三重県情報公開審査会 答申第145号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年11月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定踏切の拡幅工事について、鉄道法人に委託した工事代金の明細書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成14年12月27日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は、本決定において実施機関と鉄道法人の間で合意された踏切道拡幅工事の委託契約に関する公文書を特定し、個人情報(条例第7条第2号)に該当するとして「確認検査の立会者の個人名、印影」の部分を非開示としている。これに対して、異議申立人は鉄道法人に委託した当該工事代金の明細が不存在であることに対して異議があるものと主張している。
本件異議申立ては、形式的には実施機関が行った部分開示決定の取消しを求めるものであるが、実質的には不存在に対する異議申立てであるものと判断されることから、当審査会においても、本決定に際して不存在であった部分についての異議申立てとして、以下のとおり判断する。
4 実施機関の不存在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件開示請求に対する不存在部分は条例第12条第2号に該当し、本決定が妥当というものである。
三重県としては、協議の中で鉄道法人に対して工事の詳細な明細書の提出を求めているが、契約時の概算額調書と図面、精算時の予算・決算内訳表の提出だけで、工事の詳細な明細書について提出されていないことから、保有しておらず不存在である。なお、公金が適正に執行されたかについては、委託工事完了時に県職員が履行確認として委託内容を確認しており、適正な公金の支出をしている。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
鉄道法人に委託した工事代金について、明細書が一切ないため工事代金の水増しや不正があったかが不明である。明細書の提出を求めないのは職務怠慢であり、説明責任を果たしていない。今からでも鉄道法人に対して工事代金の詳細な明細書を提出させ、公金が適正に執行されたことを確認する義務がある。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
なお、実施機関は本決定において、「確認検査の立会者の個人名、印影」について個人情報(条例第7条第2項)に該当するとして非開示としているが、この点について異議申立人は開示を求めていないため、当審査会としては、本件請求に対して不存在とした部分についてのみ下記のとおり判断する。
(2) 「鉄道法人に委託した工事代金の明細書」の不存在について
今回の委託工事に不正があり、公金の不当、違法な支出があると考えられ、これについて実施機関から十分な説明が得られず、また、実施機関は工事委託先である鉄道法人から明細書の提出を求めず、公文書は不存在であるとしたことは説明責任を果たしておらず職務怠慢である、と異議申立人は主張している。
実施機関は、請求内容に明記した公文書については、委託先である法人から既に異議申立人に開示した契約時の概算額調書と図面、精算時の予算・決算内訳表以外は提出されておらず、また実施機関としても作成していないので不存在であると説明している。
実施機関によると、本件事案のような委託工事の場合、事前に委託先である法人と協定を締結し、その中で工事内容や費用負担等提出書類を明記したうえで委託を行う、ということであり、協定上、契約時の概算額調書と図面、精算時の予算・決算内訳表以外の文書について、委託先に提出義務があることをうかがわせる事情は見受けられない。既に開示した文書以外の情報を、作成、又は保有していないという実施機関の主張にも不自然な点はなく、異議申立人の請求を認めることはできない。
また、実施機関が委託工事完了時に県職員が履行確認として委託内容を確認し、公金が適正に執行されたかについて現地で確認を行っていることから、確かに請求の趣旨に対する説明として十分であるとは言えないが、委託工事に関する現行制度上、実施機関の説明には限界があると言わざるを得ない。
以上のことから、実施機関の本決定は妥当である。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの提言
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案の場合、委託工事に対する公金が適正に支出されたか否かを知りたいという異議申立人の請求の趣旨を十分に満足させるような公文書が存在しないことについて、審査会として次のとおり意見を述べる。 委託工事に関して実施機関が委託先から入手する情報は、協定書に基づく委託先からの契約時の概算額調書と図面、精算時の予算・決算内訳表のみであり、公金支出のチェックを行うには必ずしも十分といえない場合が考えられる。本件事案の場合、確かに、工事の専門性、特殊性を考慮したうえで委託しているのであり、実施機関としてどこまで検査できるかという問題はあるにしろ、公金を支出している以上、県民に対する説明責任は実施機関が負うべきである。
県民と情報を共有し、もって県民の県政に対する理解と信頼を確保せんとする条例の趣旨に鑑み、委託工事に関する制度、検査体制の見直しなどを通じ、県民に対する説明責任を十分に果たされることを要望する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 1.17 | ・諮問書の受理 |
15. 1.27 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 2. 5 | ・非開示理由説明書の受理 ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 2.10 | ・異議申立人からの口頭意見陳述申出書の受理 |
15. 6.13 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第176回審査会)
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15. 7.11 | ・審議 ・答申 (第178回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。