三重県情報公開審査会 答申第64号
答申
1.審査会の結論
実施機関が行った本件公文書の非開示決定は違法であり、平成11年1月12日付け答申第63号に従って決定、開示を行うべきである。
2.異議申立ての趣旨
異議申立人は平成10年6月8日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき「平成10年6月の知事の日程調整表(会議・会談先等の場所・名称・氏名等は不要、日時のみの開示で可)」の開示請求を行ったが、これに対し、三重県知事(以下「実施機関」という。なお、本答申においては、公務を遂行する個人としての知事は「知事」とし、条例の「実施機関」と区別することとする。)は6月19日付けで非開示決定(以下「本決定」という。)を行った。
異議申立ての趣旨は、本決定を取消して請求通りの部分開示とするとの決定を求める、というものである。
なお、本件異議申立ては、先に異議申立人が別件で行った開示請求に対し、実施機関が非開示決定を行ったため、異議申立人が内容を変更して再度開示請求を行った事案に関するものである。(詳細は平成11年1月12日付け答申第63号を参照。)
3.異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、実施機関の本決定は次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
知事の面談先、調整・打合せ等の予定件名、相手方の開示により、特定の個人が識別されたり、あるいはされ得たり、内容が類推されたりして、当該又は将来の同種の事務事業の意思形成等や、公正又は適正な執行に著しい支障を生じるおそれがあるとして、条例第8条第1号(個人情報)、第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)に該当するというが、「開示を請求された公文書の件名又は内容」を見れば、本請求はこれらの非開示にできる条件を総てクリアしていることが明白である。全面非開示としたことは、条例第8条第1号、第4号及び第5号の適用を誤ったというよりは、条文を全く理解していない恣意的な決定である。
また、「現在、平成10年(行ウ)第2号文書非開示処分取消請求事件で係争中である。」という理由は、本件で異議申立人が部分開示とするよう求めている異議申立てとは何の関係もない。
4.実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、実施機関は当初、下記理由により、本件対象公文書を非開示としたものである。
(1)条例第8条第1号(個人情報)に該当
日程調整表には、知事の面談の相手方が記載されており、相手方が個人である部分は、これを開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得ることとなり、条例第8条第1号に該当する。
(2)条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当
日程調整表には、県又は国の事務事業に係る意思形成過程において、知事が調整、打合せ等を行う予定の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられ、あるいは無用の混乱を招く等、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。
(3)条例第8条第5号(行政運営情報)に該当
日程調整表には、知事が事務事業を遂行するうえで行う交渉、渉外等の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなる等、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。
なお、当審査会における陳述において、実施機関は自らの本決定について、非開示理由として条例第8条第1号を適用したのは誤りであったことを認め、また、別の異議申立人が行った類似の事案に関して、当審査会が「実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書(知事の今後の公務日程及び過去1年間の公務日程に係る文書)の非開示決定を取消し、個人情報(日程調整表のうち、一般に公表・披露されることが予定されていない面談等における個人の氏名・履歴事項等個人に関する情報)を除き開示すべきである。」と答申した(平成10年10月2日付け答申第54号)ことを受け、既に日程調整表の開示を行っていることから、本決定についても、非開示を維持するとの答申を求めない旨、述べている。
5.審査会の判断
(1)非開示理由について
上記のとおり、実施機関は当審査会が類似の案件について行った答申(平成10年10月2日付け答申第54号)に従って開示決定することを認めており、審査会として非開示理由の可否を判断する必要はなくなっている。
(2)文書(日程調整表)の特定について
実施機関の説明によると、実施機関は文書を特定せず本決定を行ったため、異議申立人の開示請求時(平成10年6月8日)に存在していた本件異議申立ての審査対象となるべき日程調整表は不明であるとして、実施機関は開示請求時以降において発生した6月中の全日程調整表を対象公文書として特定し、審査会に提出した。
文書を特定せず本決定を行ったことは、県民の県政に対する理解と信頼を深めるという条例の趣旨から強く非難されるところではあるが、現時点において、実施機関に対しその特定を強く求めることには大きな意義は認められないため、当審査会は、開示請求時には存在しなかったと思われる文書についても、開示の対象に含めることを求める。
(3)結論
以上のとおり、本件の開示対象公文書を特定すると、それは結局、平成11年1月12日付け第63号で答申した文書と同一のものとなるため、同答申に従って決定、開示を行うべきである。
6.審査会からの苦言
審査会の判断は以上のとおりであるが、既に述べたとおり、実施機関は本件に関し、個人情報等の非開示情報に該当しないことが明らかであるのに、十分な審査をすることなく、漫然と本決定をしたり、平成10年10月2日付け第54号の答申を受け既に別件で日程調整表を開示していたにも拘わらず、平成10年11月24日付け知第53号の非開示理由説明書において「本件異議申立てについては、実施機関の判断が妥当である。」との答申を求める、とするなど軽率と言わざるを得ない対応が目立った。
また、当審査会からの提出依頼期限であった平成10年9月21日を大きく徒過して非開示理由説明書を提出し(上記11月24日付け知第53号が実際に提出されたのは11月30日であった。)、異議申立人の意見書提出(12月7日)や口頭意見陳述(12月8日)への準備に大きな支障を与えたことは誠に遺憾である。今後かかることのないよう強く反省を求める。
7.当審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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10.8.26 | ・諮問書受理 |
10.8.26 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
10.11.30 | ・非開示理由説明書受理 |
10.11.30 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.12.4 | ・異議申立人の口頭意見陳述申出書受理 |
10.12.7 | ・異議申立人の意見書受理 |
10.12.8 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第93回審査会)
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11.1.12 | ・審議 ・答申 (第94回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |