三重県情報公開審査会 答申第182号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年3月8日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「伊勢市の雨水排水ポンプ場の事故について分かる全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年3月22日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
ア.平成10年度国補宮川低率第3201ー2分2006号
宮川流域下水道宮川浄化センター場内排水処理計画業務委託
管理技術者・照査技術者選任通知書
契約時業務カルテ受領書
イ.平成11年度国補宮川低率第3201ー2分2007号
宮川流域下水道(宮川処理区)排水機場詳細設計業務委託
管理技術者・照査技術者選任通知書
契約時業務カルテ受領書
途中変更時業務カルテ受領書
ウ.平成13年度国補宮川低率第3201ー2分5002号
宮川流域下水道(宮川処理区)下野排水機場(機械)設備工事
競争参加資格確認申請書、主任技術者及び監理技術者の専任申出書
現場代理人等選任通知書、印鑑証明書、現場代理人等選任変更通知書
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
住所、本籍、生年月日、学歴、最終学歴学校名、最終学部、学科名、最終学歴卒業年月日は、個人に関する情報であるため、条例第7条第2号(個人情報)に該当する。
5 異議申立て理由
「個人情報」について部分非開示としたとするが、印鑑証明(法務省発行)の代表者の生年月日は、その文書の真性を担保する必須条件である。建設コンサルタントのRCCM登録証・技術士登録における生年月日を非開示とすることは、本人確認を担保できない。コンサルタント業界における有資格者の名義貸等の疑惑は払拭できない。三重県の道路橋耐震補強設計委託におけるミスはこの様なチェックミスから発生した。業務経歴書の記載もにわかに信用できず、学歴を消去することは本件業務委託に対する専門的知識、経験の有無を担保することを阻害する。
本件業務委託は、土木建築、機械、電気の各専門分野にわたっており、照査技術者が下水道部門の技術士であることについてはその能力に疑問がある。特定の法人がガスタービンエンジンの設計能力があったとは到底認め難く、プラントメーカーの協力が無ければ業務の遂行は不可能で照査技術者の能力や成果品そのものに疑問が発生する。決定権者が個人情報だからという理由で非開示とすることは、個人の人格権の保護の観点から一見正当な風を装っているに過ぎず、公契約の正当性や履行の確保義務についての責任を免れるためのいくつかの手段の布石に過ぎない。
公契約の透明性の原則は、その原資が住民(国民)の負担による税であり、得られる成果品の公益性が高いからこそ求められるものである。
そのことを思えば、本件施設事故の原因究明と今後の安全でかつ効率的な運用のため、非開示とされる理由に何らの公益性も無い。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示とした情報のうち、異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書の「管理技術者・照査技術者選任通知書」(経歴書、シビルコンサルティングマネージャ(RCCM)登録証及び技術士登録証の写しを含む。)の技術者の住所、本籍、生年月日及び最終学歴、「契約時業務カルテ受領書」及び「途中変更時業務カルテ受領書」の技術者の生年月日、最終学歴学校名、最終学部・学科名及び最終学歴卒業年月日、「競争参加資格確認申請書」の技術者の住所、本籍、生年月日及び学歴、「主任技術者及び監理技術者の専任申出書」、「現場代理人等選任通知書」(経歴書及び監理技術者資格者証の写しを含む。)及び「現場代理人等選任変更通知書」の技術者の住所、本籍、生年月日及び学歴並びに「印鑑証明書」の代表者の生年月日である。
実施機関は、本決定において本件対象公文書のうち、職務に直接関係しない住所、本籍、生年月日、学歴、最終学歴学校名、最終学部・学科名及び最終学歴卒業年月日は、個人に関する情報であるため、公開することにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため、条例第7条第2号(個人情報)に該当し、非開示が妥当であると主張している。
他方、異議申立人は、「建設コンサルタントのRCCM登録証・技術士登録における生年月日を非開示とすることは、本人確認を担保できない。このことからも業務経歴書の記載もにわかに信用できず、学歴を消去することは本件業務委託に対する専門的知識、経験の有無を担保することを阻害する。また、公契約の透明性の原則は、その原資が住民の負担による税であり、得られる成果品の公益性が高いからこそ求められるものであり、本件施設事故の原因究明と今後の安全でかつ効率的な運用のため、実施機関が非開示とした情報を開示すべきである。」と主張している。
確かに、受注した業務を適正に行い得る能力を備えた者を配置していることを確認するため、受注した法人から県に届出されている技術者が実際に計画・設計業務、工事及び試運転に従事した者と同一人物であり、真に当該法人の社員であるか否かを確認する必要があるとの異議申立人の主張は理解できる。
しかしながら、条例第7条第2号(個人情報)の該当性は、個人の識別が可能な情報か否かにより判断されるものであり、個人の氏名、生年月日及び住所は、これらの情報が一体となれば特定の個人が確実に識別されるという意味で、個人を識別するうえで最も重要な情報であるが、それ以外にも、本籍及び最終学歴(学校名、学部名、学科名及び卒業年月日)も、氏名と一体となって個人を識別し得る個人に関する情報であると考えられる。
本件事案の場合、技術者が現在までにどのような技術を身に付けたかが職務の遂行には重要であって、発注機関は、委託業務における「シビルコンサルティングマネージャ(RCCM)登録証」及び「技術士登録証」に記載の登録番号と氏名があれば、専門の資格者であることを確認でき、また、別に写真が添付されている公的な証明書により本人であることは確認できる。また、工事においても「監理技術者資格者証」に記載の登録番号と氏名があれば、専門の資格者であることを確認でき、また、現場において写真が添付されている当資格者証の提示を求めることにより本人であることが十分確認できる。したがって、生年月日、本籍、住所、学歴、最終学歴学校名、最終学部・学科名及び最終学歴卒業年月日という個人情報をあえて開示する公益性は認められない。
次に、「印鑑証明書」の代表者の生年月日は、その文書の真性を担保する必須条件であると異議申立人は主張しているが、実施機関の説明するように法人の印鑑証明書に表記されている代表者の生年月日も上述のように個人情報に該当すると認められる。
よって、本件対象公文書中の、実施機関が非開示とした部分は、個人に関する情報であると認められるため、個人情報に該当し、非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 3.31 | ・諮問書の受理 |
16. 3.31 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 4.22 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 4.23 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 9.28 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第206回審査会)
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16.10.19 | ・審議 ・答申 (第208回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。