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平成25年06月01日

情報公開・個人情報保護

三重県情報公開審査会 答申第54号

答申

1 審査会の結論

 実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、個人情報(日程調整表のうち、一般に公表・披露されることが予定されていない面談等における個人の氏名・履歴事項等個人に関する情報)を除き開示すべきである。

2 異議申立ての趣旨

 異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年11月6日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った、「知事の今後の公務日程及び過去1年間の公務日程」に係る公文書(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。なお、本答申においては、公務を遂行する個人としての知事は「知事」とし、条例の「実施機関」と区別することとする。)が11月20日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
 なお、公開請求に対して、実施機関は文書の特定をしていないが、審査会における実施機関の非開示理由説明及び異議申立人の口頭意見陳述から、これに該当する文書を日程調整表・知事予定表である、と仮定して、判断を進めることとする。

3 実施機関の非開示理由説明要旨

 実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は非開示が妥当というものである。

(1)文書の特定(知事予定表の公文書性)について

 知事の日程調整の手続きは、概ね次のとおりである。

  • 面談、会議・会合、式典等で知事の出席を要請したい県庁の各課は、その旨を記載した「日程調整表」を秘書課(現在は知事室)に提出する。
     なお、日程調整表には、日時、場所、行事等の外形的事実が記載される。
  • 秘書課では、各課から提出された「日程調整表」が1枚のときはそのまま「知事予定表」に転記し、複数の課から「日程調整表」が提出されたとき、すなわち企画がかちあったときは、秘書課の調整監が調整して1枚の「知事予定表」を作成する。
  • 知事予定表が作成されると、秘書課職員は必要に応じ自分の担当する部分を自分のメモに転記する。
  • 複数の「日程調整表」が提出された場合、知事の出席ができないことになった課に対しては、秘書課から電話等で連絡し、副知事等代わりの者が出席するようにする。

 以上の手続きの中で、「日程調整表」は決裁を要する公文書として扱われているが、「知事予定表」は決裁・供覧の手続きを経ておらず、条例第2条第2項の公文書には該当しない。
 開示請求の対象となる公文書は、知事予定表ではなく、日程調整表であるので、以下に、日程調整表を非開示とした理由を述べる。

(2)(日程調整表の)非開示の理由について

  1. 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
     日程調整表には、知事の面談の相手方が記載されており、相手方が個人である部分は、これを開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得ることとなり、条例第8条第1号に該当する。
  2. 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
     日程調整表には、県又は国の事務事業に係る意思形成過程において、知事が調整、打合せ等を行う件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられ、あるいは無用の混乱を招く等、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。
  3. 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
     日程調整表は、知事が事務事業を遂行するうえで行う交渉、渉外等の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなる等、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。

4 異議申立ての理由

 異議申立人の主張を総合すると、実施機関の処分は次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。

(1)文書の特定(知事予定表の公文書性)について

 知事予定表が条例上の公文書でない、というのは条例の解釈を誤っている。
 知事予定表の決裁をするのは、知事自身であるのだから、知事の意思決定そのものが決裁なのであって、自らが自らの行動に関する文書について決裁の署名・押捺をしないのは当然である。
 通常の公文書であれば、上司である決裁権者が存在するが、知事よりも高位の決裁権者は存在しないのであるから、知事予定表の決裁とは知事の意思を伺い、知事の意思決定を経て、知事予定表が確定したことをもって知事の決裁があったというべきである。
 実施機関の主張は形式面に拘り、「決裁」印や「決裁」署名がないから、条例上の「公文書」ではないとするもので、決裁の解釈を誤ったものである。
 「決裁」とは事案の処理について最終的にその意思を決定することをいうのであって、決裁の印を押すことは、決裁が済んでいることの徴表にしか過ぎないのである。
 実質的に考えても、調整前の日程調整表は公文書であるが、それよりも、更に確定的決定である知事予定表が条例上の公文書ではないとするのは不自然である。

(2)(日程調整表の)非開示の理由について

  1. 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
     実施機関は、面談の相手方が個人であるというが、知事と公的に面談しているのは肩書を有している人物であって、肩書として記載されている団体の代表者との面談に他ならない。これは個人情報ではなく、その実質は法人情報である。これらを 個人情報であるとして、非開示にするのは違法である。
     また、近時下級審においてではあるが、プライバシー性の問題にならない事案について、個人の役職・氏名の開示を命じる判決(仙台地裁 H8.7.29、大阪地裁 H9. 3.25等)が出ており、個人情報との理由の下に一切の個人名等を非開示とするのは 妥当ではない。
  2. 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
     調整、打合せ等の意思形成過程情報は、一定の時限的秘密性を有する情報であって、意思形成が終了すれば公開の対象となる情報であるから、仮に意思形成過程情報があるとしても、その全てを非開示にするのは違法である。
     しかも、開示を求めているのは、調整、打合せ等の意思形成過程の内容ではなくて、外形的事実(何時、何処で、誰と打ち合わせたのか)であるのだから、意思形成過程情報に該当しないのであって、調整、打合せ等の外形的事実まで意思形成過 程情報であるとした扱いは違法である。
     実施機関は、相手方の開示によって、「その内容が類推されるおそれがある」というが、具体的な弊害の主張・立証はないから、そのような抽象的理由で非開示としたのは違法である。
  3. 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
     交渉、渉外等の行政運営情報も意思形成過程情報と同様、一定の時限的秘密性を有する情報であって、事務事業が完了すれば、開示の対象となる情報であるから、仮に行政運営情報があるとしても、その全てを非開示にするのは違法である。
     しかも、開示を求めているのは、交渉、渉外等の内容ではなくて、外形的事実(何時、何処で、誰と交渉したのか)であって、行政運営情報に該当しない。交渉等の外形的事実まで行政運営情報であるとした扱いは違法である。
     実施機関は、相手方の開示によって、「その内容が類推されるおそれがある」というが、具体的な弊害の主張・立証はないから、そのような抽象的理由で非開示としたのは違法である。
  4. 実施機関が公務の公益性を否定してまでも、これを全面的に秘匿しなければならない合理的理由はない。県民に秘匿しなければならないような都合の悪い日程があるのであろうか。主権者である県民には、知事の公務日程を知る権利がある。
     公務多忙を理由に、異議申立人との面談を拒否している以上、その公務日程を明らかにする必要がある。
     常識的に考えても、知事の日程が、面談(個人情報)、調整・打合せ(意思形成過程情報)、交渉・渉外(行政運営情報)につきるものではなく、各種の大会へ挨拶のための出席、諸外国への訪問等に多くの時間が費やされていることは周知の事実であり、その全てを公開できないとする性質のものではないことは、誰の目にも明らかである。

5 審査会の判断

(1)基本的な考え方について

 条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
 条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。

(2)文書の特定(知事予定表の公文書性)について

 開示請求の対象である文書は、日程調整表と知事予定表であることが認められ、日程調整表が公文書であることについては、実施機関・異議申立人の両者に争いがない。
 一方、知事予定表については、公文書性について争いがあるので、これについて検討する。
 実施機関の主張のとおり、面談・会議・会合や式典等の案件ごとの日程調整表が、各課で作成され秘書課に提出されると、秘書課長までの決裁が行われるのに対し、その調整の結果を整理して1日単位の時系列でその日の予定が記載された知事予定表は、備忘録としての性格のものであるので、条例第2条第2項第1号の決裁・供覧の手続を経ていない。したがって、条例の文言を厳格に解釈する限り、知事予定表は公文書ではないと認められる。 
 よって、以下、日程調整表の非開示に理由があるか否かについて検討する。

(3)(日程調整表の)非開示の理由について

 実施機関は、日程調整表は条例第8条第1号、第4号及び第5号に該当するので、非開示にできると主張している。
 そこで、各号に該当するか否かについて判断する。

  1. 非開示事由各号の意義について
    1. 第1号(個人情報)の意義について
       本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。
    2. 第4号(意思形成過程情報)の意義について
       本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定めたものである。
       行政における審議等に関する情報の中には、決裁等の手続は終了していても、行政としての最終的な意思決定に至らない未確定な情報が多く含まれている。これらの情報がそのまま開示されると、行政内部の自由な意見交換が阻害されるなどのおそれがあるので、このような情報については、非開示とするものである。
       また、最終的な意思決定に至った後においても、その過程における情報を開示することにより、将来の同種の審議等に支障を及ぼす場合には、このような情報も非開示とするものである。
    3. 第5号(行政運営情報)について
       本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
       また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とするものである。
  2. 各号の該当性について
    1. 第1号の該当性について
       本件における知事の面談等は、それが知事の職務としてなされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。第1号は既に述べたとおり、個人のプライバシー保護のため、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができるとしているものであり、その面談等が一般に公表・披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである。
       したがって、日程調整表のうち私人である相手方に係る情報については、相手方が識別できるようなものであれば、その面談等が一般に公表・披露されることがもともと予定されているものを除いては、原則として、同号により非開示にできる文書に該当するというべきである。
    2. 第4号の該当性について
       日程調整表のうち会議・会合等が記録された文書について、当該会議・会合等が第4号所定の審議、検討、調査研究等の事務に関して行われる場合であっても、日程調整表にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において、非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
       よって、第4号には該当しないというべきである。
    3. 第5号の該当性について
       日程調整表のうち会議・会合等が記録された文書について、当該会議・会合等が第5号所定の交渉、渉外、争訟等の事務に関して行われる場合であっても、日程調整表にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において、非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
       なお、実施機関は口頭意見陳述の際に、公務日程を開示すれば、面談を執拗に強要してくることが予想されたり、知事との面談を断られた者が苦情を述べることとなると述べている。住民の意思を尊重する民主主義の下では、利害関係を有する者からの種々の要求・要望は、当然に予想されるところであるが、むしろ、住民からの政策提言、陳情・請願、選挙を通じての意思表明等による行政への住民参加は積極的に推進すべき性質のものであり、知事の公務日程を明らかにすることは、主権者たる住民に選ばれた自治体の長の公務遂行状況の一端を説明することとなり、公益性が高いと認められる。
       よって、第5号には該当しないというべきである。

(4)結論

 実施機関は、日程調整表のうち、個人情報(一般に公表・披露されることが予定されていない面談等における個人の氏名・履歴事項等個人に関する情報)を除き開示すべきである。

6 当審査会の処理経過

 当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。


別紙1

審査会の処理経過

年月日 処理内容
9.11.28
(10.1.16)
・諮問書受理
9.12.5
(10.1.26)
・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼
9.12.25
(10.2. 5)
・非開示理由説明書受理
10.1.8
(10.2.18)
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付
、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
10.1.19
(10.2.23)
・異議申立人の口頭意見陳述申出書受理
10.8.19 ・実施機関の非開示理由説明の聴取
・異議申立人の口頭意見陳述の聴取
・審議
(第88回審査会)
10.9.9 ・実施機関の非開示理由説明の聴取
・審議
(第89回審査会)
10.10.2 ・審議
・答申
(第90回審査会)

(注) 本件の異議申立人は複数であり、(  )内は2次グループの異議申立てである。


三重県情報公開審査会委員

職名 氏名 役職等
会長 岡本 祐次 三重短期大学法経科教授
会長職務代理者 曽和 俊文 関西学院大学法学部教授
委員 渡辺 澄子 松阪大学女子短期大学部教授
委員 室木 徹亮 弁護士
委員 樹神 成 三重大学人文学部教授

本ページに関する問い合わせ先

三重県 総務部 情報公開課 情報公開班 〒514-0004 
津市栄町1丁目954(栄町庁舎1階)
電話番号:059-224-2071 
ファクス番号:059-224-3039 
メールアドレス:koukai@pref.mie.lg.jp

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