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木村 由美子先生

 

木村 由美子


最初の話 絵本と声

 本は平等です。誰でもそれを読むことができます。当たり前ですが中身も同じ。図書館にお越しください。無料です。誰でも、生まれて間もない赤ちゃんでも本を借りることができます。
 絵本は相棒です。これから子どもを持つ方、今子育てをしている方の。絵本は子どもと「うまーくつきあう」ことができます。子育てに自信がない時しんどい時にはそっとフォローに回ってくれます。絵本を子育ての相棒にしてもらいたいと思います。
 今時の絵本には何でもあります。子どもに伝えたい愛や友情、命や平和、夢や希望。知ってもらいたいこの世界のこと、先人の知恵や足跡。共に考えていきたい未来のことやその手掛かり。歴史、芸術、自然科学、哲学さえもわかり易く描かれているのが今時の絵本なのです。
 3つのカテゴリーを使い分けて読んで下さい。
 1つ目は「心を育てる本」。愛も思いやりも目に見えなくて説明しにくい。でも絵本ならうまく伝えてくれます。それと「知識の本」。知らなかったことを知ると子どもはうれしいんです。
 2つ目は「楽しい本」。読んで笑う、それだけ。でも笑ってる子どもはかわいいです。
 3つ目は「親の心が動く本」。一息ついたり荒ぶる心を静めたり。「ママが泣ける絵本」というジャンルがあるくらい。
 そして、絵本を読む時にどうしても必要なものがあります。それは声。他の誰でもない親の声です。声はその人独自のもの。そして心に残るものなのです。絵本の中の言葉は全て他人が書いたものです。しかしひとたび親が、その唯一の声で読んであげれば、子どもにとってかけがえのないものに変わります。「子どもの時本を読んでもらった」ことを覚えている人は多いのです。お腹の中の赤ちゃんに読んであげるのもいいですね。親の声はもう聞こえているのですから。
ある日ある時「あ、効いてる」ときっと感じる相棒の力。絵本を相棒に子育てをしてください。


二番目の話 絵本を楽しむヒント

 「子どもと絵本を楽しみましょう」よく聞く言葉ですが、初めて子育てをされる方は「どうやって?」と思われるかもしれません。「楽しむ」は人それぞれ。でも、絵本を楽しむヒントがあるとしたら…今回はそのお話です。
一番初めに知っておいていただきたいこと、それは絵本そのものが持つ力のこと。言い換えると「絵本は子どもが楽しめるようにちゃんと作られている」ということです。
ミリオンセラーの赤ちゃん絵本「いないいないばあ」(*1)を例にお話します。これは動物が「いないいない」と顔を隠し、頁をめくると「ばあ」と顔を出す遊びが繰り返される絵本です。この絵本には色々な工夫があります。例えば
・1頁に絵は1つで背景画がない …これは視力の発達していない赤ちゃんに見えやすい、わかりやすい絵です。
・動物は皆「正面顔」で描かれ「黒い目」が真っすぐこちらを見つめてくる …これが赤ちゃんの興味を引きます。
・動物は頁の前後で「全く同じ大きさ」で描かれている …このお陰で赤ちゃんは2つが同じものだと気づき、動物が顔を出したことを発見して喜ぶようになります。
 絵本の絵は赤ちゃんが楽しめるように描かれているのです。
さらに、この絵本の大きな魅力は「いないいないばあ」という実生活の中の普遍的な子どもの遊びを取り上げている点にあります。正に読み聞かせの現場で感じるのですが、ママもパパも誰でもすんなりこの絵本を読み始めます。自分の知っている言葉のリズムで読み進め、「ばあ」の所ではマザリーズ(*2)とも言える明るい高い声を出します。
 馴染みある子どもの遊び、音声化される言葉のリズムと頁をめくるリズム、そして優れた絵、これらが相まってこの絵本の「楽しい」が作り出されています。よくできた絵本だなぁと思います。
 勿論、絵本を選ぶことが必要です。でも、まず絵本自体が楽しむための力を持っていることを知って、子どもと絵本を楽しんでみて下さい。
   *1 「いない いない ばあ」 松谷みよ子/文 瀬川康男/絵 童心社
   *2 赤ちゃんをあやす時に抑揚をつけたり高い声を出したりするなどの口調


三番目の話 絵本を楽しむヒント

 「絵本は子どもが楽しめるようにちゃんと作られている」ということを知って下さいと前回お話しました。子どもと絵本を楽しむためのヒント、今回はその続きの話です。
子どもは絵本が好きです。子どもは絵本を楽しむ力をちゃんと持っています。
どうぞ「うちの子は絵本に興味がない、他のものの方がいいらしい」と決めてしまわずに、子どものそばに絵本をおいてあげて下さい。
 読み聞かせの会での話です。節分の頃になると私は幼稚園や図書館で「かえるをのんだととさん」(*)という絵本を読みます。ととさん(お父さん)が蛙を飲み蛇を飲み雉を飲み、ついには鬼を飲み込んでしまうという奇想天外なこの話に子どもたちは初め目を丸くします。それから「ととさんはどうなる?」と心配顔になり、話の終わりには決まって友だちと顔を見合わせてクククッと笑います。絵本の世界は大きさせいぜい30㎝四方、読み時間10分に満たないものです。それでも初めて見聞きするものに驚き、くるくると表情を変え、よく笑う。
 そんな子どもたちを見ていると、子どもは体の中にちゃんと「楽しむ力」を持っているのだなぁと思います。
 現在、大人の世界で視聴、体験できるものの多くが子どもの世界に降りてきています。赤ちゃんや子ども向きの数々のアプリ、ARや3DCGを活用した遊びや教育商品、音楽と映像で魅了するアニメーション等。これらの中で、小さくて絵も動かず音楽もない絵本はかすんでしまうのかというと決してそうではありません。子どもが物事を「楽しむ力」はとてもシンプルです。精巧で美しく高価なフィギュアでも牛乳パックのおもちゃでも、子どもは遊びます。30㎝四方の絵本でも、絵を見るじっと見る繰り返し見る。知らなかったことに驚き、知ったことを喜ぶ。不思議な世界を怖れ、でものぞきに行く。おもしろいと笑い、笑うこと自体を楽しむ。そして心で感じる。子どもはちゃんと絵本を楽しむことができます。
 さて、「子どもが楽しめるようにちゃんと作られている絵本」と「絵本を楽しむ力をちゃんと持っている子ども」この当たり前のような二つを信じることから私たちは始めなくてはなりません。この二つをつなぐのが大人の大切な役目だからです。絵本と子どもをどうやってつなぐか、次回はその話です。
*「かえるをのんだととさん」日野十成 作 斎藤隆夫 絵 福音館書店


四番目の話 赤ちゃんに絵本を読む

 子どもに絵本を読んであげる「絵本の読み聞かせ」。子どもと本をつなぐ方法の一つです。絵本は一人で読む漫画と違い、親子が一緒に読めるという点が魅力ですね。今回はそのスタートライン、「赤ちゃんに絵本を読む」の話です。
 乳幼児教室での新米ママと私の会話です。
「絵本を読んであげているのですが(赤ちゃんは)私の方ばかり見てきて、なかなか絵本を見てくれません。どうやればいいですか。」
「ママの声が聞こえるのでママの方を見るのですよね。赤ちゃんはママの声が気になります。始めは絵本を読むというより、絵本を開いてママの声を聞かせてあげるという感じがいいですよ。」
 ママの声は赤ちゃんの成長に必要なものです。赤ちゃんが泣くとママは「はいはい」「よしよし」と声をかけながらオムツを換えたりミルクをあげたりします。赤ちゃんは気持ちよくなります。繰り返すうちに「はいはい」「よしよし」は赤ちゃんにとって気持ちよくなる合図、心地よい音になっていきますから、赤ちゃんはママの声を喜んで聞くようになります。赤ちゃんは初め目があまり見えません。(生まれた時の視力は0.02、6カ月頃0.08位)そのかわり耳が発達していて声や音に敏感です。お腹の中にいた時から聞いていたママの声にはよく反応し、聞きながら声の高低やリズム、抑揚など特徴を捉えていきます。ママの声は実は言葉ですから、聞くことで赤ちゃんは次第に言葉の世界へ(つまり私たちが生きているこの世界へ)入ってくるのです。
 絵本はいずれ赤ちゃんに色々なことを教えてくれるものになりますが、始めの読み方は「声を聞かせてあげる」でよいと思います。声はその人独自のもの。声をその人の体の一部と考えるなら、ママが赤ちゃんに声をかけるということは「声で赤ちゃんにふれること」。これは赤ちゃんにとって抱っこと同じ喜びです。赤ちゃんに絵本を読む時は、初めは「声を聞かせてあげる」それから絵を見せながら「あやすように読む」「読みながらお話する」がいいと思います。
 さて、再び私と新米ママの会話です。
 「今から私が絵本を開いて赤ちゃんにゆっくりゆっくり近づけていきますから、お母さんは赤ちゃんの顔を見ていて下さいね。こうすると…」
 「あ、今、この子の顔(表情)が変わりました!絵を見つけたってことですか。」
 「赤ちゃんは目があんまり見えていないのです。月齢と共に視力が上がってくる。こうやって絵本を近づけたり見せ方を変えてみると、絵本の絵に気づいてくれることがありますよ。赤ちゃんの様子をよく見て絵本を見せてあげて下さいね。」


五番目の話 乳児に絵本を読む

 1歳前後の子どもと楽しむ絵本に「きんぎょがにげた」(*)があります。始めは食べ物やおもちゃなどのカラフルな絵を見て遊び、それから「きんぎょがにげた」「どこににげた」と読んで、家の中の物に交じって隠れている金魚を子どもと一緒に捜します。この絵本を先輩パパママはどんな風に読んで楽しんでいるのでしょうか。乳幼児教室からご紹介します。
 ・始めはじっと見ているだけでした。それから自分で金魚を捜すようになり、見つけると指差して喜ぶようになっていきました。それだけ成長したんだなぁと思いました。
 ・見つけて喜んでいるのでほめてやります。嬉しそうで可愛いなと思います。
 ・頁をめくった瞬間にもう金魚を指差すようになって、進歩していると思いました。
 ・リンゴとかキリンとか知っている物を指差す遊びをしています。
 ・絵本の中のクッキーやイチゴを食べる真似をして、まねっこ遊びをします。
 ・絵本に描かれたおもちゃを見て自分のおもちゃを出してくるので、並べて遊びます。
 ・「きんぎょはどこ」と言いながら金魚に見立てたハンドタオルを捜す遊びをします。子どもを金魚にして捜すことも。
 ・絵本がない時でも「どこどこ~」と言葉だけで遊んだりします。
 ・なぜ金魚が逃げたのか、わかるといいなぁと思いながら読んでいます。
 さて、親子が絵本を見ながら「これは〇〇だね」とやり取りをすること。これは乳幼児(子ども)が対象(絵本の中の物)を他者(親)と共有する行動で、子どもの発達を表す言葉で「共同注意」と言います。「共同注意」は子どもの言葉の獲得の基盤となる行動で、私たちのこの世界を認識する助けになります。  先輩パパママは「きんぎょがにげた」を読みながら指差しを促したりほめたり、言葉の遊びをしています。「共同注意」にあたるやり取りをして、ごく自然に子どもの発達の手助けをしているというわけですね。さらに、絵本を読みながらまねっこ遊びや現実の世界と関わる遊びを加えて、「言葉や物の認識の共有」を広げている人もあります。また「気持ちの共有」をしている人もいます。金魚を見つけて嬉しい、ほめてもらって嬉しいという子どもの気持ち、喜ぶ子どもを可愛いと思う親の気持ち、そしてこの絵本の結末(金魚が逃げた先は仲間の所であったこと)を子どもに伝えたいと思う気持ち、こういった気持ちを互いに表現し「気持ちの共有」をして読み聞かせをしています。参考になりますね。子どもは小さくても個性がありますから、絵本への反応も同じではありません。しかし、絵本は親子の仲立ちとなって、子育てを「うまーく手伝ってくれる」ものだと思います。

*「きんぎょがにげた」五味太郎作 福音館書店 1982年

    

六番目の話 乳幼児に絵本を読む

 今回は1、2歳児への読み聞かせ「頁をめくる」の話です。
 「読んでいると子どもが勝手に頁をめくってしまいます」「途中で遊び出して最後まで読めません」1、2歳児への読み聞かせではこのようなことがありますね。子どもがお話(起承転結のあるストーリー)を楽しんで聞けるのは3歳位からと言われています。絵本より他の遊びがいい子、小さくてもお話より科学の本が好きな子など個性色々ですから、この時期の読み聞かせは必ずしも「最後まで読む」にこだわらなくて良いと思います。子どもが絵本を見て声をあげたり話したり感情を表したりする。それに親が丁寧に応えてくれる。これこそが子どもにとって嬉しい絵本の体験です。この積み重ねが「自分は愛されている、自分は意味のある存在だと感じる経験」になっていきます。急ぐことなく、数頁読んでお喋りしたり遊んだり親子が向き合えたら「今日はよし」としてみましょう。
 「頁をめくる」これは絵本の大きな特徴です。テレビ番組やアニメ-ションが作った人のスピードでどんどん流れていくのに対し、絵本は読者が頁をめくらないと進みません。当たり前のようですが、鑑賞の仕方(読み方)が読者にまかされているという点で、絵本は読者が能動的主体的に関わることのできるものなのです。読み方は自在。ゆっくりわかるように読んであげる、読みながらお喋りする、好きな頁ばかり観る、途中で遊んでまた戻って読み始めるなどできます。何より、我が子に合わせて我が家流で楽しめるのが絵本の良い所です。
 さて、とは言え、頁をめくって読む絵本の楽しさを子どもに知ってもらいたいですよね。「めくるとお話はどうなるか、どんな絵が現れるか」は絵本の醍醐味ですから。近年、めくると楽しい絵本が色々出ています。例えば本の側から読者に「大きな綿ぼうしがあるよ。フーしてみて」と話しかけてきます。読者がフーと息を吹きかけて頁をめくると、空に飛び立つたくさんの綿毛が描かれていて「わー、種がとんでいくよ」となる。読者にアクションを呼びかけ参加してもらうので参加型絵本(*)と言われています。これらは「頁をめくると次の絵が現れる」という絵本の性質を上手く使い、楽しい演出がされて作られています。1、2歳児と一緒にこのような絵本で遊んで、それからだんだんと「頁をめくって順に読む」絵本、「連続する絵とお話がある」絵本を楽しめるようになるといいですね。

*参加型絵本は「インタラクティブ絵本」とも言われています。子どもが声を出したり 手をたたいたりアクションを起こすことでお話が進んでいきます。
「ゆすってごらん りんごの木」ニコ・シュテルンバウム/作 中村智子/訳(サンマーク出版) などの絵本があります。

    

七番目の話 「言葉がけ」の読み聞かせ

 赤ちゃんの世話をする時、私たちは赤ちゃんに色々と話しかけますよね。「言葉がけ」はとても大切です。親が話しかける度、赤ちゃんはこの世界に言葉があることを知ります。さらに、言葉は自分と自分の大好きな人(親)とのコミュニケーションの手段であることを学んでいきます。何も知らない、全くゼロの状態から言葉を学び始めて、5歳頃には母国語で会話ができるようになるわけですから、子どもの成長力は凄いなぁと思います。親の「言葉がけ」のお陰で赤ちゃんの脳は発達し心や身体も成長して、言葉を使うもの、つまり「人」になっていきます。
 ですから乳幼児に絵本の読み聞かせをする時も、パパママは子どもにたくさんの「言葉がけ」をしてあげてほしいと思います。先輩ママは読み聞かせの時どんな「言葉がけ」をしているのでしょうか。「うずらちゃんのかくれんぼ」(*1)の絵本を例にお話します。

 ➀ 赤ちゃんにこの絵本を読む時、ママは絵本の文を全く読みません。色鮮やかなヒヨコやカエルを指さして「ピヨピヨだよ、ピヨピヨ」「カエルさんだよ、ケロケロ、カエルさん跳んだ、ピヨーン!」とオノマトペ(*2)を使いながら話しかけます。赤ちゃんがすぐに応えるわけではありませんが、ママは自分の声と言葉をたくさん聞かせてあげます。(この時は絵本の絵のことをひたすら話すので良いです。)もし赤ちゃんが笑ったり手足をバタバタさせたりして喜ぶ様子を見せると、ママはすぐに「そう、これがいいの。じゃあもっと見ようね」とコミュニケーションをとり始めます。
 ② 1歳前後の子どもに読む時、ママは登場人物を指さしながらお話の言葉を子どもにわかり易いものにかえて話していきます。「うずらちゃんとひよこちゃんがかくれんぼするんだって。」「ほら、『もう、いいかい』『まあだだよ』って言ってるよ。」(このかけ声の調子はどのママも全く同じです。かくれんぼは伝承の遊びですから。)そして、「うずらちゃん、どーこだ?」とうずらちゃんを見つけて指さす遊びをします。子どもがうまくできる度、ママは何度でもほめてあげています。
 ③ 2歳から3歳の子どもにこの絵本を読む時、ママは絵本に書かれている文を全文読み聞かせします。そして最後に「うずらちゃんもひよこちゃんもママに会えてよかったね。」と子どもが安心するよう話の結末を言葉にして伝えます。もちろん途中で子どもの質問に応えたり、捜し絵遊びや数を数える遊びも楽しみます。  

絵本の読み方を子どもの年齢に合わせて変えながら、たくさんの「言葉がけ」をしていく先輩ママの読み聞かせ。参考にしてみてください。

*1「うずらちゃんのかくれんぼ」きもとももこ/作 福音館書店 *2 オノマトペ 擬音語 擬態語。 動物の鳴き声や音、ものの状態を表す言葉。  「ワンワン」「ザーザー」「コロコロ」など。

    

 
八番目の話 絵本の言葉

 前回、「言葉がけの読み聞かせ」の話をしました。親が絵と文から色々な言葉を読み取り自由に子どもに話しかけていくと、そのやりとりは親子の結びつきを強め、子どもの言葉の発達を促すことができます。歌ったり遊んだり、絵本の読み方は家庭独自のやり方で良いと思います。実際、絵本「ぐりとぐら」(*1)に出てくるカステラの歌のメロディは家庭ごと千差万別です。

 しかし、絵本はまた、書かれている文をそのままきちんと読んであげることも必要です。今回はロングセラー絵本「はらぺこあおむし」(*2)の話です。

 この本は保育園幼稚園ではペープサート(*3)や劇として上演され、ビデオや歌にもなっていますが、家庭でこそ読み聞かせをしてもらいたい本だと思います。コラージュ(*4)による色彩豊かな絵は近づけてあげれば0歳児でもじっと見てくれますし、1歳頃ならりんご、オレンジなど身近な物の名前を口にしたり、食べ物の頁にあいた穴に自分の指を入れて遊んだりします。でもこの本が力を発揮するのはこのあと。2、3歳児にとってこの本は、色、数、数の数え方、曜日、朝と夜、大きい小さいなど基礎概念の言葉(人が日常生活を送るのに必要な日本語)の宝庫なのです。子どもは絵と連動させてこれらの言葉を覚えていきます。さらに、お話はやたら会話体に頼ることなく、主語述語、修飾語で きちんと構成された文で書かれています。しっかりした日本語文であることは、日本語を母語としない子どもたちが日本語を学ぶ時、この本で動詞の過去形や状態の変化の表現を学んでいることからもわかります(*5)。楽しくうまく言葉を学べる本だと思います。カラフルで美しい絵があるがゆえに、あおむしが卵から生まれさなぎから蝶へと変わる様子や、おいしそうな食べ物を色々食べておなかをこわす様子に「ほらね、食べすぎてはいけないのよ」と大人は自分の関心事にひっぱられがちですが、すぐれた言葉の本としてそのまま読んであげたいものです。

 さて、子どもが言葉を学ぶとき大切なのは、早くたくさん単語を覚えることではありません。その言葉がどんな時にどんな風に使われるのかを知っていくことです。フラッシュカードでたくさんの名前を覚えることよりも、絵本の絵を見、語られるお話の文脈の中で、例えば「(こういうわけであおむしはこんな風に)ふとっちょになった」と言葉を知っていくこと、さらにイメージしてその言葉を使えるようになることが大切です。絵と言葉が連動し、言葉がお話の中で活き活きと使われ語られている、そういう絵本なら、まだ体験量の少ない子どもが言葉を学ぶ手助けをうまくやってくれると思います。歌ったり遊んだりする読み聞かせは苦手というパパママもみえますよね。書かれている文をそのまま読む、ひたすら読むだけでよい絵本もたくさんあります。

*1「ぐりとぐら」なかがわりえこ/おおむらゆりこ(福音館書店)*2「はらぺこあおむし」エリック・カール/作 もりひさし/訳(偕成社)*3紙の人形劇 *4 貼り絵 様々な素材を画面に貼り付ける絵画の技法  *5参考図書「絵本でおしえるにほんご」野呂きくえ/著(スリーエーネットワーク)     


   
九番目の話 子育ての本棚

 「きゅうりさん あぶないよ」(*1)はちょっと不思議な絵本です。
 5歳の園児たちにはとても面白い本。読み聞かせをすると「あぶない!あぶない!」と大騒ぎする時もあるし、皆がじいーっと絵をのぞき込んでくる時もある。
 ところが年齢が上がるとこの本は「なんか変な本」になり、大人は「わけがわかりません」という人が多い。
 子どもはナンセンスが得意だからと言えばそうなのですが、絵本にも食べ頃と言うか読み時と言うか、子どもにピタッとはまる時期があるのだと思います。
 もちろん絵本は、子どもでも大人でも、いつでも自由に楽しめるものです。
 しかし出会うべき時に出会えば十二分に楽しむことができる。
 子どもの絵本も子どもの本も出会いのタイミングが大切だと思います。
 私たちは「子どもと本の出会い」をうまく作りたい。子育ての本棚を作ってみましょう。

 子どもの本棚には子どもの好きな本を並べますよね。小さい頃から「本は楽しいもの」と感じて育つことがとても大切ですから、まずは子どもが喜ぶ絵本好きな本で良いと思います。
 次に親が選んで並べるとしたら、子どもの年齢に合うもの、そして親が読んであげたいもの、望ましいと思うものになるでしょうか。しかし年齢に合う本や望ましい本を本屋で見つけるのがなかなか難しい。
 子どもの本の数(絵本と児童書の出版数)は約3万冊。日本は絵本大国とも言われ、続々生まれる新刊絵本に加えて、「ぐりとぐら」(*2)や「はらぺこあおむし」(*3)のように何十年も読み継がれているロングセラー絵本も変わらず書店の棚に並んでいます。
 多くのパパママが「ありすぎてわからない」と言われます。確かに数が多い。
 でもそれは豊かであるということ。「わからない」ではなく「色々たくさんあって楽しい」と大人も子どもの本を知って楽しんでほしいと思います。

 そこでまず「今すぐじゃないけどこれから子どもと読みたい本」を本のサイトなどでちょっと捜してみてください。
 対象年齢別にすぐにたくさんの本が見つかります。
 そうしたら「これから読みたい本」の本棚を作りましょう。この本棚は仮想の本棚です。アプリでもノートでもよいので、我が子がこれから成長するにつれて出会うだろう本をその本棚にどんどん並べてみてください。
 3歳で読みたい物語絵本、5歳で楽しむ図鑑、1、2年生の幼年童話、3、4年生なら空想科学読本や怪談の本、5、6年生ならサバイバルやミステリーの本。「ゾロリ」はいつ頃?「ハリー・ポッター」は何歳頃?と。
 見える化すると親しみがわく。図書館や本屋で出合えば「あっ、これだ」と思う。読んでみたら楽しかったと児童文学にはまる大人もいるくらい。それに子どもにとって本のことを知っているパパママは頼もしいのです。この本棚は、正に先を読む先に読む本棚、子育ての本棚です。
 子どもの本棚と同時に子育ての本棚を作ってみて下さい。
*1「きゅうりさん あぶないよ」スズキコージ(福音館書店)
*2「ぐりとぐら」なかがわりえこ/おおむらゆりこ(福音館書店)
*3「はらぺこあおむし」エリック・カール/作 もりひさし/訳(偕成社)     


   
十番目の話 赤ちゃんに絵本を読む2

 「くだもの」(*1)は1981年発刊以来ずっと人気の絵本です。「ものの名前絵本」として紹介されることもあります。
 スイカやりんごなどの果物が実物のように鮮やかに描かれています。食べやすくカットされた果物が「さぁどうぞ」と読者に向かって差し出されるシーンでは、親も子もすぐに食べる真似を始め、「ああ美味しい」「ごちそうさま」と言ってごっこ遊びをします。親子で楽しめる本だと思います。

 この本のことで一人のママからご質問をいただいたことがあります。
 「この絵本のりんごはリアルに描かれていますが、別の絵本のりんごは可愛いイラストになっていて、ずい分見た感じが違います。私が2つの絵を指差して『りんご』と言って赤ちゃんに教えたら、赤ちゃんは混乱してしまいませんか。」

  確かに「ものの名前絵本」に登場する物は、本によって写真だったり写実的な絵だったり可愛いイラストだったりしています。見た目の違うりんごの絵を赤ちゃんはどう捉えているのでしょうか。

 この手掛かりは近年の認知科学の本(*2)にあります。(子育て真っ只中で親が読書するのは大変なこと。でもこれらの子どもの言葉の本を読むと、言葉を話せるようになるために赤ちゃん自身がすごく頑張っていることがわかりますよ。)

 赤ちゃんは生まれた瞬間から学習を始めます。聞こえてくる音は何らかの意味を持っていること。ママが指差しした後に言う言葉は物の名前だということ。それは色々な情報(概念)と結びつくということ。それらを繰り返し、間違え、修正しながら自分の力で学んでいきます。
 ママが2つの絵を指差して「りんご」と全く同じ音で言うので、さらに自分が絵に反応すると、ママは「そうだよ。りんごだよ。わかったねぇ。」と笑顔で賛同してくれるので、赤ちゃんは視覚イメージ(りんごの絵)と言葉(りんごという音)を結びつけ、さらに「丸い、赤い」「食べるとシャキシャキ、甘い」などの情報(概念)を統合し、「りんご」を認識します。
 そしてカテゴライズして頭の中に入れると考えられています。ママの心配をよそに、赤ちゃんは自分で学習しているのです。

 ところで、この時赤ちゃんの学習の大きな手助けになるのが「ママの言葉がけ」なのですが、そのママは生きている人間のママが一番と言われています。
 映像のママではだめなのです。乳幼児教室で、赤ちゃんは絵本の絵をじぃーっと見つめ、一生懸命ママの言葉を聞いています。時に声をあげて反応します。
 その様子を見ていると、「ものの名前絵本」は単に親が子どもに物の名前を教えるものではなく、赤ちゃんがこの世にある物の名前を初めて見つけた時、それを一緒に喜んで、ほめたり励ましたりしてくれるママ(人)がいる、その「うれしさ」「喜び」を感じるための本なのだと私は思います。
 どうぞ、赤ちゃんと絵本を楽しんでください。
*1「くだもの」平山和子/作 (福音館書店)
*2「言葉の発達の謎を解く」今井むつみ ( 筑摩書房)
  「赤ちゃんはことばをどう学ぶのか」針生悦子 (中央公論社)