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「人口減少時代の新しい地域づくり」 文化力で三重を元気に

平成17年11月1日に津市内で開催された内外情勢調査会での講演内容です。

講演写真

目次


はじめに 

 本日は、「人口減少時代の新しい地域づくり~文化力で三重を元気に~」という演題で、お話をしたいと思います。
 ところで、本題に入ります前に、この土曜日(10月29日)までヨーロッパへ出張しておりました。今三重県が進めている「ごみゼロ社会」実現の参考にするため、ドイツの環境都市であるフライブルクと、昨年、熊野古道が世界遺産に登録されましたが、同じく「道」をテーマにした世界遺産であるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道へ行ってきました。以前から、チャンスがあれば一度訪れたいと考えていたところです。
 しかし、今回の出張の主目的は、世界最高峰のモーターレースであるF1グランプリの開催招致のため、ローマへ行くことでした。毎年鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが開催されており、今年(平成17年)で19年目、来年20回目になりますが、再来年以降の開催地がまだ確定していません。今、富士スピードウェイが開催招致に向け、猛烈に運動を展開しています。F1は、鈴鹿市にとっても、三重県にとっても、世界へ情報発信する上で極めて大事なものです。鈴鹿市長さんと鈴鹿商工会議所会頭さんからも強い要請があり、今回私が「応援団長」ということで、ローマでFIA(国際自動車連盟)会長のモズレー氏に面談し、鈴鹿での継続開催を要望することになりました。
 F1の世界では、鈴鹿サーキットは高い評価を得ています。今年の日本グランプリも「鈴鹿ドリーム」とも言える大変劇的なレースでした。17番手スタートのライコネン選手が大逆転で優勝し、F1の歴史に残るようなレースだったのではないでしょうか。数々の名レースが繰り広げられている鈴鹿は世界のF1関係者から評価をいただいていますし、鈴鹿がF1に対し、これまで長年にわたり貢献してきたことを会長に強く訴えました。また、鈴鹿市が今年のレース観戦者に対し行ったアンケート調査でも、日本のファンの多くが鈴鹿開催を望んでいることがよく分かりました。驚くことにトヨタの社員の中にも鈴鹿がよいと答えている人がいますし、関東地区の人も圧倒的に鈴鹿がいいと答えてくれました。このことも会長に伝えさせていただきました。
 そして、今年、セントレア(中部国際空港)も開港し、鈴鹿の環境は格段によくなっています。しっかりと会長にお願いしてきました。今後、会長の判断だけではなく、機関として決定するとのことで、遅くとも来年春には開催地が決まるようです。強い期待を持ってしっかりと要望していきたいと考えています。いい結果に結びつけることができればと思っています。
 これは、三重の夢づくりの話です。
一方で、実は先ほどまで定例記者会見をやっていました。今回のヨーロッパ出張の報告もしたのですが、出てくるのはフェロシルト(廃棄物を活用した埋め戻し材)に関する質問ばかりでした。私にとっては頭が痛い問題です。
 私が知事になって2年半が過ぎましたが、実にさまざまな問題が出てきています。こうした問題にしっかり取り組まなければなりませんが、その一方で、三重県を元気にしていくことが私の最大の責務であると思っています。
 今の時代は未来に向けてのチャンスがたくさんあります。このチャンスを逃さぬよう、また、そのチャンスを確かなものしていくための取組もしているところです。その中で、今、県政運営上で大きな挑戦をしているところです。本日はそうしたことを中心にお話ししたいと思います。

ごみゼロ社会熊野古道

今の時代をどう捉えるか 

(1)時代の大変革期 

 さて、今三重県を取り巻く環境、あるいは、今の時代をどう捉えるべきかということからお話を始めたいと思います。大変な時代の大変革期です。グローバル化やIT化などの進展によって大きな変化がもたらされています。また、環境問題や災害の多発、犯罪の増加などによって、県民は強い不安を感じています。
 また、地方にとって大きな影響を持つ三位一体の改革をはじめ地方分権改革が進んでいます。市町村合併も進んでおり、今日(11月1日)も新・伊勢市と新・熊野市が誕生しました。私が知事に就任したときに69あった市町村が41になりました。来年(平成18年)1月10日には29になる予定です。このように三重県でも市町村合併が急速に進んでいます。地方分権の進展により、地域主権の社会に相応しい自治体の姿が求められるようになっています。
 それから、少子高齢化の問題があります。後ほど三重県の課題等も含めお話ししますが、いよいよ人口減少社会に突入します。戦後、経済や人口のパイが拡がる中でできてきた社会制度や価値観が変わらざるを得ない時代になってきています。

市町村合併

(2)のしかかる負の遺産 

 もう一つ特に申し上げなければならないことが、「のしかかる負の遺産」です。この中で最大の負の遺産は、財政問題です。国と地方を併せて740兆円の長期負債があると言われていますが、実質は、おそらく1千兆円を超える額なのではないでしょうか。この740兆円の借金は、国民一人あたりにすると約580万円になり、そのおよその内訳は、国が420万円、都道府県の平均が60万円、そして市町村の平均が100万円となっています。三重県は、一人あたり50万円で、全国平均よりは少ない状況ですが、大変なものです。
 しかし、財政問題は、県も国の財政構造に組み込まれていますから、三重県だけの努力でどうなるような簡単な問題ではありません。したがって、基本的には、国がこの問題にしっかり対応する必要があります。少なくとも三重県においては、政府がめざそうとしているプライマリーバランスの均衡を、同じように進めようと努力しています。
 北川県政時代、年間補正を入れて1千億円を超える借金をしながら県政を回していました。私は、自分自身で予算を組むことになった昨年度(平成16年度)予算では、何とか850億円以下にギリギリの努力をしていこうと考えていました。しかし、昨年大きな災害が発生し、事業費は300億円以上で、県債も150億円を超える追加発行が余儀なくされ、結局1千億円を超えてしまいました。今年度は、当初のねらいどおり行きたいと思い、努力しているところです。
 それから、先ほどフェロシルトの話を申し上げましたが、産業廃棄物の不法投棄という負の遺産ものしかかっています。問題になっている四日市市大矢知地区の産業廃棄物も平成6年以前のものですから、言ってみれば、田川県政の時から放置され、積み上げられてきたごみが、今になって調査してみたら、皆さんをお騒がせするような莫大な量であることが分かってきたものです。
 こうした負の遺産については、時代の大激変のこの時に、その切替がうまくできなかったことで残っているものもありますが、しかし実際には、数年前に始めたばかりの事業、あるいは企画された事業が、事業を開始して2、3年も経たないうちに大変な県政の問題になってしまったものがあります。時代の変化にうまく対応しきれなかったものもあれば、当初から科学的知見が十分でないまま着手したり、経営見通しを見誤るなど、間違っていたものも見受けられます。将来を考えたときに、こうした課題は、通常ならばできるだけ触れたがらないものではありますが、私は、先送りにせず、真正面から捉え、しっかりと対応していかなければならないと考えています。できれば早く解決し、それが難しいものは、少なくとも解決への道筋だけは付けたいと思います。

三重の財政

(3)確かな未来へのチャンスのとき 

 一方、このように大変革期にあって、大きな負の遺産を抱えていても、今は未来に向けての確かなチャンスのときであると考えています。
 特に、三重を元気にするということは、私の選挙の時の公約でもありましたし、昨年(平成16年)あたりから着実に成果が見えてきました。まさに三重県の未来に向けてのチャンスのときでもあると考えています。
 なかでも、経済は回復基調にあります。三重県でも皆さんご存じのシャープをはじめ、東芝、富士通、凸版印刷、日東電工、味の素、JSRといった企業の大規模投資が相次いでいます。
 いわゆるバレー構想についてもそれぞれ順調に推移しており、クリスタルバレー構想は、液晶をはじめフラットパネルディスプレイ関連産業の集積が全国で最も進んでいます。今後も引き続き活発な状況が期待できます。医療・健康・福祉関連産業の集積をめざすメディカルバレー構想は、今年上期に2件立地していますが、これまで産学官で地道に構想を推進してきたことが企業誘致という成果にようやくつながってきました。これからも着実に進展させていきたいと思います。また、シリコンバレー構想は、東芝と富士通がシャープを上回る大規模な投資を行いましたが、今後も追加投資が行われる見込みで、両社を中心に進展していくものと思います。
 また、四日市コンビナートの再生についても、より高度化、高付加価値化を図るべく、燃料電池や水素エネルギーの分野での新産業創出をめざしながら展開しています。
 こういう状況から、9月27日に速報が公表された工業統計(平成16年)でも、三重県は8兆円弱だった製造品出荷額が1年間で約1兆円(12.4%)伸びましたが、これは全国で見ますと愛知県に次いで2番目に高い伸びです。
 しかし、少し問題点を感じているところです。その問題点といいますのは、新規の工場の立地を考えるとき、今、県内では産業用地が不足気味になってきており、特に北勢地域への投資意欲が高いのですが、工場立地の選択の幅が、用地の観点で狭まっている状況です。用地の確保が大きな課題となっており、このことについて、いい方策を検討させているところです。
 ところで、南北の経済格差が指摘されていますが、もちろんなんとか全県を元気にしたいというのが私の思いです。そこで、観光政策をしっかりとメリハリをつけていくこととして、昨年11月に観光振興プランを策定しました。2013年には伊勢神宮のご遷宮が行われますし、熊野古道が昨年世界遺産登録されたことは、観光振興のチャンスです。観光産業は裾野が広いですから、第一次産業とも連携し、観光を三重県の産業の柱の一つにしたいと考えています。
 産業全体を考えますと、三重県は着実により元気になる方向に向かっています。今後も戦略的な産業政策に力を入れていく考えです。
 その一方で、日本人も経済的な豊かさだけではしあわせになれないことに気づき、物心両面の豊かさを求めるようになっています。
 社会が成熟化する中で、新しい価値観に基づく生き方が求められるようになり、その現れが、スローライフであり、心の豊かさ、生きがいやこだわりなどであり、いわば文化重視の時代とも言われるものです。また、グローバル化の一方で身近な地域をもう一度見つめ直すローカル化の動きも見られるようになりました。
 行政の立場から、こうした人々の価値観や意識、行動の大きな変化を的確に受け止め、私が常々申し上げている"わくわくドキドキ"できる地域づくり、社会づくりを進めてまいりたいと考え、取り組んでいるところです。
 こうしたことから、職員に対しても、一体誰のために、何のためにやるのか、足元からしっかりと考えるよう、また、時代のこのような状況の中では、これまでの制度や価値観が通じなくなってきていますから、批判眼を持って取り組むよう言い聞かせています。私は、県民が主役で、三重県という人生の舞台づくりを県民と共に進めることが大事であり、そのためには、県民の思いをきちんと受け止められるよう感性を磨いていく県政を進めていきたいと思っています。
 さらに、三重県を元気にするだけではなく、本当の意味で、「美しい三重」「安全安心の三重」「イキイキと生活する三重」「誇りと愛着の持てる三重」をめざしたいと考えています。

観光振興プラン

三重県を取り巻く環境イメージ

人口減少時代の地域づくり 

(1)いよいよ本格的な人口減少社会へ 

 さて、先ほど時代の大変革期のところで、少子高齢化の進展と人口減少時代に突入していくことを申し上げましたが、グラフにあるように、三重県もいよいよ人口が減少していきます。ここで少し詳しく申し述べたいと思います。

将来推計人口グラフ

 三重県では、2004年の合計特殊出生率が、一人の女性が一生の間に産む子供の数に相当するものですが、1.34です。全国では1.29ですから、やや高いと言えます。そして、2004年の老年人口割合は20.8%で、全国平均の19.5%に比べわずかですが高くなっています。このように、本県においても少子高齢化が進んでいます。
 一方、グラフにありますように、これまで私たちが経験したことのない人口減少時代にいよいよ入ってきます。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では、今から25年後の三重県の人口は、約167万人、現在に比べて19万人、1割程度減少するという推計が出ています。これは地域によって深刻さが違います。旧69市町村ベースで見ていくと、人口が約半数になるところが、ここでは人口が4割以上減少するものを半数と言っていますが、12市町村にもなります。この12市町村とは、合併前の市町村名で申し上げますと、尾鷲市、鳥羽市、美杉村、飯高町、宮川村、南勢町、南島町、紀勢町、志摩町、紀伊長島町、海山町、紀和町です。
 人口減少は、社会に非常に大きなイ・塔pクトを与えるものであり、このことにしっかり対応することが求められます。

(2)人口減少社会がもたらす課題と可能性 

 人口減少社会では、さまざまな課題が生じてくると指摘されています。
 まずは、高齢者の年金、医療保険を支える社会保障制度の行き詰まりや、税収の低下によって、行政の活動に影響が出てくることが考えられます。また、生産活動の縮小などにより、経済成長率が低くなることや、貯蓄率の低下も予想されます。それから、雇用も一時は、人余りと言われていましたが、景気の浮揚で失業率は改善されつつあります。しかし、団塊の世代の退職、いわゆる2007年問題が視野に入ってきました。そこへ、人口減少で、労働力が減少していくことが考えられます。さらに、人口減少によって、コミュニティの維持も困難になり、農山村では荒廃、都市中心部では空洞化の進むことが想定されます。
 このまま何もしなければ、こうした課題に直面することになります。しかし、さまざまな課題も視点を変えると、違った見方ができます。
 これまで人口増加を前提とした社会保障制度の行き詰まりも、人口減少を前提にした新たな社会経済システムを考えていく好機とも捉えられ、社会保障制度を持続可能性の高いものにすれば、行き詰まる可能性は低くなると考えられます。それに、税収の低下により行政活動に影響が出るため、公的部門の見直しが進められようとしており、そして、自己実現をめざして活躍する「個」が確立し、その「個」が公共を支える社会となるべき時代を迎えようとしているとも考えることができます。また、低い経済成長や貯蓄率の低下も懸念されますが、物の豊かさから心の豊かさが求められ、文化への関心が高まっています。そのなかで、例えば、生活の知恵など、あらゆる知恵を活用したり、順位を競うのではなく小粒でも輝く地域のオンリーワンのものを活かしたりすることにより、活力ある社会を築くことができるとも考えられます。しかも、労働生産性の上昇と、高齢化の進展に伴う新たな消費需要や、競争力強化等のための投資需要などによって、一人あたりのGDPや所得は増える可能性もあります。それから、労働力の不足といっても、多様な働き方ができれば、女性や高齢者の社会進出によって、労働力が大きく減少するとは限らないと考えられます。さらに、農山村の荒廃や都市中心部の空洞化も視点を変えますと、ゆとりある土地・住宅と良好な自然環境の創出が可能ともなります。
 このように、暗い見通しばかりではなく、視点を変えると種々の可能性が見えてきます。

人口減少社会の課題と可能性イメージ

 

(3)人口減少時代における社会づくりの方向性

 では、チャンスを活かした社会づくりの方向について考えてみたいと思います。
 先ほども申し上げましたように、例えば人口減少によって労働力が不足するといわれていますが、一方では、女性や高齢者の社会進出が進むかもしれません。それは、人々の社会参加が拡大していくチャンスでもありますし、県民の皆さん一人ひとりが生きがいを求めていける社会づくり、地域づくりのチャンスかもしれません。
 私は、このような社会の変革の時を県民一人ひとりのしあわせを実現する社会づくり、地域づくりのチャンスと捉えようという思いを込めて、新しい総合計画「県民しあわせプラン」をまとめました。
 この「県民しあわせプラン」では、県民の皆さんが、「しあわせ」を感じ、イキイキと活動するために、県民やNPO、企業など多様な主体が共に「公」を担う「新しい時代の公」という考え方を提唱しています。また、あわせて「文化力」を提唱することにより、文化の視点から政策のあり方を見直していきたいと考えています。
 この「新しい時代の公」と「文化力」は、これからの新しい社会づくりに向けての大きな挑戦でありまして、これらについて、もう少し詳しく説明します。

県民しあわせプラン

未来へ向けて取り組む2つの挑戦イメージ

新しい時代の公 

(1)県民しあわせプランと地域主権の社会 

 その前に、「県民しあわせプラン」と、そこでの中心的な基本理念になっている「地域主権の社会」について触れたいと思います。
 「県民しあわせプラン」は、平成16年4月にスタートさせた三重県の総合計画です。私は、県民の皆さんが、この三重県という人生の舞台の上で"しあわせ"を創造していく、夢に向かって挑戦していただけるような社会が必要だということで、このプランにおいて「みえけん愛を育む"しあわせ創造県"」が基本理念になっています。
 発展・拡大志向の価値観のもとでは、これまでの中央集権的な行政システムが効果的でしたが、このシステムも、今では、住民へのニーズや個性的な地域づくりなどに十分対応することが困難になってきていることから、地方分権が求められるようになってきました。しかし、真の地方分権を行うためには、地域に住む人々や、いろいろな団体の皆さんが主役となり、個性的で魅力的な地域づくりを進めていくという「地域主権の社会」が重要となります。
 そして、この地域主権の社会を支えるのは、自ら考え、自ら行動する県民であり、そこでは、「個」の確立が大事になってきます。
 個人がやらなければならないこと、できることは個人が責任をもってやる。個人ができないことを家族や地域がサポートをしていく。地域でできないことを市町村が、市町村でできないことを県が、県ができないことをさらに国がサポートをしていく。これが「補完性の原理」と言われるものですが、この「補完性の原理」というものを考えていくと、 「地域主権の社会」の姿が浮かび上がってくるのではないかと思います。

(2)ニュー・パブリック・マネジメントからニュー・パブリック・ガバナンスへ 

 その上で、三重県の大きな挑戦の一つである「新しい時代の公」についてご説明します。
 これまで三重県では、「生活者起点の県政」として県民の視点から三重県政を展開するとともに、県政運営に民間の手法を取り入れようとする「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」を活用した取組が進められてきました。
 しかし、この取組は、公共サービスを県民にいかに効率よく提供していくかというところに着目した、いわば三重県庁自身、「ガバメント」の改革でした。
 こうした段階を経て三重県の行政運営の方向はいよいよ大きな第二ステージに入ってきました。
 それは、行政がもっぱら公共サービスを担うというガバメント(統治)から、県民やNPOなどの団体、企業、そして行政を含めた多様な主体が「公」を担い支えていくガバナンス(共治)の考え方を基本にした行政運営の展開です。私は、知事就任時からこうした「ガバナンス論」を展開方向として、「新しい時代の公」を提唱しました。
 そして、このようなガバナンスによって実現する社会のあり方を、私は、ニュー・パブリック・ガバナンス(NPG)、「新しい時代の公」と呼ぶことにいたしました。
 ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)が経済的な合理性や効率性、スピードを求める「経済的視点」重視であるとすれば、ニュー・パブリック・ガバナンス、つまり「新しい時代の公」は、ゆとりや心の豊かさを求める「文化的な視点」を重視したものです。
 三重県では、この「新しい時代の公」を推進するため、この4月に副知事を本部長とする「新しい時代の公推進本部」を立ち上げ、全庁あげて取組をはじめています。

ニュー・パブリック・マネジメントからニュー・パブリック・ガバナンスへイメージ

(3)「新しい時代の公」実践提案事業 

 平成17年度は取組の一つとして、「新しい時代の公」の視点から69のモデル事業(実践提案事業)を設定し、実践を通じて検証を行っていますが、事例として2つの事業を紹介したいと思います。
 一つは、難病相談・支援センター事業です。
 この事業は、三重県難病相談支援センターを設置するにあたって、難病患者やその家族に企画段階から参画いただきました。また、相談事業については、難病患者やその家族に主体的に運営していただいています。
 行政が主体的に行ってきたサービスは、画一的、硬直的になりがちですが、難病患者やその家族と行政のパートナーシップで進められることできめ細かいサービスが期待されています。
 もう一つは、「みえの舞台づくり提案・実践事業」です。「三重県版特区」と呼んでいます。
 これは、県民が行う活動や自主的な事業の支障となる規制や制度、県の事業などを、県民の声を受けて、緩和や改正、事業廃止を実施したり、検討を行ったりするものです。
 この「みえの舞台づくり提案・実践事業」は、現在募集を行っているところです※(平成17年10月11日から17年11月11日まで)。もし、皆様方で提案したい事案がございましたら、是非応募いただきたいと思います。
 17年度は、このような事業をはじめとして、防災、防犯、環境、保健福祉、地域づくりなどさまざまな分野で、「新しい時代の公」にふさわしい先進的、先導的な取組を挑戦的に行っています。

※募集の結果、NPO法人や企業など、さまざまな方から12項目の提案をいただきました。平成18年度も提案を募集する予定です。

みえの舞台づくり提案・実践事業

みえの文化力 

(1)みえの文化力指針(仮称)の策定 

 もう一つの大きな挑戦が「文化力」ということです。昨年度(平成16年度)から検討を始め、今年度中に「みえの文化力指針(仮称)」を策定しようと取り組んでいるところであり、これについてお話します。
 まず、私がなぜ「文化」に着目したかということですが、20世紀のキャッチアップ型の時代には、欧米先進国を目標として、国を挙げて経済力を高めることに最優先で取り組み、大きな成果を上げてきました。
 しかし、時代は大きく転換し、成熟社会において人々が真の豊かさ、しあわせを実感できるようにするためには、経済力だけでなく、文化力を重視する政策へと転換することが必要だと考えたからです。
 文化の持つ意義を考えたとき、豊かな心や感性を育むとともに、人々が協働し、共生する社会の基盤を形成するなど、これからの成熟社会を展望した場合に、文化の持つ力には大変大きなものがあると思っています。
 そこで、文化力指針の検討においては、「文化」を単に芸術文化の振興や文化財の保護に止まらず、「生活の質を高めるための人々のさまざまな活動及びその成果」として幅広く捉えたうえで、県の政策のベースに文化力を位置付けていこうと考えています。
 また、文化の持つ特性を考えたとき、大きく分けると、人が為せるものであるという側面を捉えて「人間力」、地域で育まれるものであるという側面を捉えて「地域力」、常に新しいものを生み出していくものであるという側面を捉えて「創造力」と、こうした3つの側面があるのではないかと思います。
 これらを総合した力を「文化力」と位置付け、「文化力」を高めていくことが、さまざまな地域課題を解決し、新たな地域社会の再生、創造につながるものと考えています。

(2)文化力で三重を元気に 

 このように文化の視点から、県の政策全般を見直し、あるいは、文化力を政策のベースに置いて文化力を高めることにより、人々のこころを元気にし、地域の元気を回復し、さらには、産業の元気を促進する。この三つの元気で三重県全体をさらに元気にしていければと考えています。
 もちろん、この三つの元気の関係は、相互に強い関連があります。こころが元気になれば、地域や産業も元気になる、反対に産業が元気になれば、人のこころや地域も元気になるというように、それぞれ別個のものではなく、強いつながりがあるものと考えています。
 また、視点を変えると、こころの元気づくりの取組も、地域や産業の元気づくりの取組と言えるものもたくさんあり、重複して捉えられるものもあると思います。
 この文化力指針は現在策定作業中でして、環境や福祉、まちづくりなどさまざまな分野で活躍されている県内有識者の皆さんに参加していただいている調査検討委員会で検討をいただいており、同時に県庁内においてもしっかり検討しています。職員が知恵を絞りながら、県民の皆さんにも共感してもらい、具体的な取組につながっていくような実効性の高い指針にしていきたいと考えています。
 なお、これから指針に盛り込む具体的な施策展開について、例示になるようなものをお話ししようと思いますが、実際の施策をどのようなものにするかについては、現在検討を進めているところであり、そのあたりも考慮して聞いていただければと思います。

文化力で三重を元気にイメージ

3)文化力でこころを元気に 

 まず、「文化力でこころを元気に」する取組についてお話しします。
 冒頭お話ししましたように、今は時代の大転換期であり、価値観が揺れ動く時代に私たちは生きています。
 また、「個人主義」の名のもとで、人々の助け合い、思いやりといった連帯意識が希薄化しています。こういった中で、自殺者は全国で年間3万人を超えていますし、深刻な児童虐待事件も後を絶たない状況です。
 文化には人間らしさ、心の豊かさを回復させる力があります。「不易流行」という言葉がありますが、日本人には、「もののあはれ」や「わび」「さび」など世界に誇るべき感性があります。これを取り戻すことも極めて大事なのではないかと思っています。
 そこで、文化力を活かしてこころを元気にする取組ですが、例えば、高齢者の力の活用です。
 寿命が延びて、人生80年、90年と言われるように、これからは超高齢社会を迎えます。本来、長生きは人類共通の願いであり、喜びであったはずですが、医療費や年金の負担問題から、長生きが新しい社会問題であるかのような風潮も広がっています。
 私は、高齢者が社会の主役として活躍できる、本当の「長寿社会」をめざして、介護や医療だけでなく、自己実現や地域貢献ができるよう、何度もチャレンジできる環境づくりに取り組んでいくことが大切だと思っています。
 また、子どもたち、若者たちですが、ニートやひきこもりなど、社会にうまく適応できない人が増えています。これまでの教育は、どちらかというと知識偏重、学力が重視されすぎてきたようにも思います。これからは、地域の皆さんとも協働し、よき社会人、よき市民となるための教育や、小さいうちから芸術や伝統芸能に親しむ、地元の食材や郷土料理を食べる、「食育」という言葉もありますが、こうした本物に触れるような取組も大切だと思います。
 また、「自分さがし、居場所さがし」といったことが盛んに言われています。地元学を活用しながら、地域のことをもっと知る、地域や先人に学ぶような取組も進めていきたいと考えています。

(4)文化力で地域を元気に 

 次に、「文化力で地域を元気に」する取組についてお話しします。
 過疎化や少子化による地域社会を支える担い手の減少、核家族化の進展、さらには、先ほども述べた連帯意識の希薄化等により、地域コミュニティの弱体化が進んでいます。
 また、東京一極集中等により、地域の特色や独自性が急速に失われようとしています。
 文化には、地域社会の精神的基盤の形成、絆を高める力があります。
 このような文化力を活かして地域を元気にする取組ですが、例えば、コミュニティビジネスの振興です。
 コミュニティビジネスというのは、地域のマンパワーや遊休施設などの地域資源を活かしながら、地域課題の解決を、利益第一でない「ビジネス」の手法で取り組むものです。地域における新たな創業や雇用の創出、働きがい、生きがいを生み出し、地域コミュニティの活性化に寄与するものとして注目されています。環境や子育て、農山漁村の特産品の開発などさまざまな分野で活用できるのではないかと期待しています。
 また、美しい景観づくり、あるいは、こだわりのまちづくり、愛着と誇りの持てるまちづくりなども大切ですし、地産地消やエコミュージアム、エコツーリズムの推進、地域通貨の活用なども検討していきたいと考えています。

(5)コミュニティビジネスの活用事例 

 ここで、例に挙げたコミュニティビジネスについて、少し具体的に説明したいと思います。
 既にご承知のことだと思いますが、北勢や伊賀地域を中心に三重県に住む外国人の方が増えています。昨年(平成16年)末の数字ですが、約4万3千人の方が県内で生活しており、増加率も対前年度で約10%と急速に伸びています。
 県営住宅の入居状況を見ると、鈴鹿市にある桜島団地が一番多いのですが、既に入居世帯の40%が外国人の方となっています。
 こういった中で、生活習慣の違いや言葉の壁などから、地域住民との摩擦も発生しています。
 そこで、外国の方も安心して暮らせる地域にしたいと活動を始められたのが、小学校の講師として日系外国人の指導をしていたAさんです。Aさんは、ご自身もブラジルで生活した経験を持ち、「お世話になったブラジルの方々のために何かしたい」、「学校の中だけじゃダメだ、生活全般をサポートすることが必要だ」と、地域に住む日本語のできる日系ブラジル人の方や行政書士など専門的な知識を持つ方といっしょにNPO法人をつくられました。
 そして、昨年度(平成16年度)に県が実施したコミュニティビジネスの手法を活用した起業家養成セミナーに参加され、このたび気軽に利用できる料金で、携帯電話やスピーカーフォンを使った電話同時通訳サービスを開始されたところです。
 このサービスが今後どう成長していくかはわかりませんが、是非成果を上げて、多文化が共生する三重につながっていくことを期待しています。

コミュニティビジネスの活用事例イメージ

(6)文化力で産業を元気に 

 最後に、「文化力で産業を元気に」する取組についてお話しします。
 グローバル化、ボーダレス化が急速に進んでおり、世界規模での地域間競争が今後ますます激しくなっていきます。
 また、15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせたものを労働力人口といいますが、厚生労働省の試算によると、何の対策も講じない場合、2030年には現在より約1,000万人も働く人が減ってしまいます。
 さらに、商売でも「良いものをより安く」提供するだけでは、ものが売れません。消費者は、品物の背後にあるつくり手、売り手の価値観や思想、オリジナリティといった文化的な価値を求めるようになってきています。
 このように、産業活動の構造変化が進む中で、地域産業の高度化を図り、競争力を維持していくには、経済活動にも文化の視点を取り入れていくことが大切だと考えます。
 また、最近はソーシャルキャピタル、社会関係資本とも言いますが、信頼に裏打ちされた社会的な繋がり、あるいは豊かな人間関係が、失業率の抑制や出生率の維持、新規創業の促進にもつながっていると、その重要性が注目されています。
 そこで、文化力を活かして産業を元気にする取組ですが、例えば、地域における「知の拠点」としての図書館の活用です。
 これまでの図書館は、余暇や生涯学習の一環として本に親しんでもらうということが、主な目的であったと思います。これからは、図書館と創業支援、職能開発、福祉など異分野間の連携を進める中で、図書館の新たな役割、活用なども考えていきたいと思っています。
 ほかにも、先人たちの努力と工夫の結晶である匠の技、伝統の技の新たな活用があります。さらに、大学の持つ人材や研究成果を地域産業に活かしていくための大学と地域の連携促進や、地域資源のブランド化、そして最大の文化産業とも言える観光の振興など、文化の産業化にも取り組んでいきたいと考えています。

(7)図書館の活用事例 

 ここで、先ほど申し上げた図書館の活用について、ニューヨークの事例を紹介します。
 ニューヨークには、公立、私立さまざまな図書館がありますが、それぞれの図書館が特色を出しながら、従来の「図書館」の枠に収まらないさまざまな取組を進めています。
 ある図書館では、専門家によるビジネス講座や、リタイアした経営者によるビジネスカウンセリングを実施したり、幅広い知識と専門性を兼ね備えた司書を配置し、図書館の情報を最大限に活用しながら、新しいビジネスモデルの構築をサポートしたりするなど、ベンチャー支援に力を入れています。
 また、別の図書館では、児童図書を充実させた児童室を設けて、育児に悩みながら働く親を支援する育児講座を実施したり、教師向けの情報収集や能力開発に取り組んだり、あるいは「宿題ヘルプ」という担当者を置いて、子どもの勉強の面倒を見たりしています。
 このほかにも、「職業情報センター」を設けて就職情報の提供や、履歴書の書き方、面接の受け方を教えたりするところや、高齢者や障害者など情報弱者の支援に重点的に取り組むところなど、地域における知の拠点、ネットワークの拠点として、大きな役割を果たしています。
 ここでは、例として図書館を取り上げましたが、博物館や福祉センターなど、今ある施設の役割について視点を変えて見直したり、さまざまな分野との連携を進めたりすることで、思いもよらなかった活用も見えてくるのではないでしょうか。

図書館の活用事例イメージ

おわりに 

 以上、「新しい時代の公」と「文化力」の話を中心に、今、新たに大きな挑戦をしている県政の取組について申し上げました。是非、こうした取組にご理解をいただきたいと思っています。
 昨年(平成16年)、東京大学で哲学を研究され、現在東京工業大学で教授をされている桑子敏雄先生にお話を伺う機会がありました。先生は「感性の哲学者」とも言われていますが、「空間の履歴」というお話をされました。今私たちが住んでいる空間というのは、先人たちが暮らしをよくしていこうと努力してきたその積み重ねであり、その履歴を積み重ねてきた結果、今の空間があるんだということなんです。
 そのときに大事なことは、今生きている私たちも、現在の空間に履歴を刻んでいるということです。自分たちの子どもや孫に、「おまえたちの時代に履歴を汚したな」「台無しにしたな」と言われないようにしっかり努力していかなければなりません。
 三重県には、本居宣長や松尾芭蕉、観阿弥といった素晴らしい先人たちがおり、日本の中でも象徴的な素晴らしい感性を生み、育ててきたところです。先人たちに学び、「不易流行」の考え方で、大事なものを掘り起こし、次代に引き継いでいかなければなりません。三重県人の生き様とはどういうものなのか考え、三重県という人生の舞台づくりを進めることが大事です。県民の皆さんと共に、「美しい三重」「素晴らしい三重」「イキイキとした三重」「元気な三重」そして、「わくわくドキドキの三重」をめざして県政を展開していきたいと考えています。どうぞ県政に対する一層のご理解とご協力をいただきますようお願い申し上げ、本日の講演を終わらせていただきたいと思います。

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