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三重県議会 > 県議会の活動 > 委員会 > 委員会会議録 > 令和2年度 委員会会議録 > 令和2年10月5日 差別解消を目指す条例検討調査特別委員会 会議録

令和2年10月5日  差別解消を目指す条例検討調査特別委員会 会議録

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差別解消を目指す条例検討調査特別委員会
会議録
(開会中)

  
開催年月日   令和2年10月5日(月曜日)午後2時31分~午後4時32分
会議室      601特別委員会室
出席     11名
           委員長     北川 裕之
           副委員長   山崎  博
           委員      石垣 智矢
           委員      小林 貴虎
           委員      小島 智子
           委員      山内 道明
           委員      山本 里香
           委員      稲森 稔尚
           委員      藤田 宜三
           委員      東   豊
           委員      中村 進一
欠席      なし
出席説明員   出席を求めず
参考人       1名
               三重短期大学法経科教授 楠本 孝 氏
委員会書記
           議事課     主査 中西 孝朗
           企画法務課  主任 長谷川 智史
傍聴議員     4名
                     中瀬古 初美
                     津村  衛
                     杉本 熊野
                     舟橋 裕幸
県政記者     なし
傍聴者        なし
調査事項
1 参考人からの意見聴取について
2 その他
 
【会議の経過とその結果】
 
〔開会の宣言〕
 
1 参考人からの意見聴取について
(1)参考人意見陳述

○北川委員長 それでは、参考人からの聴き取りを行います。外国人に対する差別について、楠本様から御説明をお願いいたします。よろしくお願いします。

○楠本参考人 三重短期大学の楠本です。よろしくお願いします。
 本日は、意見を述べる機会を頂きましてありがとうございます。
 外国人差別に関しまして、ヘイトスピーチの問題を中心に意見を述べさせていただきます。
 外国人との共生を目指す施策は、従来、多文化共生政策と呼ばれてきました。そして多文化共生とは、しばしば異文化理解の問題と捉えられがちなんですけれども、本来は、多文化共生とは、異なる文化的背景を持った人の尊厳を尊重するということ、そのように理解すべきものと考えます。このことを、総務省の「多文化共生の推進に関する研究会報告書」の中の多文化共生の定義を参考にして考えてみたいと思います。
 同報告書では、多文化共生とは、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義されています。互いの文化的違いを認め合うとは、多文化共生は、単に異文化を理解するだけではなく、マイノリティーの文化的アイデンティティーと誇りを尊重することでなければならないということを意味します。
 個人がよき生を送るためには、自らのアイデンティティーを他者から適切に承認されることが必要不可欠です。集団への帰属は、個人のアイデンティティーの重要な構成要素の一つです。個人にとって、自らの帰属する集団が軽蔑の対象となったり、その文化がゆがんで理解されたりした場合、自らの集団的アイデンティティーが適切に承認されていないと感じるでしょうし、自らの帰属する集団の文化が正当に評価されていないときは、集団の構成員たる個人にとっても自らが正当に扱われていないと感じるでしょう。
 ただし、ここで注意すべきは、それが文化であれば無条件に尊重されなければならないということを意味するわけではないということです。多くの伝統的文化が女性の教育を否定したり、女性に再生産労働を過度に課したりすること、そのことによって女性の能力を阻害してきました。また、民族文化的には同じ集団に属するといっても、誰もが同じ価値観を持ち、皆が自己が属する民族文化に沿った生き方を望むわけではありません。民族文化は尊重すべきものですが、個人の選択の自由はそれに優先するものです。個人が自己の文化的帰属とアイデンティティーを決定することができること、それが重要だと考えます。
 次に、対等な関係を築くとはどういうことでしょうか。
 外国人と受け入れる社会の間で双方向的に努力する関係、それをつくり出すことがこの対等な関係を築くということの意味だと思います。多文化社会は、受入れ社会のルールや常識を見直し、それに合理的根拠がなければ改める覚悟を受入れ社会に求めるものです。
 「郷に入っては郷に従え」ということわざの意味は、立場が変わると意味が180度転換します。外国人の立場から発するときは、受入れ社会の文化を尊重するのが賢明だという意味になりますけれども、受入れ社会の人がこれを発すると、外国人に同化を強制する言葉になります。同化の強制は、しばしば異なる文化的背景を持った人の尊厳を無視することにつながりやすいと思います。
 しかし、このことは、多数派を基準につくられた社会のルールが少数派の文化的実践に負担を課すとみなされたときは、そのような不利益の是正として、安易に統一的なルールから少数派を免除することを求めるものではありません。重要なのは、ルールや常識の根拠を検証することだと思います。一部の集団に対して適用を免除して構わないほどに統一的なルールを課す論拠が薄弱ならば、免除の是非を問うまでもなく、ルール自体を撤廃すべきですし、逆に統一的なルールを課すべき確固とした公の目的が存在するならば、マイノリティーに対しても公の目的の追求を妨げるような行為を許容すべきではないのです。
 3番目に、地域社会の構成員として共に生きていくとはどのような意味でしょうか。
 外国人住民と日本人住民が協働して地域社会を築いていくということを意味すると思います。
 外国人に文化選択の自由が認められ、外国人と日本人が対等になったとしても、お互いの間で積極的な交流が行われなければ共生社会を築くことはできません。異文化に対する寛容だけでは不十分です。外国人の文化に干渉しないし同化も求めないけれども、隣人として暮らすのは避けたいというすみ分けの思想は、結果として外国人コミュニティーの孤立を招くおそれがあります。
 大災害時には、外国人住民と日本人住民が共同して避難所を運営していく必要があります。共に暮らすことに心理的な抵抗がある状態では、多文化共生の避難所運営はできないでしょう。外国人住民と日本人住民が協働して災害を克服するためには、日頃からお互いの間で積極的な交流が行われていることが必要なのです。
 以上のような多文化共生の考え方を基に、ヘイトスピーチ問題について考えていきたいと思います。
 我が国は、1995年に人種差別撤廃条約に加入しましたが、その際、同条約が人種差別的表現の処罰、それから、人種差別的団体への加入の処罰を締約国に義務づけている第4条a、bに、日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において、これらの規定に基づく義務を履行するという留保をつけました。
 そこで、日本国憲法が保障する表現の自由の保障に抵触しないような形で差別的表現を規制することは可能なのかということが問題になりました。
 当時支配的であった憲法学説では、表現の自由の保障は、国家の干渉がなく、全ての思想が市場に登場することを認めれば、思想の自由競争の結果、人格の実現や民主主義の維持、発展にとってよい結果が達成されるという「思想の自由市場」論というものを基礎にしていました。「思想の自由市場」論の下では、差別的表現のような問題のある言論についても言論で対抗するのが筋である、これを「対抗言論の原則」と申します。言論で対抗するなどといった悠長なことを言っていられない緊急の場合にのみ、思想、意見の流布を規制することが許されるとされていました。これを「明白かつ現在の危険の法理」と申します。その結果として、確かに現在の日本において差別表現は頻発しているが、それを規制しなければ重大な事態が生じるような状況にあるとは考えられないという認識が一般的なものだったと言えると思います。
 このような状況を一変させたのが、2009年から2010年にかけて起こった京都朝鮮学校事件でした。
 京都朝鮮学校へのヘイトデモは、その映像がインターネット上に公開されたこともあって日本社会全体に広く知られるところとなり、また、このヘイトデモがもたらした被害者、児童、教師、保護者への影響も、複数の詳細なレポートによって明らかにされました。その結果、京都朝鮮学校事件は、ヘイトスピーチの害悪について単なる名誉感情の問題だと見るべきではなく、人間の尊厳に関わるものであるということを当事者以外の者にも実感させる契機となりました。
 この事件そのものについては、刑事上は侮辱罪、業務妨害罪等で有罪が確定し、民事上は高額の損害賠償請求を認める判決が確定しましたが、裁判所が示した被害観には伝統的な法学的思考の限界がありました。
 裁判所は、単に人種差別がなされたというだけでなく、これにより具体的な損害が発生している場合に初めて、民法第709条に基づき、加害者に対し被害者への損害賠償を命じることができるのであって、一定の集団に属する者の全体に対する人種差別発言が行われた場合に、個人に具体的な損害が生じていないにもかかわらず、人種差別行為がなされたというだけで裁判所が当該行為を民法第709条の不法行為に該当するものと解釈し、行為者に対し、一定の集団に属する者への賠償金の支払いを命じるというようなことは、不法行為に関する民法の解釈を逸脱していると言わざるを得ず、新たな立法なしには行うことができないものと解されると判示したのです。
 このように、既存の法的枠組みでは、差別表現が特定の個人や団体に向けられている場合には刑事上は侮辱罪や名誉毀損罪、民事上は不法行為に基づく損害賠償の対象となり得ますけれども、集団に向けられたヘイトスピーチは、単独で犯罪となるものではないことはもちろんのこと、民事上も単独で不法行為となるものではないとしたわけです。
 2016年5月24日に成立しましたヘイトスピーチ解消法は、このような被害観に大きな変更をもたらしました。
 ヘイトスピーチ解消法は、その前文で、本邦外出身者を我が国の地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動が本邦外出身者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な亀裂を生じさせているという被害の認識を示した上で、このような不当な差別的言動はあってはならないと宣言しました。
 また、同法第2条は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の定義を示していますが、その生命、身体、自由、名誉もしくは財産に危害を加える旨を告知し、または著しく侮辱する対象である本邦外出身者は、特定人である必要はありません。本邦外出身者である集団一般に向けられた不当な差別的言動が、個人としての本邦外出身者に多大な苦痛を強いているとの認識が示されているのです。名誉毀損や業務妨害等の既存の不法行為類型や犯罪類型に当てはまらない場合でも、個人に具体的な被害が生じていることが法律の文言によって明確にされたということは、これまでの被害観に大きな変更を迫るものです。
 しかし、ヘイトスピーチ解消法は、人種差別の撤廃を目指した基本法ではなく、在日外国人に対するヘイトスピーチの解消に特化した、しかもヘイトスピーチを処罰する規定はおろか、これを禁止する条項も持たない、いわゆる理念法です。ヘイトスピーチ被害者が多大な苦痛を強いられているにもかかわらず、法はなぜこれを禁止、あるいは処罰しなかったのでしょうか。
 法案の発議者は、表現の内容を規制することは表現行為の萎縮効果をもたらすおそれがある、あるいは、公権力が個人の表現の自由や内心の自由に関わるようなところに入っていくべきではないということを理由にしています。
 これは、表現の自由を「思想の自由市場」論から理解し、憲法は表現の内容に基づく規制を禁止していると理解したものと思われます。中でも憎悪や侮辱観をかき立てる表現一般ではなく、本邦外出身者であることに基づく言動のみを目がけて規制するのは、一つの観点に立って取り締まるべき行為を選別するものであって、表現内容に基づく狙い撃ちになってしまうと理解されたものと思われます。ヘイトスピーチ規制の積極論と消極論の対立の根本がこの点にあります。表現の自由の伝統的立場からは、ヘイトスピーチの規制は、特定の観点に立って取り締まるべき行為を選別することを禁止する、いわゆる観点規制の禁止の法理を支持していまして、この観点規制の禁止の法理に従いますと、ヘイトスピーチの規制は違憲の疑いがあるとされます。
 この法理の核心部分は、国家がある思想を正当として提示したり、逆にある思想を異端として排除することによって表現行為にペナルティーを科すことを禁止することにあります。差別的表現規制は、人種差別はよろしくないという観点を国家が選び出して狙い撃ちしている観点規制の典型に該当します。思想の自由市場の原理からすれば、人種差別という思想それ自体の是非は永遠に争われるべきものであり、その是非は、国家ではなく市場に委ねられるべきものというわけです。
 このような観点規制の禁止、一定の観点に立って表現を規制することの禁止というのは、表現の自由を保障するという点ではその保障範囲を最大化する、そのことによって社会全体の利益を最大化する、そういうものかもしれません。
 しかし、それによってヘイトスピーチの規制が許されないということになれば、社会全体の利益のためのコストを特定の人々が負担し続けなければならないということを意味します。しかもその負担を強いられる人々は、社会で最も弱い立場にあって、一般の人々よりも多くのコストをしばしば負担しなければならない地位に置かれている人々なのです。また、そのコストが単なる不快という程度であるならば、社会全体の利益のために受忍すべきものと言えないこともありませんが、それが人々の尊厳に関わるほどのものであるなら、そのような状態を放置する社会はもはや公正な社会とは言えないのではないでしょうか。
 観点規制の禁止は、それがヘイトスピーチ規制に反対するために援用される場合には、人々の尊厳が公平に尊重されるという社会の倫理的基盤を掘り崩す法理にもなりかねないのです。それゆえ観点規制の禁止の法理も絶対的なものではなく、ヘイトスピーチがもたらす害悪の程度によっては後景に退くべきものなのです。それにもかかわらず、観点規制の禁止に抵触するからヘイトスピーチの規制は違憲となるとの単純な議論は、ヘイトスピーチの害悪を矮小化することを前提にしたものと言わなければならないと思います。
 それでは、ヘイトスピーチのもたらす害悪とは何でしょうか。
 ヘイトスピーチ解消法は、不当な差別的言動が惹起する害悪を、本邦外出身者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な亀裂を生じさせることだとしていますが、その苦痛の具体的な内容は規定されていません。これが単なる不快を意味するものでないことは言うまでもありません。社会通念上、明らかに受忍限度を超える精神的な侵害を指すと解すべきでしょう。
 それでは、この受忍限度を超えた精神的侵害というのはいかなる場合に発生するのでしょうか。この問いに答えるために参考となるのが、平成28年6月2日の川崎ヘイトデモ禁止仮処分決定です。
 この決定は、ヘイトスピーチの危害から保護されるべき利益について、「何人も、生活の基盤としての住居において平穏に生活して人格を形成しつつ、自由に活動することによって、その品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から評価を獲得するのであり、これらの住居において平穏に生活する権利、自由に活動する権利、名誉、信用を保有する権利は、憲法第13条に由来する人格権として、強く保護され、また、本邦に適法に居住する者に等しく保障される」ものであると一般論を述べた上で、次のように言っています。「本邦外出身者が抱く自らの民族や出身国・地域に係る感情、心情や信念は、それらの者の人格形成の礎を成し、個人の尊厳の最も根源的なものとなるのであって、本邦における他の者もこれを違法に侵害してはならず、相互にこれを尊重すべきものである」と判示しました。
 ヘイトスピーチの害悪を捕捉する上では、この決定は非常に重要な意味を持っていると思います。この点について、ヘイトスピーチの規制消極論者は、個人主義の建前からして、各人が何を人格形成の核に据えるかは各人が自由に決めるべき事柄のはずであり、公権力がある集団に属する人々の人格形成の基礎を特定するには、非常な慎重さが求められるはずであると、この決定を批判します。
 しかし、見方を変えれば、ヘイトスピーチは、何を人格形成の核に据えるかは各人が自由に決めるという誰にでも等しく認められるべきことを本邦外出身者については承認せず、国籍や民族といった属性に人々を縛りつけようとするものであるからこそ、裁判所はあえて誰にでも承認されるべき原則を確認しようとしたものとも言えるのです。ヘイトスピーチは、自分の属する国家や集団に愛着を持つ者の信条を破壊しようとする言説であると同時に、国家や集団から自分自身を切り離して一人の個人でありたいと願う者を元の国家や集団の属性に縛りつけ、解放を妨げようとする言説でもあるのです。
 以上のようなヘイトスピーチ及びヘイトスピーチ解消法の理解に立って、現在喫緊の課題になっています公共施設の利用制限問題について考えてみたいと思います。
 ヘイトスピーチ解消法は、さきにも述べましたように、理念法にすぎないものですが、ヘイトスピーチが被害者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な亀裂を生じさせているという認識に立って、国と地方公共団体に本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関する施策を実施する責務を課しています。法は、具体的にどのような施策を取るべきかについては何も規定していませんが、この法の規定が他の法令の解釈指針となることは否定できません。
 そこで、各自治体の公共施設に関する条例に設けられている「公の秩序又は善良な風俗を乱すおそれがあると認められるとき」とか、「施設の管理上支障があると認められるとき」といった使用制限の規定を解釈するに当たってヘイトスピーチ解消法の規定を解釈指針とすることが求められ、その帰結として、ヘイトスピーチが行われるおそれが客観的事実に照らして具体的に認められる場合には、国や地方公共団体は、その管理する公共施設を利用させてはならないということになるのではないかが問題にあります。
 まず、ここで集会の自由に関する既存の法の枠組みを確認しておきたいと思います。
 憲法第21条第1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定しています。集会の自由は、広義の表現の自由の一形態であり、言論、出版の自由と同じく、自己実現と民主政の維持、発展という二つの価値を充足する機能を営むものと解されています。
 ただ、集会は、多数人が集まる場所を前提とする表現活動であり、集団行進など行動を伴うこともありますから、特定メンバーの非公開集会の場合はさておき、公共施設ないし公共の場所を使用して行われる公開集会の場合には、他者の権利、自由と矛盾、衝突することがあり得ます。そこで、権利、自由相互の矛盾ないし衝突を調整するため、集会の自由は、人権のカタログにおいて高度の価値を持つ権利であっても、言論、出版の自由と異なる特別の規制に服せしめる必要があります。言い換えれば、集会の自由と同じ程度に重要な価値を有する法益を保護するために必要不可欠な最小限度の制約を受けることは、集会の自由に内在する制約であり、やむを得ないものとされるのです。
 また、地方自治法第244条第2項は、「普通公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と規定し、同条第3項は、「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない」と規定しています。これらの規定は、公民館や市民ホールのように集会への提供という明白な設置目的を有する公共施設については、住民に対し、地方公共団体に公の施設の利用を請求する権利を認めたものと解されます。
 それでは、第244条第2項の公の施設を利用することを拒むことができる正当な理由とは何でしょうか。
 従来、これについては、施設の物理的な管理上支障があると認められるときや利用の希望が競合するときといったことのほかに、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合があるとされてきました。集会の自由と他の基本的人権が衝突する場合に、どのような基準によって集会の自由の制限の可否を判断すべきか、様々な見解が唱えられていますが、支配的な議論の傾向は以下のようなものです。
 まず、集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことは許されないということを前提としつつ、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を比較衡量して、集会の自由の制限が必要かつ合理的なものとして肯認される限りは、集会の自由を不当に侵害するものではないとする、いわゆる利益衡量論が支配的であると言えます。
 さらに、利益衡量に際しては、集会が開かれることによって他の基本的人権が侵害される危険性の程度が問題になり、その危険性がどの程度であれば集会の自由の制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかを決する基準が必要になりますけれども、集会の自由のような精神的自由を制約する場合に求められる危険性の程度は、経済的自由の制約の際に求められる危険性の程度より高度なものでなければならないとされ、このような判断基準として、「明白かつ現在の危険」の原則が援用されるのが通常であると言えるでしょう。
 以上のような従来の法の枠組みと、ヘイトスピーチ解消法が打ち出した新しい要請とはどのように調整されるべきでしょうか。
 ヘイトスピーチ解消法の成立より早く、2016年1月15日に大阪市は、橋下市長の時代ですけれども、大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例を制定しましたが、この制定に先立って、2014年9月に大阪市長から大阪市人権施策推進審議会に対し、市民の人権を擁護する観点から、「憎悪表現(ヘイトスピーチ)」に対する大阪市としてとるべき方策について諮問が行われ、同審議会に専門的観点から検討を進めていくための検討部会が設置されました。
 この検討部会の「ヘイトスピーチに対する大阪市としてとるべき方策について(報告)」は、地方自治体である大阪市としては、国の人権救済制度の補完的な役割を果たすことを基本として独自の方策を実施することが適当であるとの立場から、事前に規制することは憲法が保障する表現の自由の観点から慎重であるべきことや、表現内容がヘイトスピーチに該当するかどうかについては、その内容を確認しなければ判断できないことから困難であり、事後的な救済が主とならざるを得ないとして、ヘイトスピーチを理由として公の施設の利用を拒否することは極めて困難であるとしました。
 この検討部会の結論は、最高裁判例に対する以下のような認識を前提としています。
 すなわち最高裁判例では、「集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として、使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことは許されない」とされており、ヘイトスピーチをこれまでに行っている、または行うと思われる団体であることのみを理由に、公の施設等の利用を制限するような趣旨を条例に設けることはできない。
 最高裁判例では、施設の利用制限に合理的な理由があるとして認められる場合として、「会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合」や、「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなどの特別の事情がある場合」でなければならないとされており、当該利用者が施設を利用することに伴い、「管理上支障が生じる」、「混乱を防止できない」といった状況が客観的かつ具体的に予測されることが必要である。このような最高裁判例の趣旨から見て、ヘイトスピーチが行われることが想定されることだけをもって事前に公の施設の利用を拒否することは極めて困難であるとされました。
 この大阪市の部会報告書は、最高裁判例の趣旨をこのように理解するに至った参考判例として、泉佐野市民会館事件と上尾市福祉会館事件とを挙げています。しかし、この2つの判例は、暴力的な混乱が予想される集会の施設利用に関するもので、集会の自由に対抗し得る法益として想定されているのは、人の生命、身体または財産に限られていて、人格的利益は考慮されていません。ヘイトスピーチでは人格的利益の侵害が問題になるのですから、これらの判例からヘイトスピーチ団体に対する公共施設利用制限に対する最高裁の立場を推測することには疑問があります。さらに、ヘイトスピーチ解消法が成立した現時点では、同法が地方公共団体に対してヘイトスピーチ解消に向けて課している責務との関連についても、併せて検討しなければなりません。
 次に、ヘイトスピーチ解消法成立後の状況を見たいと思うんですけれども、ヘイトスピーチ解消法成立後間もない2016年7月13日に川崎市長は、川崎市人権施策推進協議会にヘイトスピーチ対策に関することを優先的に審議するよう要請し、同協議会は、多文化共生社会推進指針に関する部会で集中審議をしました。
 部会の最終報告では、川崎市でのヘイトスピーチ、ヘイトデモは、多文化共生社会の実現に取り組んできた川崎市、川崎市民、川崎の市民社会への攻撃であると捉えた上で、川崎市は、これまでの施策から一歩踏み出すべきであるとの判断が示されました。国の施策の補完的な役割にとどめるべきとしていた大阪市の姿勢と著しい対照をなしています。
 以上のようなヘイトスピーチに向き合う基本的な姿勢の違いが規制の在り方の提言に反映されました。大阪市がヘイトスピーチに該当するかどうかはその内容を確認しなければ判断できないとして、あくまで事後的な規制にとどめたのに対し、川崎市は、「市民館の一室や市の公園などの公共施設でヘイト集会が行われることが疑いなく明白な場合にその利用を許可することは、市が差別行為を承認したことになるので、基準を明確にした上で、不許可とすべきである」として、公共施設の利用について事前規制に踏み込むことを提言しました。
 事前規制にはもちろん違憲のリスクがあります。しかし、川崎市には、ヘイトスピーチ解消法成立後施行前に、当該申請者が過去において成立した法で定める言動などを行ってきた事実に鑑み、今回も同様の言動が行われる蓋然性が極めて高いと判断し、不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守るという観点から、ヘイトデモをめぐる公園使用を不許可とした実績がありました。
 川崎市の部会報告は、この実績を踏まえて、この川崎においてヘイトスピーチが行われ、実際に川崎市民に被害者が出ていること、川崎市の公的施設においてヘイトスピーチが行われることが客観的な事実に照らして具体的に明らかに予想されたことから、市長が利用を不許可としたこと、今後、いつ同様な利用申請が出されるか分からないことなどを考慮して、ヘイトスピーチに対しては公的施設の利用を制限するというガイドラインを設けることは、ヘイトスピーチ解消法第4条第2項に言う「当該地域の実情に応じた施策」であると言えるだろうとしました。
 これを受けて川崎市人権施策推進協議会は、公的施設の利用については、憲法及び地方自治法の観点から許可を原則としなければならないが、ヘイトスピーチによる市民の被害を防止するため、市が所管する公共施設においてヘイトスピーチが行われないよう対処する必要があり、不当な差別的言動が行われるおそれが客観的事実に照らして具体的に認められる場合には不許可とすべきである、この判断に際しては客観的な基準が必要であり、そのためには条例を制定または改正すべきであるが、当面は各施設の既存の条例の解釈を明確化すべく、早急に公的施設の利用に関するガイドラインを策定する必要があると提言したのでした。
 それでは、この提言を受けて川崎市が実際に策定した「公の施設」利用許可に関するガイドラインというのは、違憲のリスクを回避しつつ、ヘイトスピーチ解消法の要請に応えたものになっているでしょうか。
 ガイドラインの骨格は次のようなものです。
 公の施設において利用許可の申請があった場合に、不当な差別的言動の行われるおそれが客観的事実に照らして具体的に認められる場合、これを「言動要件」と申します。そういう場合は、当該公の施設の利用等につき「警告」、「条件付き許可」、「不許可」、「許可の取消し」といった利用制限を行うことができるとされています。
 もう少し正確に申しますと、差別的言動がなされる可能性が高くはないがあると判断されたときは「警告」、可能性が高いが具体的に明らかとまでは言えないと判断されたときは「条件付き許可」とすることができますが、「不許可」や「許可の取消し」をするには、不当な差別的言動が行われるおそれが客観的事実に照らして具体的に認められる必要があります。これが第1点です。
 第2の要件は、利用制限のうち「不許可」と「許可の取消し」については、「言動要件」に加えて、「その者等に施設を利用させると他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが客観的事実に照らして明白な場合」、これを「迷惑要件」といいます。「言動要件」に加えて「迷惑要件」も存在すると判断されたときに限って「不許可」、「許可の取消し」を行うことができるとしました。
 そして、第3に、「不許可」、「許可の取消し」とする場合は、判断及び手続の公正性、公平性、透明性を担保するため、第三者機関から事前に意見聴取を行うという構造になっています。
 全体として、集会の自由の事前規制に関する憲法上の制約をクリアすべく客観性と普遍性を追求したものになっていると評価できますが、マル2の「迷惑要件」については、その必要性に疑問があります。
 「迷惑要件」は、暴力的な混乱が予想される集会の施設利用に関する判例を意識したものですが、「不当な差別的言動」が「本邦外出身者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な亀裂を生じさせる」とのヘイトスピーチ解消法の認識に立てば不要です。ヘイトスピーチ解消法の成立によって、集会の自由を制限する対抗利益として、従来の生命、身体、財産に人格的利益が加わったと解すべきであり、「本邦外出身者」の人格的利益は、騒動など起こらなくても、ヘイトスピーチが行われただけで侵害されるからです。ヘイトスピーチ解消法第4条は、差別的言動が公の施設で行われることを拒否することを地方公共団体のやむにやまれぬ公共的利益として承認したものと解されます。
 次に、この川崎市のガイドライン以後の展開を見たいと思います。
 川崎市のガイドライン策定後、2018年3月に京都府が、京都府公の施設等におけるヘイトスピーチ防止のための使用手続に関するガイドライン、そして同じ年の6月に京都市が、ヘイトスピーチ解消法を踏まえた京都市の公の施設等の使用手続に関するガイドラインを策定しましたが、この2つのガイドラインは、「言動要件」のほかに「紛争のおそれ要件」、先ほどの川崎市のガイドラインでいいますと「迷惑要件」ですけれども、迷惑というような言葉は使わずに、法的な用語に従って「紛争のおそれ要件」を定めていますけれども、それらのいずれかに該当する場合というふうに選択的な要件とされているために、実質的には「言動要件」のみが施設利用不許可の要件となっています。
 それに対して、その後、2019年3月に東京都が策定した「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例第11条に規定する公の施設の利用制限に関する基準」では、「言動要件」と「紛争のおそれ要件」を「両方満たした場合」とされていて、川崎方式に戻った形になっています。私個人の私見では、違憲のリスクを回避しつつヘイトスピーチ解消法の要請に応えるということでいえば、京都府や京都市のように、「言動要件」のみで公共施設の利用を拒否できるというガイドラインの方式のほうが優れているのではないかと考えます。
 しかし、ここに見られますように、近年、主に大都市を中心にですけれども、公共施設の利用制限について、ガイドラインが次々とつくられてきているということが傾向としてございます。
 このことを確認させていただきまして、終わりに、三重県の第四次人権が尊重される三重をつくる行動プランは、「日本人も外国人住民等も、文化や習慣、価値観の違い等の文化的背景の多様性を互いに認めあい、共に地域社会の一員として尊敬し、差別や偏見のない環境のもとで、安心して暮らせる地域社会づくり」を進めていくということを「人権施策基本方針におけるめざす姿」としています。
 そのためには、異なる文化的背景を持った人の尊厳を尊重するために必要なら、我々の社会のルールや常識を見直し、それに合理的根拠がなければ改める覚悟が必要でしょう。また、我々の社会のルールに合理性が認められる場合にも、これを形式的に適用すれば足りるのではなく、そのルールを遵守しつつ、外国人住民の尊厳を傷つけない方策を模索することが共生社会の在り方ではないでしょうか。
 また、同じく行動プランによりますと、ヘイトスピーチ解消法の趣旨を踏まえ、ヘイトスピーチが許されないものであることを周知するなど啓発を行ってきたが、引き続き啓発を行っていく必要があるとされています。
 とすれば、過去にヘイトスピーチを行った団体から同様の言動を行う可能性の高い公共施設の利用申請がいつ出されるか分からないのですから、また、事は憲法上の権利に関わることでありますので、県の施設の利用の可否を担当部局の判断に任せるのではなく、県議会が積極的に関わって、ヘイトスピーチ解消法を踏まえた公の施設等の使用手続に関するガイドラインの策定に向けた議論を開始すべきではないでしょうか。
 以上、雑駁ではございますが、私の意見とさせていただきます。ありがとうございました。

○北川委員長 楠本参考人、御説明ありがとうございました。
 それでは、質疑応答に入る前に、換気のため5分間休憩いたします。
 暫時休憩いたします。
               (休  憩)
 
○北川委員長 それでは、休憩前に引き続き、委員会を再開いたします。それでは、先ほどの御説明を受けまして、委員の皆様から御質疑等をお願いいたしたいと思います。
 なお、念の為申し上げますが、参考人は、挙手により委員長の許可を得てから御発言をお願いいたします。また、委員に対しては質疑をすることができないことになっていますので、御了承願います。
 それでは、御質疑がありましたら、委員の皆様、よろしくお願いします。

○小林委員 ありがとうございます。
 最終的に後段にお話しいただいた公共施設の利用のことに関してお伺いしたいんですが、人格的利益は騒動が起こらなくても侵害され得るということで、そのような状況で、人格的利益が侵害され得る「言動要件」を満たすような行動というんですか、集会というのかはどのようなものなのか、具体的にお聞かせいただけますか。

○楠本参考人 ヘイトスピーチ解消法が制定されて以後、各方面で、具体的にどんな言動が当たるのかということについていろんな例が挙がってきています。
 例えば、これは京都府のガイドラインで示されている例ですけれども、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨の告知としまして、「○○人は殺せ」とか、「〇〇人を海に投げ入れろ」とか、「〇〇人の女をレイプしろ」などの表現。
 それから、本邦外出身者を著しく侮蔑するものとして、「特定の国又は地域の出身である者について蔑称で呼んだり、差別的、軽蔑的な意味合いで「ゴキブリ」などの昆虫、動物、物に例える言動」。
 それから、「地域社会から排除することを煽動する」言動として、「本邦外出身者を我が国の地域社会から排除し排斥することをあおりたてる言動」、例えば、「〇〇人はこの町から出て行け」、「〇〇人は祖国へ帰れ」、「〇〇人は強制送還すべき」など、そういうものが類型的に3類型挙げられています。おおむねどの自治体のガイドラインもこうした3類型の言動を想定しているものと考えられます。
 先ほど申しました京都市のガイドラインは、「言動要件」を、「「不当な差別的言動」が行われることにより、人格権をはじめとする基本的人権を侵害することが、客観性な事実に照らし、具体的に明らかに予測される場合」という「言動要件」の規定の仕方をしています。ここでは人格権というのがガイドラインの中に明確に書き込まれる、そういう例も出てきています。
 以上です。

○小林委員 具体的な表現の内容に関してはお伺いしたんですけれども、公共の施設を使うということを前提としているお話だと思いましたので、要するに、具体的にどんな企画であったりイベントであったりということを想定されているんでしょうか。

○楠本参考人 ガイドラインが想定している、あるいはヘイトスピーチ規制を行うことが想定しているのは、まず、どこかの集会もしくはデモで今言ったような表現が具体的になされたという過去の事実があって、そしてそのような集会と同じものをもう一回やるということを広告して参加者を募っているというような場合が想定されます。
 ですので、全く過去にそういった言動をしていない団体が急に施設利用の中でそういった発言をする、そういうことを予測して規制するということを想定しているわけではなくて、過去にそういった言動を行ったということがあり、そして次の集会でも同じことをやるというふうに広告をして参加者を募っているというような場合が想定されると思います。

○小林委員 デモということになると非常にイメージをしやすいので、示威行為として、拡声器を使うなどして集団で行進をするということで想定されるんですが、集会ということになりますと少し違ってくるんではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○楠本参考人 「迷惑要件」ということに関わってきますと、今、委員がおっしゃったように、何か拡声器だとか、あるいは大勢の人間がシュプレヒコールのような形で上げるということを想定している。恐らく「迷惑要件」を定めている、そのようなガイドラインをつくっているところでも、今、委員が想定されたような拡声器だとか大勢がシュプレヒコールをするというようなことを想定して、そのことによってヘイトスピーチ解消法が解消を目指しているヘイトスピーチの段階に達するというふうに、つまり、単に先ほど言ったような3類型の言葉を発するだけじゃなくて、拡声器を用いたり、大勢でシュプレヒコールをするということで初めてヘイトスピーチ解消法が解消を求めている「不当な差別的言動」の段階に達するというふうに理解している、そういうことかもしれないんですけれども、本来は、ヘイトスピーチ解消法の趣旨からいうと、そうしたシュプレヒコールだとか、あるいは拡声器で大声でどなり立てるということがなくても、先ほど申しましたような3類型の言葉が発せられれば、それだけでヘイトスピーチ解消法が解消を求めている差別的言動に当たると考えます。
 ですから、ガイドラインの中で「迷惑要件」を設けているところと「迷惑要件」を設けていないところの違いは、「迷惑要件」を設けているというところの場合、拡声器を用いたり大勢でシュプレヒコールをするということを含めて、それによって初めて規制すべきヘイトスピーチの段階に達すると考えているのに対して、そういった「迷惑要件」は必要じゃないと考えている、私もそう思いますけれども、それは拡声器だとか大勢で大声を上げてどなるということがなくても、先ほどのような3類型の言動が行われるということで十分ヘイトスピーチ解消法が規制する対象の差別的言動に当たるというふうに考えています。

○小林委員 要約をしますと、すなわち街頭での示威行為でなくとも、屋内の集会で、例えば講演会という形式であって被差別対象者、当事者がいなくとも、声が届かない状況であっても、このような言動がされれば規制をされるべきだという見解だというふうに認識してよろしいですか。

○楠本参考人 それが公共施設と関係のないところで行われるということであれば、何も規制をするということが問題にはならないと思うんですけれども、問題は、それが公共施設を使って行われるということの意味を考えるべきではないかと思うわけです。
 以上です。

○小林委員 公共の施設でということであると、先ほど引用いただいた地方自治法の観点からということですか。

○北川委員長 質問の内容、よろしいですか。

○楠本参考人 従来パブリックフォーラムという考え方がありまして、公の施設とかは言論の自由を保障するために重要な施設であるので、パブリックフォーラムで行われる言論については、原則として規制すべきでないという考え方が非常に強うございました。特にそれはアメリカで非常に強い考え方でありました。
 ただ、そのことが今まで規制の消極論の中心にあったわけですけれども、今回のヘイトスピーチ解消法は、そのことも念頭に置きつつも、国や地方公共団体に対してヘイトスピーチ解消に向けた何らかの施策を行う責務を課しているということからすると、従来パブリックフォーラムという形で手厚く保護されるべきとされてきた公共施設、ですから地方自治法第244条は、原則として拒んではならんということになっているわけですけれども、それでもやはりヘイトスピーチの害悪が深刻であるということを法が認めて、そのために国や地方公共団体に解消に向けた施策を取ることを責務として位置づけたと。
 このことからすると、やはり公共施設においてヘイトスピーチが行われることを黙認するというような態度は、地方自治体として取るべきではないんではないか、徐々にそういう考え方が広まって、各自治体でガイドラインがつくられるというような流れになっているんではないかと考えています。

○小林委員 非常に明確な先ほどの3要件、実はこれに関してはもう一つお伺いしたいことがあるんですが、それは置いておきまして、要するに地域から出ていくことを求めたりとか、あるいは生命、身体、自由、財産に危害を加えるという言葉は分かりやすいことで、なかなかこんな明確なものというのはないんだろうと思うんですが、先ほどお話しされた公共の施設を利用するということの前提において、その害悪であるという判断の尺度をどこに置くべきだと思われますか。

○楠本参考人 害悪の尺度というので、ヘイトスピーチの害悪ということの内容をどのように把握するかというのは、正直申し上げて非常に難しいです。
 今注目されている見解というのは、ウォルドロンという学者が書きました「ヘイト・スピーチという危害」という本が日本でも翻訳されまして、それが広く読まれています。このウォルドロンが言いますヘイトスピーチの危害とは何かというと、人間の尊厳を損なうというわけです。その人間の尊厳というのは何かというと、彼の言葉で言うと、その社会の中で同じ価値を持って同じように保護されるべき存在としての地位、つまり一般的な市民としての地位だというわけです。
 そして、ウォルドロンがさらにもう一歩踏み込んでいるのは、そういった尊厳が傷つけられるということがその地域の中のあちらこちらで行われると、ターゲットになっている住民は、その地域で安心して暮らせないと。ウォルドロンはオオカミの鳴き声に例えていますけれども、あちらこちらでオオカミが鳴き声を上げているという状況が見られるときに、オオカミの標的になりそうな人というのは、その地域で安心して自分の人格を発展させ、暮らしていくことが難しくなる。だから、尊厳が傷つけられるという状況があちらこちらで散見されるような状況という中で人々が安心して暮らすことができないという、人々の安心の保障というのもヘイトスピーチの規制の必要性を基礎づけるものというふうに言っています。
 しかし、今、委員が御質問になったヘイトスピーチの危害の本質とは何だということについては、そのウォルドロンの学説についても、もちろん多くの批判がなされていますし、日本の憲法学会や刑法学会で確固たる支持を集めている、通説的な位置を占めているというわけでもございません。むしろ今の憲法学会や刑法学会では、規制消極論のほうが多数派でございます。
 ただ、先ほど申しましたように、地域住民の中に被害が多く見られるという地域が先行してこうしたガイドラインの作成に至っているということです。ですから、一般的に危害を定義してみろというふうに言われましても、確固としたヘイトスピーチの危害の定義、あるいはその内容の明確な把握というのには現在のところ至っていないと思います。
 ただ、先ほど参考例として挙げました川崎のヘイトデモに関する禁止の仮処分の中で裁判所が挙げた、自分の出自に対して抱く個人が持つ感情、あるいはそれを尊重してもらいたいということは人格形成の礎になっていて、やはりこれは尊重しなければならない、そういうことが恐らく出発点になるんではないかというふうに思います。

○小林委員 ウォルドロンの説があるというので一つ基準は頂いたわけですけれども、現時点で細かな規定が、何が当たるのか何が当たらないのか、よりどころにするものがない中で、川崎市のガイドラインには許可、不許可等、第三者機関からの意見聴取を行うというふうに書いてあります。第三者機関が判断をするわけですけれども、この第三者機関は、諸説、いろいろな通説がある中で、何を基準に判断をすればいいとお考えですか。

○楠本参考人 恐らく過去に行った言動を評価することになろうかと思います。過去に行った言動が、どのガイドラインでも前提になっているのは、ヘイトスピーチ解消法の定義、法の第2条で行われている定義をガイドラインの定義としていまして、ヘイトスピーチ解消法第2条の定義に当てはまるということを、過去の団体もしくは個人が行った言動から見てヘイトスピーチ解消法第2条の差別的な言動の要件、定義に当てはまるかどうか、そこを判断するということになろうかと思います。
 ですから、各自治体のガイドラインが独自に何かヘイトスピーチの定義を設けようとしているというよりは、ヘイトスピーチ解消法の規定が行った定義を基に規制すべき行為の基準を定めて、過去の言動や、それから次の集会でも同じことをやるぞと言っているような、そういったことを総合判断して決める。今、委員がおっしゃったように、明確な基準がないというところでいうと、やはり総合判断ということにならざるを得ないと思いますし、総合判断して決めるというふうにガイドラインで定めているものも多いと思います。

○北川委員長 先に申し上げておきますけれども、初めに90分間ということでお願いをさせていただきましたので、参考人の後の予定もありまして4時過ぎには質疑を終了したいというふうに思いますので、その辺もちょっと考慮しながら、小林委員、お願いします。

○小林委員 分かりました。
 過去の行動と言動ということが基準であると。なので、個人でもないわけですね。その団体の主張だということが基準だという話で。分かりました。
 憲法との整合性に関しては、前段でいろいろお話をいただいたので割愛しますが、最後に、先ほどの解釈の問題なんですが、第2条の定義ですけれども、3つあるとお話をいただきました。
 分かりやすい、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知」すると。これは一つの行動だと思います。その後、「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」ということで、これ2つは行為が明確にされているわけですけれども、その間にある「本邦外出身者を著しく侮蔑するなど」という一節は、後段に係るべきではないのかというふうに認識するんですが、すなわち、「本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として」、以下、差別的言動を行うということではないのかという認識なんですが、参考人の場合は、ここをまた別の行為だというふうにお話をされているように認識したんですが、いかがでしょうか。

○楠本参考人 私がそのように解釈しているということよりは、今、委員から質問がありまして、その質問に答えるときに、今、実際に各地でつくられているガイドラインがどのような理解に立っているかということで申し上げました。
 その場合、全体として、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は、本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身者であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除すること」、だから、本邦外出身者を地域社会から排除するということがいろいろな言動の中の最後の、危害を加える旨を告知し、侮蔑する、そして、それを本邦外出身者であることを理由にして行う、それによって最終的に「地域社会から排除することを煽動する」というふうになっていると思います。
 ですから、先ほど申しましたア、イ、ウ、三つが並列的に並んでいるというよりは、法律上の文言からいうと、アとイ、つまり「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知」するということと「本邦外出身者を著しく侮蔑する」と。それらの行動を通じて「地域社会から排除することを煽動する」というふうに読めるんではないかと思っています。

○小林委員 それは各自治体で解釈をしたということの事例だという認識でよろしいですよね。

○楠本参考人 恐らく地域の住民に分かりやすくするために、それぞれの特徴的な要素を取り出してその例を挙げたということではないかと思います。

○小林委員 分かりました。ありがとうございます。
 それでは、最後に、本法の附帯決議の第1項に関しての見解をお聞かせください。

○楠本参考人 附帯決議の第1項というのは、法務委員会、参議院と衆議院とございますが、どちら。

○小林委員 双方ともに同じことを第1項は言っているように思うんですが。

○楠本参考人 同じことでしょうか。
 「人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み」というところでしょうか。

○小林委員 いえ。
 では、参議院の附帯決議に関して読み上げますが、「第2条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み、適切に対処すること」ということですけれども。

○楠本参考人 ヘイトスピーチ解消法では、先ほど申しましたように、本邦外出身者で、なおかつ適法に居住する者という非常に狭い限定をしているわけです。恐らく、こう言ってはなんですけれども、立法作業の中で成案を得るためには、それぞれの主張の妥協の産物として、最大公約数といいますか、お互いが歩み寄れるぎりぎりの線で現行のような規定になったと思います。
 ただ、その際に、人種差別撤廃条約が規定している差別の範囲というのはもっと広うございます。その中には恐らく、例えば日本でいうとアイヌとか、そういう人たちの問題も絡んでくると思います。しかし、それが今回、本邦外出身者ということになれば、そうした人たちに関するヘイトスピーチは対象外になってしまうということなんですけれども、この附帯決議の第1項は、人種差別撤廃条約の規定の趣旨を考えて適切に対処すること。だから、この適切に対処することが同じように扱えという趣旨なのか、あるいはそれに準じて扱えということなのか分かりませんが、いずれにしろ、適法に居住する本邦外出身者以外の者に対するヘイトスピーチだったら許されるんだというふうな捉え方はしてほしくないというのがこの附帯決議の趣旨ではないかというふうに理解しています。

○小林委員 ありがとうございました。

○北川委員長 よろしいですか。
 ほかの方、どうですか。

○小島委員 ありがとうございました。
 2点あります。
 1点目は、京都府のガイドラインの話なんですけれども、言動要件のほかに紛争のおそれ要件のいずれかだというふうにおっしゃいました。言動要件のみの場合というのは理解はできるんですけれども、実際問題として、紛争のおそれ要件のみということはあり得るのかというのが1点目です。
 2点目は、施設貸出しの話がずっと書かれています。先ほどの議論をずっと聞いていると、やっぱり事前に規制することというのはかなりのリスクがあったり、ハードルが高いというふうに聞けたんですけれども、そういう解釈でよろしいかということを確認させてください。

○楠本参考人 京都府のガイドラインの要件を今ちょっと読みますと、アが「「不当な差別的言動」が行われることが、客観的な事実に照らし、具体的に明らかに予想される場合」、これが「言動要件」です。もう一つの、私が「紛争のおそれ要件」というふうにしましたのは、こういうふうに書かれています。「「不当な差別的言動」が行われる蓋然性が高いことによる紛争のおそれがあり、施設の管理上支障が生じるとの事態が、客観的な事実に照らし、具体的に明らかに予測され、警察の警備等によってもなお混乱を防止できないことが見込まれるなど特別な事情がある場合」というふうになっています。ですから、この「紛争のおそれ要件」も、基本的に不当な差別的言動が行われる蓋然性が高いということを前提にしていて、そのことに起因して紛争が起こるおそれがあるということを言っています。
 ですから、たしか東京弁護士会の声明では、この2つの要件は結局「言動要件」のみで規制することになるというふうに言っていまして、イの要件は、恐らく最高裁判例が暴力的紛争の事案で挙げたその判例に引きずられるというか、引っ張られるような形で紛争要件というのを川崎市のガイドラインが設けたんですけれども、それをやはり全く無視することはできないというか、前例から大きく離れることはできないということで、この2つをいずれかに該当する場合というふうにして、多分、予想外の漏れがないようにするため、予想外の適用ミスが起こらないようにするためにこの2つを並べて、いずれかに該当するというふうにしたんだと思います。
 ただし、東京都は、川崎市と同じように、この両要件がそろっていなけりゃいけないというふうに限定していますので、やはり京都府と京都市の場合は、「言動要件」のみで認められるという形になったものと思われます。
 もう1点が「違憲のリスク」ということなんですが、やはり表現の自由の事前規制は違憲のリスクが高いです。ですから、実害が発生することが客観的事実に照らして具体的に明らかだ、そういった非常に厳格な要件の下にのみ許されるということだと思います。
 ですから、一つの団体がヘイトスピーチを行いそうだということで、いきなり不許可にするとかということは恐らく困難で、過去にそういった言動をしたという事実が確認されて、今度もまた同じことが公共施設で行われる可能性があるというようなことが客観的な事実を基に予測、しかも明らかにそういうことが認められるという予測が誰の目から見ても立つというような、非常に厳しい条件の下でのみ許されると思います。
 ただ、恐らく京都市や京都府が行っていることは、この「不当な差別的言動」が行われることが「客観的な事実に照らして具体的に明らかに予想される」という、これが先ほど例に挙げました泉佐野市民会館事件の最高裁の判例が用いている言葉遣いです。この泉佐野市民会館事件で最高裁が用いた言葉遣いを多くの場合引用していまして、これが今日の報告の中で何度も申し上げました「明白かつ現在の危険」ということの言い換えになっているんだと思います。ですから、これをクリアするということが違憲のリスクを回避する非常に重要なポイントだと思います。

○小島委員 法的に言えば、もしかしたらそういうことにつながっていくのかなというふうに思いますけれども、この法の成立に大きく関わった、川崎市で実際に行われたデモの被害者に直接聞き取りをしたことがあります。一度受けた言動について、本当に傷ついた心は、後からどれだけのものをもってしてもやはり救われるものではないということもお聞きしました。なかなか事前規制というのは難しいかもしれないというふうに思いながら、そこに私たちが何ができるかというのを考える上でいろいろ参考にさせていただきたいと思います。ありがとうございます。

○中村委員 参考人、今日はありがとうございました。
 いろいろ感想もあるんですけれども、今、小林委員、それから小島委員と参考人のお話も聞かせてもらって、実は本当にもどかしい思いを持って聞いております。本当にこんなにややこしいというか、今日の話もなかなか難しかったんですけれども、難しいハードルがあるんだな。だけども、法律でちゃんと、ヘイト差別の解消法がきちっとできておって、我々地方自治体でそれを具現化するのが何でできへんのやろうと、そんな思いを持っております。
 実際自分は現場へ行ったことがないもんですから、二、三回ヘイトのビデオを見て、聞いて、私の感じでは、やっぱりあの言葉というのは、もう本当に刃物と一緒だというふうに思います。小さいお子さんやら弱い女性の方なんかやったら、小島委員の話やないですけれども、ぐさっと刺さって本当にその人の人生を狂わせてしまう、そんなひどいもんだというふうに思うのに、何でこれができへんのかというふうに思っております。
 ルールづくりという話がありましたけれども、我々が具現化していくために、例えば罰則規定が必要なのか必要でないのかとか、あるいは、もしほかに条例をつくっていくとしたら、最低こういうルールはきちっとしておいたほうがええという御意見がございましたら、お聞かせいただきたいと思います。

○楠本参考人 ありがとうございます。
 私は、実は憲法の教員ではなくて刑法を担当している者でして、もともとの出発点はヘイトスピーチの刑事規制の可能性があるのかどうか、つまり刑罰を科すことができるのかということが勉強の出発点でございます。主にドイツでヘイトスピーチの規制は、刑法に規定があるわけですけれども、それを最初に勉強し始めたというところでございました。
 日本でいいますと、ヘイトスピーチの刑事規制ということについては、憲法学、刑法学は非常に批判的です。つまり、刑事罰を科すべきではないという意見のほうが強うございます。
 ただ、川崎市がヘイトスピーチについて最終的に、罰金刑ですけれども、刑事罰でもって臨むという条例をつくりました。それでは、最初に警告をして、警告に従わないときに中止命令をして、それでも従わないときに検察庁に告発するという三重の段階を踏むことになっているわけですね。最終的に検察庁が起訴するかどうかを判断するわけですけれども、そうした、段階規制と申しますが、そういったことが行われて初めて刑事罰について可能であるし、先ほど委員のほうから御質問のあった際に、拡声器だとか大声でどなり立てると、それがさらに刑事罰まで必要ということになれば、そういった言葉の内容にプラスした何かの要件、拡声器でどなるとか、あるいは人が日常生活を営む上でどうしても避けて通れないような場所でそれを行う、例えば公共施設じゃなくても、人が日常生活を送るときにそこをどうしても利用せざるを得ないような、駅だとか、あるいはマーケットであるとか、そういったところでヘイトスピーチが行われれば、人々はそういったところを安心して利用できなくなってしまう。
 あるいは、そういったことも含めて、場所、それからスピーチの方法、スピーチが行われる対応などを非常に限定して規定し、なおかつ、それが刑事罰に値するほどのものなのかどうかということを、警告、中止命令、それから検察庁への起訴という形で段階を踏んでやるということに現状ではならざるを得ないと思います。
 しかもそれは、川崎市の例が今出ましたけれども、非常にヘイトデモのターゲットになって長い間苦しんでこられたという、そのことがあって、地域の住民も、それについてこれは放置できないというコンセンサスがあってということですので、いきなり直罰でヘイトスピーチを規制するというようなことは、ドイツはやっているわけですけれども、日本ではなかなか難しいんじゃないかというふうに考えています。

○中村委員 ありがとうございました。
 三重県は、多文化共生のほうに随分力も入れておりますし、私の住んでいるところは伊勢市なんですが、伊勢神宮の駅の前で、もしそんなこと、あのもう聞くに耐えないような言葉を拡声器でやられたら、、観光客の人も多いですし、本当にもう何でこれが規制できへんねやろかという、そんな強い思いに多分、なるというふうに思います。しっかりと今日の参考人のお話を吟味させていただきまして対応していきたいというふうに思いますので。本当にありがとうございました。

○北川委員長 ちょっと時間があれですが、どうしてもという方がいらしたら。

○山内委員 今日は外国人差別ということでお越しいただきまして、本当にありがとうございます。
 ヘイトスピーチが中心ということでありましたけれども、前段で多文化共生についても触れていただきましたので、ちょっとお聞かせいただきたいんですが、「多文化共生とは、異なる文化的背景を持った人の尊厳を尊重すること」ということで、文化的背景には信教の自由が含まれるというのを県の見解でも確認させていただいておりますが、様々な場面で外国人の方の信教の自由がないがしろにされている光景を見聞きすることがあります。
 それは、職場において朝礼等での参拝であったりとか、また、スポーツ界等での各種競技団体とかチームレベルでの必勝祈願といったところで、集団心理が働いて、自身の信教の対象じゃないものに参拝をするような行為がどうしても避けられないような状況があったり、反面、今、非常食のほうに対しては、宗教上の理由に配慮した非常食が準備をされていたりと、そういったところが共存している状況にあるんですけれども、こういったところに対する外国人の皆さんの信教の自由を守るという観点で、何か御所見があれば教えていただきたいんですが。

○楠本参考人 特に宗教上の理由で、例えばムスリムの方は、音楽が人の興奮を誘うものだとか、あるいは絵を描くことが偶像をつくり出すことだという形で、学校教育の中で音楽だとか美術だとかということについて、日本人の生徒と同じように扱うとか指導することが困難な場合もあると聞きます。それから、1日5度礼拝をしなければならないとか、あるいは金曜日が集団礼拝の日になっている、途中で学校を抜け出して集団礼拝に行かざるを得ないと。そのときの移動の際に事故が起こったらどうするかというようなことも学校の先生方は非常に悩ましいというようなことを聞いたことがございます。
 しかし、それでもやはり学校は、できるだけその子どもたちや保護者の意向を尊重しようとして、いろんな工夫をし始めているんじゃないでしょうか。
 ですから、問題は、企業が学校のようになかなか。個々の子どもたちに学校が配慮している、それと同じように企業がそこの従業員に対して配慮しているということが言えるかどうかというのは疑問だと思いますけれども、まずは学校の現場でそういったいろんな配慮がなされるということが、当たり前とは言えませんけれども、大分広まってきたということが報告されています。
 こういったことが当たり前になってくると、大人に関しても、職場でそれぞれの宗教的な信条に関わることについてお互いに配慮しましょうというふうになってくるんではないか、そういうことが期待されるというふうに思っています。なかなか今すぐには変えられないと思いますが、日本の企業だって日本の中だけで完結するという時代ではなくなっているので。
 それから、最近、投資家の人たちが多文化共生だとか人権への配慮をしている企業なのかどうかということを見て、投資先に選ぶかどうかということを決めるような行動をしているとも聞いています。そうしたことが企業の行動に一定の変化をもたらすということがあるんじゃないかというふうに期待しています。

○北川委員長 山内委員、よろしいですか。
 時間が参りましたので、質疑を終了させていただきたいと思います。
 参考人におかれては、お忙しい中、御出席をいただきありがとうございました。頂いた御意見は、しっかりとまた議論に反映をして役立てていきたいと思います。本日はありがとうございました。
 それでは、暫時休憩をさせていただきます。
 再開を午後4時20分でお願いします。
 
                           〔参考人 退室〕
                             (休  憩)
 
 2 委員間討議

○北川委員長 次に、委員間討議を行います。
 委員間討議は引き続き公開で行いますので、御留意の上、御発言願います。
 まずは、本日の参考人からの外国人に対する差別についての聞き取りについて、御意見等のある方はお願いをいたします。
          〔発言の声なし〕

○北川委員長 特にございませんか。
 後々また議論はさせていただきますが、なければ、本日の参考人からの聞き取りに関する委員間討議を終了いたします。
 次に、次回以降の委員会活動について、委員間討議を行います。
 お手元に配付いたしました資料1、特別委員会活動計画書の修正案を御覧くださいませ。
 まず、3の活動計画表欄に委員会設置から本日までの委員会活動実績を記載させていただきました。
 次に、今後の委員会についてですが、まず9月24日の特別委員会の委員間討議にて、性に関する差別に係る参考人招致について委員の皆様から御意見をいただいた件につきまして、正副委員長で協議をした結果、性的マイノリティーに対する差別の状況等や性暴力・性被害の状況等について、それぞれ1名ずつ、合わせて2名の方の参考人招致を次回以降の委員会において行いたいと考えております。
 2名のうち、性的マイノリティーに対する差別の状況等に係る参考人候補者とは調整がつきましたので、この後、参考人出席要求候補者として御協議いただきたいと存じますが、よろしいでしょうか。
          〔発言の声なし〕

○北川委員長 それでは、性的マイノリティーに対する差別についての参考人出席要求候補者について資料を配付させていただきますので、着席のまましばらくお待ちくださいませ。
                            (書記配付)

○北川委員長 それでは、参考人の出席要求について御協議願います。
 お手元に配付の資料の参考人出席要求候補者名簿のとおり、性的マイノリティーに対する差別の状況等について、芙桜会会長、近藤聡様に10月14日水曜日午前10時にお越しいただくことで調整いたしました。
 それでは、お諮りいたします。
 近藤聡様に参考人として出席を求めたいと存じますが、御異議ありませんか。よろしいですか。

○藤田委員 この方に来ていただくのに何らあれはないんですが、前にもちょっとお話しさせていただいたように、常任委員会と特別委員会との関係性、この辺ではちょっと違和感があるということだけ、この場で申し上げさせていただきたい、こんなふうに思います。

○北川委員長 藤田委員から御意見をいただきましたけれども、前回の委員会でも小林委員から発言がありましたけれども、三重県感染症対策条例(仮称)については、意見書も出させていただいて対応していくという流れがございましたけれども、LGBTのことについては、今、条例の中間案が常任委員会にかけられようとしていますけれども、それに対して議論していくというよりは、差別全般の課題の一つとして、このLGBTの分野を差別の実態ということでお聞きして、様々な差別の解消に向けての当委員会の議論に資する、参考にしていくと、こういう位置づけで実施をしたいと思いますので、御了承いただきたいというふうに存じますが、よろしいですか。

○藤田委員 分かりました。

○北川委員長 じゃ、御異議なしということでよろしいですか。
          〔発言の声なし〕
 では、そのように決定をさせていただきます。
 次に、参考人招致当日の委員会の運営方法ですが、正副委員長に御一任を願えますでしょうか。
          〔発言の声なし〕

○北川委員長 それでは、そのようにいたします。
 なお、性暴力・性被害の状況等についての参考人候補者については、現在、正副委員長において調整中でございますので、整い次第、出席要求について御協議いただきたいと思いますので、御了承願います。
 次に、10月以降の委員会活動について御協議願います。
 再度、資料1、活動計画書(案)を御覧ください。
 3番の活動計画表の10月の欄に記載の条約・法令の調査について、当初の9月予定から10月予定へと修正をさせていただきました。赤字になっておりますけれども。時間等の調整がつけば、条約・法令の調査については、10月14日の参考人招致と同日、もしくはその後、調査を行いたいというふうに考えております。
 なお、他の都道府県の条例の調査については、以前から書いてある予定のとおり10月に置かせていただいていますが、先ほどお話しした性暴力・性被害に係る参考人招致の候補日によっては11月にずれ込む可能性もあるかと思いますので、御了承いただきたいと思います。
 その後、これまでの調査を踏まえて、場合によっては、皆さんから御希望があれば、執行部からの再度の聞き取りも必要であれば行わせていただきながら、同時に委員の皆さんの意見集約を11月にはしたいというふうに思ってございます。
 もともとここは条例案の方向性の整理となっていたんですが、ずっと参考人招致を続けてきた中で、いきなり条例案の云々というよりは、正副委員長としては、参考人招致を続けてきていただいた中で、私たちはいろんなことを学ばせていただいて、気づきも含めていろんなものがあると思いますので、そういうものを一度みんなで出し合って意見を交わしたいなというふうに思っておりまして、そういう形で11月は、これまでの調査を踏まえた委員意見の集約という形に修正をさせていただきましたので、御理解をいただきたいというふうに存じます。
 私からは活動計画書についての説明は以上でございますが、皆さんから御意見がございましたらお出しいただきたいと存じます。
 4番の県内外調査については、赤字で記載した部分になりますけれども、9月4日の代表者会議において、県内調査の実施に当たっては、新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底すること、県外調査の実施に当たっては、令和2年度中に実施しなければ時期を逸すると委員会が判断した県外調査に限り、申合せの行程、回数の範囲で実施することができるとされましたので、その旨を修正として書かせていただいています。
 なお、県内外調査につきましては、今後、条例案の方向性整理を行っていく中で、必要があると判断した場合に改めて協議をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 3番、4番に修正を入れておりますので、御意見がございましたらお出しくださいませ。あと、一部文言の整理も行っておりますので申し添えておきますが、よろしいですか、この形で進めさせていただいて。
          〔発言の声なし〕

○北川委員長 なければ、この計画書で進めさせていただきたいと存じます。
御協議いただく事項は以上ですが、特に何か御意見がございましたらお願いします。
          〔発言の声なし〕
 
〔閉会の宣言〕
                           三重県議会委員会条例第28条第1項の規定により記名押印する。
                                    差別解消を目指す条例検討調査特別委員長
                                                            北川 裕之
 

 
 

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