平成19年度率先実行大賞
部局別 | 健康福祉部 |
活動テーマ | 肢体不自由児のネクスト50(フィフティ)!!!〜こどもたちとの「やくそく」の実現に向けて〜 |
グループ名 | チーム 『草の実』 |
グループの形態・人数 | 草の実リハビリテーションセンター全職員 |
取組のねらい及び背景 | 草の実リハビリテーションセンターは、「肢体が不自由なこどもさんが、成長期に可能な限り機能を発達させ、その将来に、できるだけ自立して生活が送ることができる」ように、治療や生活の支援を行っている児童福祉法に基づく肢体不自由児施設で、かつ県下で唯一の小児整形外科、小児リハビリテーションを専門とする病院です。 今年度で開設50周年を迎えました。こども達も職員もワクワクドキドキしています。 その理由は、この機会に、これまでの「草の実の50年」を振り返り、業績をまとめることで、新たな50年に向け「夢」が描けるからです。 現在、センターでは、全職員が参加して、「あり方検討」を行っています。 「肢体不自由児が安心して治療が受けられ、自らが望む生活ができる療育環境」をこども達に提案し、実現するためです。 肢体不自由児(保護者)や既に大人になった肢体不自由者が、今、期待していることを知るため、「通院者へのアンケート調査」や「退所者への追跡調査」を実施しました。アンケート調査は、センターの職員が自らチームを組んで作成・配付・回収・分析や職員への結果報告まで行いました。 この結果を受け、全職員と所長のフリートーク、運営会議メンバーと職員との話し合い、各職場での業務見直しの検討会議などにおいて徹底した意見交換を行いました。 殆どの職員が、こども達や保護者の視点にたって意見交換を行ったことから、自らの業務や施設の運営、地域の療育環境の整備などにたくさんの「気づき」を発見し、「改善提案」が行われ、自主勉強グループやWGが立ち上がり、また療育計画の作成に学校教員の自主的な参加を促したり、施設や関係者さらには保護者も交えたダイナミックな展開になるなど、これまでにみられなかった新たな職員の活動も産み出しました。 「これからの草の実」ではなく、「 肢体不自由児のネクスト50(フィフティ)!!!」に向け動き始めた「チーム 草の実」の取り組みを紹介します。 なお、皆様には、いろいろな視点からこれからの肢体不自由児への取り組みに、ご批判、ご意見をいただきますようお願い申し上げます。 併せて、肢体不自由児を含め、障害を持つこどもさん達や保護者のみなさん方に対して理解や関心を持っていただき、皆様の業務や日常生活の中で障害児・者の方々に一層のご支援をいただければ幸いです。 |
取組内容と成果 | (1)あり方検討の実施 当センターは、開設後50年が経過しました。この間、肢体不自由児数は、微増状態にあると推測されますが、疾病の種類は大きく変化し、ポリオや先天性股関節脱臼などが激減しています。一方で、脳性麻痺や二分脊椎などの障害児が漸増傾向に有ると言われており、さらに重複した障害や合併症を持つなど、より重度化が進んでいるようです。 市町(地域)では、療育センターの整備をはじめ、障害児に対する療育環境の取り組 みが行われてきたことや、特別支援学校の増設や特別支援学級や普通学級を含めた普通学校での受け入れの改善など、肢体不自由児に対する学校教育の環境も整備され、肢体不自由児の療育は、従来の施設を主体としたものから、地域(家庭)での自立生活を主体としたものに転じてきつつあります。 一方、麻酔科医師の不足により、手術は三重病院で行い、術後のリハビリを草の実で行うようになり、従来可能であった手術治療を当センターでは果たせなくなってしまったこと、小児科などの医師が不足し病院機能の確保が危機的状況になっていること、近い将来、医師の臨床研修施設との関係から小児整形や小児リハビリテーションを含む整形外科医の不足なども危惧されていること、さらに県の財政状況が低迷していること、以上の状況などから、より効率的な施設運営が必要となっています。 これらを踏まえ、当センターでは、自発的に立ち上がったプロジェクトチームを活用し、草の実に通院する児童(保護者)にアンケートを実施しました。、また、この50年間に草の実 を退所した肢体不自由者へのアンケートによる追跡調査により、施設側の論理ではなく、肢体不自由児が期待し、必要とする福祉および医療機能の「あり方」を検討することとしました。 アンケート調査では、通院児童(保護者)432名、退所者226名の方々から回答をいただきました。 アンケート結果を受け、所長と全職員のフリートークや運営会議でのオープントークなど、徹底した意見交換により、肢体不自由児が必要としている療育環境を職員間で共有し、それに基づいて今後充実させていかなければならない療育機能や具体的なサービス内容などの検討を行いました。 その結果、今すぐにでも実施できることとしては、 @外来を中心にこどもや保護者への相談支援体制を充実させること、 A地域での療育の支援を充実させること、 B特定の目的を持った短期入院を企画し、提供することにより組織や施設の能力を有効 に活用すること、 C県内の肢体不自由児に関わるスタッフとの情報共有を進め、相互に連携が可能となる ように共同の勉強会・研修会を開催し、地域と相互研鑽を進めるとともに地域療育体 制を支援すること、 中長期的な取組みとしては、 D肢体不自由児を専門的・総合的に診断し、必要な治療を集中的に行える「センター機 能」を整備すること、 E県内の各地域においていつでも、どこでも質の高い療育を受けられるよう、市町「療 育センター」や医療機関、特別支援学校さらには保護者など関係者を常時育成(研修) し、また情報提供を行うなど地域を支援するセンター機能の充実・整備を行うこと 以上が必要であると結論付けています。 現在、@からCについては実施のための具体的な内容を詰めている段階であり、D、Eについては、関係機関との調整も含め中長期的な取り組みになります。 今回、あり方検討で、二つのアンケートを実施し、その結果について組織で徹底した意見交換を行ったことが、以下の「プチプチ学会」や「食の交流会」など、こどもを起点においた、職員の自発的な取り組みを産み、業務の改善に向けたさまざまなアイデアや活動が提案されるなど、組織や職員個人の意識や行動に大きな変革をもたらす結果となりました。 また、こども達の視点から、療育環境を振り返ることで、何のため、誰のために施設があるのか、何をすべきなのかなど、組織も含め自分達の役割や行動を改めて確認し、見直すことができました。 (2)プチプチ学会(院内研究発表会) 二人の職員によって自発的に提案され実施される事業です。 目的は、草の実の職員はじめ市町の療育センターや福祉施設などの保育士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、特別支援学校の教員など地域の関係者が、より緊密な交流を深めるとともに技術研鑽を行い、いつでもどこでもみんなで支えあいながら肢体不自由児に療育支援ができるようになることを目的としています。ただし、肩を張らず誰もが気軽に参加できる運営を目指して表題のような名称にしています。 内容は、職員が各職種の専門学会・研究会で発表したものはもちろん、自主的に行った研究の成果や日常業務での気づきや改善事項などについて発表するとともに、意見交換・情報交流を行い、スタッフ間のコミュニケーションを活性化させるものです。また、地域の療育を担うスタッフに対して、小児リハビリテーションなどの技術の向上や、情報ネットワークの充実などにより、施設や地域における療育の質の向上を目指しています。また、各専門学会・研修会などで発表する際のプレゼンテーション能力を高めることも狙いとしています。 「プチプチ学会」は、年4回程度開催する予定で、第1回は、平成20年1月19日(土)に開催が決まっており、発表項目もセンター職員から8題の応募があります。市・町の療育関係スタッフにも参加を呼び掛けています。 ボランティアスタッフも4名増えて現在では、6名の職員で開催準備をしています。 肢体不自由児に対する医療の提供や生活への支援は、多様な職種の関わりが必要であり、かつ専門性も高いことから、施設においても職種間・職員間で常に相互学習が必要になっています。また地域には、専門に関わる人材は少ないのが現状であり、「プチプチ学会」の開催は、草の実の療育レベルを向上させるとともに、肢体不自由児が身近なところで療育を受けながら生活ができる地域づくりを行おうとするもので、施設と地域のスタッフの協力関係を構築するためにも有効な活動となります。 (3)「さわやか教室」における患者支援計画の作成と保護者向け研修会の開催 重症心身障害児(者)通園事業では、現在約20名が利用者登録され、毎日ほぼ5名の重度重複障害を持つ方々が保護者に送迎され通園しています。いわゆる「デイサービス事業」で、「さわやか教室」と名付け、生活指導員、理学療法士、看護師などを配置し運営しています。 全ての通園者は全介助であり、常時呼吸器管理が必要な人、てんかんや内蔵疾患など重大な合併症を持った人がほとんどで、看護や介助をする職員には相当な量の情報が必要ですが、月に数回しか利用しない人が大半であることや一部職員が固定されないことなどから、「さわやか教室」での過ごし方の工夫が難しく、食事やトイレ、入浴などの介助のみに終わっているケースが少なくありませんでした。 そこで、通園者の情報を共有するために個人情報シート(カーデックス)を導入するとともに、個別の支援計画を作成しました。結果、担当する機会の少ない職員も関わりを持てることで、「さわやか教室」での過ごし方の質を確保することができるようになりました。また、同時に、保護者の要望はもちろん不安や心配事なども共有するために、支援計画を保護者とのコミュニケーションツールとして活用するとともに、懇談会や研修会への参加を促すことで、保護者の負担の軽減を図っています。 11月には、保護者を対象に介助方法の実技指導や腰痛体操などの体験会を5日間にわたって開催し、介助の負担の軽減方法を指導するとともに、施設と保護者、保護者と保護者による情報交流の場とすることで、保護者の介護などの不安の軽減や健康状態の維持につなげており、重度重複障害者のQOLの向上にも寄与しています。 (4)食の交流会 脳性麻痺などの肢体不自由児は、食べることに大変な困難を伴う摂食障害を有している場合が少なくありません。また、肥満や栄養障害は、適切に管理されなければなりません。 センターでは、「摂食委員会」を組織し、摂食(食べること、食べさせること)に関する情報や技術の向上・普及に努めています。その一つとして、入所児童の保護者を療育のパートナーと位置づけ、こども達の入所中の食生活を知っていただくことや帰省時などの食生活の参考にしていただくことを目的に「食の交流会」を開催し、入所児童のメニューの試食や献立の構成、使用する食材の使用、栄養管理、摂食機能などについて、言語聴覚士、管理栄養士や調理技術員による説明を行いました。 この「食の交流会」は、一昨年から毎年開催しており、今年で3回目ですが、今回から学校の教師も参加し、食だけに限らず、保護者や教員、センター職員との情報交流や相互の学習の場としても重要なものとなっています。また、普段こどもの様子を見に来る機会の少ない保護者にも施設に足を運んでもらうための有効な手段の一つともなっています。 さらに年度内には、調理技術員の発案で、外来に通院する摂食障害を持つこども達の保護者の方々を対象に、入所児童の食事メニューをベースにして分かり易いレシピを作成し、施設内に掲示・配付するとともに、希望があれば調理技術員が直接説明するなどの企画も検討されており、通院や自宅での介助で大変な保護者の方々の生活の一部をサポートします。 これまで、外部に出ることのなかった調理技術員の知恵や技術が、言語聴覚士や管理栄養士の専門知識と一体となって、子育て支援サービスの一つとして新たな価値を見出しています。 (5)福祉機器リサイクル事業で約2千万円の節約 センターの利用者から不要になった車椅子や座位保持装置などを無償でセンターが譲り受け、それを他の利用者に再利用していただく事業です。 平成16年度に保護者から「こどもの体に合わなくなった補装具を回収してくれるところがない」という話を聞いた時に、「患者の費用負担が少なくなること」、「補装具を早く入手できることから、訓練がすぐにでもできること」「市町の財政負担も軽減すること」など、多くのメリットがあることから、早速、訓練課職員が取り組みました。 平成16年度、17年度は、限られた職員で実施していたこともあり、リサイクル件数も少数でしたが、18年度から物件情報を職員間や保護者にも掲示するなど、情報をよりオープンにしたことにより、自宅でのリハビリ用や集中訓練での利用などの需要が増加したことで、受け渡し件数が前年に比較し倍増となり飛躍的に伸びました。 肢体不自由児の補装具は、障害の部位や状態が個人ごとに異なるため、他のこどもが合わなくなった補装具とのマッチングは難しい場合も多いことから、業務がやや煩雑になりがちですが、職員間での患者及び補装具情報を緊密に共有するとともに民間業者である義肢装具士の理解と協力を得ることなどで、円滑な運営が可能となってきています。 これまで3年間の受け渡しは、件数で147件、金額にして約20,000千円であり、同額の行政側の財政負担と利用者の自己負担分が節約されたことになります。もちろん補装具作製に伴う材料および燃料の消費が節減されたことにより環境負荷の軽減にも繋がったと考えられます。 ちなみに、東海・北陸・近畿10県に15の肢体不自由児施設がありますが、「福祉機器リサイクル事業」は、三重県だけが実施しています。 |
取組体制と活動のポイント | 一昨年10月に障害者自立支援法が施行され、昨年10月には開設50周年を迎えるなど、昨年度と今年度は、当センターにとって大きな転換期となりました。それらを契機として、「あり方」を検討する際に、従来の施設側の論理ではなく、保護者へのアンケート調査や懇談会の開催など、肢体不自由児の求める療育環境を知ることから始めました。 職員の考え方には、当然温度差がありましたが、フリートークや職場内での意見交換をすることや実際にそれぞれのこどもの療育方針を職種を越えて担当者間で意見交換し作成することなどで、課題や問題点、やるべきことなどが、組織内・職員間で徐々に共有されてきました。また、その過程で特別支援学校の教員や保護者なども参加し、自由に意見交換することで、これまでは交流の少なかった組織や職員とも交流が深まり、こどもに関して、より詳細な多くの情報を共有することができました。 具体的な調査の実施や結果の分析などは、ワーキンググループを設置したり、自発的に職員が立ち上げた勉強会を利用したりするなど、職員のやる気をフルに活用しながら、組織の最終決定機関である運営会議で決定し、組織の仕事として位置づけ実施するなど、職員の自由な発想や、気づきを十分に活かすことができました。 肢体不自由児は県内に1000人程度いると推測され、この数は、これからも減ることはほとんどないと考えられます。肢体不自由児は、安心して生活を送ることができなければなりません。肢体不自由児自らが、可能な限りの成長や発達を獲得し、生涯を安心して生き抜く力を付けていくことのできる普遍的な仕組みを持った社会を創っていく必要があります。 「あなたがしたいとおもうことを じぶんのちからでできるようにおてつだいします」 これは、草の実職員の行動基軸ですが、この「こどもたちとのやくそく」を守り、「肢体不自由児のネクスト50(フィフティ)」を実現するため、草の実は現場からチャレンジしています。 |
資料1 | 草の実紹介・プチプチ学会(院内研究発表会) |
資料2 | あり方検討資料(アンケート結果等) |
資料3 | さわやか教室における患者支援計画の作成と保護者向け研修会の開催 |
資料4 | 食の交流会・福祉機器リサイクル事業 |
審査員コメント | ●誰のため、何のために価値を提供するのかという視点に留まらず、その価値を創造し、質の高い組織づくりを行っており、職員が一丸となって進めている様子が見て取れるようでした。働く喜びさえ感じさせられました。 ●過去のお客様への調査や所内での徹底した意見交換により、組織のあり方を見直しお客様の家族の参画も得ながら、サービスを改善していこうという取組の深さがよく感じられました。また、余談になりますが、入力された文字の多さから熱い思いが伝わってきました(笑)。 ●文章を読んでいて、現場の臨場感がとても伝わってきた。職員各人が、肢体不自由児のために何をしなければならないかを理解、実践しているとjころが素晴らしい。今後の草の実に期待したい。 |