三重県情報公開審査会 答申第35号
答申
1.審査会の結論
「故○○○○のレセプト(診療報酬明細書)(平成6年1月~4月分、平成7年9月~12月分)」について、実施機関が非開示としたことは妥当である。
2.異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成8年11月17日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「故○○○○のレセプト(診療報酬明細書)(平成6年1月~4月分、平成7年9月~12月分)」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成8年11月29日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3.実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
本件対象公文書は、患者本人の心身の状況に関するものであり、基本的に個人の情報、本人の心身の状況については保護していく必要があると考えている。
開示請求は本人自身でなく息子からなされたものであり、条例第9条で定める本人情報には該当しない。このことから、本件対象公文書は、条例第8条第1号に規定された個人に関する情報に該当するため、非開示の決定を行った。
なお、一般的に病気のことについては、本人あるいは家族も含めて質問等があれば主治医から説明をしており、今後とも十分に対応していきたい。
4.異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書等で意見陳述している主たる理由は、次のように要約される。
インフォームド・コンセント(IC)や医療記録の開示は米国では70年代、欧州では80年代に、患者の当然の権利として認められ、法制度が確立している。韓国では、94年に開示が制度化された。日本では近年、横浜、川崎、福岡、藤沢、豊中、大阪市及び松戸市等で開示されている。入院患者であった母の場合、主治医の私的感情で安易に精神安定剤が多用され、副作用が生じた形跡がある。又、約2年間の惰性的投与で薬漬けにされた様子が見られる。
来年は、情報公開法案が国会に提出される状況であり、母の医療記録全ての開示を強く切望する。
以上のことから、本件対象公文書の非開示決定は不当である。
5.審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第8条第1号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
1 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
2 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書について、開示請求のあった公文書は、申立人の母親の情報ではあるが、条例第8条第1号に規定された個人に関する情報であるため非開示にしたと主張するので、このことについて検討する。
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報が記録されている公文書は、原則として、非開示とすることができることを定めたものである。
その一方で、本号ただし書きにおいて、法令の定めるところにより何人でも閲覧できる情報、公表を目的としている情報及び許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報で公益上開示することが必要であると認められるものについては、開示することとしたものである。
異議申立人が開示請求している本件対象公文書は、三重県立総合塩浜病院(現総合医療センター)が作成した、故○○○○に関する個人情報と認められ、また、本号ただし書きのいずれにも該当しない。したがって、実施機関が非開示としたことは妥当である。
3 条例第9条(公文書の本人開示)の該当性について
異議申立人は故○○○○の息子であり、母親の病気入院に係る治療の状況を知りたいとして開示請求を行ったことが認められることから、条例第9条(公文書の本人開示)との関係について検討する。
条例第9条は、条例第8条第1号(個人情報)に該当する情報が記録されている公文書について、本人から開示請求があつた場合には、当該公文書の本人に係る部分を開示しなければならないと定めている。ただし、当該部分が条例8条第2号から第7号までに掲げる情報、または、個人の指導、診断、判定、評価等に関する情報であって、本人に知らせないことが正当と認められるものは、該当する部分を開示しないことができるものと定められている。
条例第9条は、本人に限り開示できるとしたものであるが、本件では当該情報に係わる本人ではなく、その家族が公開請求をしている、いわゆる「死者の個人情報」について、当該本人の家族が公開請求した場合には、第三者が個人情報の公開を求めた場合と区別して、別異と解すべきであるとする余地もあるが、条例第9条は、本人に限定して開示を認めている。
したがって、実施機関が本人以外の者からの個人情報の公開請求を非公開としたことには、違法はない
4 結論
実施機関が本件対象公文書を条例第8条第1号に該当するとして非開示としたことは妥当である。
6.審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
7.審査会からの提言
三重県情報公開条例は、条例第9条において、個人情報についての公文書の本人開示を定め、本人に限り開示しなければならないとしているが、一方で、死者の個人情報に係る開示請求に関しては、規定していない。
しかしながら、死者の個人情報のなかには、死者の近親者等に極めて関わりが深いものがあり、これらの者に対して開示することが適当と考えられる情報もあり得る。 本件対象公文書の取り扱いを検討してみると、実施機関が行った非開示決定には本文で述べたように違法性はないが、事情により任意開示の余地があったものと思われる。すなわち、レセプト(診療報酬明細書)は、具体的な治療行為の中身まで明らかにするものとはいえず、厚生省は診療報酬明細書等の開示について平成9年6月に本人及び遺族に対する原則開示を認めている。また、過大な診療報酬請求に対する情報公開の社会的要請を勘案すると、医師と患者との信頼関係を構築する一環として、現時点においては、原則として、レセプト(診療報酬明細書)は開示されるべきであると思われるので、特段の事情がない限り、任意開示を要望する。
なお、死者の個人情報について、家族等が公開請求してきた場合の取扱いについては、今後さらなる検討が望まれる。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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9. 1.13 | ・諮問書受理 |
9. 1.28 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
9. 2. 6 | ・非開示理由説明書受理 |
9. 3. 3 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認(カルテ・レセプト同時処理) |
9. 3.24 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
9.10. 8 | ・書面審理及び実施機関からの非開示理由説明の聴取及び審議
(第73回審査会)
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9.10.20 | ・異議申立人から書面で提出された意見により審議
(第74回審査会)
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9.11.17 | ・審議
(第75回審査会)
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9.11.17 | ・答申 |