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寄稿・インターネットと人権
田畑重志

田畑重志

はじめに

私がインターネットの差別の問題にかかわりはじたのは1997(平成9)年6月で、その頃は、ほとんどが差別落書きと同様の差別用語などが掲載されたホームページが主体でした(「ホームページ」というのはwebサイトのトップのページのことを指すのですが、ここではwebサイト全体を、「ホームページ」という用語で表現します)。

しかし、現在では、インターネットを通じた人権侵害は、ホームページ主体のものから、「2ちゃんねる」などの「掲示板」と呼ばれ誰でも気軽に自分の主義主張を書き込めるところに主体を移してきています。

私はインターネット上で「反差別ネットワーク人権研究会」という団体を主宰しています。そこには驚くほどさまざまな情報が寄せられてくるのです。
昨年4月から今年3月までで、インターネットの差別事件として報告があったのは259件にのぼります。2001(平成13)年度は275件で、わずかに下回ったものの、これは単に報告が20件ほど減っただけで、全体に差別事例が減ったわけではありません。

こうした問題の解決に向けて、現在のところ、絶対に有効というものはみつかっていません。それどころか多くの人々がこの問題に無関心で、放置してしまっているのです。この無関心こそが大きな問題なのです。

一通のメールから

2年ほど前のことでした。ある夜いつものようにメールを見ていますと、一人の女性から「絶対返事ください」というものがありました。よほど急いで書いたのでしょう、「返事」という字が「変事」と誤変換されていました。
中身を読んでみますと、「あるページを見ていたら障害者を差別するページに出会った。私は悔しくて悔しくてたまらない。このようなメールは許せない。すぐなんとかしてほしい」という趣旨のものでした。

そこには自分の連絡先として携帯電話の番号が書かれています。このようなことは、自分のことを明かさないインターネットの世界では異例のことです。逆にいたずらだろうかとも思いました。
その携帯に電話をかけてみると、私の名前を告げた途端、開口一番に「遅いです。もっと早く連絡下さい。あなたがきちんと対処しないからこんなことが起こるんです」と怒られてしまいました。

彼女のいうページを見てみると、障害者に対する非常に差別的な言葉が流され、さらには部落問題、在日韓国・朝鮮人問題に対しても悪質な中身が掲載されていました。
そのページはあるゲームに対するファンサイトで個人が運営しいるものでした。
どうやら管理人による制止も行われていたようですが、効果がないようで、制止した後にはいわゆる掲示板荒らしといわれる意味のない言葉の羅列がなされていました。

彼女に再び電話をかけると、「見ましたか」というなり泣き出してしまいました。話を聞いていくと、彼女は高校3年生で、就職も決まり、これで苦労して自分を育ててくれた障害のある母親を楽にしてやれると思い喜び、息抜きのつもりで自分の好きなゲームのサイトをいろいろと見ているうちに、この書き込みを発見したとのことでした。
そこでぶつかった悪質な言葉の羅列に、これが多くの人にばらまかれているのだと思うと、ショックを受けたというのでした。

私は早速この掲示板の管理者と話をし、内容の削除や荒らし対策についてなどのメールを送り、いくどかのやりとりの後、一度管理者によって掲示板が閉鎖されました。その後掲示板荒らし対策ができ、差別的な内容も削除され、再開されました。
私が彼女にそのことを連絡すると、「それが本当の姿です」という返事でした。

地名リストと少年

数年前、私に非常に挑発的なメールを送ってきた少年がいました。メールは次のようなものです。
「あなたはインターネットのページで差別についていろい書いている。しかし、ほんとうは部落の人が悪いからこんなことが起こっているのだ。しかも今の時代は部落の地名リストだって作れるではないか」というもので、自分はある県の中学生だと名のっていました。

私はメールで彼を諭そうとしました。しかし、どうしてもメールでは細かいニュアンスまでは伝わりません。
「説教くさい」という一言だけのメールが来て、以後私へのメールはしばらく途絶えることとなりました。

それから1ヶ月ほどたって、ある女性から人権相談のメールをもらいました。
「私の両親は元教員で、同和問題についても学習していたはずです。ですから、いわゆる聞き合わせといったことはしませんでした。そのかわりインターネットで部落の地名を調べ始めたのです。その結果、彼の住んでいるところが被差別部落だとわかり、私は強引に堕胎させられることになったのです」と書かれていました。
暗澹たる思いでした。

私はすぐメールに書かれていたページを見てみました。そこに書かれていたのは、以前私にメールをくれた少年の言葉と同じ言葉でした。
私は即座に「実は私のところに部落差別についての相談がきているが、何か覚えがないか」となるべくやんわりとその少年に聞いてみることにしました。

すると彼から自宅の電話番号と「どうしたらいいですか」という言葉だけが添えられたメールが届きました。
どうやら自分の書いたことを削除しようとしたらしいのですが、中身はコピーされ、あちらこちらのページに貼り付けられていたのです(パソコンで書かれているものはインターネットのものも含めて、簡単に「コピー」や「貼り付け」ができ、どこにでも複写すことが可能です。差別落書きなどと違った悪質さは、こうした作業能率があがるように設計されたものの中にも潜んでいます)。

すぐに彼の自宅に連絡すると「死にたい」と漏らしています。過去、私は友人を同じ言葉で亡くした経験があるので、翌日仕事を休んで彼のところに行きました。
すると、中学2年生といっていた彼は、実は小学校6年生だとわかりました。ようやく歴史で身分制度などについて習うころです。そして実際、彼の学校では身分制度について習ってはいましたが、詳しく学習することもなく、同和教育・人権教育といってもビデオを見たくらいの記憶しかないということでした。

私はその日彼といろいろな話をしました。
彼は既にパソコンそのものはなんなく手軽に使える環境にいました。しかし、彼にとってみると「パソコンの利用」と「自分の書いたことの責任」「書いたことでどうなるか」などはまるで別物でした。小学校では操作方法の学習のみで、何が危険であるとか何がだめだとか、そうしたことはまったく教えられていないのでした。
幸い彼は、その後中学校で、自分の体験から人権サークルにはいるなど、差別をなくそうという方向に向かってくれました。

しかし、このような子どもばかりではありません。このように、インターネットの人権問題については低年齢化が進んでいるのです。
はたしてこうしたことを食い止めることはできるのでしょうか。

問題解決とは何か

「田畑さんはどんなふうに対処しているのですか」と講演会でよく聞かれることがあります。
「そうですね。家に帰ると七時頃ですが、その後、家のことをやりまして、ようやくみんなが寝た頃の11時頃にインターネットの対処をしていきます。朝方3時までやりまして、その後寝ます。朝6時頃におきて、子どもの世話をしてから出勤します」。
「そんなことして大丈夫ですか」と聞かれますが、いえいえ大丈夫ではありません。胃に穴も開きましたし、家庭も壊しますから絶対やめてください。

そんなことを笑いながらいうのですが、実際多くの人は夜になるとインターネットを利用するようです。しかし、多くの人は差別的なホームページや掲示板に目をつむってしまいます。気分が悪くなるからと放置してしまうことも少なくありません。無関心であったり、放置しておいても自分には関係ない、かまわないと判断してしまうのです。その一方で、私に連絡があった事例のように、「部落の地名リスト」が書かれたページがもとで身元調査がおこなわれ、結婚が破談になった、堕胎することになったなどの悲しい事例が頻発し、その解決のための相談が後をたちません。

ホームページやメールなどでは、プライバシーが守られながら気軽に相談が出来たり、悩みを聞いてもらえたりするという人権を考える上で役立つ面も多いのですが、このように匿名性や表現の自由を濫用する行為もたくさん起こるのです。
特に今では「写真付き携帯」などの存在で「いじめられている子の写真」が不特定多数の人に送信されるなどの被害も出てきました。

子どもたちにとってみると、「パソコン」や「携帯電話」といったインターネットが利用できるものは既に身近なアイテムになっているといえるでしょう。
ですから単にモラルだけ教えてもあまり効果はありません。モラルという概念も人によって違い、時には間違ったものもあります。

ではどうすればいいのでしょうか。
車の免許を取る時には、法律やその他の規則を学習しなければなりません。必要なものだから、便利だからといってむやみに車に乗ることは危険をともないます。

ですから、インターネットを利用する場合にも、現在出されているインターネットに関する法律や悪質な行為をしてはならないというモラル、さらには、もし犯罪やトラブルに巻き込まれたときの対処については最低限学習することが必要なのです。もちろん、これは学校だけではなく、家庭でも教えなければならないでしょう。

実際、オーストラリアのNPOは次のように親に諭しています。「パソコンはみんながいる場所で使うようにしよう」「インターネットの情報がすべて正しいものではないことを子どもと話をしよう」「個人情報を書かないように注意させよう」など、実現可能な事柄をあげています。そして最後に、「学校も同じことをしてくれるようにはたらきかけよう」と結んでいます。
こうした教育的な立場での啓発が、これからのインターネットの問題解決には非常に重要なのです。
このように、皆さんも子どもたちとこの問題について話し合っていただきたいと思います。

今後数年、数値的には差別事例は増加するものと思われます。というのも、現在日本のインターネット人口は、全人口の半数近くにものぼっており、そのような状況では、差別事例はまだまだ増加する危険性が高いといえるからです。
しかし、もし教育的な立場での啓発やNGO、NPOの差別への取り組みが拡がれば、事例は減少すると思っています。

最後に

これからの社会はインターネットやパソコンが使えないと仕事に就けないというようなことが多くなるでしょう。また教育の中でのニーズとして、パソコン利用はどんどん進められていくことだと思います。
その中で子どもの権利を守る、子どもの未来、将来を守るという観点からも、みなさん一人ひとりがこの問題の大きさに気づき、無関心でいないことを私としては切に願うばかりです。
ぜひ多くの方の協力をお願いし、筆をおきたいと思います。
ノートパソコンのイラスト

(たばたしげし)
 

本ページに関する問い合わせ先

三重県 教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班 〒514-0113 
津市一身田大古曽693-1(人権センター内)
電話番号:059-233-5520 
ファクス番号:059-233-5523 
メールアドレス:jinkyoui@pref.mie.lg.jp

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