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平成20年10月21日

HIV感染者の人権 -わたしたち自身の問題として-

特定非営利活動法人 HIVと人権・情報センター理事長 五島真理為(ごとうまりい)

 

 エイズは、1981年アメリカ合衆国で最初の症例が報告されて以来,世界的な広がりを見せています。日本においても近年のHIV感染者・エイズ患者の著しい増加,病気に対する無知や誤解から生じる偏見・差別の問題など,エイズをとりまく状況は深刻であるといえます。
 ボランティア活動をはじめとして,感染経路に関わりなく,あらゆるHIV感染者・エイズ患者の人権擁護とHIV ・エイズ問題の総合的な解決のために精力的に取り組む,HIVと人権・情報センターの五島真理為さんのお話をもとに,この問題が提起する私たちの意識や社会のあり方について考えてみたいと思います。

エイズを正しく知ることから

“HIV”と“エイズ”の違い、知っていますか?

 エイズの発症とは,HIV感染により体内の免疫力が落ち,日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)を起こすことをいいます。要するに免疫力が落ちてくるので,そのことによって病気になりやすいという状態ですよね。元々すべてのHIV感染者がエイズを発症するかどうかは,まだはっきりしないのですが,日和見感染症に対しては,それぞれ対処法があります。今は,感染がわかった時点で薬を使う方もおられますし,発症を予防することができるわけです。つまり,HIVというものとエイズ発症とは別なのです。

 昨年の「世界エイズデー」のスローガンは「“HIV”と“エイズ”の違い、知っていますか?」というものでした。それが,厚生労働省が出したポスター等にも載せられていました。例えば,B型肝炎の抗体を持っているからといって,肝炎を発症しているとは限りません。私たちはみんなツベルクリンを,あるいは陰性の場合はBCGを注射しますが,それは弱結核菌を身体の中に入れているわけですが,結核を発症しているわけではありません。ですから,身体の中にウイルスや細菌や抗体があるということと,発症するということは,別のことなのです。(左は平成16年度「世界エイズデー」ポスター)

「エイズ=死」ではない

 すべての人が発症するわけではないといわれていますが,放っておけばHIV感染者の50%が10年で,90%が20年で発症するといわれています。でも検査で分かれば,現在,抗HIV薬が24種類あるうち,その3種類くらいを飲むというHAART療法で発症が防げます。薬の使い方が1997年から基本的に変わってきているのです。1987年にすでに薬はあったのですが,1剤では弱かったのです。結核等に対してと同じように,違う効能を持った薬を3剤投与することでHIVを検出限度以下にすることが可能になったのです。「徐々に免疫力が落ちて発症する」ということにならなくなりました。
 イギリスに住む友だちは1981年にHIVに感染して以来, 24年間何ともありません。それ以上経っても何ともない人もいるわけです。現在はエイズで亡くなる人は減ってきました。私自身も1996年頃までは,いつでもお葬式に出られるように,いつも黒い服を持って動いていました。日本の1割くらいの感染者の方のカウンセリングにかかわってきましたが,確かに,1996年くらいまでは厳しかったのですが,その後はほとんどエイズによる死者を見送ることがありません。状況が変わってきています。ですから,現在では「エイズ=死」というイメージは正しくありません。

正しい知識・情報を

 誤った情報や知識が拡がってくと,過度の恐怖心を与えてしまい,むしろ適切な予防が難しくなります。例えば「不特定多数を相手にすると感染する」といわれても,誰も自分が不特定多数の相手と性行為を行っているなんて思っている人はいません。確かにたくさんの人とセックスをすれば,そのリスクは高くなります。ただ,「不特定」とは何を意味するのかわからないですね。そうではなくて,たった一人とセックスをしても,相手がウイルスを持っていたら感染するわけです。
 ですから,それよりも正しい知識や情報を知らせるべきだと思います。ウイルスは精液・膣分泌液・血液・母乳の中にあり,それが口腔粘膜や性器・肛門の粘膜を通して,つまり多くは性行為によって感染が起こりうるということや,血液からの直接的な感染,さらに母親が感染している場合に,母乳を飲むとか,産道を通って母親の血液を浴びるなどによって感染するといったことです。
 HIV感染が検査でわかれば,治療によって寿命まで生きることが可能であるわけです。カウンセリングや検査に関しては、保健所だけではなくて,私たち民間団体も行っています。全国の保健所では結果がわかるまで1週間ほど(一部即日検査を行っているところもある)かかりますが,私たちは名古屋,大阪,東京で,陰性の場合その日に結果がわかる即日検査を行っています。一人で悩まず,相談や検査を利用することが大切です。

HIV感染者を取りまくわたしたちの社会

差別に対する治療薬は…

 お母さんや本人が感染しているということで,子どもさんが保育園に行けなかった,小学校や中学校に入学できなかったという事例があります。それから診療拒否とか職場での解雇とかそういうことはいっぱいあります。あるHIV感染者の方は,「当たり前に生きたい」と言って亡くなられました。ご自身が感染したということで,「当たり前に」生きられなかったわけです。レストランにも行けなかったし,散髪屋さんにも行けなかった。また,本屋さんにも行けなかったし,何よりも病院に行けなかったという現実があるのです。HIVに対して抗HIV薬があるように,差別に対する治療薬はあるのでしょうか。それは正しい知識を得ること,もう一つは自分の問題としてとらえることだと思います。
 私たちの命があるのは,お父さんお母さん,おじいちゃんおばあちゃんたちのセックスの結果です。セックスに関係していない人などいないですよね。ですからセックスを偏見でみるのではなくて,命の営みとして当たり前のこととしてとらえながら,自分も感染する可能性があるのだと考えてみることが大切なのです。そして,実際に身近な人が感染した場合,どんなふうに関わっていくのかを考えてみることです。
 私が2000年にイギリスに住んでいた当時,ある日の新聞の第一面にナースキャップをかぶった黒人女性の姿が載っていました。その人はHIV感染者で,病院に就職が決まったのです。その彼女に,病院が「よかったね,あなたが来てくれて嬉しいよ」と歓迎している記事だったのです。そこでは感染されている人も普通に仕事ができるわけです。医療従事者として働くことができるのです。その病院にとっては、HIV感染者に対して同じ立場でサポートできる彼女が働いてくれることが非常に喜ばしいことであると受け取られたわけです。かたや,日本では,HIV感染者を家族に持つナースの方が,ご自身は感染されていないのですが,そのことを理由に職場を7回解雇されるということがあったのです。その違いというのは,ウイルスの違いではなくて,まさに社会的認識の違いであり,人権感覚の違いだと思います。
 日本はHIV感染者との共生という点では遅れているといえます。感染者と共に生きようという働きかけが充分になされてきていないのです。社会教育の分野においても,まだまだテレビをはじめいろんなところで啓発がされていなくて,「怖い」「そういう人とはできるだけ会いたくない」「あれは遊んでいる人の問題」だとか,あるいは「外国人や男性同性愛者の問題」などととらえてしまっている現状があります。そうした様々な人権問題が複合的に重なり合って,エイズにかかわる差別をつくってしまっているのです。

イギリスは70%,日本は1%

 イギリスでは国民の70%が抗体検査を行っているといわれています。そのうちの3万人以上の人が感染していることがわかったわけです。人数がはっきりしているわけですから,エイズ対策をしっかりとたてることができます。アメリカ合衆国は今40%ぐらいだといわれています。それに対して日本においては,抗体検査に行った人はおよそ1%です。日本ほど,感染者数がはっきりとしていないところはありません。
 UNAIDS(国連エイズ合同計画)の国際会議に出席したとき,疫学の専門家から言われたことがあります。「日本はどうなりましたか。どのくらい感染しているか見えてこないですね。1%しか抗体検査に行っていない国ではエイズに関する対策がたてられないですね。」と言われました。先進国の中では唯一実態がわからない国なのです。
 それはやはり自分の問題としてとらえてないのだろうと思います。そんな中で感染者はどんどん増えていっているわけです。その原因の根本にあるものは,やはり差別です。例えばエイズのことを男性同性愛者の問題だと考えるのは,男性同性愛者への偏見があるからです。現実には男性同性愛者だけの病気ではないのですから。また,外国人の問題で日本人には関係ないのだというのなら,そこにも同様のことがいえるでしょう。

支え合い共に生きること

ボランティア活動のなかで

 「差別に対する治療薬」の一つとして,若い人たちによるボランティア活動があると思います。中学生,高校生,大学生のボランティア,そして小学生のボランティアもいます。また,感染者のボランティアもいます。性の悩みを通して自分たちの問題だと考えて始める人がいますよ。いつか自分が関わる問題であると考えているのでしょう。それから,こんな差別があってはいけないという思いで,人権の面から怒りを感じて参加した人もいますし,世界的に感染者が増加していることから,社会をもっと住みやすくするために,自分に何かできることはないかと考えている人もいます。

 学校や家庭の中で,子どもたちは,地域社会の一員であるという自己認識をなかなか持ちにくいですよね。そんな中でボランティア活動にかかわることで社会の一員として認められ,社会的な役割を担って,それに対して具体的な評価を獲得することで,自尊感情が高まり,自分の存在基盤がしっかりしてきます。
 基本的には,18歳にならないと私たちは電話相談のボランティアを認めないのですが,中には物事をよくわかっている子や,しっかりした対応が出来る子もいます。そうした子どもたちにも,電話相談の研修を受けてもらう場合があります。それはもうニコニコして嬉しくてしょうがないという感じですね。18歳になって相談員としてデビューすると,電話相談の相手は「あなたとお話して気持ちが落ち着いた。」と言って下さったりするわけですが,それに対して,「逆に私の方が嬉しいのでありがとうって返しました。」というように,生き生きと語る若者たちの姿があります。そういう相互の関係性がまさに共に生きるということではないでしょうか。(右は,疑問や不安にこたえる「HIVと人権・情報センター」の相談員)

自他を大切にすること

 私たちは今,大阪のアメリカ村で厚生労働省の100%補助事業で即日結果通知のHIV抗体検査とカウンセリングを行っていますけれども,10代の子どももよく来ますよ。カップルで来る若者もいます。昨日なんかも8組のカップルが来ていました。少なくとも彼らは自分たちの問題だと考えているのです。それは学校で教育を受けているからなのです。自分たちの問題だと学習しているのですね。
 私たちは検査の結果を伝える場で,彼らにコンドームを使って説明しながら,「恋人とちゃんとお話してね。」「コミュニケーションが大事だよ。」と対話しています。検査結果がマイナス(感染していない)である人は「マイナスを一生もち続けるコツを教えよう。」というように伝授するわけです。こういうふうに,自分のパートナーや友だち,そして自分自身を大切にしていくことが大事だと思います。

 私たちの社会や世界におけるHIV・エイズの状況に目を向けてみると,子ども,女性,同性愛者,在日外国人など,マイノリティや弱い立場におかれている人たちをとりまく深刻な人権課題や世界規模の経済格差等の問題が浮き彫りになります。この問題に真正面から取り組むことは,感染者・患者はもちろんのこと,私たち一人ひとりが自分らしく生きることのできる社会を実現していくことにつながるのではないでしょうか。

県内の検査機関

保健所・保健センターでのHIV検査は,無料・匿名でおこなわれている。
曜日・時間等の詳細は,三重県のホームページを参照されたい。
http://www.pref.mie.jp/KIKIKAN/kurashi/hoken/eizu.htm

 
北勢県民局桑名保健福祉部(桑名保健所) 0594-24-3625 0594-24-3692
北勢県民局四日市保健福祉部(四日市保健所) 0593-52-0594 0593-51-3304
北勢県民局鈴鹿保健福祉部(鈴鹿保健所) 0593-82-8672 0593-83-7958
津地方県民局保健福祉部(津保健所) 059-223-5185 059-223-5119
松阪地方県民局保健福祉部(松阪保健所) 0598-50-0531 0598-50-0621
南勢志摩県民局保健福祉部(伊勢保健所) 0596-27-5148 0596-27-5253
伊賀県民局保健福祉部(上野保健所) 0595-24-8076 0595-24-8085
紀北県民局保健福祉部(尾鷲保健所) 0597-23-3456 0597-23-3449
紀南県民局保健福祉部(熊野保健所) 0597-89-6115 0597-85-3914

県内では,拠点病院として4か所ある。検査は有料になる。

          
三重県立総合医療センター 三重県四日市市大字日永5450-132 0593-45-2321
三重中央医療センター 三重県久居市明神町2158-5 059-259-1211
三重大学医学部附属病院 三重県津市江戸橋2-174 059-232-1111
山田赤十字病院 三重県伊勢市御薗町高向810 0596-28-2171
 

特別非営利活動法人 HIVと人権・情報センター(JHC)

 1988(昭和63)年に大阪で誕生した,日本初のエイズボランティア団体。略称はJHC(Japan HIV Center )。
 大阪・東京・松山・名古屋・神戸・岡山・佐世保・和歌山に支部がある。
 ここでは,HIV感染者の支援活動・市民へのエイズに関する正しい知識の普及活動(若者による若者のためのAIDS啓発プログラム[Young for Young Sharing Program=YYSP])など,差別・偏見を無くすための活動が行われてきた。主な活動内容は,電話相談,感染者カウンセリング,治療薬・医療機関・社会福祉制度等HIVに関する情報提供,ケア・サポート,行政への働きかけ,啓発活動(研修・講演・イベント等),リビングセンターの運営研究事業等がある。
 感染予防と共生を考える参加型ワークショップであるYYSPは,日本国内ではこれまで約200回,約2万人以上に対して行ってきた。保健所・教育機関等とNGOが連携して実施しているプログラムである。プログラム内容としては世界と日本のAIDSの状況,感染についての基礎知識,性行為における感染の可能性の有無,セーファーセックスの講義,コンドーム実習,愛情表現ワークや共生ワークなどがあり,対象者によってオーダーメイドでプログラムしている。
 同センターは,エイズの即日検査も東京・大阪・名古屋において無料・匿名で行っている。近隣では,毎月第2・第4日曜日,名古屋・栄に会場を設けている。その日のうちに検査結果を知ることができる。
 詳細は,HIVと人権・情報センター中部支部の予約専用番号052-831-2289に問い合わせされたい。

五島真理為(ごとう まりい)

 HIVカウンセラー。20歳のとき失明。いったん回復したが,24歳で全身発作に見舞われ、難病と診断された。以後,入退院をくりかえしながらも,難病カウンセラーとして活躍。1989(平成元)年から,AIDS患者らを支援する日本初の民間の全国組織「HIVと人権・情報センター(JHC)」活動にかかわり,現在,特定非営利活動法人HIVと人権・情報センター理事長。
 公職として,日本エイズ学会理事,厚生労働省厚生労働科学研究エイズ対策研究事業「エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究」の主任研究者,第7回アジア・太平洋地域AIDS国際会議組織委員・プログラム小委員会副委員長,第10回国際AIDS会議プログラム委員,厚生省公衆衛生審議会専門委員,厚生労働省厚生労働科学研究エイズ対策研究事業「エイズ指導における関係機関の連携による予防指導の効果に関する研究」の主任研究者。さらに,大阪府エイズ対策検討委員,大阪市国際障害者年推進委員,静岡県エイズ専門家会議委員,南和歌山医療センター倫理委員,兵庫県,和歌山県などのHIVカウンセラー,長崎大学非常勤講師などを歴任。

主な著書・編著
『AIDSをどう教えるか』(解放出版社)
『羅針盤』(大阪府発行)
『これがボランティアだ!』(晶文社)
『日本における差別と人権』(解放出版社)
『みんなの幸せをもとめて』(京都教育庁)
『エイズ対策』(東京法規出版社)
『いのち,響きあって-病気や障害は来た道,行く道-』(解放出版社)

本ページに関する問い合わせ先

三重県 教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班 〒514-0113 
津市一身田大古曽693-1(人権センター内)
電話番号:059-233-5520 
ファクス番号:059-233-5523 
メールアドレス:jinkyoui@pref.mie.lg.jp

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