当施設が、本年10月で、開設50周年を迎えるにあたり、これまでに退所された方々の現在の様子を知る目的で調査を行い、調査結果の単純な集計を行うとともに若干の考察を加えてまとめました。
この調査を行うにあたっては、草の実リハビリテーションセンター(草の実学園)の退所者の団体である「草の実同窓会」の幹事および会員の皆さんに多大なご協力をいただきました。そのご協力により得られました貴重な資料は、これからの肢体不自由児施設のあり方検討に反映させていきたいと考えています。
1、対象者
平成19年4月時点で草の実同窓会会員であった方々594名に調査へのご協力をお願いしました。
2、方法
郵送(一部は手渡し)にて調査用紙の配布および回収を行ないました。
3、期間
平成19年7月下旬に調査用紙を配布し、その後、約1ヶ月で記入済み用紙を返送していただきました。
4、調査の内容
調査用紙はA4版4ページで、次のような調査項目からなります。
1)対象者の基本的な情報
生年月日、居住地、就労状況など
2)障害の程度、日常生活の自立度
病名、日常生活の自立度、移動方法など
3)身体的な問題
痛みや機能低下の有無、草の実や他の医療機関とのかかわりなど
4)草の実やその他の、医療、福祉、行政などの各機関に望むこと
これまでの生活で、またこれからの生活で必要なこと
5)「草の実同窓会」の今後
同窓会の存続、同窓会に求める役割など
1、配布および回収状況
図1 回答者の男女の比 |
図2 回答者の年齢分布 |
![]() 図3 回答者の生活場所 |
就労状況は図4のとおり現在、何らかの形で就労している方は合51.7%でした。
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3、疾患の種類と身体障害者手帳の等級
回答していただいた方の疾患名と身体障害者手帳の等級は図5、図6のとおりでした。病名・障害名別の人数は、脳性麻痺の方が131名(58.0%)、ポリオの方が43名(19.2%)、ペルテス病以外の股関節疾患の方が13名(5.8%)でした。また、脳性麻痺の方のタイプ別の人数は、痙直型が91名(69.5%)、アテトーゼ型は30名(22.9%)、その他および不明が10名でした。
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4、日常生活動作の自立度および介助者について
日常生活動作の自立度からみた回答者の障害の程度は図7 のとおりでした。
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階段昇降を除く項目の自立度は比較的高いのですが、介助者が「不要」と回答した方の割合は50%未満でした(図8)。また、介助者の多くは家族でした。
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また、主な移動の方法の割合は、図9 のとおりでした。
場所により、移動方法を使い分けている様子が見られます。距離やスピードが要求される屋外での移動では、その方法を選択して対応している傾向がありました。
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5、現在かかえる体の問題
「体の問題」については疾患別に分けて集計しました。その結果は表3および図10〜図13 のとおりです(図内の@〜Nの番号は表3内の質問項目番号に対応する)。
また、参考として病名ごとの平均年齢と男女の人数比を表4 に示しました。
表3 今現在の「体の問題」についての質問結果
左欄の質問に対して症状が「ある」と答えた方の割合を表す。 |
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(股関節疾患(ペルテス病を除く) |
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ペルテス病を除く疾患で共通して高い頻度で見られるのが、「歩きにくさ」「筋力の低下」「疲れやすさ」「行動範囲の狭小」「外出頻度の低下」でした。また、「痛み」は全ての疾患で高い頻度でみられました。「痛み」については、疾患により、その原因は異なると予想され、出現部位も含め1つの傾向を見ることは困難です。しかしながら何らかの痛みがあることは、身体活動への影響だけでなく「生活の質」にも関わる問題であると思われます。よって、このことは今後より詳細に分析および調査いく予定です。
表4 疾患名別の平均年齢および男女比▼
* 男女の人数の比は、「男性人数」:「女性人数」を表す |
表4のとおり疾患により平均年齢や男女差が異なりますので、疾患間の比較は困難でした。
疾患ごとの特徴については次のようなことがあげられます.
4割以上の方が「体の問題がある」と答えた項目が9項目あり、歩行を含め屋内外での移動に関わるもので高い頻度が見られました。この要因には、支持性(重力に対して体を支えたり動かしたりする力)の低下や変形の増強があると思われます。それらにより、ますます、多くのエネルギーを必要とする不効率な動きとなり、さらに加齢による体力低下が加わり、日常生活や仕事で疲れを一層感じるのではないかと推測されます。さらに痛みなどの影響もあり結果的に活動範囲の狭小化や外出の機会の減少につながっているのではないかと思われます。
いわゆる「ポストポリオ症候群」の症状である、筋力低下や疲れやすさの項目で非常に高い頻度がみられました。これに、表6の項目には示されていませんが、他に「ポストポリオ症候群」の中で出現頻度の高い筋肉痛や関節痛が加わることなどによりして、結果的に歩行の障害や活動範囲の狭小化につながっているものと推測されます。
筋力低下や疲れやすさは、平均年齢からみて一般的な加齢による影響の可能性も考えられます。一方で、歩きにくさの出現や変形の増強(下肢関節や腰椎に多く出現)、痛みの出現も見られました。これは、もとの疾患によるものが大きな原因と考えられますが、跛行など歩行障害を持っていた場合には、日常生活や歩行を続けたことによる二次的なものによる可能性も考えられます。比較的活動的な生活を送っていただけに、何らかの変化が生じたときには、活動範囲に大きく影響するものと考えられます。
回答をいただいた方が、5名と少なく、ばらつきも大きいため、本疾患の特徴を示す結果とはいえませんでした。しかし、比較的低い平均年齢にもかかわらず、疲れやすさや筋力低下が現れていることは、今後の歩行能力や活動への影響も心配されます。さまざまな要因で、活動性が下がれば、さらに筋力や体力の低下、また二分脊椎に比較的多い肥満の問題も生じる可能性があります。そのことが、さらに活動性を下げるという悪循環への注意も必要であると考えられます。
回答いただいた方の数は少ないのですが、皆さんの結果がほぼ一貫していました。入所中の治療が適切であり活動的にはほとんど問題が生じていないものと思われます。
痛みを訴えた方(2名うち1名は股関節痛)については現段階ではペルテス病との関連は不明です。
6、草の実を退所してからの訓練について 上記の様に身体的な問題を示す方は少なく ありませんでした。その問題にどのように対処しているか、退所後の訓練の継続の有無を表5に示しました。また、継続して行なっていない方についてはその理由を表6に、継続している方についてはどこで 何を行なっているかを表7に示しました。 |
*割合は回答者226名に対するもの |
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*複数回答可 |
*複数回答可 |
現在、訓練を継続的に行なっている方は約16%であるのに対し、行なっていない方は約70%でした。一方、身体的な問題をきっかけに再開したり、気になるときだけ対処する方もみえました。また、継続していない理由として「行えない」状況にある方も少なくないことが分かりました。
表8には「もし可能であるなら行いたいこと」をあげていました。「訓練ではなくスポーツで楽しく」という方もみえますが、多くの方は何らかの形で、訓練の再開など医療とのかかわりを望んでみえます。 参考までに、退所後の草の実とのかかわりを表9に示しました。ここでも「草の実に行きたいができない」という方がみえました。その理由には「遠いから行けない」「重度(障害が)で行けない」「時間がない」などがあげられていました。 |
表9 退所後の草の実とのかかわり
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7、不安に感じること、楽しいと感じること
「現在、不安に感じること」については、図14のとおりです。「体の問題」に不安を感じると答えた方が最も多く、全体の50%以上もみえました。前記(表6)の様に、さまざまな体の問題が出現しています。それらが将来さらに悪化し、生活に影響をおよぼすのではないかと不安を感じていると思われます。また、介助者の多くを占める家族(親)の高齢化は、介助される当事者の方の不安のみならず、介助者である親にとっても同じように不安であると思われます。
一方、「今楽しいと感じること」については83.2%の方が「ある」と答え、12.4%の方が「ない」と答えていました。
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8、草の実やその他、医療機関・福祉機関・行政機関に望むこと
退所後からこれまでの生活の中で「これは欠かせない」または「このことがもっと充実していたら」と思う事柄を上げていただきました(表10、図15 図内の@〜Sの番号は表10内の項目番号に対応する))。この表の他にもより具体的な事柄を数多くお答えいただきました。
表10 草の実やその他医療機関・福祉機関・行政機関に望むこと
*割合は回答者226名に対するもの |
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一般的に脳性麻痺をはじめ、肢体不自由の方は、「早期老化」といわれるさまざまな体の問題が比較的若い時期に起こるとされてきました。しかし、開設50年を迎える草の実の退所者は、そろそろ本来の「老齢期」にさしかかっている方々が少なくありません。さまざまな身体的な問題をかかえる多くの方々からは、当施設の持つ医療機関・福祉施設としての役割のさらなる充実を求めています。
この調査結果が、「肢体不自由児施設・三重県立草の実リハビリテーションセンター」の新たな役割(今後のあり方)を考える上での重要な資料になると思われます。
今回は、調査の単純集計の結果を報告するにとどまりましたが、今後、詳細な分析を行いその結果を基にご協力いただいた皆さんはもちろん県内の肢体不自由児・者の方々に貢献していきたいと考えています。
2007年12月