草の実リハビリテーションセンターの通院児童およびその保護者の方々を対象にアンケート調査を行いました。その目的は、これらの方々の日常生活や医療との関わりの実態を知り、肢体不自由をはじめ発達障害を持つ方の最適な療育環境を見出すことです。多くの利用者の皆さんのご協力により貴重な情報を得ることができました。
今回は、調査結果の単純集計に若干の考察を加え報告します。
1、対象者
0歳から18歳(乳幼児期、学齢期)の当センター通所児およびその保護者
* 兄弟姉妹でご利用の場合は、1家族につき1名の方についてのみご記入いただきました。
* 調査期間内の新患は対象外としました。
2、方法
来所時に調査用紙を配布し、記入の上、所定の回収箱に投入していただきました。
3、期間
平成19年6月6日から8月3日までの約2ヶ月間
4、調査の内容
調査用紙はA4版3ページで、次のような調査項目からなります。
1)センター利用者の基本的な情報(属性)の把握
性別、生年月日、居住地、来所頻度、利用部門など
2)障害の程度、日常生活の自立度
診断名、診断名の把握、日常生活の自立度など
3)生活状況
通園・通学について、医療機関とのかかわりなど
4)困ったことや心配なこと
身体面・精神面・生活面での困ったことや、心配事、相談先
5)草の実や療育施設に期待する事柄
5、その他
調査用紙への記名は任意でお願いしました。
1、配布および回収の状況(表1
) 調査期間に来所された18歳以下の方すべてに1回ずつ、調査用紙を配布しました。多くの方が、待ち時間などを利用してご記入いただき、その日のうちに投函していただきました(記入に要する所要時間は、プレテストでは約10分程でした)。85%という回収率から、利用者の方の高い関心や今後への期待がうかがえました。 調査用紙へご記入いただいた方は表2 のとおりです。約9割が母親であり来所時の同伴者のほとんどが母親であることが確認されました。 |
|
||||||||||
|
2、対象者の基本情報
対象者の男女比は図1
のとおりです。男性256名(59.3%)、女性169名(39.1%)で「男性対女性」はほぼ「6対4」となりました。この割合は、三重県内の平成18年度の身体障害者手帳所持者(18歳以下888名)と一致します。よって、今回の調査結果が、ある程度母集団の状況を表していると言えます。
|
対象者の年齢分布は、図2のとおりです。乳幼児が227名(53.7%)、学齢児が205名(48.5%)でした。学齢期では、小学生が33.1%と多いのに対し、中高生の占める割合は、約15%にすぎませんでした。このことは調査期間と来所頻度も影響していると考えられ、中高生の中には、来所頻度が数ヶ月に1回という方もあり調査期間に来所されなかった方もあったと思われます。
|
対象者の居住地は表3 のとおりです。津市内、松阪市周辺など比較的近辺からの来所者が4割を占めていました。 また、草の実までの所要時間では、1時間以内の方だけで約75%を占めていました(図3)。 |
|
|
利用部門は、表4のとおりです。理学療法(PT)が約66%と最も多いのですが、それでも3割以上の方がPTを受けていないことになります。このことは利用者の中に、純粋に肢体不自由児の定義に当てはまらない診断名(例えば軽度発達障害など)の方が少なくないと予想されます。これは、肢体不自由児施設である草の実の最近の利用のされ方の傾向であり、今後果たすべき役割を示すものであると言えるかもしれません。 |
|
|||||||||||||||||||
表5に来所の頻度を示します。「月に1回」という方が最も多く約40%になりました。来所の目的の全てがリハビリテーションではありませんが、リハビリテーションの機会の増加については、しばしば、利用者の方からご希望されていることです。よって、この結果は、利用者の方の要望という面で考える1つの資料になると思われます。 |
|
|
来所の動機やきっかけは、「他院からの紹介」という方が約70%と最も多いという結果でした(表6)。一方、「検診がきっかけ」や「知人や学校・園の紹介」、「家族の判断」など、地域や家庭が療育のスタートに大きな役割を果たしていることも伺えました。また、近隣に専門施設がなく、遠方でありながらも草の実にその機能を求めて来所されている方も少なくないという現状も見られました。 |
|
3、障害の程度、日常生活の自立度
図5、図6に身体障害者手帳と療育手帳の取得状況について示します。
|
![]() 図6 療育手帳の有無と等級の割合 |
身体障害者手帳の取得率は53.9%で、等級として最も多いのが1級で約36%でした。一方で取得していない方が約30%みえました。この中には将来的には取得を予定している年少児も含まれますが、取得の対象にならない方(たとえば側弯症や内反足、O脚などの小児整形外科的疾患)少なくありませんでした。このことからも、最近の草の実の果たしている役割がうかがえます。
また、知的な障害に対して交付される療育手帳の取得率は27.2%で、最重度の等級が最も多く約13%でした。一方で取得していない方が約60%みえました。
図7に、日常生活動作の自立度・介助度を示します。トイレ、食事ともに何らかの介助が必要な方が、自立の方を上回りました(ただし、この中には、年齢的(乳児など)に介助の必要な方も含んでいます)。
|
図8に、主な移動の手段を示します。移動の手段は、生活の場所により使い分けている方が多いと思われますが、今回は生活上、主となっている方法をお答えいただきました。この結果から、利用者の方の肢体不自由の重症度の割合は、軽度が40%、中等度が30%、重度が30%であると予想されます。
|
4、生活状況
まずお子さん(ご自分)の病名をどれだけの方が知っているかを尋ねてみました。図9がその結果です。約80%の方が「知っている」、約13%の方が「知らない」と答えてみえました。「知っている」と答えた方の中には、「痙直型脳性麻痺」や「脳室周囲白質軟化症」など具体的な病名を書かれる方から、「言葉や運動の遅れ」や身体障害者手帳に記載されている「四肢機能障害」などと書かれる方までさまざまでした。当然のことながら、「知らない」と答えた方の中には、病名が未確定の場合もあると思われます。しかし、病名の告知が、その後の療育に与える影響については、専門職の中でも意見の分かれるところですが、それを、受ける保護者の方にとってもさまざまな反応があると思われることから、「脳性麻痺や知的障害」などの病名を告知する時期は非常に難しく診断が確定していても告知していない場合も少なくありません。
|
次に保育園・幼稚園や療育センターへの通園、学校への通学の状況です。どこかに通園または通学をしている方は82.4%、していない方は13.0%でした。通園および通学先は図10に示すとおりです。就学前の乳幼児では、地域の保育園・幼稚園と療育センターとの割合は、ほぼ2対1で地域の保育園・幼稚園に通う方が多く、就学児では、地域の普通学校と特別支援学校との割合は4対3で地域の普通学校に通う方が多いという結果でした。この数字の多寡は別として生活地域での通園・通学を望んでいる方が多いことをあらわしていると思われます。
|
次に、訓練についてです。「草の実以外に訓練を受けている場所があるか」という質問には、約41%が「なし」、約54%が「あり」との回答でした(図11-1)。また、「あり」と答えた方に草の実と比べてのその頻度を尋ねると、約43%の方が「多い」と答え「少ない」の約26%を上回っていました(図11-2)。
|
|
草の実以外の訓練の場所では療育センターが最も多く(表7)、次いで県内医療機関(小山田記念温泉病院・みたき総合病院・ヨナハ総合病院など)でした。 また、約4%ですが、県外にも訓練の場所を求めている方がみえました。より効果的な訓練を求め大阪地域に向かわれている方が多いと思われます。一方、「その他」の中には少数ながら訪問リハビリを受けている方もみえました。 |
|
5、困ったことや心配なこと
現在「困っていること」の有無を尋ねたところ、297名(68.8%)の方が「ある」と答えました。その内容を「体や運動面」と「生活や精神面」それぞれでみると図12、図13のような結果でした。
|
|
「体や運動面」では機能や能力の低下や停滞を示す項目を答えた方が多く見られました。また「生活や精神面」では、「トイレ・更衣・食事」の日常生活の自立度・介助度に直接関わる部分が多く見られました。
また、心配なことの有無を尋ねたところ、283名(65.5%)の方が「ある」と答えました。その内容は、図14のとおり「進路の問題」と答えた方が最も多く、全体の3分の1に至りました。次いで、「保育園・幼稚園や学校のこと」で、これには保育園・幼稚園や学校での生活に関するもののほか、入園・入学など進路に関わる事柄も含まれていると思われます。将来の行き先や介助に関しての心配も少なくありませんでした。また「その他」では表8に示すような、多くの事柄があげられていました。この中にも将来的な心配も含まれますが、食事や入浴など日常生活に関してや予後に関するもの、地域での訓練の機会に関するものなど、より身近な事柄もあげられていました。
|
表8 その他、心配なこと
|
「困ったこと」や「心配なこと」を相談する場所の有無を尋ねたところ、203名 (47.0%)の方が「ある」、99名(22.9%)の方が「ない」との回答でした。また、その相談場所は、表9に示すとおり学校や療育センターなど地域の身近な場所が多いようでした。一方で相談場所がなく、ご家族自身で情報の収集に努めたり、仕方なく放置したり、日々の生活におわれ、それどころではなかったり、さらには相談場所が分からないなど、さまざまな回答がありました(表10)。 |
|
表10 相談場所が無いときにはどのようにしているか?
|
6、草の実や県内の療育施設に期待する役割
最後に草の実や県内の療育施設に期待する役割を尋ねました。「診察・相談・入院・入所」、「訓練や看護」、「草の実と地域との交流」の3つについて選択肢をあげましたが、結果は図15、図16、図17、表11に示すとおりです。
|
「診察・相談・入院・入所」については、「他の科の診察」と答えた方が183名(42.4%)で最も多く、望む診療科としては、表11のとおり小児科、次いで、耳鼻科、眼科となりました。 また、「進路の相談」や「育児や介護の相談」など相談事業の充実を望む声も多く、これは「心配なこと」(図14)の結果を反映したものであると思われます。 さらに、緊急時の一時入所機能やとしての役割や機能訓練・生活訓練などの明確な目的を達成するための短期入院機能を求めている方も少なくありませんでした。 |
|
|
「訓練や看護」につては、草の実で受ける「訓練回数の増加」や「技術の向上」を多くの方が求めていました。一方で「保育園・幼稚園や学校への訪問指導」や「訪問リハビリ」、「地域への巡回相談」など生活地域での療育を充実させる役割が求められていました。このことは訓練だけでなく訪問看護など広い分野での関わりも必要であると思われます。
|
最も多くの方に求められていたのが「地域や他の施設との連携強化」でした。具体的な連携先については、この調査では明確ではありませんでしたが、保育園・幼稚園、療育センター、学校、他の医療機関(病院)、さらには行政機関など、年齢や生活状況によりさまざまであることが予想されます。草の実のもつ専門性やお子さんについての情報を地域の機関と共有することで、より効果的な療育を進めていくことが求められていると思われます。
この調査では、432名と非常に多くの方々にご協力をいただくことが出来ました。これらの方々は、年齢や障害の程度、生活背景、草の実との関わりの状況など千差万別です。したがって、結果を一言でまとめることは困難でした。しかし「三重県の地域で過ごしている」という共通点から、草の実やその他の療育関連施設が果たす役割を考える重要な資料にはなりました。
今回は、乳幼児期から学齢期と比較的、療育との関わりが保てる時期の
方々を主な調査の対象としました。この時期の方々の保護者の皆さんからいただいたご意見は、近い将来向かえるであろう成人期の療育についても大切な手がかりになると実感しています。
今後は、調査結果をより詳細に分析し、三重県立草の実リハビリテーションセンターの新たな役割(今後のあり方)について検討し積極的に行動していきます。