近年、公立の社会福祉施設における運営の見直しが強く求められ、その必要性や役割についても厳しく問われています。一般的に社会福祉施設は採算性に乏しいことから、公的に運営されるべきと思われますが、その運営を出来る限り効率的に行い、県民の要望に応えていくことが重要であることは言うまでもありません。
草の実リハビリテーションセンターが、公立・公営であるべきか、否かについては、県議会をはじめ県民の方々の意見はもちろん、行政の関係者や現場の職員などの間で、十分に検討されるべきです。しかし、前述のように経営面に関しては非常に難しい問題が多く、障害児(者)に対する医療面、福祉面での充実ということに重点をおけば、採算面での考慮を極力排除した「政策医療」としての運営、すなわち公的機関での運営がもっとも望ましいと考えています。

右図に示されているように、「肢体不自由児」が、利用している施設では肢体不自由児施設が最も多く、次いで重症心身障害児の入所施設、肢体不自由児療護施設、身体障害者更生援護施設などとなっています。徐々に入所児数の減少傾向がみられるものの、政策医療や福祉政策などの観点に立てば、今後も肢体不自由児施設の果たすべき役割は、非常に大きいものと思われます。
肢体不自由児とくに脳性麻痺児、二分脊椎児などは知的障害、てんかん、内臓異常など、さまざまな合併症をもつものも多くみられます。その他、ダウン症候群などの知的障害や情緒障害など精神に障害をもつ小児なども含め、整形外科的、小児神経科的、小児精神科的な面から総合的に関わることが非常に重要であることから、近隣の「小児心療センターあすなろ学園」、「知的障害者更生相談所」、県内各地の児童相談所などとの協力や機能の相互利用など、連携の強化も含め、新たな見地からその役割を検討すべき時期にきていると思われます。また、三重病院などとの連携も視野に入れた小児総合病院の構築も検討されるべきと考えています。
また、肢体不自由児施設をその業務内容から、手術なども含め治療訓練を中心に行っている医療業務が比較的多い「医療型」、重度障害児数が多く福祉業務の占める割合が比較的高い「福祉型」、その中間の「中間型」に大まかに分類する場合、敢えて当てはめれば、当施設はおそらく「中間型」に位置していると考えられます。しかし今後、福祉的入所児の増加傾向も考慮すれば、肢体不自由児療護施設と有床診療所(19床以下)の機能を併せ持つ機関への方向転換も検討すべきかもしれません。さらに、外来診療をはじめ保健所での乳幼児発達相談や療育センターなどへの障害児療育相談、遠隔地域への巡回療育相談など、在宅の障害児(者)への対応をより充実したものにしていく必要があります。
そこで、施設の現状を改めて検証し、さらに外来通院者、退所者などへのアンケート調査を行い、肢体不自由児を取り巻く環境や実態を把握することで、事業・業務の見直し図り、今後の施設のあり方を検討するとともに、これからの「肢体不自由児施策(事業)」についても提案いたしました。
いずれにしましても、いかに少ない人員、低い予算で、質の高いサービスを提供できるかが重要であることから、今後も利用者の意見を真摯に受け止め、さまざまな情報の収集と整理を行い、可能な限り効率的に業務を遂行していきます。

三重県の肢体不自由児数は、身体障害者手帳の登録状況によれば、昭和59年(1984年)853人、平成7年(1995年)784人、平成18年(2006年)882人となっており、県内全体の成人を含めた肢体不自由者38,482人(平成18年)に対し2.3%を占めています。最近の20数年間では人数に大きな変化はないものの、少子化の時代背景を考慮すると、肢体不自由児は、若干の増加傾向にあると思われます。疾患別では、脳性麻痺(水頭症、小頭症、ダウン症など脳神経障害による運動障害含む)を含めた脳性運動障害児が70%強と最も多く、続いて先天性奇形約5%、二分脊椎約4%、その他、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患、分娩麻痺となっており、その割合は、二分脊椎を除き大きく変化していません。
入所児における疾患の状況では、設立当初は、全国的にも脳性麻痺、ポリオ、先天性股関節脱臼の占める割合が比較的高く、施設の3大疾患と呼ばれていましたが、ポリオや先天性股関節脱臼は予防医学及び治療技術の進歩などによって激減してきました。また、10数年前までは、知的発達も含め比較的障害の軽度な障害児が多数を占めていましたが、徐々に重度の知的障害を伴う重複障害児の入所割合が増加傾向にあり、とくに両親の離婚や虐待など家庭環境に問題のある障害児のいわゆる「社会的入所」の占める割合が増加しています。一方、ノーマライゼーションの理念の浸透やバリアフリーの考え方の進展などにより、特別支援学校の増設や普通学校における障害児の受入の改善、乳幼児に対する療育センターなどの環境の整備、さらには自立支援法の施行などにより、地域での生活がより可能になったことなどから、入所児童数は減少傾向にあります。
当施設では、開設当初には、外来診療がほとんど行われておらず、主として県内各地の児童相談所などから入所対象として紹介されてきた障害児を受け入れていました。その後、徐々に外来診療が行われ、さまざまな障害児や発達障害が疑われる児童が県内各地の医療機関や保健所から紹介されるようになり、通院者数も増加してきました。現在では、脳性麻痺、精神発達遅滞などの中枢神経障害児の治療が重点的に行われ、乳幼児期から理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法・摂食機能療法(ST)、発達療育(障害児保育:、DT)などが実施されています。
また、県内各地域の保健所や療育センターなどを支援するため、定期的に「乳幼児発達相談」や「障害児療育相談」を実施し、さらに志摩および東紀州地域などへは「巡回療育相談」を行っています。
さらに当施設が、県内唯一の小児専門の整形外科、小児リハビリテーションを有する医療機関であることから、県内施設の保育士や理学療法士などの現場スタッフの技術研修を行っているのをはじめ、医学生・看護学生や理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、保育士、社会福祉士、介護福祉士などの養成校からの現場実習施設として障害児療育にかかわる人材の養成機関となっています。
@ 利用者数など
|
平成14年度 |
平成15年度
|
平成16年度
|
平成17年度
|
平成18年度
|
入所児数(人) |
16,020 |
15,891 |
15,361 |
15,909 |
14,796 |
病床占有率(% |
73 |
73 |
73 |
73 |
68 |
手術件数 |
34 |
42 |
25 |
0 |
3 |
通院児数(人) |
17,665 |
16,516 |
15,201 |
12,586 |
12,766 |
重症心身障害児
(者)通園事業
B型(1日平均:人) |
4.8 |
4.5
|
4.8
|
4.6
|
4.4
|
短期入所事業
(月平均 人) |
585
|
423
|
418
|
368
|
143
|
障害者療育指導
巡回指導(回) |
32
|
30
|
30
|
30
|
30
|
乳幼児発達相談(回) |
33
|
41
|
41
|
40
|
40
|
A 実習受入数
他施設職員現場研修 (人) |
実員 2 |
5 |
7 |
8 |
10 |
延べ 6 |
48 |
68 |
66 |
65 |
学生現場実習 (人) |
実員 61 |
50 |
96 |
103 |
116 |
延べ 735 |
826 |
1300 |
922 |
1146 |
B 決算
状況 (単位:千円)
区 分 |
H14年度 |
H15年度 |
H16年度 |
H17年度 |
H18年度 |
定員(実員)(4/1現在) |
69(66) |
68(65) |
68(67) |
68(64) |
68(69) |
歳出
|
人件費決算 |
551,325 |
529,370 |
524,331 |
532,398 |
556,674 |
運営費決算 |
166,680 |
184,353 |
152,487 |
169,904 |
162,773 |
計 |
718,005 |
713,723 |
676,818 |
702,302 |
719,447 |
財源 |
県費 |
409,166 |
354,597 |
376,726 |
390,138 |
439,757 |
負担金 |
152,225 |
203,034 |
151,374 |
188,745 |
104,463 |
使用料 |
123,735 |
117,610 |
134,654 |
107,196 |
144,384 |
その他 |
32,879 |
38,482 |
14,064 |
16,223 |
30,843 |
施設は、30年を経過し、雨漏りがみられるなど老朽化が進んでいます。また、入所児数の減少傾向や疾病の多様化などもあり、非効率な構造になっています。設備は、計画的な修繕などを実施しておらず、配電設備や蒸気配管の老朽化による停電や蒸気漏れなど、重大な運営上のリスクを抱えています。
(施設の歴史)
昭和32年10月 |
児童福祉法による肢体不自由児施設「草の実学園」として開園 |
|
(児童福祉施設及び医療法の病院 入所定員54床) |
昭和41年 2月 |
全増設工事竣工 |
|
(児童福祉施設及び医療法の病院 入所定員110床) |
昭和49年12月 |
施設整備計画策定 |
昭和54年 7月 |
施設整備計画に基づく改築工事竣工 |
平成10年 4月 |
草の実リハビリテーションセンターに改称 |
|
(児童福祉施設・医療法の病院 入所定員60床) |
平成11年 1月 |
重症心身障害児・者通園事業開始 |
平成18年10月 |
児童福祉法24条の9肢体不自由児施設事業者として指定 |
|
(児童福祉施設・医療法の病院 入所定員60名) |
|
備考:入所定員=医療法許可病床数 |
(参考)
今後早急に整備が必要な大規模老朽化施設・設備 |
1 |
ボイラー蒸気配管改修(H20大規模要望) |
2 |
屋上漏水防止工事 |
3 |
受配電設備及び自家発電設備更新工事 |
4 |
電気系統の改修工事 |
5 |
大浴室及び水治療室改修工事 |
6 |
給水配管設備更新工事 |
@こどもの現状
○現在通院している児童の80%強が、3歳までに小児科・整形外科など県内の医療機関や市町の乳幼児健診から当施設を紹介されており、そのほとんどが診察やPT、OT、STなどの訓練を 目的として、現在もなお継続して受診しています。
○ほぼ全員が自家用車で通院し、大半は1時間内で通っています。
○半数以上が身体障害者手帳を持ち、そのうち3人に1人が1級該当者で、療育手帳は約30%の児童が持っており、うち10%強が最重度の該当者になっています。食事やトイレは、3人に 1人が全介助を必要としていました。
○3人に1人が地域校の障害児学級へ、4人に一人が特別支援学校へ通っており、地域の普通学級に通っている児童は少数でした。全通院児の約16%は、市の療育センターにも通ってい ました。
○治療については、半数強が草の実だけを受診していますが、残りの児童は療育センターや県内外の医療機関での診療を受けていました。また、半数以上の児童は、当施設以外での訓練 回数の方が多くなっています。
Aこどもや家族、保護者の心配ごとなど
○保護者は、児童の体重増加や関節の硬化など身体的な悩み、一人で食事ができない、服の着脱ができない、トイレが上手くできない、しゃべることが苦手など日常生活上の悩みを抱えていました。また、就学など学校のことや卒業後の進路、介護介助など地域での受け皿や経済的な問題に不安を持っていました。
○
これらの不安を相談するところがある人は半数で、相談するところを持たない人はその半数になっています。相談するところは、学校が最も多く、役場、知人と続き、草の実に相談する人はわずかでした。
B施設に期待すること
○デイケアーやショートステイ、また生活訓練や指導のための入所・入院利用
○育児や介護、進路の相談
○他科(とくに小児科)の診療
○訓練回数の増加および訓練技術の向上
○保育園・幼稚園、学校への訪問指導
○医療や福祉の情報提供
○保護者対象の勉強会
○児童が住む地域関係機関と施設(草の実)の連携強化
草の実を退所し、成人となっている方を対象に追跡調査を行った調査結果から、ふたつの大きな課題があげられました。
課題1:退所者の現状
一般的に脳性麻痺をはじめ、肢体不自由の方は、もともとの障害に加え、さまざまな体の問題が比較的若い時期から起こるとされています。それらの中には、二次障害と呼ばれるものもあり、障害を持ちながらの日常生活を送っていくことが負担となり問題を起こすものもあります。回答者226名の平均年齢は45.7±11.3歳であり、その多くが何らかの身体的な問題を訴えていました。とくに、約80%を占める脳性麻痺とポリオでは、「体のどこかに痛みがある」「動きにくくなった」「歩きにくくなった」「筋力が低下した」「行動範囲が狭くなった」「体の変形が強くなった」「外出の機会が減った」「疲れやすくなった」との回答が30%以上であり、多い項目では70%もありました。また、現在「不安に感じていること」として最も多かったのが「体の問題」(約54%)でした。次第に動きにくくなってくることへの不安、痛みによる苦痛や活動の制限、さらには生活を支える介助者に関してなど、身体的な問題から起こる不安は多岐にわたっていました。一方で何らかの対処方法をとっているものはそれほど多くなく、機能訓練は7割以上が、現在は行っていませんでした。現実には、肢体不自由の方たちの身体問題を根本的に解決することは困難です。しかし、放置することでの悪循環(例えば、痛みがあるから動かない、動かないから筋力や体力が落ちる、力が落ちれば日常生活能力が低下する、日常生活で動かなければ、変形などが悪化し痛みも増す)はより問題を複雑化しているものと推測されます。さらに、退所者の中には老齢期に入る方も少なくありません。脳性麻痺を中心とした乳幼児期からの肢体不自由を専門とする草の実では、これらの方の生涯にわたり関わっていく必要があります。退所者の多くが、草の実やその他、医療機関・福祉機関・行政機関に、「継続した医療的なフォロー」「退所後の訓練や診察の継続」「医療や福祉情報の発信」「進路や就職の相談」「障害や制度についての勉強会」などを求めていました。地域で生活をおくる方たちに対し、求められる関わりを行っていくには、より地域との連携を強める必要があります。具体的には、草の実のスタッフが直接地域に赴くことや、各地域の療育関係スタッフの育成に関わること、スタッフ間での情報網を作ることなどが考えられます。また、退所者やその家族への教育的な関わりや情報提供を行うことで、問題を放置しないことも重要だと思われました。そのためには、インターネットなどの情報網の活用や退所者団体「草の実同窓会」との協働は有効な手段であると思われます。
課題2:同じような障害を持った子どもたちへの関わり
身体的な問題については、成人期に起こる問題の基礎は、学齢期さらには乳幼児期にあるともいえます。もちろん多くの場合、根本的な治癒は望めないが、問題を軽減することは可能だと思われます。そのため、医療福祉施設として「子ども」の時期に継続的にフォローしていくことが望まれます。また、施設入所であれ在宅であれ、地域で暮らしていくことを念頭に置き、各地域の療育体制の充実に関わるとともに、地域スタッフとの連携を深めることが求められます。各児の個別支援計画(療育計画)を、将来にわたり積み重ねていくことも、幼児期から成人期にかけての療育の継続を考える上では有効な手段と思われます。
○以上ふたつのアンケート結果から必要と考えられる療育環境として以下のことがあげられます
・身近な地域で治療やリハビリを受けられること
・整形外科、リハビリ科以外の診療科(小児科、耳鼻科等)が同じ施設で受診できること
・必要な時に医療や福祉の情報が得られること
・保護者のさまざまな相談ができること
・保護者の療育能力が向上できること・
・必要に応じて短期入所等の利用ができること
・集中リハビリや生活訓練など目的を特定した短期入院ができること
・児童の療育に関して県内の医療機関や保健サービス施設などと連携があること
・成人期以降の継続した受診ができること
・地域巡回や訪問リハ・看護が行われること
○施設整備や運営にかかる課題として以下のことがあげられます
・安全安心な施設・設備
安全性の低下(電気設備、空調設備、ボイラー蒸気設備など)
・入所利用者の減少傾向
施設使用の再編
多様な入院利用の開発(短期入院の活用、デイサービス等の実施)
・地域療育充実のための支援
相談支援の充実
巡回療育、乳幼児療育相談等の充実
医療・福祉情報の提供
地域医療機関や療育センターとの連携
短期入所の効果的な利用促進
・効率的な運営
診療報酬(収入)の低下と支出(人件費)などの増加
・医師の確保
麻酔科医師の確保が難しいため、全身麻酔での手術が困難
整形外科、小児科などの確保は、中期的には危機的状況
・重複障害児など重症児への小児科的管理が困難
前述のような状況を考慮し、地域での自立を支援する療育体制作りなど、「肢体不自由児が期待する、より最適な療育環境」を作るため、今後の三重県の肢体不自由児事業のあり方などについて提案します。
(短期的に整備充実をさせるもの)
1 相談支援体制の構築
訓練の支援、日常生活(食、更衣、排泄)の支援、進路相談、福祉制度の活用支援、
その他悩みや不安の相談など
2 地域療育の支援を充実
こどもの療育目標の共同作成・管理、巡回相談の充実、関係者の研修、
症例やケースの共同検討、情報提供・交流など
3 目的を特定した短期入院の企画・提供、一時保護等短期入所の積極的な受入
(中・長期的に整備するもの)
4 肢体不自由児を専門的・総合的に診断し、必要な治療を集中的に行える「センター機能」の整備
*三重病院を中心とした小児の総合病院機能の充実なども検討する
5 肢体不自由児が、県内の各地域において、いつでも、どこでも質の高い療育を受けられるように市町の療育センターや医療機関、特別支援学校さらには保護者など関係者間での療 育ネットワークの確立、関係スタッフの育成、情報提供や技術供与など「地域療育支援のためのセンター機能」の整備