三重県情報公開審査会 答申第115号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立の対象となった本決定を取り消し、存否を明らかにしたうえで改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年3月6日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県の出資法人のうち、県税を滞納している法人名と滞納している県税の種別・滞納額・滞納発生年度・その経年的変化が分かる一切の情報他」との開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年4月13日付けで行った存否応答拒否決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、存否応答拒否決定が妥当というものである。
(1) 三重県情報公開条例第11条に該当
本件事案において請求された内容の公文書の存否を答えること自体が、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第7条第3号により非開示とするべき情報を開示することになるので存否を答えることはできない。
滞納があった場合は存否応答拒否とし、滞納がない場合は不存在としたのでは、存否応答拒否をする場合は滞納がある場合であることになり、県の出資法人というある程度限定された範囲で、開示を求められているので、探索的に具体名をあげて何度か請求されていくうちに非開示情報を開示したのと同じ結果となるおそれがある。
異議申立人は、「対象が県の出資法人である場合には、競争上の地位を考慮しなければならない配慮性は低い」と、主張しているが、条例第47条第1項で指定された財団法人、公社以外にも県が出資している法人はあり、一概に競争上の地位を考慮しなければならない配慮性は低いとは考えられない。
又、滞納の状況を開示することによる法人の事業活動に及ぼす影響についても未知数であり、それらの利益を害する可能性も否定できない。
県の出資法人の滞納情報であっても、以降関係する第三者等からの情報も得にくくなるおそれがある。法人の滞納等の税情報の公開により経済行為に影響が出ることは税の確保の観点からも、条例第7条第6号の事務事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼす。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
公金とりわけ税金の賦課・徴収が適正に執行されているか否かは、税務行政の適法性、執行の公平さに関する問題であり、高い公益性があるといえるし、対象が三重県の出資法人である場合には、競争上の地位を考慮しなければならない配慮性は低い。その中で、三重県の出資比率が高い法人にあっては、県税の支払いをしない法人との関わりそのものが問題となるのであって、三重県の出資法人に対する県税の不払いに対する甘い扱いは、秘密にしておくべきことではないから、一段と公益性が高いものである。
地方公務員法第34条第1項を理由に、県税の徴収にかかわる分野を、情報公開のブラックボックスあるいはブラックホールとしている現状は、改められるべきである。
よって、これを存否応答拒否を理由に非開とした決定は違法であるから、取り消されるべきである。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第11条の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則である。しかし、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。本条は、この決定の枠組みの例外を定めたものである。
(3) 条例第11条の適用について
公文書の存否を答えること自体が、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第7条第3号(法人情報)により非開示とするべき情報を開示することになる、と実施機関は主張している。さらに、実施機関は法人の滞納等の税情報の公開により経済行為に影響が出ることは税の確保の観点からも、条例第7条第6号(事務事業情報)の事務事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼす、とあわせて主張している。確かに本件事案で請求されているものは、県の出資法人のうちで県税を滞納している法人名等の情報であり、このような請求に対して存否を明らかにすることは、ある一定の集団の中に、県税を滞納している法人が存在するか否かを答えることとなる。そして、そういった情報の存否自体が、実施機関の主張するとおり条例第7条第3号(法人情報)あるいは同第6号(事務事業情報)に該当するのであれば、本来非開示とすべき情報を開示することとなってしまう。
しかしながら、本件事案については、開示請求者から特定の法人名をあげて開示請求されているわけではなく、公文書の存否を明らかにしたところで、県が出資している相当数の法人の中に、県税を滞納している法人が存在しているか否かという事実が判明するに過ぎず、それだけで条例第7条第3号(法人情報)、あるいは、同第6号(事務事業情報)に該当すると判断することは適当ではない。
公文書の存否を明らかにしない決定については、存否を明らかにすることが、本来非開示とすべき個人のプライバシーや法人の正当な利益を害するような場合に限って適用されるべきものである。すなわち、本来非開示とすべき個人や法人の利益を保護する目的で本条項を適用するのであれば、開示請求の内容が特定個人の情報を求めている場合など特定の個人や法人の情報であることが明らかとなる場合や極めて限られた範囲内の特定の個人や法人の情報であることが推測される場合に限るべきである。
実施機関は、探索的に具体名をあげて何度か請求されていくうちに非開示情報を開示したのと同じ結果となるおそれがあると主張しているが、審査会としては、本条項を不当に拡大して適用することを容認することとなるため、このような実施機関の主張を認めることはできない。
よって、本件事案については、前述のとおり、本条項を適用した実施機関の本決定は、妥当ではない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13. 5. 8 | ・諮問書受理 |
13. 5.10 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 5.31 | ・非開示理由説明書受理 |
13. 6. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 6. 8 | ・口頭意見陳述申出書の受理 |
13. 9.18 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第139回審査会)
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13.10.16 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第141回審査会)
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13.11.20 | ・審議
(第142回審査会)
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13.12.18 | ・審議
(第144回審査会)
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14. 2.14 | ・審議 ・答申 (第147回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。