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令和2年11月13日 予算決算常任委員会 会議録

予算決算常任委員会
会議録
(開会中)
 
開催年月日   令和2年11月13日(金曜日) 午後1時2分~午後2時42分 
会   議   室     全員協議会室
出 席 委 員    49名
              委  員  長    杉本 熊野
              副委員長     野口  正
              委    員     川口  円   喜田 健児  中瀬 信之
                           平畑  武   石垣 智矢   小林 貴虎
                           山本佐知子  山崎  博   中瀬古初美
                           廣 耕太郎   下野 幸助  田中 智也
                          藤根 正典   小島 智子  木津 直樹
                      田中 祐治     野村 保夫   山内 道明
                           山本 里香   稲森 稔尚   濱井 初男
                           森野 真治   津村  衛   藤田 宜三
                           稲垣 昭義   石田 成生  小林 正人
                           服部 富男   谷川 孝栄  東    豊
                           長田 隆尚   奥野 英介  村林  聡
                           今井 智広   北川 裕之  舟橋 裕幸
                           三谷 哲央   中村 進一  津田 健児
                           中嶋 年規   青木 謙順  中森 博文
                           前野 和美   舘   直人    山本 教和
                           西場 信行   中川 正美
欠 席 委 員     なし
出席説明員   出席を求めず
委員会書記
              議事課       班長  中西 健司
              議事課       主幹  橋本 哲也
              企画法務課   主幹  早川 哲生
              企画法務課   主事  水谷 健太
参 考 人    1名
             明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授  田中 秀明  氏
傍 聴 議 員   1名
            日沖 正信
県 政 記 者   2名
傍  聴  者   4名
協議事項
1 参考人からの意見聴取について
 
【会議の経過とその結果】
 
〔開会の宣言〕
 
1 参考人からの意見聴取について
(1)参考人意見陳述
〇杉本委員長 それでは、参考人からの聞き取り調査に入ります。
 先日の委員会で決定したとおり、本日は明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科の田中秀明教授に参考人として出席を求めております。
 この際、参考人に一言、御挨拶を申し上げます。
 田中教授におかれましては、お忙しい中にもかかわりませず、本委員会のために御出席をいただき、大変感謝をいたしております。各委員を代表して心から御礼を申し上げますとともに、忌憚のない御意見を述べていただきますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。
 それでは、参考人からの聞き取りを始めます。
 本日の進め方についてですが、初めに1時間程度、参考人からの聞き取りを行った後、休憩を挟み、委員の皆様からの質疑を行いますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、田中参考人から御説明をよろしくお願いいたします。

〇田中参考人 ただいま紹介いただきました明治大学の田中秀明と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は、このような場にお呼びいただきまして、誠にありがとうございます。三重県へ久しぶりに来ることができまして、非常に喜んでおります。
 それでは、本日は「新型コロナ感染症と財政」ということで、私なりに少し考えていることについてお話をさせていただきます。
 主な内容は、ここに書いてあるとおりでございまして、最初にちょっと日本の財政の基本的な問題について話をして、新型コロナウイルス感染症対策、それから地方財政、さらに今後の少子高齢化についてお話をします。
 これは、経済協力開発機構、OECDと言われる先進国が加盟している国際機関なんですが、6月に発表しました今年の経済成長率の見通しを表したものです。日本は今年はマイナス7.3%、大体、世界は10%ぐらい経済が低下するということで、これはもうリーマンショック以上の厳しい状況になっていることになります。
 それから、日本に限らず世界各国、新型コロナウイルス感染症対策ということで財政赤字を拡大させていまして、これは借金の残高ベースで主要国を表したものなんですが、一番上が日本です。大体、主要国はどこの国も足元でがーんと伸びているわけですが、1つ補足すると、これは債務残高をGDP比で取った数字なんですが、2009年のリーマンショック以降、多くの国は、大体フラットか下がっているんですよね。つまりリーマンショックでどこの国も景気対策をやるために借金を増やしたんですが、その後減らしたり、大体、経済規模でいえば下げているんですよね。ところが、この期間においても日本はがーんと伸びているんですね。
 じゃ、果たしてこの先どうなるのかなんですが、もちろんそれは神様しか分からないんですが、これは推計ですが、民間シンクタンクの推計によると、何がポイントかというと、確かに政府は借金が多いんですが、今のところ我々国民が貯金を蓄えていると、その貯金によって政府の借金を吸収することができるという状態なんですね。
 ところが、今後、将来もそれが続くのかなんですが、グロス、ネット、取り方に違いはあるんですが、大和総研の推計では、2030年度終わりぐらいには家計の貯金より政府の借金のほうが上回るだろうと言われているんですね。これはいろんな理由があるんですが、例えば、高齢者が増えると、高齢者は基本的に働きませんので、貯金を取り崩していくわけですよね。そうすると日本全体の貯金も減っていくと。もちろん借金のほうが貯金より増えたから、直ちに何か危機が来るというわけではありません。
 もし、借金のほうが増えた場合は、外国からお金を借りることになるんですよね。例えば、アメリカは巨額のお金を海外から借りています。ただ、世界の投資家はアメリカだったらお金を貸すんですよね、多分、イノベーションがある。じゃ、果たして日本が低い金利でお金を借りることができるだろうか。少子高齢化が進み、アメリカと比べるとイノベーションは起きるんですかということを考えると、残念ながら低い金利で日本がお金を借りられるかというと、私は直ちにそうは思いません。ただ、もちろんこれは将来のことで分かりません。
 危機になった国、例えばギリシャとかブラジルとかに共通している点は、海外からの借金ができなくなったと。海外からお金を貸していた人たちが「いや、そんな危ない国にはもうお金は貸さない」と言って、大体破綻するパターンなんですよ。これが日本で起きるかは、もちろん分かりません。分かりませんが、海外から借りるようになるとやっぱりリスクが高まっていくということは言えると思います。
 それから、財政赤字が何で増えるんですかということを学者たちがいろいろ勉強、研究しているんですよね。いろんな理論があるんですが、私自身が非常に重要だと思っているのは予算制度。いろんなプロセスだとか透明性だとか、そういう予算をつくる仕組みに大きな問題があると財政赤字が拡大するんですよ。例えば、財務大臣と支出大臣の関係が階層的ではなく並列的。ちょっと分かりにくい言葉ですよね。英語で各省大臣のことは「spending minister」というんですよ。階層的というのは財務大臣の力が強いことを意味しているんですよね。財務大臣の力が強い国は相対的な赤字が小さいんじゃないか、あるいは透明性が低いか高いかとか、そういう要因によって財政赤字の大小を説明できるという研究が進んでいます。
 例えば、この図なんですが、フォン・ハーゲンというドイツの学者が、財務大臣の権限指数を考えました。数字が大きいほど財務大臣の権限が強いという意味なんですが、それをどうやってはかるかというと、どこの国でも予算をめぐって紛争が起きるわけですね、各省大臣は予算をもっとくれ、財務大臣はお金がないから嫌だよといったことで紛争になるわけですね、そうした紛争が起きたときに、財務大臣あるいは総理大臣が権限を持ってそれを調整することができるかということなんですよ。これを見るとイギリスとかフランス、ドイツは非常に財務大臣の力が強いんですよね。例えば、ドイツの財務大臣は予算を決める閣議において、各省大臣がもっとお金をくれ、欲しいと言ったときに、閣議においてそれを拒否する権限があるんですよ。
 他方、南欧諸国の財務大臣は大体弱くて、債務残高対GDP比を取ってみると、権限と債務残高の大きさがきれいに比例するわけですよ。日本も同じように計算すると、大体、アイルランドとかギリシャぐらいに位置するんですよ。私がよく言っているのは、日本の財務大臣は世界で最も弱い財務大臣だと。昔は違ったと思います。昔は御承知だと思いますが、いわゆる55年体制では自民党の総裁は財務大臣を経験する場合が多かったですよね。財務大臣をやってから総理大臣になることが多かったんですが、最近は極めてそれが限られています。
 先ほど、ドイツの財務大臣の話をしましたが、日本の予算を決める閣議は、そのルールが満場一致なんですよね。一人でも大臣が反対すると予算を決めることはできないんですよ。最近はないですけれども、昔は結構、予算編成の過程でもめて、予算を決める閣議が延びたことがあります。整備新幹線をめぐって運輸族と運輸省がもっと予算が欲しいと言って、予算を決める閣議が1週間延びたことがあります。ですが、ドイツではそういうときに拒否できる権限を持っているんですね。
 それから、次は財政の透明性なんですが、これは私が計算したものになります。ここに20の基準があって、こういう情報が政府が国会に提出する資料にちゃんと書かれているかどうかということで、主要先進国、アメリカとかイギリスとかで、ちゃんと書かれていればマル、部分的な場合は三角、書かれていない場合はバツで、満点は20点になります。これを見ると残念ながら日本は最低の点数なんですよ。
 例えば、どういうことかというと、面白いのは、この3―1、成長率等の前提を独立機関が検証すると。大体どこの国でも成長率を楽観的に見積もるわけですよ。なぜかというと、数字は、例えば本来なら2%しか成長しないのに、5%と見積もれば何が起きますかね。税収が増えるわけですよ。それはあくまでも推計でしかないんです。税収が増えれば使う金も増えるわけですよ。ところが、実際には成長しないので、税収は増えない。でも、決めた歳出を減らすことはできないということで、財政赤字が増えるんですよ。
 これは、どこの国にも共通する問題なんですけれども、ヨーロッパはギリシャ危機に懲りて、各国が独立機関をつくって、独立機関というのは経済学者とか専門家が集まって、専門的な立場で成長率の見通しを出す、あるいは政府、財務省が成長率の見積りを出したとしても、それに対してセカンドオピニオンを提供すると。政府の見通しは甘いと勧告する機能を持っているんですね。これを見ると、結構増えているんですよね。残念ながら主要先進国で独立機関のない国は、日本だけと言ってもいいぐらいの状況です。
 それから、面白い例を御紹介すると、選挙前報告というのがあって、これは例えばオーストラリアなんですけれども、選挙が決まると大体、どこの国でもあれもこれもになるわけですよね。そのときに、オーストラリアの政党は、例えば、児童手当を3割増やしましょうという選挙公約を相手の政党が掲げたときに、自分の政党は財務省に対して、子ども手当を3割増やしたときに、それが財政上いかなる影響を与えるか、例えば、ちゃんと財源が確保されていなければ財政赤字が何十億円、何百億円、何十億円増えますよ、そういう推計を財務省は計算して、選挙当日の前に国民に公表しなければいけないことになっているんですよ。
 要は、選挙ってどこの国でもあれもこれもとなって、選挙民は、ちょっと失礼な言い方になりますが、政党あるいは政治家にフリーランチのような政策があると錯覚を起こしかねないわけですよね。もちろん各政党がどのような公約を出すかは自由です。しかし、それが財政上いかなる影響を与えるかをちゃんと推計して、公表しなければいけない。私も何度かニュージーランドへもオーストラリアへも行っているんですけれども、ニュージーランドも同じような仕組みはやっていまして、要は、この結果、選挙の様相が変わったと。ちゃんと数字に基づいて議論すると。単に手当を増やせ、サービスを拡大せよということでは選挙は通らなくなっているという話を聞きました。
 この基準を使って、借金から貯金、主として年金の積立金を差し引いた純金融負債でこれを比較してみると、何となく右下がりになっているということで、オーストラリアとかスウェーデンへ私も実際に行って、いろいろ調べてきましたけれども、確かに透明性は低いですよね。残念ながら日本はこの状況にあると。
 アメリカは、ちょっと注意が必要なんです。確かに透明性は高いです。議会予算局という議会に属した機関があって、いろんな分析をして、議員たちにデータを提供しているんですけれども、確かに透明性は高いんですが、アメリカは上院と下院、さらに大統領がしばしば喧嘩をして、予算がまとまらないんですよ。この3者のうち、一つでも反対すると予算を承認することができないんですよね。アメリカの会計年度は10月1日に始まりますけれども、翌年4月とか5月になっても本年度の当初予算を決められないときがあって、暫定予算が続くときもあるんですよね。
 つまり、透明性は非常に重要なんですけれども、意思決定過程が集権化していないと財政赤字は増えると言われています。今、それがこれをまとめたものなんですが、残念ながら政府部門には出と入りを一致させるメカニズムがないんですよ。我々、家庭だとか企業では、もちろん借金はしますけれども、収入の範囲内でしか借金はできないわけですよ。つまり、予算制約が常に明確なんですよ。ところが、政府部門は借金ができるので、ギリシャみたいな状況になれば話は違うんですが、出と入りを一致させるメカニズムがない。
 そうすると、政治家とか官僚たちはできるだけ歳出を増やしたい、あるいは歳入を減らしたいというインセンティブがあるんですよ。私は政治家たちを批判しているわけではなくて、それは合理的な行動なんですよ。次の選挙で勝つためには国民に、あるいは選挙民に約束をしなければいけないわけですよ。これは政府部門に内在している根本的な問題なんですよ。逆に言うと、政府部門においては予算制約が明確でないことが財政赤字を増やす根本的な問題なんですよ。予算制約がはっきりしない。
 じゃ、どうしたらいいのか。私は直ちに財政赤字を減らすべきだとか、そういうことを申し上げているわけではありません。将来の投資のために借金をする必要がある場合もあるからです。
 ただ、もし財政赤字を減らしたいと考えているのであれば、ここに書いた2つのことが大事になってきます。権限を集中化させること、それから透明性を高めることなんです。世界中でいろんな財政再建の取組が行われていますが、やり方は少しずつ違いますけれども、これは財政再建に成功した国に共通します。何となく分かりますよね。
 各省庁、あるいは地方自治体でいえば、各部局がこの予算を増やしてほしい、あの予算を増やしてほしいと言ったときに、それを調整できなければ予算は増えて、税収が増えなければ財政赤字が増えるわけですよね。だから、首長でもいいです、財務大臣でもいい、誰かがこれを調整できなければ増えてしまうわけですよ。あるいは透明性。国民に見えなければ、いわゆる無駄な予算が増えていく、そういう傾向があるわけなんですね。もし財政赤字を減らしたいんだとすれば、この2つを改革することが必要なことになります。
 次は、日本のことに移ります。
 これまでも、幾度となく財政再建が行われてきました。しかし、端的に言うと、ことごとく失敗したと思います。最近では安倍政権。確かにアベノミクスで税収は増えましたが、基礎的財政収支を均衡させるという目標は、2020年度から25年度に後ろ倒しをしました。やはり、基本的には日本の予算制度に問題があると私は考えています。
 まずは、財政ルールを導入し、あるいは目標を導入して、それを守っていく、事前のコミットメント、あるいは事後にちゃんと守られたかどうかチェックする仕組み、それが残念ながら日本にはないんですよね。例えば、シーリング、これは国も地方もそれなりに導入されていますが、一般会計の当初予算にしか適用されません。逆に言うと、補正予算で幾らでも歳出を増やすことができるわけですね。
 あるいは、意思決定システム。安倍政権はちょっと例外的です。非常に強い官邸だったので、本当は財政規律を高めることができるんですけれども、残念ながら安倍政権では財政規律を守ることにそれほど関心がなかったわけです。
 それから、透明性。例えば、私がよく引用するのが埋蔵金です。皆さん、埋蔵金を御存じですかね。もちろん地中に埋まっているお金ではありません。各省が運営している特別会計の中に積立金があるんですよね、貯金です。これから来年度予算編成が本格化して、12月に来年度の政府予算案が発表されるわけですけれども、その資料を見ると例えば、一般会計にお金がないので、特別会計の積立金を1兆円、一般会計に持っていきますと。そうすると何が起こるかというと、一般会計の財政赤字が1兆円減るという数字が財務省の資料に出てくるんですよ。分かりますか。貯金を1兆円、一般会計に持ってくると財政赤字は1兆円減りますよ。財務省の資料は、それによって財政が健全化したと説明しているわけですよ。本当ですか。そんなことはないですよね。我々の家計で、今月は非常に苦しいと。そうしたら普通は貯金を取り崩すわけですよね。しかし、家庭の財政は当然ながらそれが悪化しますよね。
 私は、埋蔵金を使ってはいけないと言っているわけではなくて、埋蔵金を使うことによって財政が悪化することを国民に説明する必要があると思うんですが、残念ながら財務省はそういう説明はしないんですよね。
 これは、経済財政諮問会議がたまにはいいことを言うなと思って用意した資料なんですが、財政健全化に向けて、中期で歳出をコントロールする必要があるということを提言していまして、全くそのとおりだと思います。私自身、世界中の財政再建、予算制度改革を調べましたけれども、その中で最も重要なのは中期、3年とか5年の枠組みの中で予算の総枠をコントロールしていく、あるいはそういうことができる国は財政再建に成功していると理解しています。
 具体的な例として、スウェーデンを御紹介します。
 スウェーデンは、1990年代前半にギリシャみたいな危機的な状況になりました。財政赤字が拡大して、スウェーデンクローナが外国為替市場で売られて、通貨が安くなって、危機的な状況になったんです。スウェーデン財務省と議会がこれを何とかする必要があるということで、いろいろ分析したところ、やはり予算制度に問題があったと。例えば、日本と違ってスウェーデンでは、議会で与党も政府予算案を修正することがよく行われていたそうです。
 そこで、抜本的に予算をつくる仕組みを変えたのがこのスライドなんですが、どういうふうに変えたかというと、最初に3年分の歳出を決めてしまうんですよ。今、2020年度ですが、2020年の春に最初に決めるのは2023年度の歳出の上限を決めるんですよ。21年度と22年度はそれぞれ2年前と1年前に決まっているんですよ。総枠を決めて、次に何を行うかというと、3月の終わりに予算閣議が行われるんですが、これがなかなか面白くて、何かストックホルム郊外にある総理大臣の別荘に全閣僚が集まって、2日間、かんかんがくがくの議論を行って、財務省がつくったこの内訳、総枠を踏まえた、外交だとか医療だとか、その内訳の配分案について閣僚で議論をする。変えることはできます。財務省が提案した内訳を変えることはできるんですけれども、例えば、教育の予算をもっと増やしたいということで増やすことはできますが、増やす場合には必ずほかの予算を削らなきゃいけないんですよ。それは上限を先に決めているからなんですよ。
 さらに、その後、496の議決予算。これは我々が考える普通の来年度予算です。これは夏から秋にかけて各省がこの枠の中でつくって、単年度予算として秋に国会で審議されます。議会も非常に重要な役割を担っていまして、春の予算委員会で歳出の上限を議決するんですよね。通常の予算の議決とはちょっと性格が違うんですけれども、議決するんですよ。どういうことかというと、一旦議会が議決しますので、例えば今回の新型コロナウイルス感染症みたいな状況が起きて、歳出を増やす必要があるときには一度決めた上限を変える必要があるんですよね。変えることはできますが、政府は議会に対してなぜ一度決めた歳出を変える必要があるのかと説明する必要があるわけですよ。私はそこに、一度決めたことを守るコミットメントが働いていると理解しています。
 それから、日本と違ってシーリングの例外は国債費だけです。借金の利払い費はけちることができないので、シーリングの対象外です。逆に言うと補正予算をやっても、シーリングを守らなきゃいけないんですよ。スウェーデンももちろん補正予算があります。スウェーデンの補正予算は何をやっているかというと、まず余ったところから足りないところに振り向けることをやるんですよ。それでも足りないと、今回の新型コロナウイルス感染症みたいな問題が起きた場合には国会に一度決めたシーリング、この上限を改定することを認めてもらう、そういうことになっていまして、要は常にトップダウンで決まる仕組みなんですよ。これは皆さんも御承知だと思いますが、スウェーデンは非常に税負担が高いわけですよね。消費税の税率は何と25%、だからもうこれ以上増税はできない前提なんですね。つまり、これは最終の歳入の枠の中で歳出を管理する仕組みなんです。
 この後、スウェーデンはほとんど財政黒字を維持していまして、足元、どうなるかは分かりませんが、多分赤字になったとしても、すぐに黒字に戻ってくると思います。スウェーデンが何でこのような制度を導入したかというと、1990年代の危機的な状況の中で財政赤字を削減しなければならなかったからですね。例えば、子ども手当とか社会保障を削らざるを得なかったんですよ。その結果、出生率が下がっちゃったんですよ。スウェーデンは有名なように福祉国家ですよね。福祉国家を守るためには財政規律を守ることが非常に重要なんだということを国民、政治家、あるいは官僚たちも共通の理解として持ったんですよ。つまり、財政規律を守らなければ福祉国家は維持できないということで、トップダウンで予算をつくる仕組みを導入したんですよね。
 この仕組みは一部の国で導入されていますが、日本ですぐに導入することができるとは思っていませんが、ポイントは中期で歳出をコントロールするということなんです。税収はコントロールできないからなんです。税収は景気によって大きく変動するので、コントロールできないんですよね。でも、歳出はそれなりに。もちろん生活保護だとかコントロールすることが難しい歳出もありますけれども、歳入と比べると相対的にコントロールしやすいんですよね。
 もう一つの改革は、先ほどちょっと透明性のところでも御紹介しましたが、独立財政機関というのをつくって、そこが政府に対していろいろアドバイスをしたり助言をすることで、これが最近は非常に増えていて、もうお隣、韓国は2003年に議会につくっているんですよね。あるいはオーストラリアとかカナダとか、州政府の中にもこういう組織をつくっている例があります。
 次は、この補正予算の話に移ります。
 これは一般会計の予算ですが、今回の新型コロナウイルス感染症対策で、御承知のように、歳出ががーんと増えて、その増分はほとんど借金で賄ったわけですね。これについてちょっと私なりのコメントをお話しさせていただきたいんですが。
 まず、そもそも2020年度の補正予算が遅過ぎたと。2月からクルーズ船の問題が出ていたので、当初予算を国会で修正して、速やかに対応すべきだったと。しかし、当初予算を修正した例というのがほとんどないので、財務省が嫌がったからだと思うんですが、別に前例にとらわれる必要はなかったと思うんですよね。
 それから、次は例の10万円の話ですが、閣議決定をやり直したので遅くなったわけですよね。さらに1次補正の中身を見てみると、感染症対策にたった3200億円、それから、地方臨時交付金に1兆円しか計上しなかったわけですよ。その代わり、観光、いわゆるGoToトラベルに2兆8000億円も計上したわけですよ。2次補正になって、ようやく医療関係に3兆円、さらに臨時交付金を2兆円増額したわけですよ。何を言いたいかというと、1次と2次の補正の内容は逆だったと思うんですよね。それから、臨時交付金も1次補正で1兆円積みましたけれども、実際、地方にお金が配分されたのは6月の終わりですよね。4月こそ大変だったときに6月かと、何でそんなに遅いんだと私は思いました。
 それから、もう一つの問題は国と自治体間の紛争です。特にこれは東京都の問題ではありましたけれども、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて緊急事態宣言を発して、新型コロナウイルス感染症対策を行ったわけですが、法律上、県に権限があるわけですよ。しかし、国が全国のバランスを取るという観点からいろいろ注文した結果、例えば、緊急事態宣言を受けて、自粛をする業種の選定をめぐって、国と東京都で一悶着あって実施が遅れたわけですよ。これは民間の団体が新型コロナウイルス感染症対策の検討過程をレビューして、そこから引用したものなんですが、国と自治体間のガバナンスの混乱が非常に大きな問題だったということを提唱しています。
 さはさりながら、これは新聞からの引用ですが、片山元鳥取県知事は、都道府県の中でもここに御紹介しているような岩手県等で知事がリーダーシップを発揮して、国より先手を打って取組を行ったということを紹介しています。この新聞には三重県は残念ながら紹介されていないんですが、聞くところによると、三重県も4月に法律に基づかない緊急事態宣言を発したということで、独自の取組を行ったわけですが、他方、多くの自治体は国からの指示を待っていたのではないかと思っています。
 コロナ対策の今後の課題なんですが、まだこの感染症は終息していないし、また、これからこの冬にかけて増えると見込まれているわけですね。引き続き迅速な対応が求められるわけですが、そうした中でも、今まで行ってきた施策のレビューをして、それを今後の政策に生かしていく必要があるんじゃないかと思っています。三重県は「“命”と“経済”の両立をめざす『みえモデル』」を導入して、いろんな取組を行っていると聞いています。まず、行ったことについて結果がどうだったのか、うまくいったのか、あるいは期待したとおりの結果が出なかったとすれば、それはなぜなのかを分析して、次の対策に生かしていく必要があると思うんですよ。分かりやすい言葉で言えば、学習することですよね。
 確かに、国・地方を通じて、この評価はよくやられています。実は三重県は有名ですよね。北川知事の時代に事務事業評価が行われて、全国に先駆けて評価を行いました。確かに、国・地方を通じて評価は行われているんですが、残念ながら中身を見てみると、全てを否定するつもりではないんですが、非常に細かくて、本当の意味での評価が行われているかというと、私は非常に疑問に思っています。各省庁の評価書を見ると細か過ぎてほとんど理解できない。本当に重要な政策の目標、あるいは評価が行われていないんですよね。それから、国・地方を通じて、議会が政府あるいは執行部を、監視するという表現はちょっとよくないかもしれませんが、チェックする機能が非常に弱いと思っています。ほかの国ですと、たとえ与党であっても政府のいろんな政策についてチェックをして、改善することを求めています。
 次は、地方財政についてお話をします。これは、多分、皆さんもよく御存じの点も多いと思いますので、ごくごく簡単に御説明させていただきます。
 地方歳出は、簡単に言うと民生費がどーんと増えているということですね。
 それから、この財源を見てみますと地方交付税、それから地方税、さらに臨時財政対策債と呼ばれる借金ですよね。この借金が足元、少し減ってきてはいますが、非常に大きな割合を占めているわけです。
 それから、地方交付税と地方税等の一般財源、これを1人当たりに直して比べたのがこのスライドになります。一番右の東京都は地方交付税をもらっていませんので、このオレンジはゼロですね。何を言いたいかというと、岩手県、あと鳥取県とかこの辺は、実は東京都より豊かになるんですよ。逆に言うと、大阪府とか東京都に次ぐ人口の多い県は1人当たりにすると地方交付税をちょっとしかもらっていないので、えらい損をしているんですよね。三重県はどうですかね。三重県は割と頑張っとる、そんなにたくさんもらっていないと思うんですね。
 ほとんどの国で地域間に税収の格差があるので、日本でいう地方交付税という仕組みはあります。ありますが、1人当たりに直して逆転するような国はないんですよ。ただ、ドイツとかは1人当たり税収を均等化するように交付税を配分するルールがあります。税収に格差があるので、1人が均等化するように配るけれども、逆転するようなことはないんですよね。私はちょっとやり過ぎだと思っています。
 それから、地方財政について重要な点は、地方財政法で全国一定のサービス水準を維持するために、国は財源を保障しなければいけないルールがあります。そのために、例えば交付税は税収の一定割合で決められているので、景気が悪くなると減るわけですね。そのままにしておくと一定のサービス水準を維持することはできないので、国と地方が合わせて財源を補塡する仕組みがあるんです。このうち一つの仕組みが折半対象財源というちょっとややこしい話で、私にもなかなか説明することが難しいんですが、2019年度でこの不足がゼロになったので、いわゆる地方財政対策はなくなったんですよ。
 ただし、新型コロナウイルス感染症対策でこれは復活すると思います。このポイントは臨財債です。総務省はホームページで臨財債についてこういう説明をしていて、一言で言うと臨財債は借金でないと言っているんですよ。本当ですかと。実際、三重県も結構、臨財債を発行しているわけですよ。私はこの臨財債は非常に問題が多い仕組みだと思っています。それは借金をしてはいけないと言っているわけではなくて、臨財債は借金ではないと説明している点、それから地方に割り当てているわけですね、臨財債を各地方自治体に総務省があなたのところは100億円発行しなさいよ、300億円発行しなさいよと決めているんですよ、地方交付税の代わりとして配分しているからなんですよね。
 つまり、本来は借金だと。実際、各自治体は今、バランスシートをつくっていますよね。バランスシートを見ると当然ながら臨財債は債務に計上されています。明らかに債務に計上されています。債務なのに借金ではないと説明をするのは非常に問題だと。つまり、借金している意識を希薄化させるものだからです。
 それから、これはちょっと分かりにくい数字なんですが、総務省は地方交付税を通じて地方自治体が一定のサービスを提供するために必要な財源を保障すると言っています、本当ですかと。これは簡単に言うと地方交付税はP掛けるQ、難しい話になってしまうかもしれませんが、価格と例えば、学校でいえば子どもですね、児童生徒1人当たりのコストと児童生徒の数を掛けて地方交付税の算定の基礎にするわけですよ。これは道路だとか特別養護老人ホームだとか、全てのサービスについてそれを積算して足し上げるわけですが、地方交付税は先に総額が決まるので、確かにマクロ的には総額は保障されるんですが、内訳を見るとやっぱりやりくりが厳しくなるわけですよ。総額が先に決まるから、例えば高齢者が増える、子どもの数が増える、いろいろ災害が増える、そうした状況になったときに、最後に総額が決まるので、やりくりをする必要がある。
 これは、やりくりの結果を示していて、2015年度と2010年度を比べると幾つかの費目によっては単位費用が削減されているんですよ。つまり、総額を合わせるために単位費用を下げているんですよ。だから、先ほどの臨財債も地方交付税で面倒を見ることを総務省は言っていますが、仮にその借金の臨財債の利払いは地方交付税で算定されていたとしても、ほかの経費が削減されている可能性が高いんですよ。だから、それは結局、借金の利払い費が削られているということですよ。
 それから、地方創生は、なかなかいいネーミングだと思いますが、残念ながら私はそれほど期待した成果はなかったのではないかと思っています。それは中身を見てみると、相変わらず国土の均衡ある発展なんですよ。高度成長期は確かに国土の均衡ある発展が必要だったと思います。しかし、人口が減る中で、それは無理なんですよね。こういうことを言うと私自身、東京に住んでいるので、東京から見た見方ではないかとお叱りを受けるんですけれども、人口が減る中で均衡ある発展は無理だと思うんです。
 それから、各自治体、特に市町村がつくった計画を見ると大体みんな同じなわけですよ。子どもを育てやすい環境をつくる、働きやすい環境をつくる、それは何ら否定しないんですが、各自治体が推計している人口を足してみると、1億3000万人とか1億5000万人とか、そのぐらいになってしまうと。せめて都道府県の中で調整できませんかと思うんですよね。そういうことはほとんど行われなかったと理解しています。
 地方財政の根本的な問題を表しているのはこの図なんですけれども、例えば、特別養護老人ホームで、ある事業を行うための財源は地方交付税、補助金あるいは留保財源と、今日は時間がないので省きますけれども、ある1つの事業を行うためにいろんな財源が入っているんですよ。この結果、地方交付税は算定上、細かい積算がありますけれども、建前からいえば地方にどういうふうに使うかという裁量があるわけですよ。
 しかし、実際にはないんですよね。つまり、特別養護老人ホームとか、あるいは保育園を運営するためには、この全ての財源がそろわないと運営することができないんですよ。それで、特に補助金については中央省庁がいろんな基準を定めているんですね。
 面白い例を御紹介します。保育園の砂場の面積も厚生労働省が決めていたんですよ。つまり、各自治体で造る保育園の砂場の面積が基準に合わないと補助金が出てこないんですよ。そうすると保育園が運営できないんですよ。今はさすがに砂場の面積は緩和されましたけれども、給食を作る設備の面積はたしか相変わらず決めていると思います。つまり、裁量はないんですよね。
 私は、この仕組みでは地方分権は成り立たないと。国と地方、それぞれが行う仕事、サービスを決めた上で、それに応じた財源を決めていくと。最近、新聞で話題になっているのは少人数学級ですよ。財務省と文部科学省は予算編成をめぐって闘っていますが、私自身はその議論自体がナンセンスだと。それぞれの自治体の実情に応じて、地方自治体が自由に人数を決めたらいいじゃないかと。それぞれの自治体の実情に応じて。昔は必要だったと思います。戦後、日本は貧しかったです。地方自治体において、サービスの水準に大きな格差があったんですよ。そういう場合はまさにナショナルミニマムという意味でこういう基準を定めて、全国どこでも同じようなサービスを提供するようにする仕組みが必要だったんです。でも、もはやそれは必要がない、地方自治体は自ら決めたらいいじゃないかと思うわけです。
 最後に、アフターコロナについてお話をします。
 この危機は、医療、感染症対策、マイナンバー、様々な制度について矛盾が明らかになったと思います。
 私は今後、特にやはりセーフティーネットの改善が重要だと。中でも育児とか教育、職業訓練といった人材育成、これが非常に重要になっていると思っています。こうした人材育成を拡充するためには財源が必要であり、特に年金だとか医療は、国・地方を通じて社会保障に一番お金がかかっているので、より効率化できる余地があるんだろうと思います。それから、新型コロナウイルス感染症で導入した臨時的な措置は、速やかに戻していく必要があると思っています。
 アベノミクスで経済重視だったんですが、これは国際競争力を表しているランキングなんですが、残念ながら今は中国より劣っている状況なんですよね。経済成長はもちろん重要だと思います。競争力を高めていくためには生産性を高めるとか、いろんな取組が必要だと思っているんですが、なかなかそうした具体的な措置が取られていない。
 それから、人材育成という意味で日本の問題を少しお話しします。
 これはよく引用される数字なんですが、先進国の中で、ひとり親・子ども世帯の貧困率が日本はトップなんですよ。約6割は貧困になっていると。あるいは格差も結構広がっているんですよね。これはどうしてなのかということなんですが、これはOECD諸国について補償的支出と投資的支出の対GDP比をプロットしたものなんですが、投資的支出というのは教育、家族対策、あるいは職業訓練といった人の育成のためにどれだけお金を使っているかを表したものです。横軸は補償的支出といって、年金とか失業保険、それにどれだけお金を使っているかを表しているものなんです。
 この右下の国、ドイツとか日本、スペイン、こうした国は、社会保障について社会保険を中心とした国なんですよ。だから年金とか失業保険が手厚いんですよ。他方、右上、北欧諸国はどちらも手厚いんですね。面白いのは左側の国、イギリスとかオーストラリアとか、大体英語圏の国なんですよ。英語圏の国は年金とか失業保険にお金を使っていないんですよ。もう少し言うと、社会保険がそんなに発達していないんですよね。その代わり、教育とか人的投資を行っていると。
 ただ、イギリスは1990年代のブレア政権で、一に教育、二に教育、三に教育だと言って、すごく予算を増やしました。増やせるんですよ。これは、日本とかドイツといった社会保険の国と英語圏の国については財源に大きな相違があります。社会保険の国は文字どおり、その財源が社会保険料なんですよね。
 他方、割合として税収は少ないんですよ。消費増税で、日本はなかなか苦労しましたよね。家族対策とか教育のお金は社会保険では賄うことはできないんですよね。何年か前、自民党がこども保険を提唱しましたが、私は非常にそれは問題だと思っていますが、子どものためにもっとお金を使うべきだと思っています。英語圏の国は社会保険が発達していないので、増税することができるんですよ。だから教育とか人材投資にお金を振り向けることはできるんですよ。これは日本だけではなくてドイツとか、これらの国の非常に根本的な問題なんですよ。社会保険は特に高度成長期は機能しました。男性のひとり親、片働き世帯を前提とした仕組みなんですよ。ところが、もはやその状況は終わっているわけですよ。日本でもいまや夫婦共働き世帯のほうが多いですよね。
 しかし、こういう国は相変わらず片働きという考え方、あるいは子どもや自分の親の介護を奥さんが担う、こういう伝統が強いんですよね。人材投資という意味では極めて遅れているというか、非常に深刻な問題になっている。もちろん、安倍政権になって家族対策の予算は増やしています。あるいは人的投資を増やしています。それはいい方向だと思いますが、まだまだ足りない、財源がやっぱり足りないと思うんですよね。
 それから、もう一つ私が今回ここに来させていただいて特に申し上げたい点がこのスライドです。
 都道府県の役割をもっと強化すべきだと考えています。これまでの地方分権は市町村主義だったと思うんですよね。しかし、もはや人口減少の中でそれは無理だと思うわけですよ。また、市町村合併も非常に時間がかかるし難しい、現実的ではないとすれば、行政サービスを広域化していく。あるいは選択と集中、さらには都道府県の機能・役割強化ですね。
 具体的な例を申し上げれば、水道問題ですよね。これは、あるシンクタンクが今後どれだけ値上げをする必要があるかについて各自治体別に分析したものの抜粋になります。
 それから、もう一つは医療・介護ですね。これは昨今の改革で厚生労働省が、都道府県が中心的に役割を担うべきだと言っています。確かに、私も基本的な方向としてはそう思うんですけれども、残念ながら都道府県の権限が限られている、あるいは職員の能力がまだまだ限られているということで、発展途上にあると思います。都道府県化の一つの背景は、県によって1人当たりの医療費に大きな差があると。一つの要因はベッド数ですね。ベッド数が多い県ほど医療費がかかると。あるいは一般会計から繰り入れていると。三重県は結構頑張っていますね。最近、繰入れを少なくとも平成29年度までは下げていると。頑張っていると申し上げたのは、日本の保険制度の問題は、保険というのは本来は負担と給付がバランスするはずなんですよ。より高い給付を望むのであれば、高い負担をするのが本来の保険制度なんですが、残念ながら日本の保険には多額の一般財源を投入しているので、この規律が働かない。その一つが法定外繰入れなんです。
 それから、これはちょっと御紹介なんですが、厚生労働省が主として医療・介護の都道府県化ということで、この3つの政策をやっています。この3つを一体的に捉えて改革をしているのが奈良県なんですね。ポイントは負担と受益をバランスさせていこう、県民の負担を抑えながら医療をより効率的、効果的に提供するような仕組みを考えようと。つまり予算制約の中で効率化しようと考えています。もちろんこれはまだ計画で、本当に成功したかどうかはもう少し時間がかからないと分からないんですが、面白い試みだと思っています。
 もう時間になりましたので、最後に結論をまとめます。
 確かに、新型コロナウイルス感染症は今までになかったことなので、迅速な対応が必要だったと思いますが、新型コロナウイルス感染症対策で行ってきたいろんな施策について、まずは評価しなければいけないと。評価した上で、今後の対策に生かしていく必要があると私は思っています。
 さらに、国・地方を通じて、政府の中、あるいは議会のチェック機能が日本は非常に弱いと。その強化が必要である。
 それから、新型コロナウイルス感染症はいろんな分野で問題と矛盾を浮き彫りにしたわけです。まさにこれを契機として、何が問題なのかと。感染症対策で何が不十分だったのか、あるいは国・地方を通じたデジタル化ですよね。何が問題だったのか、これをちゃんと明らかにしないと改善することは難しいと。
 それから、最後のほうで人材育成の話をしましたけれども、私は財政再建が目標ではない、少子高齢化をいかに乗り切るかが問題だ、課題だと考えています。そのときに、特に重要なのが人材育成なんですよ。世界中どこでも格差が広がっています、大なり小なり。そうした中で、教育だとか職業訓練だとか、あるいは非正規雇用の人たち、そういう人たちのスキルを磨いて、働いていただいて、税金を納めていただく、そういう循環をつくらないと、この少子高齢化は乗り切れないと思っています。
 最後に、私なりの地方分権について一言申し上げます。
 地方分権は何ですかと時々私自身聞かれます。そのときに私はこう答えています。地方分権は格差が広がることだと。格差が広がるべきだと申し上げているわけではなくて、地方分権を望むならば、結果として格差は広がらざるを得ない、許容せざるを得ないと。どこまで格差が広がるか、それは議論が必要だと思います。地方分権は地方自治体が自らの考え方で行政サービスを提供することですよね。先ほど、少人数学級の話をしましたけれども、40人がいいのか、30人がいいのか、それは地方が決めることだと。しかし、40人と30人では格差が広がりますよね。つまり、格差を許容することがなければ、地方分権は進まないと私は思います。どこまでその格差を許容すべきかどうかは議論する必要があります。分権ってやっぱり自立することなので、大変ですよね。子どもは親から離れて独立するのは大変です。
 しかし、もう時代は変わっていると。ただし、地方自治体間で税収の格差があるので、それは調整する必要があると。各自治体で、例えば、1人当たり税収を均等化した上で、どのようなサービス水準を維持するか、それは地方が決めたらいいじゃないか思うわけです。
 ちょうど時間になりました。いろいろ申し上げましたけれども、ここでお話を終わりにします。どうもありがとうございました。

〇杉本委員長 田中参考人、御説明ありがとうございました。
 質疑応答に入る前に、換気のために暫時休憩いたします。
 再開は午後2時10分といたします。

 

(休  憩)
 
 (2)参考人への質疑
〇杉本委員長 それでは、先ほどの御説明を受けまして、委員の皆様から御質疑等をお願いいたします。
 なお、念のため申し上げますが、参考人は挙手により委員長の許可を得てから御発言願います。
 また、委員に対しては質疑をすることができないこととなっておりますので、御了承願います。
 それでは、御質疑がありましたらお願いいたします。

〇小林(貴)委員 交付税の分配が過剰であると。その上で均衡ある発展はそもそも不可能であって、格差を受容すべきであるということでした。臨財債は借金であるので、もう借金は増やすべきではないという話だったと思っています。
 その中で、地方分権は進めるべきだということだったんですが、保育所の例を出されましたけれども、この保育所の給食の基準であったり、砂場の基準は安全確保の面だと思うんですね。ですから、安全確保で守るべき、子どもを守るためということで、あまり地方分権とは関係がないんじゃないかなと思ったんですが、それはともかくとしまして、格差が広がるということになれば、同じ国ですから移住の自由がありますので、当然、経済的に裕福な東京都に集中することになるんだろうと思います。そうすると、地方格差の、要するにたがが外れれば、当然どんどん人口の移動もあって、さらなる経済の格差が広がるんだろうと思います。その上で、国力という話をされておりましたが、そもそもこういう形で果たして国力が向上するのかなという疑問が存在します。
 地方創生のお話もされましたけれども、地方創生は今の時点で失敗だったか、成功だったかという話は時期尚早だと思うんですが、そもそもの目的として、それぞれの地方が抱えている地域の資源をいかに現金化するか、域外から取り入れるかということを政府が支援するための目的だったと思いますので、そもそも先ほど言われた地方の財政力、経済力の向上を目指したものだと思います。
 その上で格差の拡大が国力とつながるかどうか、お答えをいただきたいです。

〇田中参考人 最初に、安全のための基準ということがございましたけれども、私はそれを別に要らないと申し上げているわけではなくて、基準は地方自治体がそれぞれの観点からつくられたらいいんじゃないかと思っております。昔は全国統一の基準が必要だったとしても、今はそれぞれ地方自治体が決めたらいいんではないかということを申し上げました。
 それから、地方の財政力、あるいは国力の問題ですが、端的に言うとなかなかこれだという正解はないと思います。私が申し上げたのは、人口が急速に減る中で、これまでの仕組みを維持することは難しいということを申し上げたわけです。そうした中でどうするかに知恵を絞っていかなきゃならない。今までの制度を維持しようとすれば、国・地方を通じて、さらに借金を増やしていくことになるだろうと。直ちに日本がギリシャのような危機になるとは私も思いませんが、それは将来世代が負担をすることになっていくので、我々の子どもたちにその負担を押しつけていいんですかと思うわけです。
 この問題は、魔法のつえのようなものはないと思います。それぞれ自治体が知恵を絞って対応していく必要がある、するしかないと思うんですよね。それぞれの自治体で、おっしゃるように、経済力を高め、あるいは産業を興し、そういうことは求められていると思いますが、他方で、困ったら国が助けてくれる、そういう状況ではなかなか自立することは難しいのではないかと考えております。なので、なかなかすぐに、端的なお答えにはなっていないのかもしれませんが、基本的にはそれぞれの自治体で知恵を絞って対応するしか方法はないと理解しております。

〇小林(貴)委員 大きく3つほどありますので、続けてお伺いたいんですが、恐らく今の状況でいいと誰も思っていないと思うんですよね。国も地方もそれぞれ、それなりにいろいろ考えながら改善、改革を行っているんだろうと思います。
 それから、別に先ほどの保育所のことにこだわるわけではないんですけれども、それ以外のこともたくさんありまして、地方で決めるべきこと、地方で決めればいいこともあると思います。ただ、残念ながら法的拘束力がないんですね。だから、地方が勝手にこの基準でやりなさいと言ったものに対して、保育所の運営側がそんなもの、国が決めていないじゃないか、地方が勝手に決めているのということだったら、我々はその基準を全うさせることができないので、いろいろなものを含めて非常に難しいものがあると思います。
 あと、地方の財政状況と国の財政状況がいろいろ混在にお話の中であって、根本的に違うことがあると思うんですが、総論として権限の集中化をすべきである、財務省ができないものはできないと言うべきだ、加えて透明性の向上という話をされました。できないものはできない、出さないものは出さない、それはもちろんそうできれば誰も困らないんだと思うんですが、例えば、医療費の3割負担を4割負担にしましょうということをどうやって実現したらいいんでしょうか。大きく改善されると思います。可能ですか。

〇田中参考人 基準は、おっしゃるように、国の各省庁が決めているからですよ。それは補助金を出しているから基準を決めているわけです。全国に言って同じ基準で補助金を交付しているから、その基準を守らないと補助金は出しませんという仕組みになっているからです。
 なので、私が申し上げたのはそうした補助金ではなくて、交付税でもいいです、一般財源でやったらいいんじゃないんですかと。それは国がやるべき仕事、地方自治体がやるべき仕事を分けた上で、それに応じた財源を手当てすると。地方が責任を持って提供するとすれば、基本的には地方の財源で対応していただくと。
 ただし、自治体によって税収の格差がありますので、それは調整すべきだということを申し上げています。
 それから、医療費の問題ですが、社会保障、これは私が申し上げるまでもなく、様々なステークホルダーがいて、なかなか利害を統一することが難しいわけですね。もちろん医療だとか介護は、単に財政の論理で決めるものではありません。結局、それは国民が決めることだと思います。
 先ほどちょっと例を申し上げましたけれども、スウェーデンは、1990年代前半に危機的な状況になりました。国家が崩壊する状況になったんですよ。まさにそういう危機意識が改革を始めたんですよね。医療、介護の抜本的な改革をやりました。例えば、スウェーデンでは病院に長く入ると、10日とか、ちょっと正確な数字は覚えていませんが、一定期間を過ぎると、その財政は市町村が負担をする。基本的に県が医療をやっているんですね。でも、医療って非常にお金がかかるので、病院に長くいることは非常に財政的に大きな問題になるので、一定期間を過ぎると基本的には在宅で対応する仕組みなんですよ。そのためにインセンティブをつくっていて、病院に長くいると一定の期間を過ぎた部分の財政的負担は、市町村が負担をすることになっているんですよ。
 何が言いたいかというと、残念ながら、あるいは幸か不幸か、日本はそんなに危機的な状況にはなっていません。もし、危機的な状況になれば考えざるを得ないと思います。日本の難しさは国民の間で危機感の共有がないので改革はできないということで、逆に言うと、ほかの国は危機的な状況になったから改革ができたんだと思います。
 でも、例えば医療費の負担の問題について申し上げると、高齢者の中でも豊かな人たちがいると思うんですよ。なぜそういう人たちに現役世代と同じ負担をしていただけないのか、そのお金を子どもたち、あるいは教育のためにもっと使える余地があるのではないかと私は考えております。
 先ほど申し上げたように、日本の場合、社会保険に大量の一般財源が投入されているので、豊かな人たちを社会保険を通じて支えているところが非常に大きいんですよ。国民年金、国民健康保険、後期高齢者医療、全てがそうです。本来は、ほかの国であれば、低所得の方々は一般財源で支えるんですよ。でも、日本はサラリーマンの現役世代の保険料だとか税金で、保険の中で支えようとするので、私はむしろ不公平が生じていると思っております。

〇小林(貴)委員 先ほどのことに関してなんですけれども。高所得者あるいは財産をたくさんお持ちの方の医療費は若者と同じでいいんじゃないかと。いろんな意見もあるし、いろんな考え方があるし、私はたまたま分かりやすいところで医療費の個人負担を3割から4割に上げたらどうかという話を差し上げたつもりです。それで全てが解決だと思わないし、融通できる部分はたくさんあると思います。私がお伺いしたかったのは、じゃ、それはどうやって実現するのかということだったんですよね。
 我々は、申し訳ないですけれども、選挙に関わる人間です。有権者に訴える側です。それで御理解をいただけるかどうか、そこは死活問題なんですよね。それは常について回ってくるわけです。なので、いろんなアイデアがあって、いろんなシンクタンクからの提言がある、それはその上で、じゃ、現実的にそれをどうすり合わせるのか。国民の皆さんが大きく不安にならないように、将来を保障するように、かつ不公平性がないようにとしてきた結果が、もちろん少子高齢化もあったんでしょうが、この扶助費の肥大化につながってきたんだろうと思います。
 ですので、もちろん釈迦に説法だと思います。簡単な魔法のつえはないと冒頭にお話しされた、そのとおりだと思いますし、総論としてよくよく分かるんですが、じゃ、それは、具体的にどうしたらいいのかということをもう少しお伺いしたかったと思っています。

〇田中参考人 今の状況では、端的に申し上げれば、解決することはできないと思います。先ほど、スウェーデンの例を申し上げたのは国民に危機感の共有がない限り、痛みを伴う改革はできないということです。
 さはさりながら、改革を一歩でも進めるとすれば、大事なことは国民が理解することだと思います。私自身、中央省庁にいましたけれども、社会保障あるいは地方財政の問題は複雑過ぎて、残念ながら、多くの国民は理解できないと思います。国民が理解できなければ痛みを伴う改革はできない、あるいは選挙を通じて国民に投票あるいは選挙民に説明することも難しいと思います。
 ということで、残念ながら単純な解決策はない。ほかの国もそうでした。危機が改革を促すというのは世界共通の現象なんです。

〇小林(貴)委員 システムというのは、基本的に複雑なもので、もちろん簡素化したもののほうがいいことはよく分かっていると思いますが、時代の流れで様々なものが付加されてきて、複雑化していったんだろうと思うんですね。
 それはそれとして、最後に、僕はすごく重要なことだろうと思って、ただ、あまり深く話をされなかったのでお伺いしたいんですが。国際競争力が低下していると。これは非常に懸念される事項で、人口も減りながら、学力も下がりながら、大学のレベルも下がってきている現実がある中で、例えば韓国や中国にもう追い抜かれている現実があるというのを、十分承知しているからです。

〇杉本委員長 時間的なこともありますので、端的に質問をお願いします。

〇小林(貴)委員 端的に。ですので、教育に力を入れるべきだという話をされましたが、具体的にどのように国力を上げていったらいいのか、お伺いします。

〇田中参考人 教育の問題は、義務教育レベルあるいは大学とかいろいろあって、これもなかなか一概に言うことは難しいんですが、小中学校レベルでは、これまでの教育はテストです、高い点数を取るという教育でしたので、それではやっぱり世界と戦えない、子どもたちが自ら考える力を養うことがないとなかなか難しいと。
 それから、私自身、大学に属していますが、日本においてトップレベルと言われている大学が、あまりにも世界で対応が遅れていると思うんですよね。例えば、教員の採用とかは、世界で公募をするとか、優秀な教員を集める。もちろんそのためにはそれなりの報酬を提供することも必要です。しかし、残念ながら今の教育の行政は、そうした問題意識は持っていると思いますが、これもなかなか進んでいないと。先ほど、社会保障について申し上げましたけれども、教育分野でもなかなか難しいと私は思います。
 全体を申し上げると、私は非常にやや悲観的になってしまうんですけれども、外的なショックがないと日本はなかなか変われない国だというふうに思っております。

〇田中(智)委員 私たちも地方の議会にいる者の一人として、このままでは非常に憂慮すべき事態、さらにということで、今後を考えていただく上において、本日のお話は非常に示唆に富んだお話だったと思います。
 そんな中で、参考人は独立財政機関の重要性について述べられました。他国の例を見ていくと、アメリカも議会予算局、それから、韓国も議会予算局、オーストラリアも議会予算局という形で、政治的な中立をというふうな必要性、そこを担保しなきゃいけないと思っているんですが、これらの国々は議会の中に予算局を置いているということなんですけれども、このあたりは政治家との関係、その辺の色合いというのは全く出ないような仕組みになっているんでしょうか。

〇田中参考人 それは非常に重要な論点でして、議会につくるとおっしゃるように、与党と野党の間に挟まれて、なかなか中立的な立場を維持することは難しい、実際そういう問題はあります。アメリカは議会予算局を1970年代につくったんですけれども、最初はやはりそういう問題が起きて、中立といっても違うじゃないか、こういう議論がありました。ただし、時間がたつ中で、やっぱり分析の中身、専門的な知識とデータに基づいて議会予算局がいろんな情報を公開することによって、与党を通じて超党派の信頼を得ていったと聞いています。だから、独立財政機関をつくったからといって、直ちに機能するわけではありません。
 ただし、私自身は独立財政機関が必要だと提唱しているんですが、特にやはり議会に必要だと。政府の中につくると、なかなか中立的な立場を維持することは難しいと。
 それから、日本の国・地方を通じて、議会の弱いところは、議会にスタッフが足りないと。執行部あるいは政府とそれなりに対等に議論していくためには、議会においてそれなりの専門的知識と情報が必要であって、それはスタッフが必要なんですよね。アメリカの議会予算局には、たしか250人とか300人ぐらいの、しかも博士号を持った専門家が集まっているんですよね。そういう組織がないとやっぱり議会を支えることは難しいと思うんですよね。単に議会の役割を高めろと言ったといっても、それは難しい話であって、だからこそ、私は国も、あるいは地方も議会にそうした組織をつくるべきで、あるいは地方議会については監査事務局をもっと議会の中につくって、議会の組織としていろんな役割を担うべきだとも思っております。

〇田中(智)委員 参考人から監査委員制度の話が出ましたので。私もそこら辺のところを発展的に考えていくことは重要なのではないかなと。議会の中にそういう機能をしっかり持たせていくことは私も同感であります。
 あと、もう1点。地方の裁量を増やしていくことが必要だというふうにおっしゃいましたよね。そんな中で、今ちょうど示されている人口1人当たりの一般財源、これをドイツのように均等にすることが前提で、地方の裁量を増やしていくことが重要なのではないかなと思うんですが、そのあたりで参考人のお考えはいかがでしょうか。

〇田中参考人 御質問の趣旨は、これを均等化すべき、するような仕組みにすべきだと。

〇田中(智)委員 はい、前提で。

〇田中参考人 私もそういうふうに考えています。ほかの国ではこういうことは起こらないんですよね。あるいはむしろ面白いのはイギリスなんですけれども、イギリスはロンドンが得する仕組みなんですよ。なぜかというと、都市部は土地とか人件費がかかるので、日本でいえばですけれども、交付税がより多く配分されるような国もあるんですよ。でも、このように、逆転する国はないんですよね。
 なので、地方財政の根本的な問題は税源の偏在にあるんですよ。詳しくは申し上げませんが、経済的な分析をすると、地方分権を進めたほうが公正は高まると。地方それぞれの団体が自らの状況に応じて必要なサービス水準を決めるほうが、中央集権的に決めるより国民のウエルフェアは高まるということは理論的に明らかにされているんですよ。
 ただし、税源の偏在があるので、そうはいかないということで、じゃ、どうするか。もちろんすぐ簡単にできるとは思いませんが、1人当たり税収を均等化するように交付税を変えて、逆に言うと、先ほど申し上げているような、小学校の教員1人当たりの子どもの数だとか、そういうサービス水準は基本的には地方に決めていただくと。そういう方向にすぐには行きませんが、交付税をもっと簡略化することによって、そうした方向を目指すべきだということを申し上げております。

〇田中(智)委員 最後に1つだけ、すごく気になっているので。
 パワーポイントの資料の8ページにあります「財政の透明性と純金融負債(2010年)」のところの2項目間の相関で散布図を示していただいていますけれども、明らかに負の相関を取っているんですが、その相関からドイツは少し離れていると感じているんですけれども、財政の透明性指数がそう高くなくても純金融負債が50%程度に抑えられているというのは何かあるんですかね。

〇田中参考人 ドイツは、やっぱり一つは歴史的な経緯だと思います。大昔、とんでもないインフレになって、財政赤字をそれなりに抑えることは国民的に理解があるんですよね。
 何年か前に、ドイツに行っていろいろ聞いてきて、非常に面白かったことがあります。連邦の下院議会なんですけれども、日本と同じように予算委員会があります。予算委員会の委員長に野党がなるんですね。この予算委員会は超党派的な、非常にプレスティージの高い委員会だということで、まさに国庫を預かる立場から政府予算案をしばしば修正すると。修正というのは増やす場合もあるんですが、基本的には減らす方向で与野党一緒になって議論して、予算の修正をしているそうです。本当かと、何度も聞いたんですが、そうらしいんですよね。歴史的な経緯から、財政赤字が結局、国家を駄目にするという問題視があると思います。
 透明性は、確かにこれはちょっと古いデータなので。最近は例のギリシャ危機を経て、ドイツも予算制度改革を。今までドイツは日本と同じように予算制度改革に後ろ向きだったんですよ。ところが、ギリシャ危機でヨーロッパは非常に困難な状況になったので、憲法を改正するとかいろんな改革をやっていて、ドイツは大分改善されていると思います。

〇稲森委員 国や地方の財政をめぐって、いろんな参考人の考え方を聞かせていただいて、財政再建をおっしゃる方とか、積極財政をおっしゃる方とか、いろんな意見があって、この予算決算常任委員会でも異なる立場の参考人の御意見を伺おうということでもあるんですけれども、例えば、今度来られる関西学院大学の小西教授でいえば、第2の夕張市なんか起きるはずがないんだ、地方においては結局、起債の制限が段階的にかかってくるんだから、粉飾決算でもしない限り財政破綻をすることはないし、一般財源が地方債に置き換わっているんだから、経常収支比率が90%を超えても別に問題ないんだというお話を聞かせていただいたり、国の借金は国民の借金ではない、だから、ギリシャのようにはならないんだというお話も聞かせていただいたりするんですけれども、一体どっちが正解なんでしょうか。

〇田中参考人 質問の趣旨はよく分かります、私自身もいろんなところで議論していますので。
 まず、地方自治体の破綻ですけれども、制度上、破綻することはないので、それはそうだと思います。地方財政法で国は地方財政を保障しなければいけないので。まさに夕張市が粉飾をしたので、ああいう結果になったと思います。ただし、今後も国が支えられるかどうか、それは神様しか知らないと思います。
 それから、財政をどうすべきかということ。一つの議論はよく言われているように、世界中で低金利の状況ではもっと歳出を増やして、社会保障を充実すべきではないかといろいろ言われています。
 私が思うのは、これは結局どれが正しいかということではなくて、政府あるいは財政の役割をどう考えるかという、いわばイデオロギーあるいは哲学の問題だと思います。先ほど申し上げたように、私は直ちに日本がギリシャのような危機になるとは思いません。借金が直ちに問題だと言うつもりもありません。財政再建を直ちに進めるべきだということも申し上げていません。
 ただし、財政赤字によっていろんな公共支出を増やしたときに、本当にそれは意味があるんですかと。意味があるなら、借金しても効果があると思います。この議論で例えば、今もおっしゃったように、政府が借金をしても、それは国民の資産になるから同じじゃないかという議論があります。確かに国債を発行した後についてはそのとおりです。
 しかし、国民のお金を政府が吸い上げて使うのと、例えば逆に言うと、ベンチャー企業がそのお金を使って投資して、新しいビジネスを生み出す場合とどちらがいいですかね。どちらが成長に寄与するかと。もちろん単純な話ではないと思います。単純な話ではないですが、残念ながら、私が長く公務員をやった経験から言うと、政府は神様ではないので、政治的な影響力を常にさらされているわけですよ。つまり、借金をしても、より効果のある使い方ができれば、私は否定するつもりはありません。
 でも、現実の政治を考えると、なかなかそういう状況にならない。具体的なことを申し上げると、例えば、保育・教育の無償化です。無償化の理念を私は否定しませんが、無償化して何が起こっているかというと、例えば、豊かな人たちは今まで保育園にお金がかかっていました、それがただになったらどうしますかね、浮いたお金を子どものお稽古事、あるいは塾に使うんじゃないんですかね、そうすると、多分格差は広がるんですよ。
 もし、保育のためにお金を使うんだとすれば、何で保育士の給与をもっと増やさないんですかと、あるいは保育所の整備をもっと増やさないんですかと思うわけですよ。仮にどちらも借金をして対応するとしても、お金の使い方があるんではないかなと思うんですよね。
 なので、すみません、正解はありません。これはその人が考える哲学とかフィロソフィーに係る問題だからです。ただし、借金をして歳出を増やしても現実の政治を考えると、本当に有効に使われるのかは、長く公務員をやった経験からいうと、非常に懐疑的だと私は思っています。

〇杉本委員長 そろそろ予定の時間が来ておるんですけれども、どうしてもという方はございますでしょうか。

          〔発言の声なし〕

〇杉本委員長 よろしいですか。
 それでは、質疑を終了いたします。
 参考人に対しまして、委員会を代表して一言お礼を申し上げます。
 本日は大変お忙しい中、本委員会のために御出席をいただくとともに、大変参考となる貴重な御意見をお伺いすることができました。感謝申し上げます。このたび頂戴いたしました貴重な御意見は今後の本委員会での議論に反映し、役立てるよう取り組んでまいりたいと思います。本当にありがとうございました。
 
〔閉会の宣言〕

 三重県議会委員会条例第28条第1項の規定により記名押印する。
 予算決算常任委員長  杉本 熊野
 
 
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