三重県情報公開審査会 答申第6号
答申
1 審査会の結論
「(平成元年度)知事交際費内訳書」について、実施機関が非開示決定をしたことは、妥当である。
2 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、平成3年1月23日、三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成元年度)知事交際費内訳書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事が平成3年2月7日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書、実施機関の非開示理由説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
本件対象公文書とは別に開示された公文書「(平成元年度)知事交際費に係る支出負担行為書、支出票(支出調書を含む)、前渡資金精算書(前渡資金支払決議書を含む)、現金出納簿」から、私が知り得たのは、知事交際費が四半期ごとに資金前渡の方法で資金前渡受者に支払われているといったこととその際の金額だけで、使途等は全く不明である。納税者の一人として、知事交際費がどのように使われているか大いに関心があり、是非開示をお願いしたい。
とかく不明朗だと言われているのが交際費の支出であるため、それが適正に支出されているかどうかを監視する意味でも、情報の開示が必要だと考える。もし、その結果、適正に支出されていないようであれば、それは是正してもらわなければならないと考える。
三重県で実際にあるかどうかはわからないが、社会的に批判を浴びている団体に対する支出がある場合、開示によって社会的批判を浴びても仕方がない。そのことで、当該団体が不快感を示したとしても、それはやむを得ないことである。ある特定の者の不快感よりも、開示していくことで、県民参加の行政を一層推進するという情報公開制度の趣旨を徹底していくことの方が大事だと考える。
一私人の立場では、開示されなかった本件対象公文書については、そこにどのような情報が記録されているのかまったくわからず、その部分について反論しようと思っても具体的に反論すらできない。
大阪地裁 H.1.3.14 判決は、「知事の交際に係る団体ないしは個人によっては、慶弔・見舞い・賛助金等の金額について、自己の予測あるいは他と比較して正当に遇せられていないとして不満を抱き、ひいては公開を望まない者も全くいないとは言い切れないが、褒章・表彰等、金額面以外でかつ金銭による評価に比較して、そのもたらす影響が決して小さくない公的評価及びそれを記載した文書は、ほかにも種々考えられることはいうまでもなく、それらをすべてプライバシ-の侵害につながるとして公表できないことになる」とし、なにゆえに知事交際費の場合のみ秘匿すべきなのか合理性に欠けるとして否定している。つまり、公的評価というのは、知事交際費に限ったことではなく、種々の公になる褒章等によってもなされていることであると判断している。
また、東京高裁 H.3.1.21 判決は、「情報公開によって、交際の相手方等関係者に不快等の感情を生じさせるとは限らず、たとえ生じさせても事務の実施に著しい支障を生じるほどのものではないことが多いはずである。事務の実施に著しい支障を生じる場合は、一般的抽象的にそういう可能性があるという主張のみから推認することはできず、具体的に不快感等の程度やそれにより事務の実施の目的が失われる結果を招くことの蓋然性について立証がなされるべきである。」と判断している。 とにかく、知事交際費に関しては、既に、大阪地裁・同高裁が「全面開示」を命じ、東京高裁も「個人情報以外は開示」という判決を出しているので、それらを見てもらえれば私の意図するところは十分わかってもらえると思う。
3 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示としたというものである。
1 本件対象公文書について
本件対象公文書は、知事交際費の経理状況を明確にするため三重県会計規則(昭和39年三重県規則第15号。)に基づき備え付けが義務づけられている現金出納簿を補完するための帳簿である。そこに記録されている情報は、単に交際費の経理状況を示すだけでなく、交際に係る関係者等の範囲、交際の内容、程度等を具体的に示している。
2 知事交際費の性格について
ア 知事は、県政の円滑な執行を図り、公共の福祉を増進するため、三重県を代表して、広範囲かつ多数の関係者や諸団体等と公の交際事務を行なっているが、このような公の交際を行なう上で、特に必要な経費が知事交際費である。
イ 知事交際費の予算は県議会で議決され、その交際費の具体的な支出内容については、行政実例で、地方自治法第 199条第1項の規定による一般監査においては、交際費の内容まで監査することは、経費の性質上適当でないとされている。また、地方自治法第75条の規定による監査の住民への公表は、その実施した監査の大要を示し、適不適を明らかにすれば足るものであるとしている。なお、また、議会の要求又は住民の直接請求による場合は、その内容を監査し得るが、結果の公表にあたっては、費目の性質上、適当な配慮が必要であるとされている。
よって、知事の交際費は、議会で議決された予算の範囲内で適正に執行すべきは当然であるが、具体的な支出内容については、知事の裁量に委ねられているものである。
ウ 交際費の支出は、経費の性質上、即時現金払の必要があるため、三重県会計規則により資金前渡の方法が認められており、資金前渡受者である秘書課長が、四半期ごとに3ヵ月分の支出予定額に相当する現金の前渡しを受け、必要に応じて支出を行い、その後精算して、その経理状況を明らかにしている。
エ 交際費の執行基準については、特段、規定等の定めはないが、過去及び類似の事例を参考にし、相手方と本県との関わりの濃淡及び貢献度などを考慮して、交際費支出の要否や金額を判断し、決定している。
3 本件対象公文書の非開示理由について
本件対象公文書に記載されている情報は、その全てが条例第8条第5号の行政運営情報に該当するほか、その情報のうち個人に関するものは同条第1号の個人情報に、法人等に関するものは同条第2号の法人情報に、県又は国等の事務事業に係る意思形成過程に関するものは同条第4号の意思形成過程情報にそれぞれ該当するものであり、それゆえ非開示としたものである。
ア 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書には、知事の交際の相手方が記載されており、相手方が個人である部分は、これを開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得るため、本号に該当する。
イ 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書中、知事の交際の相手方は個人以外では法人その他の団体又は事業を営む個人であるが、その大半は、各種事業活動を行っている諸団体であり、それらに対する支払額は、当該団体等の事業活動状況や交際の必要度、重要度を考慮して決めているので、各団体によって異なる。
その金額は、当該団体等にとって事業活動上の秘密であり、開示すると他と比較され、社会的評価に影響して当該団体等の正当な利益を害すると認められるため、本号に該当する。
ウ 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本件対象公文書中、知事が出席する会議等に関する情報の中には、現在あるいは将来の県の政策について審議、検討、調整する場合も含まれており、それらは県又は国等の事務事業に係る意思形成過程情報であり、開示することによって、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあるため、本号に該当する。
エ 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
知事が行なう多数の関係者や関係諸団体との交際事務は、県行政を適正かつ円滑に運営していく上で欠かすことのできない良好な信頼・協力関係を形成、維持発展させていくことを目的としており、かつ、反復、継続して行なわれるものである。
- 本件対象公文書に記載されている内容は、単に経費の支出関係を示すだけでなく、交際に係る関係者等の範囲、交際の内容・程度等を具体的に示しており、開示することにより、交際の対象にならなかったこと、あるいは、対象になった場合でも金額の多寡などが公にわかることにより、広範囲の関係者に不快や不満の念を抱かせるおそれがあり、その結果、交際の相手方との友好、信頼関係を損ない理解と協力が得られなくなって、交際事務の実施の目的が達成できなくなるなど、その公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。
- 交際費の執行については、前記3の2のイのとおり、予算の範囲内において、知事の裁量が認められているが、本件対象公文書が逐一開示された場合、交際の要否、その内容等に関する知事の判断が硬直化したものとなり、本来知事の自由な裁量において必要に応じて行うべき交際事務の公正、又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。
- 交際費の中には、慶祝、弔意等の儀礼的な経費が多く含まれており、これらを開示することは、それ自体儀礼の趣旨に反することになり、関係者に対し、困惑や不信の念を抱かせるおそれがあり、その結果、前記(ア) と同様の支障を生ずるおそれがある。
以上 1.、2.、3.の理由により、本件対象公文書に記載されている情報全てが、本号に該当する。
4 部分開示について
本県の場合、知事交際費については、その金額・件数とも他府県に比べて規模が小さいため、本件対象公文書に記録されている日時や項目、金額等を部分的に開示した場合、一般に得られる他の情報と組み合わせることにより特定の相手方が識別され得るものがあり、それらと識別されないものとの区分が困難であること、及び、そのような部分開示では請求の趣旨を満たすことができないことから、「容易に、かつ、開示請求の趣旨を損なわない程度に分離すること」ができる場合に当たらず、条例第10条第2項に定める部分開示には該当しないと判断した。
4 審査会の判断
1 本件対象公文書の性格及び内容について
本件対象公文書は、三重県会計規則の規定により、資金前渡受者が職務上作成する現金出納簿の附属書類として保管されているものである。
実施機関から当審査会に提出された当該公文書を精査したところ、その内容は、「年月日」、「摘要」、「収入金額」、「支払金額」及び「差引残高」の各欄からなっており、「年月日」欄には資金前渡受領月日と支払月日が、「摘要」欄には種目、細目及び支出の相手先が、「収入金額」欄には資金前渡受領額が、「支払金額」欄には支払額が、「差引残高」欄には月別の差引残高が、それぞれ記録されている。
なお、種目は、「慶祝」、「弔意」、「講読料」、「会費」、及び「その他」に区分されている。
2 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
3 本件審査の中心争点について
実施機関は非開示決定理由として条例第8条第1号、第2号、第4号及び第5号を挙げているが、口頭による非開示理由説明から察するに、その中心理由は、第8条第5号(行政運営情報)及び第8条第1号(個人情報)の該当性にあると判断される。
したがって、当審査会では、まず第8条第5号の該当性及び第8条第1号の該当性をそれぞれ審査し、必要があればその余の号についても、審査することにする。
4 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について
本号は、「検査、監査、取締り、入札、試験、交渉、渉外、争訟等の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」について、非開示とすることを定めたものである。
そこで、まず、本件対象公文書に記載されている情報が、本号前段に定める「渉外」に関する情報に該当するかどうかであるが、条例の解釈運用において、「渉外」とは、外国、国、地方公共団体、民間団体等と行う接遇、儀礼、交際等の対外的事務事業をいうと示されており、交際事務はまさにその「渉外」にあたり、本件対象公文書に記載された情報は、本号に定める情報であると認められる。
つぎに、本号後段の要件である「開示することにより、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に該当するかどうかについて、以下検討する。
実施機関は本件対象公文書に記載されている情報は、単に交際費の経理状況を示すだけでなく、知事が交際を必要とする範囲、内容、程度等を具体的に示すものであり、開示することにより事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると主張し、それに対して申立人は、東京高裁の判決を引用し、開示しても、事務事業の実施に著しい支障は生じないと主張している。そこで、本件対象公文書を開示した場合、そこに記載された情報が当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについて判断するに、本件対象公文書に記録されている情報は、確認したところ、年月日、目的、金額、相手方等の具体的内容について日を追って一件毎に記載されており、知事の交際の範囲や交際の程度を具体的に明らかに示すものであり、知事の裁量にかかる相手方に対する重要度についての評価や位置づけをも示すものと認められる。
よって、実施機関が主張するように、本件対象公文書を開示すれば、相手方に対する評価・相対的重要度等が明らかになり、他と比較したりすることによって交際の対象とならなかった者をも含めて、多くの関係者に不快や不満の念、あるいは誤解等を抱かせるおそれが生じることが考えられる。
なお、交際費の執行に当たっては、違法、不当な支出は許されないし、裁量権の乱用はあってはならないことは判例の示すとおりであるが、限られた予算の中で、交際事務を効率的に行うためには、知事の適切な裁量でもって、支出額に差をつけたり、あるいは、支出しない場合があったとしても、それはやむを得ないことであると考えられる。
また、交際費の中には、慶祝など儀礼的な側面を持つものが多いことが認められるが、それらを開示することは、それ自体儀礼に反するものであり、今まで培われてきた県と相手方との友好・信頼関係の維持等が損なわれるおそれがあることは社会通念上からも明らかなところである。
こうした関係者との交際事務は、一度限りでなく将来にわたって反復、継続してなされるものであることにより、たとえ、当該事務事業が終了した後であっても開示すれば、前述したと同様に相手方との良好な信頼関係が損なわれ、その結果、今後の交際に応じなくなるなど、事務事業の実施に必要な理解や協力を得ることができなくなり、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれが十分考えられる。
したがって、本件対象公文書に記載されている情報は条例第8条第5号に該当すると認められるため、実施機関が本号をもって非開示としたことは妥当であると判断する。
5 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
条例は、第3条において「──実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない。」と定めており、さらに、第8条第1号において、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。」は、原則として、非開示とすることを定めている。
本件対象公文書に記載されている個人名の部分は、特定の個人が識別される情報であるから条例第8条第1号に該当し、実施機関が本号をもって非開示としたことは妥当であると認められる。
なお、当該情報は、本号ただし書きイ、ロ、ハで規定するいずれの情報にも該当するものではないと認められる。
6 その余の号の該当性の有無について
本件対象公文書に記載された情報の全ては、前述のとおり条例第8条第5号に該当するものであり、そのうち相手方が個人の場合は同条第1号に該当するものと認められるため、その余の号の該当性については判断する必要はないと考える。
7 部分開示の可否について
条例は、第10条第2項に、「実施機関は、開示の請求に係る公文書に、開示しないことができる情報と、それ以外の情報が併せて記録されている場合において、これらの部分を容易に、かつ、公文書の開示の請求の趣旨を損なわない程度に分離することができるときは、当該開示しないことができる情報に係る部分を除いて当該公文書を開示しなければならない」と定めており、本件の場合についても、部分開示の可能性があればそれを追求して最大限開示すべきであると考える。
ところで、本文中の「容易に」とは、開示部分と非開示部分とを分離することが物理的、技術的に困難でない場合のほか、その部分を分離することが実質的に困難でない場合まで含むものと解される。また、「開示請求の趣旨を損なわない程度」の解釈は、県民の公文書の開示を求める権利が十分に尊重されることを前提にして判断すべきであると考える。
まず、相手先だけを非開示として、年月日、支出項目、金額等を開示した場合についてであるが、これについては特定の個人及び団体の識別可能性が高いことは容易に推察できるところである。よって、当該部分についての開示は、前述の条例第8条第1号及び第5号に該当し、本条による部分開示は不可能と考えられる。
また、仮に、年月日と金額だけを開示するについてはどうかであるが、本県の場合、支出件数が月平均約十数件と他府県に比べて非常に少ないものがあるため、一般に得られる他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人ないし団体が識別され得る可能性がある。もっとも、なかには他の情報との組み合わせによっても特定の個人ないし団体が識別され得ないものも含まれているが、識別可能性のあるものとないものとを区別することは極めて困難であると考える。
したがって、年月日と金額のみの部分開示であっても、上記の識別可能があるものについては相手先を開示したのと同様の結果になるものと判断される。
よって、実施機関が、請求の趣旨を損なうと判断して本件対象公文書を部分開示できないとしたことについては、妥当とは判断しがたいが、特定の相手方の識別可能性の有無についての判断が極めて困難であり、それゆえ分離が容易でないとして、部分開示できないと判断したことは妥当であると考えられる。
8 結論
総合して判断すると、本件対象公文書について、実施機関が行った非開示決定処分は妥当である。
5 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
6 実施機関に対する提言
審査会の結論は以上のとおりであるが、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するため、知事交際費に関しても、できる限りその使途内容がわかるような資料を作成して、情報提供されるよう提言する。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
3.3.30 | ・諮問書受理 |
3.4.8 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出要求 |
3.6.4 | ・非開示理由説明書受理 ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付及び意見 書の提出要求 |
3.6.12 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
3.6.17 | ・意見書受理 |
3.11.27 (第13回審査会) |
・書面審理 |
4.1.28 (第14回審査会) |
・実施機関からの非開示理由説明の聴取 ・審議 |
4.2.13 (第15回審査会) |
・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取 ・審議 |
4.2.20 (第16回審査会) |
・実施機関からの補足説明の聴取 ・審議 |
4.4.9 | ・答申 |