三重県情報公開審査会 答申第463号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成28年2月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成26年5月~9月にかけ実施された特定地番の建築工事についての関係分全文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成28年3月24日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、実施機関が作成した特定地番における建築工事に関する異議申立人からの苦情への対応を記録した「業務報告書」である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
非開示とされた本件建築工事の施工管理者は、主任技術者であり、また法人の代表取締役であるから、建築確認済看板への掲示により、氏名は公となっているので、開示すべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
「元請業者の担当者名」、「個人の携帯電話番号」は、個人に関する情報である。
「下請業者の法人名」等については、条例第17条の規定による意見照会を行ったところ、当該法人から「該当する工事を行っておらず、誤解を与える。」との回答があり、一部正確な情報でない事が判明した。このまま開示すると誤解を招き、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、非開示とした。
6 参加人の説明要旨
本件異議申立てについては、条例第17条の規定に基づく意見照会先である法人が参加した。この参加人の意見陳述における主張を要約すると、概ね次のとおりである。当社が県から電話を受けた際、当初から苦情を受けるような該当工事は行っていないことを伝えている。こうして電話で話しただけの内容を公文書に記録され腹立たしい思いである。記録するなら、直接対面で聞き取った上で、記録してほしい。
7 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、元請業者の担当者名、施工業者とされた下請業者の代表者の携帯電話番号である。当該情報は、個人に関する情報であって直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。また、本号ただし書イ及びロの情報のいずれにも該当するとも認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、県民からの苦情を受けた実施機関が事情を聞き取るため、電話連絡した下請業者の名称、代表者名である。
これらを開示されると、苦情の元となった行為を当該法人が行ったのではないかと疑われる可能性を否定できず、当該法人の社会的評価の低下を招き、取引をしようとする相手が、取引を回避又は警戒することが予想されるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、本号本文に該当する。
また、本号ただし書イ、ロ及びハの情報のいずれにも該当するとも認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。8 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を述べる。今回の異議申立てにおける、対象公文書に情報が記載されている第三者である参加人によると、実施機関からの電話に対し、苦情の対象となる工事はそもそも行っていないと当初から説明したとのことである。しかし、対象公文書を見分すると、苦情の対象となる工事を、参加人が行っているのかいないのかが不明確な記述であることが認められる。
実施機関の事務処理上、個人や法人に対し、対面によらず電話により聴き取りを行うことは、やむを得ない点もあると思料するが、聞き取った内容を正確に公文書に記録するなど、実施機関においては、適正な公文書の作成に努められたい。
9 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
28. 6.16 |
・諮問書の受理 |
28. 6.17 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
28. 6.27 | ・理由説明書の受理 |
28. 7. 1 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 8.15 | ・参加人に対して意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
28. 9. 8 |
・書面審理 (平成28年度第4回B部会) |
28.10. 7 |
・審議 (平成28年度第5回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 岩﨑 恭彦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学現代社会学部准教授 |
委員 |
髙橋 秀治 |
三重大学人文学部教授 |
※委員 | 東川 薫 |
四日市看護医療大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
村井 美代子 |
三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。