身体障害者とは?

  身体障害者とは一体どのような状態を言うのでしょうか?ここでは、身体障害ということについて、少し考えてみたいと思います。
 現在、身体障害の種別や程度に関しては、身体障害者手帳(以下、手帳)の等級分類では以下のように定められています。


      【身体障害者手帳における障害別の等級分類】
      ○視覚障害:1〜6級
      ○聴覚障害:2〜6級
      ○肢体不自由:1〜7級
      ○呼吸器障害:1、3、4級
      ○小腸機能障害:1、3、4級
      ○じん臓機能障害:1、3、4級
      ○ぼうこう又は直腸の機能障害:1、3、4級
      ○ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害:1〜4級
  ※7級は診断としては有りますが、手帳の等級としては「1級〜6級」
   までとなっており、7級の手帳というのはありません。障害が重複
   している場合は、認定等級があがる可能性があり、たとえば7級の
   障害がふたつ有れば6級になったり、3級と4級の障害が重複して
   いる場合は2級になったりする可能性が有ります。

 

 上記のような障害別の程度分類が有り、障害程度は1級が最も重度で、数値が大きくなるほど軽度となっており、6級が最も軽度となります。たとえば、「全く視力が無い」場合は1級、「両耳が全く聞こえない」場合は2級、「両側の上肢または下肢が全廃」の場合は1級、「「片側の上肢が全廃」の場合は2級、「片側の下肢が全廃」の場合は3級、、「下腿から下が欠損」の場合は4級、「下肢長差が5cm以上」の場合は5級などとなっています。ところで、「片方の目が全く見えない」、「成人で身長が1m程度」、「片側の中指・薬指・小指の欠損」などの場合には何級に該当すると思われるでしょうか?実は、「片方の目が全く見えない」場合には手帳が認定されるとは限りません。視覚障害では、両側の視力の和を基準に等級が設定されていますので、もし片方の視力が1.0有れば手帳は認定されないことになります。また「身長が低い」ということは、身体障害者手帳の認定基準には無いので、やはり認定されないと言うことになります。さらに「片側の中指・薬指・小指」の3指欠損の場合には7級と診断はされますが、前述のように7級の手帳は無いので、手帳が発行されることはありません。もし両手の「中指・薬指・小指が欠損」している場合は、7級がふたつ重複すると言うことで6級の手帳が認定される可能性があります。同様に、跛行をしていても脚長差が4cm程度であれば、該当等級は無く、手帳を取得することは出来ません。
 くり返しますが、片方の目が見えないが片方の視力は1.0有る人、成人で身長が1mくらいの人、片方の手の中指・薬指・小指がない人、跛行をしていても4cm以下の脚長差の人などは、一般的には「体の不自由な人(いわゆる身体障害者)」と思われるかもしれませんが、手帳の診断基準には該当しないことから、障害者と考えるべきでは無いとも言えます。
 ところで、757年に施行された養老律令に記載されている身体障害の程度に関する分類は、以下のようになっていました。日本の歴史上、身体障害の程度分類で、記録として残存しているものは、現在の障害者福祉法に記載されているものを除いて、この養老律令しかないそうです。


       【養老律令における障害分類】
       ○残疾(ざんしち)
            一目盲手無二指、手足無大母指、足無三指、
            両耳聾、足腫、禿瘡無髪、久漏、下重
       ○廃疾(はいしち)
            腰脊折、一肢廃、侏儒
       ○篤疾(とくしち)
            悪疾、二肢癈、癲狂、両目盲
 ※残疾は軽度、廃疾は中度、篤疾は重度と思われ、現在の手帳の分類に当てはめるとすれば、残疾が「5級〜6級」、廃疾が「3級〜4級」、篤疾が「1級〜2級」に該当すると考えられます。
 ※参考:原文
 戸令第七 目盲條:凡一目盲。兩耳聾。手無二指足無三指手足無
             大拇指禿瘡無髪。久濡。下重。大隰隲。如此
             之類。皆為殘疾癡。
             隴。侏儒。腰背折。一支癈。如此之類。皆為
             癈疾惡疾。
             癲狂。二支癈。兩目盲。如此之類。皆為篤疾。
 

 この養老律令には、下線で示したような「一目盲」、「手無二指」「侏儒(小人症)」などの障害名が記載されており、それぞれ、現在の手帳の診断基準にはない「片方の目が見えないが片方の視力は1.0有る人」、「成人で身長が1mくらいの人」、「片方の手の中指・薬指・小指がない人」とほぼ同様の障害を持った人たちが、身体障害者として認定されていました。時代によって、法的には身体障害の種別や基準が異なっているということになります。
 私たちは、体の動きが悪い人や体の一部に変形、欠損などがある人を見て、比較的簡単に「身体障害者」と思いがちですが、その判断基準をどこにおいているかは、実は曖昧な場合が少なくないようです。そこで、身体障害者を、@「手帳の基準に該当し手帳を取得している人」、A「手帳の基準に該当しても手帳を取得していない人」、B「手帳の基準に該当しないが、体に何らかの障害(問題)がある人」の3つに大きく分けるとすれば、@の人たちは、福祉的な援助・支援を受けられることも含め「社会的障害者」、A、Bの人たちは「いわゆる障害者」または「医学的障害者(病人)」とすべきなのかもしれません。このような考え方が正しいかどうかは分かりませんが、医療や福祉の関係者としては、以上のようなことも頭の片隅におきながら、対応していくべきではないでしょうか。
 ところで、手帳を取得する目的は、単に「障害者として認定される」ということではなく、「公的な援助・制度を受けられる」ことに大きな意味があります。その公的な援助や制度は、大きく分けて以下のふたつがあります。


   【身体障害者手帳所有者への公的援助】
   ○金銭的な援助を受ける
   ・医療費の助成(自己負担分の免除)
   ・特別児童扶養手当、障害児福祉手当などの支給
   ・交通費の割引(公共交通機関の乗車賃、高速道路料金など)
   ・車椅子、装具などの補装具の交付(通常、費用の1割を負担)
   ・ベッド、椅子など日常生活用具の交付(通常、費用の1割を負担)
   ・住宅、自動車等の改造費の助成
   ・自動車税の減免
   ・その他
  ○障害者としての認定を受ける
   ・「障害者の雇用に関する法律」の利用など
 ※受けられる援助や制度は、等級はもちろん所得の程度などによって
  異なります。

 

 以上のような援助や制度のうち、「金銭的な援助」が最も大きいものと思われますが、手帳に該当する何らかの身体障害がある人でも、手帳を取得しなければならない「義務」は全くありません。こういった援助や制度を受けたい場合には申請して認定される「権利」があるのみです。
 当施設に通院されている障害を持った小さなこどもさん達の保護者の方々に手帳の取得を勧める際には、非常に神経を遣う場合が少なくありません。もちろん障害の受け入れが十分でないこともありますが、保護者の中には、手帳を取得することで「身体障害者のレッテルを貼られる」との気持ちの問題から拒否する方も多く、説明に十分な時間を掛けることが必要となります。しかし、「金銭面」よりも「気持ち」を優先させるか否かは、本人または保護者の方々の判断に任せるべきであることは言うまでもなく、「気持ち」や「お金」、「命」、「名誉」、「宗教」に対して、その人達が持っている価値観はそれぞれであり、医療や福祉の関係者が自分たちの価値観を押しつけることは、厳に戒められなければなりません。手帳取得により受けられる援助や制度などの説明も含め、さまざまな情報の提供を行いながら、障害児・者やその保護者の方々の気持ちを真摯に受け止め、助言をしていくことが最も重要であると考えます。