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平成21年02月18日

男女共同参画社会の実現を考えるために(前編)

近畿大学人権問題研究所 熊本理抄
(2009年2月作成)

はじめに~「公的領域」と「私的領域」の境界線の問い直し~

 わたしたちが、男女共同参画社会のことを考えたり話したりする際に、「公的領域」で男性が担っている「有償労働」の分野に女性も「男性並み」に参画し、「私的領域」で女性が担っている「無償労働」を男性も共同で分担するというような、性別役割分担を前提とした考え方が念頭にあるのではないでしょうか。そうした「公的領域」と「私的領域」の境界線を問い直してみることがとても大事だと思います。

 「個人的なことは政治的なこと」と言われるように、女性解放運動は、「自然」「個人的」とみなされてきた「家族」や「性」に関わる私的領域における問題が社会的・政治的に構築され、権力関係を内包していたことを明らかにしてきました。また、「公的領域」「私的領域」の境界設定の問い直しにより、女性たちが私的領域において担ってきた再生産労働、ケア労働、家事労働、アンペイド・ワーク(無償労働)などの視点から「労働」の概念に異議を唱えてもきました。さらに、公的領域と私的領域の境界線の設定自体が、政治的であり男性中心主義であることも主張してきました。

 とりわけ、公的領域における男性の経験が優先的に議論されることで、男性中心という限界を持ってきた人権概念のパラダイムに転換をもたらし、私的領域における人権侵害を、一人ひとりの体験や思いの中から明るみに出して政治化=法制度化に大きな役割を果たしたのが、「女性に対する暴力」でした。

親密な関係性における暴力~ドメスティック・バイオレンス(DV)

 単なる夫婦げんかとして、私的な、個人的な問題として無視され、法律からも社会からも見放され野放しにされ、取るに足りないことと考えられてきた親密な関係における暴力が、2001年に施行されたDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)によって、犯罪であることが明確にされました。廃絶すべき暴力の領域を「公的領域」から「私的領域」にまで拡大し、「愛」「性」をめぐる親密な関係の中に、支配―従属の関係性や権力関係や人権侵害が存在することを「発見」し、こうした問題は、個人にあるのではなく、より弱いものに苦しみを強いる社会構造にあることを問題視するようになりました。

 公的領域において暴力を用いると犯罪となるのに、なぜ、親密な関係において、「所有」「支配」のためや、思い通りにするための手段としての暴力が「愛情」だと正当化されてきたのでしょうか。なぜ、社会は、公的な領域における暴力には法的規制をかけ、社会的にも容認しないという姿勢をとりながら、私的領域における暴力の選択を認めてきたのでしょうか。

 そんな社会の中で生きているわたしたちが、被害者を沈黙させ、親密な関係性における暴力を反復と継続によってエスカレートさせてきたのです。被害者は、「わたしが悪い」「努力が足りない」と自責感と罪悪感でいっぱいになり、周りの人間や社会に信じてもらえずに孤立していくだけでなく、「あなたのがまんが足りない」と非難され、絶望感と恐怖感と無力感に陥り、「生きていく価値がない」と自尊心を低下させてきました。これがDVによる支配の本質です。

 親子、夫婦、恋人など、親密な関係の中での「わたし」と他者との対等な関係をつむぎだすこと、他者を一人の人間として、その存在や考え方や価値観を尊重すること、親密な関係の中において、「わたし」という存在に対する自尊感情を育んでいくこと・・・これらも、男女共同参画社会の実現には大切なことだと思います。

 女性たちは、「男女平等」による力の分配と、「わたし」が承認されることを求めてきました。「力と支配」や暴力と権力などによらない「わたし」の承認が男性たちにも求められているように思います。

 また、DVというときに、「女性」とひとくくりにはできない現実があります。現在、16組に1組が国際結婚で、その約8割は、妻が外国人・夫が日本人という組み合わせです。在留資格の更新には夫の協力が必要であったり、離婚した場合、日本人の実子を育てていなければ在留資格がなくなる恐れがあること、子どもの教育や親権、今後の生活などに不安を抱え、DVを受けていても、我慢して離婚できないケースや、法的・経済的・社会的に立場の弱い外国籍妻に対して離婚の可能性や子どもを使って脅しているケースなどがあります。法的・経済的・社会的に、夫である日本人男性に依存しなければならないだけではなく、女性に対する蔑視や優越意識、彼女たちの出身国・地域における文化や生活習慣、民族的アイデンティティなどに対する人種差別などが重なり合うことによって、彼女たちは自己否定や無力感に陥り、自尊心が傷つけられていきます。

 外国籍女性が日本に滞在するにあたって、法的に弱い立場であること、仕事や住宅を探すことが困難であり、経済的に弱い立場であること、医療や生活保護、保険や年金など社会保障の制度からも排除される立場であること、彼女たちに対する人種差別があること、DVの相談や被害者支援などを行っている司法機関や公的機関についても限られたアクセスしかなかったり、支援機関や支援者による人種差別などの二次被害を受けること、など、階級(経済的地位)に基づく差別、人種差別、女性差別などによって彼女たちが生きることは非常に困難になります。

 「日本人男性とフィリピン女性の離婚は、年間3000件~4000件にのぼる。言葉や習慣の違いで、日本人の母子家庭より仕事を探すのが困難で、困窮状態に陥りやすい」ことや、フィリピン人の生活保護受給世帯は、この10年間で18倍に上昇したことが、2008年7月27日付の読売新聞に紹介されていました。

 DVの被害者支援においても、法的・経済的・社会的などさまざまな側面からの支援のみならず、被害者の属性に基づいた個別具体的な支援が求められます。

格差・貧困は、「男性」の問題?

 公的領域、とりわけ雇用の場における男女共同参画社会の実現に向けて、どのような課題を抱えているのかをみていきたいと思います。近年、「格差」「貧困」という言葉を聞かない日はありません。では、日本において、「格差」「貧困」は、近年、突然現れた問題なのでしょうか。そうではなく、若い男性が「貧困」になって、「格差」と「貧困」に社会が注目するようになったのではないでしょうか。一家を養うべき男性が稼げないから問題だと。

 龍谷大学の脇田滋さんによると、家計補助的賃金の非正規雇用労働者が広がった背景として、80年代に、主婦のパートタイム労働が先行し、それがフルタイムの非正規雇用に広がったことが日本的特徴で、これは、世界に例がない差別的待遇であるということです。以前は日雇い労働者が基準だった最低賃金は、その後、主婦パートの家計補助的賃金が基準になってしまったとも言っています。 

 首都大学東京の江原由美子さんも、女性と若者の非正規雇用労働問題の関連を論じています。

 女性たちは一貫して働いてきました。高度経済成長期の労働力不足から女性の労働力が注目され、1985年には、男女雇用機会均等法も作られました。法整備の一定の進展にもかかわらず、男性と女性の根本的な賃金の格差是正は進まず、賃金格差が先進国の中で最も大きいのが日本です(図1)。

 男女間賃金格差

図1 男女間賃金格差(『男女共同参画白書平成19年版』内閣府)

 また、女性の就労率が向上している一方、グローバル化による企業の競争激化に伴う労働市場の柔軟化や規制緩和を背景に、女性が、「雇用調整弁」として、ますますパート労働、派遣労働等の非正規雇用に多く就かされるようになっています。雇用人口のうち女性は41.4%を占めますが、そのうち53.4%が、臨時、派遣、契約、アルバイト、パート、嘱託、日雇いなどの非正規労働者です(図2)。

雇用者構成

図2 雇用形態別にみた役員を除く雇用者(非農林業)の構成割合の推移(『男女共同参画白書平成20年版』内閣府)

   労働条件の低位さ、雇用の不安定さ、セイフティネットの不十分さなどによって特徴づけられる日本のパート労働は、女性たちによって担われてきました。家事・育児のほとんどは現在も女性によって担われているため、特に、出産後の再就職の女性は、家事・育児との両立のために、パートを選ばざるを得なくなることも多く、企業は足元を見て、保険料を半分負担しなくていいような形や低賃金で女性を雇用、しかも、企業の都合でやめさせやすい雇用形態として利用されているので、女性の雇用者に占めるパート労働者の比率はどんどん高くなってきました。

 今、「派遣切り」などがニュースで取り上げられていますが、派遣労働者の7割は女性です。パート労働者も含めて賃金を比較すると、男性の賃金を100とした場合、女性の賃金の対男性比率は、50.9(1970年)⇒51.8(1985年)⇒51.0(2000年)で変動がありません。

 過労死・過労自死、自殺、うつ病、メンタルヘルス問題、アルコール依存、DVやパワーハラスメントなどが、男性が抱える問題として社会問題となっています。男性の長時間労働も問題視されていますが、男性の労働時間が長時間化する背景には、女性による、家事・育児(アンペイドワーク/無償労働)と仕事(ペイドワーク/有償労働)の両立というさらなる長時間労働があることを忘れてはなりません。

 男性には、生産労働者・賃労働(ペイドワーク)者、基幹労働者、主たる家計維持者としての役割が課せられます。そのため、男性は正社員として採用され、家族に対するさまざまな手当を企業や行政から受けられる代わりに圧力となる長時間労働。

 一方女性は、再生産労働者、不払い労働(アンペイドワーク)者、主婦、家計補助者としての役割が課せられます。出産によって多くの女性が退職へと追い込まれますが、その後、正社員としての再就職は難しく、家事・育児の時間が長い女性たちは「男性並み」に働けないから低賃金となり、扶養してくれる男性がいるという前提によって、パートタイムの労働者として採用され、セイフティネットも不十分、雇用条件も不安定、労働条件も低位という労働環境に置かれてきました。

 こうしてつくり出されてきた社会が「あたりまえ」という社会意識を生み出し、それらを基盤にした社会のしくみがつくられていくと、女性は、結婚退職・出産退職が「あたりまえ」、転勤や残業ができない女性は総合職ではなく、一般職が「あたりまえ」、結婚や出産によって勤続年数が短いので、補助的な仕事が「あたりまえ」、男性並みに働けないし、女性は養ってもらえるから、低賃金や非正規雇用が「あたりまえ」、女性が管理職になれないのは「あたりまえ」、採用・昇進・仕事の割り振りでも男性に比べて不利に扱われるのは「あたりまえ」、女性の仕事はたいしたことないという意識やしくみが維持・強化されてきました。

 2008年の国税庁調査によると、「ワーキングプア」と呼ばれる人の数は、1032万人にのぼっていますが、年収200万円以下の「ワーキングプア」は、女性が43.6%、男性は9.6%です。一方、年収が700万円を超える人は、女性はわずか3.0%ですが、男性は21.6%と5人に1人です(図3)。

給与所得者の構成 

図3 給与階級別給与所得者の構成割合(『男女共同参画白書平成20年版』内閣府)

 既婚女性パートの家計補助的賃金が最低賃金や非正規雇用の賃金を低く抑えてきた結果、日本の非正規雇用の賃金は、他国に比較しても、正規雇用との格差が非常に大きいという問題があります(図4)。しかし、非正規雇用の低賃金の問題が実はどこから派生してきたのかという問題については、長らく議論もされず、また取り上げられもしませんでした。

パートタイム賃金 

図4 パートタイム賃金の国際比較(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3344.html)  

 近年、「貧困」「格差」や、それらと大きく関連している非正規労働者の問題がクローズアップされるようになってきたのは、若い男性がそうした職に就くようになったから、問題として議論されるようになったのではないでしょうか。既婚女性パートの家計補助的な低賃金労働を「あたりまえ」として無視してきた結果、ワーキングプアの問題として若者へと広がったのではないでしょうか。

 非正規労働者では、男性が本来果たさなければならない生産労働者・賃労働(ペイドワーク)者、基幹労働者、主たる家計維持者としての役割を果たせないから、低賃金や不安定雇用は問題だとされるのに、女性の低賃金は「あたりまえ」、女性の非正規雇用や不安定雇用は「あたりまえ」とされて、無視されてきたのはなぜでしょうか。

 2008年11月20日付の四国新聞には、次のように書かれています。 

 こんなことを口にするワーキングプアの若い女性もいる。「非正規雇用者の集会に行くと、男性たちが『こんな低賃金では結婚して妻子を養うことができない』と言う。女性の低賃金は問題ではないのでしょうか」。

 女性が声を上げても男性の賃上げが優先されてきた状況を変えようと、市民団体の女性たちが呼び掛け人となって「女性と貧困ネットワーク」が設立された。家計の安定のために妻もよい収入を得たいと望んでいる。結婚しない女性は自立できるだけの収入が必要。そうでないと貧困の高齢女性が増えるだけだ。

 

《後編へ続く》

 

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