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  2012年度人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」活用のための連続講座報告~授業展開のアイデアを紹介!~

 三重県教育委員会 人権教育課 調査研修グループ

1 はじめに

 三重県教育委員会は2012年3月に人権学習指導資料「気づく つながる つくりだす」を発行しました。この指導資料をよりよく活用するための講座を、今年度3回実施します。ここでは8月3日に開催した第1・2回講座について報告します。

 まず人権教育課より、指導資料で取り上げたテーマの設定理由やねらいについて、ワークシートを用いた指導の略案も例示しながら説明しました。例示した略案は下記より見ていただけます。 全体会

   提示した指導略案  

  部落問題  

  障がい者の人権  

  外国人の人権  

  子どもの人権  

  女性の人権

 その後、参加者にも「自分なら、自分のクラスなら、どんな導入をするか? どんな展開が効果的か?」を考え、指導略案を作成していただきました。短時間でつくっていただいたのですが、「なるほど!」と思わず膝を打つようなアイデアや、「なるほど~」と深く頷くような工夫をいくつも出していただきました。

 2 参加者のアイデア紹介

※以下の(P.--)は、人権学習指導資料内のページを示す。

 ◆ 「違いをどうとらえる?」ワークシート1「日本に来て、『あれっ?』と思ったこと」(P.56)

① 事前学習として、日本人から見て「あれっ?」と思う外国の文化や習慣等を、一人3つ調べてくる。
② 調べてきたことを小グループで交流し、まとめたものを全体で交流する。
③ その上でワークシート1を配付し、日本人が外国のことを「あれっ?」と思うのと同様に、日本にも外国の人から見たら「あれっ?」と感じることがあることに気づかせる。
④ まとめとして、現代は多文化共生が不可避な時代になっていることを確認し、その中で生活していくために必要な姿勢について考える。

 まず自分たちから見て「あれっ?」と感じることから入ることで、外国人から見れば、日本に「あれっ?」と思うことがあるのも当たり前だということを、自然に受けとめられるようになると考えられます。  

◆「防ごう! 児童虐待」 ワークシート2「児童虐待はなぜ起こる? どうすれば防げる?」(P.63) 

① 授業者が自分の子育てのエピソードを話す。笑っている子どもの写真や、子どもの成長の喜びを綴った日記などを提示し、子どもを大切にした、楽しい子育てをイメージさせる。
② ワークシート2のAさんの設定を、授業者の経験に置き換えて提示する。
③ Aさんを助けるためにできることをグループで話し合う。
④ 「実はAさんは自分のことだ」と伝える。最初に提示した子どもを愛する思いを日記に書いた人と、育児に悩むAさんが同一人物であることを伝え、どんなに子どもを大切に思っていても、状況によっては誰でも児童虐待に陥る可能性があることに気づかせる。

 児童虐待に関する授業をした方からは、「生徒たちに『自分もしてしまう可能性がある』という意識をもたせることは、なかなか難しい」という声をしばしば聞きます。しかし、この展開であれば、多くの生徒がイメージできるのではないでしょうか。そうなれば、その後の「どうすれば防げるか」についての学習にも自分の問題として取り組めると思われます。授業者が自分の経験を話すことは、生徒が身近な問題として考えるためのとても有効な手立てになであると思われます(他にも同様の手立ての案がありました。後のでまとめて紹介します)。 

◆「バリアのない社会をつくる」 ワークシート1「入れないレストラン」(P.80)

① 3~4人のグループで、自分の好きな飲食店を紹介し合い、みんなで行きたい店を一つ決める。
② 設問1をアレンジし、「スポーツ大会でケガをし、1ヶ月間、車いすを利用することになった『私』がその店に行ったら?」という設定で考える。(1)「私」「友人」、(2)「店員」の二つの立場に分けて、その店に行ったらどうなるかをロールプレイを通して考えさせる。
③ ワークシートのもとのエピソードを提示し、恒常的な車いすの利用者の場合についても考えさせる。もし②の場合と考え方が変わったら、なぜ変わったのかも考えるように指示する。
④ いい店かどうかを判断する際に、バリアの有無という観点もあってよいことに気づかせる。バリアフリーとユニバーサルデザインの学習につなげる。

 「自分の好きな飲食店」で、「自分がケガをして車いすを使っていたら」という、いつ現実になってもおかしくない設定で考えさせることで、生徒たちは店に行くときの不安感や、利用を拒否されたとしたらそのときの残念な気持ちなどを、具体的にイメージしやすくなると思われます。また、このワークシートのみで完結させず、次の学習につなげる視点も出していただいています(部落問題や女性の人権に係わる学習を講演会と連動させて行うというアイデアも別の参加者から出されました)。

略案作成

  これ以外にも、いろんなアイデアがありました。ポイントのみ紹介します。

A 身近なこととして考えられるようにするための工夫

  • 「防ごう! 児童虐待」(P.61)の導入に、生徒の2~3歳ごろの写真を使う。事前に集めておき、プロジェクター等で提示しつつ、「この子は誰でしょう?」とクイズを行う。この活動を通じて自分の幼かったころを振り返ることで、子育てを身近に考えられるようにする。
  • 「バリアをなくすモノづくり」(P.81)のまとめを、「文化祭でレストランの模擬店をすることになった。場所は2階の教室。どんな工夫ができるか?」を考える学習活動にする。
  • バリアフリー、ユニバーサルデザインについて、最寄り駅や身近な施設など、具体的な場所を思い浮かべながら考える展開にする。

B 生徒の持っている体験を活かすための工夫

  • 部落問題について、小中学校で学んだことを出し合う活動を最初に行う。
  • 「『打ち明ける』こと、『つながる』こと」(P.46)を行うにあたって、小中学校での人権学習の取組等において「自分のことを伝えてよかった」という経験をもっていると思われる生徒と、事前に個別に話をする。その経験を通じて感じたこと・考えたこと等を授業で話してもらうように促す。
  • 「もし、あなたが採用面接官なら?」(P.74)の学習の導入で、アルバイト等の就業経験のある生徒に、面接でどんなことを聞かれたか等話してもらう。

C 自分の学校の状況に合わせた工夫

  • 「パートナーに求めること」(P.20)の「パートナー」を「友だち」に置き換えて考える活動にする。友だちの良いところを再発見・再認識できるような展開にする。
  • 「知ろう!考えよう!~韓国について~」(P.32)を、韓国の姉妹校との交流活動や韓国語の授業と関連づけて展開する。

D 視覚化し理解や思考を深めやすくする工夫

  • 「パートナーに求めること」(P.20)の学習で、グループで意見をまとめ、発表する。各グループの1~3位を板書することで、「出身地」「国籍」「家族」のことよりも、「価値観の一致」「人間性」等が上位にくることを視覚的にわかりやすく提示する。
  • 「『性』を多面的にとらえるための4つの要素」(P.39)について説明し、下のスケールを活用しながら、授業者自身を例に出して、「性」のありかたは「男か女か」だけではなく、多様であることに気づかせる。生徒にも自分自身について考えさせる。  スケール 
  •  「もし、あなたが採用面接官なら?」(P.74)の設問2を模造紙と付箋を使った展開にする。

①付箋を一人3枚ずつ配付し、採用面接官として聞きたい質問をそれぞれに書く。

②小グループで交流しながら模造紙に貼る。似ている意見はまとめる。

③各グループで、3つに絞り、なぜその質問をしたいのか、理由も考え、全体で発表する。

 E 授業者が自分の経験を話す

  • 部落問題の学習に先立って、担任・副担任が「部落差別との出会い・思い」等を話す。
  • 「関係ないよ! そんなこと」(P.45)の学習に先立って、友人から打ち明ける手紙をもらったときに、自分が何も返せなかった事例を話す。「何もできなかったという心の痛みが30年以上経った今でも残っている。どうしたらよかったのか、私にアドバイスするつもりで考えてほしい」と伝える。
  • 「防ごう! 児童虐待」(P.61)の中で、授業者が、自分の子育ての体験を話しつつ、「子育てを通じて親は成長させてもらっていること」「愛情を注ぐ対象があることの幸せ」等を実感として伝える。

F 授業者の知識や専門性を活かした展開にする

  • 障がい者の人権に係わる学習の導入として、ヘレン・ケラーや中村久子、自分の知人等、自分がよく知っている障がいのある人について話す。
  • 「性のありかた いろいろ」(P.37)の中で、受精後の性別分化の仕組みを生物学的な事実として提示し、「性」が「男・女」の両極だけでなく、その間に無数の分化段階があることが自然であることを伝える。
  • 「違いをきっかけに・・・」(P.58)において、ALT等に協力してもらい、ワークシートにあるエピソードと似た経験を話してもらう。

G その他のアイデア・工夫

  • 「『障がい』ってどんなこと?」(P.25)に係わり、アイマスクや車いす等を利用し、体験活動を行う。
  • 「知ろう!考えよう!~韓国について~」(P.32)は韓国のみについて調べる学習だが、学校や地域にブラジル、中国、フィリピン、ペルー等の人がいれば、それらの国についても調べる。
  • 「防ごう! 児童虐待」(P.61)の学習に係わって、新聞記事や手記等を活用し、虐待が起きている事実を知らせる。また、虐待とは身体的なものだけでなく、ネグレクトや言葉による圧迫なども含まれることを強調する。
  • 「どんなふうに育てたい?」(P.62)の学習の前提として、「多様な生き方が認められるべきであり、結婚して親になるという人生を必ずしも選ばなくてもよい」ということを確認する。
  • 「進路を切り拓く」(P.73)の導入として「統一応募用紙」の意義を説明し、「社用紙」との比較をさせる等の活動を行う。

 分散会

3 おわりに

 今回行ったグループ討議の中で、「子どもの権利」と「頭髪・服装等の校則に係わる生徒指導」との関係について、話題になったグループがありました。「生徒の権利を保障することが大事なのはわかるけれど、学校の規則を守ることの大切さも教えないといけない」。

 両者が対立するものであるかのような印象をもっている方もみえるかもしれません。もし、そのような印象をもつとすれば、生徒指導を「生徒の問題行動に対処する指導」という狭義の見方だけでとらえているからではないでしょうか。2009年に文部科学省から出された『生徒指導提要』(以下『提要』※1)では、生徒指導を「一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動」(第1章‐第1節‐1より引用)と定義しています。

※1 組織的・体系的に生徒指導の在り方を提案した、学校・教職員向けの基本書。文部科学省ームページよりダウンロードできます。

 このことを、「生徒指導を理解する~『生徒指導提要』入門~」(以下、「『提要』入門」※2)では、もう少しかみ砕いて、次のように書いています。

※2 200ページ以上ある『生徒指導提要』のエッセンスを12ページにまとめた入門書。国立教育政策研究所のホームページからダウンロードできます。

 生徒指導とは、社会の中で自分らしく生きることができる大人へと児童生徒が育つように、その成長・発達を促したり支えたりする意図でなされる働きかけの総称のことです。すなわち、学校生活の中で児童生徒自らが、その社会的資質を伸ばすとともに、さらなる社会的能力を獲得していくこと、そしてそれらの資質・能力を社会の中で適切に行使して自己実現を図りながら自己の幸福と社会の発展を追求していく大人になるということ―そうしたことを願って児童生徒の自発的かつ主体的な成長・発達の過程を支援していく働きかけのことを、生徒指導と呼んでいるのです。(「『提要』入門」1より引用)

 「校則に係わる生徒指導」も、このような生徒指導観に基づいてなされるものです。「『提要』入門」では、規則の指導に係わって、次のように書かれています。

 規則を守らない子どもが増えたか否かといったことよりも、そうしたものを自ら進んで守ろうとする意欲や態度が育っているか否かを問題視しようというのが、規範意識に着目する理由です。叱られるのが怖いから・誰かが見ているから等の外圧や強制によってではなく、自発的・主体的に規則等を守ろうとしているか否か、そのような人格が育っているか否かを重視しているのです。(「『提要』入門」3(1)①より引用。下線は人権教育課による)

 「規則を守っているかどうか」という表面的な現象ではなく、生徒一人ひとりが「どのような思いや考えをもってその行動をしているか」が重要だということです。つまり校則に係わる指導とは、「強制的にでも、とにかく規則を守らせればよい」のではなく、「人格の尊重」「自己の幸福の追求」といった基本的な権利の尊重を前提としつつ、社会で生きる主体としての人格を育む取組だと言えます。『提要』では、このような観点を大切にした校則に係わる指導により、教育効果を上げた事例を紹介しています。

 学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため、校則の内容は、児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければなりません。
 校則の内容の見直しは、最終的には教育に責任を負う校長の権限ですが、見直しについて、児童生徒が話し合う機会を設けたり、PTAにアンケートをしたりするなど、児童生徒や保護者が何らかの形で参加する例もあります。校則の見直しに当たって、児童会・生徒会、学級会などの場を通じて児童生徒に主体的に考えさせる機会を設けた結果として、児童生徒が自主的に校則を守るようになった事例、その取組が児童生徒に自信を与える契機となり、自主的・自発的な行動につながり、学習面や部活動で成果を上げるようになった事例などがあります。校則の見直しを学校づくりに活かした取組といえます。 (『提要』第7章‐第1節‐2(3)より引用。下線は人権教育課による)

 ここに示されているのは、「子どもの権利条約」の4本柱の一つである「参加する権利」を大切にすることによって、生徒指導の目的である「社会的資質や行動力を高めること」につながった事例です。

 このように見てくれば、「子どもの権利を保障すること」と「校則に係わる生徒指導」は決して相反するものではないことが、はっきりするのではないでしょうか。

 「社会的資質や行動力を高めること」という生徒指導の目的は、三重県人権教育基本方針に人権教育の目的として掲げた「自分の人権を守り、他者の人権を守るための実践行動ができる力」の育成とも相通ずるものであると言えると考えます。 「『子どもの権利条約』と私たち」(人権学習指導資料P.13)の学習が、「子どもの権利と生徒指導の関係」や「生徒指導と人権教育がより効果的に連携する取組」等を考えるきっかけとなれば嬉しく思います。 

 この「活用のための連続講座」は、12月26日(水)に第3回講座を行います。ここでは各学校での実践例の交流等も予定しています。実施後には還流報告をさせていただきますので、またご覧いただければと思います。

 

本ページに関する問い合わせ先

三重県 教育委員会事務局 人権教育課 調査研修班 〒514-0113 
津市一身田大古曽693-1(人権センター内)
電話番号:059-233-5520 
ファクス番号:059-233-5523 
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