三重県情報公開審査会 答申第248号
答申
1 審査会の結論
実施機関の行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年7月29日付で三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県立小児心療センターが東京大学大学院教授へ提出した「同胞発症例、双生児例」の資料」の開示請求に対して、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年8月10日付けで行った不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関は、以下の理由から不存在決定は妥当であると主張している。
三重県立小児心療センターあすなろ学園(以下「学園」という。)から、当時の学園医師及び東京大学に照会したところ、開示請求者が開示を求める研究資料を、学園から提出した事実はなく、データ収集は東京大学職員が本人や家族から同意を得て直接収集したものであることを確認した。このことは、厚生労働研究費補助金総括研究報告書中の「対象リクルートの場所として、三重県立小児心療センター等の協力を得ることに成功した」との記述から裏づけされる。
東京大学に、学園の会議室を会場として使用する承諾をした事実はあるが、実務は東京大学の職員が行っており、研究そのものの内容に関与するものではない。
4 異議申立ての理由
異議申立て人は、情報提供した文書を特定して、開示すべきと、以下のように主張している。
「自閉症の原因解明と予防、治療方法の開発」平成14年度~平成16年度総合研究報告書2ページに、「三重県立小児心療センターについては、同胞発症例、双生児例のほぼ全ての家系についてデータを収集した」との記載がある。同じ研究の平成16年度総括報告書1ページには、研究協力施設として、学園の記載がある。このような研究報告書の記載から、学園は、請求に係る文書を保有していると考える。学園が協力しなければ、この研究者は、家系についてのデータを入手できないと考える。事例、症例数を提供したのはまちがいない。情報提供した文書を特定して、開示すべきである。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は実施機関が行った本決定の取り消しを求めており、当審査会は、不存在決定について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)不存在決定の妥当性について
異議申立人は、平成17年3月発行の厚生労働研究費補助金こころの科学研究事業総合研究報告書に「研究施設として三重県立小児心療センター等を擁している本研究チーム」と記述されていることから、学園は、研究チームの一員、又は研究協力施設として位置付けられていると主張している。
また、学園は、場所を提供しているだけで、東京大学にも確認をしていると主張するが、報告書の記述と食い違っていることから、学園が、東京大学に確認した文書、東京大学からの回答文書を提示して、単に場所を提供していることを説明してほしい。
さらに、不存在理由説明書で、「あすなろ学園としては、日本自閉症協会三重県支部事務局に研究目的の説明を行い、協力を依頼した」とあることから、学園は研究に関わっていたと考えられるとし、公文書の不存在の説明は十分でないと主張している。
実施機関は、研究協力者への研究目的説明、文書通知、承認手続の一切は、東京大学医学部精神医学教室の担当者が当該学園へ出張し行った。研究に協力することを承諾した者は、直接、東京大学と接触している。学園は、東京大学が研究協力者を集めるにあたって協力を行ったのみであり、研究そのものの内容に関与するものではないと説明している。
また、学園が当時の学園医師及び主たる研究機関である東京大学医学部附属病院精神神経科に照会したところ、異議申立人が主張する事例や症例数等の情報提供を行った事実はないと説明する。
審査会が、学園から聴き取りしたところ、本件に類似する研究等の事業については、東京大学等と関係がある学園医師等と当該主たる研究機関との連絡調整で進めていたと考えられる。この一連の研究の進め方からすると、実施機関は、対象公文書が不存在であることについての必要な説明をしていると判断せざるを得ない。したがって、存在しないとした理由については、妥当である。以上により、実施機関の行った決定は妥当とする。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
学園は、極めて高度な医学研究そのものには実際に関与していないとはいえ、何らかの形態により研究機関に対して協力等を行う場合には、個人情報が多々含まれることがあり、その取り扱い、研究内容や協力の手続き等について十分説明できるようにしておくことが望まれる。
また、県の機関が関係している研究について、研究機関等から正式の申し入れ等があるにもかかわらず、それに対する承諾等の回答文書等、学園の関与の実態を説明する文書がないことは、県の行政機関としての事務の有り方としては適正とはいいがたく、遺憾である。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17. 8.22 | ・諮問書の受理 |
17. 8.26 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 9.12 | ・不存在理由説明書の受理 |
17. 9.14 | ・意義申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の 提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 8.21 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第252回審査会)
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18. 9.28 | ・審議 ・答申 (第254回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。