちを伝えることが苦手であったり、困難である子どもたちを理解することだと思います。そのため、私たち職員には、障害や病気の特質を知ることや、運動、認知、コミュニケーションなど発達についての幅広い知識が必要です。今後も、医師、PT、OT、ST、心理判定員等と連携しながら、発達障害児とその家族が充実した日常生活を送れる支援ができるように、努力していきたいと思います。

 

D  心理判定部門

   心理判定員は、各種の心理検査や行動観察によって、子どもの発達段階や発達の特徴、心理状態を評価し、その結果を基にして保護者や関係機関、リハビリ担当者とのコンサルテーションを行い、それぞれの子どもにとってより良い発達環境を考えるお手伝いをしています。また、子どもたちとその家族が少しでも安心して生活を送れるように、必要に応じて保護者のカウンセリングや、子どもたちへの心理療法を実施しています。

また、入所している子どもたちに対しては、放課後などの余暇時間に個別的な関わりを行うなどして、長期入院によるストレスを軽減したり、心理的な問題が生じた場合のサインを早期発見できるように努めています。

平成18年10月より、障害者自立支援法が導入され、これまで以上に子どもたちとその家族をトータルにケアすることが、重要となりました。心理判定員もチームアプローチの一員として専門性を保ちつつ、他職種との連携をより積極的に図っていきたいと考えています。

 

E  さわやか教室での機能訓練

さわやか教室では、理学療法、作業療法、言語聴覚療法、摂食機能療法等を行い、日常生活を活動しやすく、より楽しめるようにするための機能訓練を実施しています。毎日、理学療法を中心として行い、必要に応じて、他の機能訓練を実施しています。一日一人30分程度、順次個別で行っています。

 年度初旬に初期評価を行い、年間の目標にそって一年間のプログラムを計画しています。そして、年度下旬には、最終評価を行い、次年度へとつなげています。

 機能訓練の目的は、呼吸や摂食等の生命機能維持を維持すること、変形・拘縮の進行を防止すること、様々な刺激を介して楽しみを共有していくこと、潜在能力を引き出し、コミュニケーションや社会参加すること等、多岐にわたります。

 そして、近年、利用者されている方の保護者の高齢化も大きな問題となってきており、介護負担を少しでも軽減するための身体機能維持・環境整備も、重要な役割となってきている。

F 短期入所利用の子どもに対して

 短期入所利用の目的は、家庭以外で宿泊することによる家族介護の負担軽減や、リフレッシュのための利用傾向が強まっています。一方で、訓練目的での短期入所利用も多く、必要に応じて理学療法等の機能訓練を、個別で実施しています。

 短期入所の利点として、機能訓練担当者が、利用者の日常生活を観察・把握できることが大きく、そのことにより、日常生活での具体的な問題点の把握し、訓練目標・内容の明確化へとつながっています。

その他

(訓練課内の安全管理各論)

 草の実リハビリテーションセンター内で実施される防災訓練への参加、医療安全研修会における防災関連研修の受講等により、訓練課職員の防災意識の向上に努めています。平成18年度には、訓練課内防災担当者が外部で実施される防災講演会にも参加しました。

 さらに、東海地震及び東南海・南海地震の発生が危惧されている現状に対して、「事前の対応」を重視し、被害を最小限に止められるよう、理学療法室等、訓練課関連施設の改善を平常時から行っています。例を挙げますと、ロッカー等への転倒防止バーの設置、高所からの物品落下対策等を行い、「子どもの目線から見た安全」を確保するように努めています。

 また、個人情報保護の観点から、カルテ・電子データ等の個人情報を収納したロッカーの施錠を徹底し、個人情報の保管・管理にも細心の注意を払っています。