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平成25年06月01日

情報公開・個人情報保護

三重県情報公開審査会 答申第396号                               

答申

1 審査会の結論

 実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、1つの市町に同種学校が1校の場合の「外国人、帰国子女又は長期欠席者である児童又は生徒の市町・学校種別集計値」について非開示とした決定は妥当であるが、1つの市町に同種学校が2校の場合の同数値を非開示とした部分については開示すべきである。

2 異議申立ての趣旨

 異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年10月16日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成24年5月1日時点の小学校・中学校における外国人児童(生徒)数、帰国子女児童(生徒)数及び長期欠席者数の市町別合計」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年10月29日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。

3 本件対象公文書及び本件非開示部分について

 本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、統計法に基づく基幹統計として文部科学大臣が実施した平成24年度学校基本調査に関して、実施機関が統計法第33条の規定に基づき文部科学大臣から提供を受けた調査票情報の集計表であって、小中学校別並びに国立、公立及び私立の学校種別ごとに県内各市町における外国人、帰国子女又は長期欠席者の児童又は生徒の集計値が記載されたものである。
 このうち、実施機関が非開示とし、異議申立人が開示を求めているのは、1つの市町に同種学校が1校又は2校しかない場合の同数値である。

4 実施機関の説明要旨

実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。

(1) 条例第7条第1号(法令秘情報)に該当

 ア 統計法の規定による調査票情報の提供の禁止

 重要な基幹統計調査の真実性を確保するため、統計法第13条では、調査の対象である「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる。」と規定しており、「報告を求められた者は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。」と規定している。また、調査票は原則として「統計の作成」以外には使用しないと定め、行政機関及び都道府県の関係職員が調査票を一般に閲覧させることはないと定めており、統計制度の基盤は、これらの秘密の保護及び目的外使用禁止によって裏付けられる関係にある。
 学校基本調査は、公的統計の作成及び提供に関し基本となる事項を定める統計法第2条第5項の、行政機関等が統計の作成を目的として個人又は法人その他の団体に対し事実報告を求めることにより行う調査であるため、同項の「統計調査」に該当するものである。同法は、第3条で、行政機関における相互の協力や役割分担とともに、中立性・信頼性の確保や秘密の保護について基本理念を述べ、第40条第1項で、地方公共団体の長その他の執行機関は、この法律又は当該地方公共団体の条例に特別の定めがある場合を除き、その行った統計調査の目的以外の目的のために、当該統計調査に係る調査票情報を自ら利用し、又は提供してはならないと定めている。
 そして、調査票情報とは、統計調査によって集められた情報のうち、文書、図画又は電磁的記録に記録されているものをいい(同法第2条第11項)、本件対象文書は、統計調査によって集められた調査票情報と同じ情報を含むものであることから、条例第7条第1号の法令の定めるところにより公にすることができないと認められる情報に該当する。

 イ 統計表作成における秘匿措置

 各府省統計主管課長等会議において申し合わされた、開示請求を受けて開示・非開示の判断を行うに当たっての一般的な取り扱いの指針を示すものとして、「行政機関の保有する統計調査関係文書の公開に関するガイドライン」があり、実施機関に対して開示請求があった場合も、本ガイドラインの趣旨を体して定めることになっている。
 実施機関が、国から調査票情報の提供を受けることができる根拠規定である統計法第40条第1項にいう「この法律の特別の定め」とは、同法第33条第1号にある「行政機関等その他これに準ずる者として総務省令で定める者が、統計の作成等又は統計を作成するための調査に係る名簿の作成」を行う場合である。その事務処理の指針が、「統計法第33条の運用に関するガイドライン」として、平成20年12月24日に総務省政策統括官(統計基準担当)決定(平成23年3月28日改正)により制定されている。この規定は実施機関が法定受託をした全ての統計調査に該当する。
 このガイドライン第8の3「(9)結果の公表方法及び公表時期」の記載例には、「なお、公表の際、事業所数が1若しくは2となる場合には秘匿する」と記載されている。
 文部科学省は、このガイドラインを受けて、統計調査に係る統一的な運用を図るために必要な事項を、「統計法第33条の運用に関する事務処理要綱」として平成23年6月1日付け生涯学習政策局長決定により制定している。
 この要綱において、実施機関が統計調査から統計表を作成して公表又は県民等からの要請により統計情報を提供する場合、「集計した結果を公表する場合には、個々の調査対象に関する事項が特定、類推されることがないように、秘匿措置がなされることが必要である」と規定している。
 秘匿措置とは、即ち、統計調査の集計結果を作成する際、ある区分に該当する客体数が少なく、その結果数値を公表することにより、調査客体の個別の情報が判明してしまうおそれがある場合は、該当する箇所を実際の数値ではなく別の値に置き換えるなどの行為を指す。具体的には、学校基本調査のような悉皆調査の場合は、客体数が少ない場合、結果を非表示とし、合計値からの引き算により秘匿対象が判明する場合は、二次秘匿処理を行うというものである。
 実施機関において、本県の学校基本調査に係る統計を作成することを目的として、法第33条の規定に基づき文部科学大臣に調査票情報の提供の申出を行う際、当該要綱に従って、「調査客体の秘密の保護のため、必要に応じて秘匿措置を行います」、及び「集計された数値により、調査客体の秘密の保護のため、集計区分を変更したり、公表を控えたりする秘匿措置をとるものとする」との条件を付けたところであり、この申出を受け、同大臣により、調査票情報の提供がなされている。
 本決定において部分開示とした本件対象文書では、市町において学校数が1校又は2校の場合は、調査票情報と同じ情報を含んだ数値を公表することになるので、上記申出の条件を遵守し、対象人数を非開示とすることにより、必要な秘匿措置を行ったものである。

(2) 条例第7条第2号(個人情報)に該当

 1校又は2校しか学校がない市町に係る対象についての情報は、当該情報単独では特定の個人を識別することはできないが、「他の情報」と照合することにより、「特定の個人が識別され得る」情報であると判断し、非開示としたものである。
 児童・生徒が外国人、帰国子女、あるいは長期欠席者であることは、条例第3条にいう個人のプライバシーに関する情報である。一方、それぞれに属する児童・生徒の数を集計した統計表の中の数字だけであれば、児童・生徒個人の特定・類推は困難であるが、県内には、小学校・中学校が1校又は2校しかない市町が存在する。これらの学校に係る児童・生徒の外国人、帰国子女、長期欠席者の数は、市町別に集計しても統計表の中では1校そのもの又は2校の合計の数字となり、1校の場合は生のままの数字が判明し、2校の場合は別の1校の数字を知るものから見れば、差し引きにより容易に計算できることとなる。
 児童・生徒の氏名、外見、習慣、家庭状況をよく知る地域住民等の一部の者からは、日頃から当該児童・生徒が、外国人、帰国子女、あるいは長期欠席者ではないかと推測されている可能性がある。また、市町に1校又は2校しか学校がない地域であれば、3校以上の学校を持つ市町の住民よりも、地域住民間の関係は濃密であり、様々な情報が入手しやすくなる環境にあると推測される。特定された学校における外国人、帰国子女、あるいは長期欠席者の数が分かれば、一部の住民に日頃から外国人等ではないかと推測されていた児童・生徒が、外国人等であると特定又は類推される可能性が高くなる。よって、1校又は2校しか学校がない市町に係る対象についての情報のみでは、個人が識別できない情報でも、地域住民等が持っている他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人を識別することができる情報となるものであるから、当該情報は本号に該当する。

(3) 条例第7条第3号(法人情報)に該当

 私立学校ごとの外国人、帰国子女、あるいは長期欠席者の数が分かるように情報提供を行うことは、当該私立学校を経営する学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報と認められることから、学校法人が1校又は2校しかない市町に係る対象についての情報を開示することはできない。
 私立学校ごとの外国人児童・生徒数、及び帰国子女児童・生徒数が明らかになることは、当該学校ごとに係るそれらの受け入れ体制の充実度等が判明することにつながる。例えば、外国人児童・生徒の保護者からみれば、それらの数が他校に比して少ない学校が選択肢から外れる可能性が高まる。同様に長期欠席者数が明らかになることは、その対応状況等が判明することにつながることになる。例えば、長期欠席者の数が他校に比して多い学校は、入校先を探す保護者の選択肢から外れる可能性が高まる。
 また、県内の私立小中学校のホームページにおいては、交換留学等国際交流について紹介するページはあっても、これらの対象についての情報を開示しているところは見受けられず、各私立学校が一般に広く周知を図ろうとしている情報ではない。
 以上のように、私立学校の対象についての情報を開示することは、当該学校への入校者数を左右することにつながる可能性があり、ひいては当該私立学校を経営する学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから、本号に該当し開示することはできない。

(4) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当

 学校基本調査は、国公立の学校だけを対象とした統計調査ではなく、前述の私立小中学校の他、私立幼稚園、専修学校、各種学校なども対象としている。
 学校基本調査の実施に当たっては、全ての学校からありのままの正確な報告が得られるよう、配布する手引には「調査票は原則として『統計の作成』以外には使用しません。文部科学省及び都道府県の関係職員が調査票を一般に閲・翌ウせることはありません。」と明記し、学校等を対象とした説明会においても、調査票は統計の目的以外に使用しない旨説明するなど、法の規定の趣旨を尊重した事務の積み重ねによって、全ての学校の信頼を得たことにより、調査を円滑に実施してきている。
 集められた調査票は、担当する職員だけが扱い、法第39条により厳重に管理されるとともに、統計上の目的以外に使用するのは法第33条に基づく調査票情報の提供の場合のみである。
 以上のように基幹統計である学校基本調査は、統計法上、被調査者(学校)と調査実施者(実施機関等)の相互の信頼協力関係を基盤としており、これによって統計の真実性が保たれている。
 ここで1校又は2校しか学校がない市町に係る対象についての情報を開示することは、信頼関係が損なわれ、今後の協力を得ることが困難となる可能性がある。よって、今後の学校基本調査の遂行に著しい支障をきたすことになるため、本号に該当するものとして非開示としたものである。

(5) 条例第10条(公益裁量開示)に該当しない

 異議申立人は、本件について「公益性」を重視して条例第10条を提供するよう主張しているが、1校又は2校しか学校がない市町に係る対象に関する情報については、条例第7条第1号(法令秘情報)に該当するため、公益性の有無にかかわらず開示は認められない。

(6) 他の都道府県の状況について

 異議申立人は、他の都道府県においては同様の情報を公表していると主張しているが、実施機関としてもホームページ等で公表を行っている県があることは承知している。しかし、その公表の経緯については不知であり、本決定については、あくまで統計法等の規定に基づいて実施機関としての判断を行ったものである。

5 異議申立人の主張要旨

 本件については、異議申立人から意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨及び意見書の記載内容に基づいて審議を行った。異議申立書及び意見書における異議申立人の主張は、概ね次のとおりである。

(1) 異議申立後に本決定の理由を追加することが失当であること

 実施機関は、本決定において、その部分開示の理由として、条例第7条第2号のみを挙げている。
しかしながら、理由説明書においては、これに加えて、条例第7条第1号、第3号及び第6号をも追加している。
 これは、本決定時点において考慮もしていなかった理由を後付で主張するものに他ならず、行政手続の適正さの観点から見てまったく失当であって、そもそも条例第7条第2号以外の理由は、本事案の検討から排除されるべきである。
 ただし、念のため、条例第7条第2号以外の理由についても以下において反論する。

(2) 条例第7条第1号(法令秘情報)に該当する理由について

 ア 法の規定による調査票情報の提供の禁止

 実施機関は、その理由説明書において、「本件対象文書は、統計調査によって集められた調査票情報と同じ情報を含むものであり、条例第7条第1号の法令の定めるところにより公にすることができないと認められる情報に該当する」としている。
 しかしながら、三重県を含む多くの県で、学校基本調査の「統計調査によって集められた調査票情報と同じ情報を含む」情報を必要に応じて提供しているのは誰でも知っていることであり、それを総務省・文部科学省も容認している。
 例えば、三重県の公式ウェブ上の「三重県学校名簿」では、学校基本調査と同じ日付に行われた、事実上同じ質問項目を含む「独自の調査」により、「調査票情報と同じ情報」を公表している。このように、学校基本調査については、それらに含まれる調査票情報が自治体に住民等にとっても必要不可欠との認識から、多くの都道府県で同じ情報が並行して収集され、公表されているのは教育行政に関わる誰もが知っていることである。この2つの調査が「異なる調査である以上異なる情報である」との反論も想定されるが、それこそが行政の詭弁である。異なる調査であろうと、同じ情報であれば、それが秘匿すべき対象であるかの判断は論理的には同じであるはずである。いずれにせよ、学校情報については、調査票情報と同じ情報が広く公表されているという事実には間違いなく、それを総務省も黙認している。したがって、理由説明書の「統計調査によって集められた調査票情報と同じ情報を含むものであり、条例第7条第1号の法令の定めるところにより公にすることができない」との部分は、三重県自身が行っている事実により否定される。
 実際、文部科学省・総務省自身が、市町村別統計を集計し、公表しており、その中には既に、1市町村1校の場合も含まれている。したがって、調査票情報だから一律に公表禁止ということは、総務省自身が運用上行っていない。総務省が適法として解釈・運用する範囲でどこまでの集計範囲を公表するかは、全て、個人にとって不利益になるような情報の特定の可能性と公表による公益の比較の観点から個別具体的に議論されるべきであることは、県自身もそのような運用を行っていることから明らかである。そもそも、調査票情報の秘匿を極端に文言どおり厳密に解釈すれば、どの学校も在籍する生徒数をホームページで公表することもできず、児童生徒数を掲載した学校名簿の作成もできないことになる。
 特に本件に関わる統計情報については、他県もそのような運用を行っており、問題となっていない。

 イ 統計表作成過程における秘匿措置

 理由説明書に書かれている「なお公表の際に、事業所数が1若しくは2となる場合には秘匿する」との記載は、ガイドラインに明記されているように、あくまで「記載例」であり、ガイドラインがこのような記載を求めているとの印象を与える「理由説明書」の記述は誤りであり、このような誤解を招くような記述は、法解釈を行う行政機関としてあってはならないことである。そもそも、公立学校は「事業所」ではなく、私人でもない。
 さらに理由説明書は、「調査客体の秘密の保護のため、必要に応じて秘匿措置を行います」との条件をつけて、文部科学大臣から調査票情報の提供がなされたと主張する。しかしながら、そのことをもって、「1校又は2校の場合、調査票情報と同じ情報を含んだ数値を公表することになる」から直ちに公表できない、と主張することは正しくない。既に述べたように、三重県を含め、全ての都道府県、そして総務省自身も、集計を通じて結果的に得られた、秘匿する必要のない調査票情報は、公的な有用性が高い場合には公表を適法なものとして運用している。すなわち、どのような情報が「必要に応じて」秘匿されるべきかは、秘匿によってしか守られない個人情報の存在とその重要性と、その情報が公表されることで社会が得られる便益を比較衡量すべきであり、実際そのような運用がなされているところである。

(3) 条例第7条第2号(個人情報)に該当する理由について

 理由説明書は、「1校又は2校しか学校がない市町に係る対象についての情報のみでは、個人が識別できない情報でも、地域住民等が持っている他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人を識別することができる」とし、その根拠として、「特定された学校における外国人、帰国子女、あるいは長期欠席者の数が分かれば、一部の住民に日頃から外国人等ではないかと想像されていた児童・生徒が、外国人等であると特定・類推される可能性が高くなる」と主張する。
 しかし、今回非開示の対象となった町と学校を見ると、町に1校しかないケースでもっとも児童生徒数の少ない木曽岬町でさえ179人在籍している。179人在籍する学校で、上記のような個人情報の特定行動は事実上不可能である。100人以上在籍する学校において、ある特定の児童生徒が帰国子女であるか、又は外国人であるかを識別するためには、他の全ての児童生徒についてそれらの点について事実として知っている必要がある。しかしながら、一般人が通常行い得る調査等では、到底全ての児童生徒が帰国子女や外国籍であるか否かを識別する情報を取得することはできない。そもそも、5月1日に調査されるこれらの統計が公表されるのは事実上12月頃であり、それから3ヶ月もすれば新学年の入学、最終学年の卒業となり、生徒の何割かが入れ替わる。その短期間の間にただ一人の生徒の個人情報を特定するために、その他の170名ほどの個人情報を得ることなど到底不可能である。そもそも、外見からは見えない個人情報は、たとえ尋ねられても本人が真実を述べる必要さえない。正確な行政情報に頼らずして、全ての学年にわたる百数十人の「真の」個人情報を特定していくことなど、どれだけ住民間の関係の濃密な地域であろうと誰にできようか。そのような個人情報の収集行動自体が既に違法状態に近い可能性さえある。
 個別具体的に理由説明書の問題点を指摘すれば、「長期欠席者」というのは個人情報に当たらない。ある児童が長期に学校を休んでいれば、その欠席状況はクラスメートや他の保護者にはおおむね既知の事実である。例えば、ある市町村の学校の長期欠席者の人数が開示されたとしても、元々その長期欠席者について知っている者にとっては何ら新しい情報を与えるものではないから新たな弊害が生じるおそれはない。また、学校統計上の「長期欠席者」は行政による便宜的定義に過ぎない。当該児童生徒が行政上の定義に当てはまるかどうかなど、実際には、欠席をしている本人さえ認識してはいないはずである。本人さえ認知していない情報は個人情報ではない。したがって、理由説明書に書かれているような「地域住民等の一部の者は、日頃から当該児童生徒を・・・長期欠席者ではないかと想像している可能性」は事実上意味をなしていない。
 念のため、過去においては、特定の国出身の児童生徒の学校別在籍数さえ公開が妥当とされた答申さえあることを申し添えたい(「H7.10.26 高槻市 市立小・中学校の学校別の韓国・朝鮮人児童・生徒数一覧表の部分開示の件」)

(4) 条例第7条第3号(法人情報)に該当する理由について

 私立学校ごとの外国人、帰国子女、長期欠席者の数が分かるような情報提供については、開示請求時に「可能であれば」とただし書をつけて請求した部分であり、この部分については反論しない。

(5) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当する理由について

 実施機関は「1校又は2校しか学校がない市町に係る対象についての情報を開示することは、信頼関係が損なわれ、今後の協力を得ることが困難になる可能性がある」と主張するが、既に述べたように、三重県をはじめとするほぼ全ての都道府県は、学校基本調査の調査票情報を獲得し、その一部を公表するための並行調査を実施している。つまり、どの情報が公表可能かどうかは個別具体的に議論すべきであって、「調査票情報であるから公表しない」という運用は、事実上三重県を含めてどの都道府県も、そして総務省さえも行っていない。
 当該情報に関していえば、他の多くの県で、実際に市町村に1校の場合について開示請求内容を公表しており、実施機関の主張するようなおそれがあるのであれば、既に他県で問題になっているはずである。しかし、具体的な問題は聞いたことはなく、今年も静岡県が新たに該当文書をウェブ上で公表したように、公表している県は増えている。したがって、実施機関の主張するような「おそれ」「可能性」の論理は、具体的な問題が起きていないという事実により否定される。これだけ多くの先例が存在する中にあって未だそのような可能性を主張するのであれば、その主張をする実施機関自身が事実により反論しなければならない。
 そもそも、信頼関係が損なわれる、又は協力を得ることが困難になる可能性があるなどというのは、抽象的なおそれでしかなく、条例第7条第6号が想定する事態には当たらないというべきである。

(6) 条例第10条(公益裁量開示)に該当

 三重県の学校に入学を希望している外国人・帰国子女の保護者が、子どもに、学校にスムーズに溶け込んでほしいと願うのは当然の権利であり、それを支援するための情報提供は公益にかなうことである。他の都道府県で開示された情報を見ると、最近はどのような小さな市町村でも、ある程度の数の帰国子女や外国人の児童生徒が存在することが分かる。このような統計を通じ、子どもが通う学校に自分と同様の立場の友人がおよそどの程度いるか事前に分かることで、保護者や子どもにとっての入学や転入の心理的なストレスは大きく解消されるであろう。それを踏まえると、1市町村に1校であっても、何人の外国人や帰国子女の児童生徒が在籍しているかという統計情報を提供することは、外国人や帰国子女の保護者の不安の解消という公益上の意義があるといえる。
 また、長期欠席者は、学校の運営状況に関する極めて重要な情報である。学校教育法は平成19年の大改正で、「第43条 小学校は、当該小学校に関する保護者及び地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力の推進に資するため、当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況に関する情報を積極的に提供するものとする。」と定めている。不登校・長期欠席者の問題への対応は、住民や保護者が教育委員会に対応を期待する重要な課題の一つであろう。しかし、自治体内に何人の長期欠席者がいるのか公表できないようでは、長期欠席者の情報を学校の設置責任主体である自治体単位で非開示にすることは、公教育の政策課題の所在を覆い隠し、本来公教育に求められている期待を裏切ることになる。
 どちらの場合も、既に自治体単位で集計されている情報をわざわざ非開示にすることは、公益を大きく損なっているといえる。
 実施機関は、法令秘情報に該当することをもって、当該情報の公益性の議論を却下しているが、既に述べたように、三重県自身を含む全ての都道府県及び総務省が、事実上の調査票情報を公表していることから、調査票情報の秘匿性と公益を秤にかける議論をすることは当然であり、その議論を行うこと自体を却下する県の態度は不当である。実施機関も、昨今の学校や教育行政の閉鎖性に対する社会一般の批判をもっと重く受け止め、公表しても何ら問題の発生しない学校情報は可能な限り積極的に公表すべきである。

(7) 他の都道府県での市区町村別学校統計の公開・開示状況

 異議申立人は、他の都道府県での市区町村別学校統計の公開・開示状況を調査している。これによると、1市区町村に2校以上の学校がある場合に統計を非開示とした県は存在しない。また、1市区町村に1校しか学校がない場合に非開示とした県はただ一つである。100人以上在籍する学校のみを持つ市区町村別統計について実施機関と同じ決定をした都道府県は存在しない。いずれにしても、ほぼ全ての都道府県で、市区町村別学校統計を所持している場合に開示に応じており、これらの都道府県が国のガイドラインに抵触しているとの理由は存在しない。
 このことに対し、実施機関は、「公表の経緯については不知である」との主張であるが、公表している県が既に多いという事実を認識していることが重要である。実施機関がもし情報開示に積極的な姿勢を持つのであれば、そのような事実を承知しているのであれば当然ながらその経緯を調査してしかるべきである。しかしながら、このような反応しかできないことは実施機関が他の自治体の状況から学ぶ姿勢を持とうとしない、情報開示にそもそも消極的な姿勢を持っていることを自ら示しているとしかいいようがない。
 そもそも、情報公開条例の規定は、都道府県ごとに差異があるにせよ根本的に異なるものではなく、他県で既に情報公開がなされている事項については、実施機関が条例の解釈において公開に伴い生じる様々な害悪が存在しないことを推認させるものとすらいうことができる。

6 審査会の判断

(1) 基本的な考え方

 条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。

(2) 非開示理由の追加について

 実施機関は、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとの理由により本決定を行っているが、当審査会へ提出された理由説明書においては、同条第1号(法令秘情報)、同条第3号(法人情報)及び同条第6号(事務事業情報)にも該当するとして非開示理由の追加をしたいとしている。
 これに対して、異議申立人は、本決定時点において考慮もしていなかった理由を後付で主張することは行政手続の適正さの観点から失当であり、本決定で付記した条例第7条第2号以外の理由は、本事案の検討から排除されるべきであると主張している。
 確かに、開示決定等に係る理由の付記は、実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保し、それに対する異議申立てに便宜を与えることを目的としているものであることからすれば、実施機関は開示決定時において十分検討した上で理由を付記すべきである。
 しかしながら、異議申立てを受けた実施機関において、当該決定の当否を判断するに当たり、非開示理由を改めて検討することは不当なこととはいえず、決定通知書に理由がいったん付記された以上、当該理由以外の非開示理由の存在を主張することが許されないこととなるとまでは解されない。
 また、実施機関は当審査会の答申を受けて最終的に異議申立てに対する決定を行うことになるが、当審査会で新たに追加された非開示理由を審査の対象外とすることにより、答申を受けた実施機関がその新たな理由により当該情報を再び非開示とする可能性も否定できない。
 したがって、実施機関が追加した非開示理由について、異議申立人に反論の機会が与えられ、予備的主張ではあるが実際に反論を行っていることを考慮すれば、非開示理由の追加を認めてもあながち不合理とはいえず、当審査会として、本事案における非開示理由の追加を認め、以下において追加された非開示理由についても判断するものとする。

(3) 条例第7条第1号(法令秘情報)の意義について

 本号は、法令若しくは他の条例の定めるところによる、又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示による場合の非開示を定めたものである。
 法令若しくは他の条例の定めるところにより公にすることができない情報は、この条例によっても開示できないことを確認的に規定するとともに、各大臣その他国の機関からの法的拘束力を持った指示により公にすることができない情報については、非開示とすることを定めたものである。

(4) 条例第7条第1号(法令秘情報)の該当性について

 ア 統計法における関係規定

 統計法では、第2条第5項において、統計調査とは、行政機関等が統計の作成を目的として個人又は法人その他の団体に対し事実の報告を求めることにより行う調査をいうと規定している。そして、同条第11項において、調査票情報とは、統計調査によって集められた情報のうち、文書、図画又は電磁的記録に記録されているものをいうと規定し、第40条において、地方公共団体の長その他の執行機関は、この法律に特別の定めがある場合を除き、その行った統計調査の目的以外の目的のために、当該統計調査に係る調査票情報を自ら利用し、又は提供してはならないと規定している。
 また、同法第33条においては、行政機関の長又は届出独立行政法人等は、行政機関等が統計の作成等を行う場合には、その行った統計調査に係る調査票情報を、これらの者に提供することができるとし、第43条では、第33条の規定により調査票情報の提供を受けた者は、当該調査票情報又は当該匿名データをその提供を受けた目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供してはならないと規定している。

 イ 条例第7条第1号と統計法第40条及び第43条との関係

 本号は、法令の定めるところにより公にすることができないと認められる情報については非開示とする旨を定めている。そして、「法令の定めるところにより公にすることができない情報」とは、法令の規定で明らかに開示することができない旨が定められている情報の他、法令の趣旨、目的から開示をすることができないと認められる情報を含むものである。
 この点、統計法第40条及び第43条は、調査票情報の他目的使用を禁止しているものの、明文で閲覧や写しの交付等の開示を禁じている訳ではない。そのため、他目的使用を禁ずる調査票情報の本号該当性については、統計法第40条及び第43条の規定の趣旨、目的を勘案した上で判断することとなる。

 ウ 統計法第40条及び第43条の趣旨、目的

 統計法は、公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的としている(統計法第1条)。また、その目的を達するために、統計制度の枠組みの下において、被調査者の秘密の保護を定め(統計法第3条第4項)、提出された調査票の秘密を守ることを担保し、被調査者と調査実施者の信頼関係の確保を図るとともに、特に学校基本調査を含む基幹統計調査にあっては、被調査者に課された報告義務(同法第13条第2項)及び報告拒否や虚偽報告等に対する罰則規定(同法第61条)並びに統計調査に関する事務に従事する者の秘密に対する罰則規定(同法第58条)などによって、真実性や正確性を確保することとしているものである。
 これらの規定に加え、統計法第40条及び第43条においては、被調査者の秘密保護及び調査客体の信頼、統計調査の真実性や正確性の確保について、調査票の使用方法の観点から一段と慎重に規定されている。すなわち、統計調査に係る調査票は、当該調査の成果物である統計を作成する目的のために集められたものであり、被調査者が調査票に記入した時点で認識していた使用目的以外の目的で勝手に使用されることは、被調査者の信頼を裏切り、統計調査に対する協力を得られなくし、ひいては統計の真実性を阻害するおそれがあるので、同規定では、目的外使用を原則として禁止しているものと解される。
 しかし、調査票情報の中に、既に公表された事実など公知の情報が存在する場合には、当該情報を統計の目的以外の目的で使用したとしても、被調査者の当該統計調査への信頼を損なうおそれがないものと認められるため、統計法第3条第4項に規定される被調査者の秘密には含まれず、これを開示したとしても統計法第40条及び第43条の趣旨、目的には反しないものと解される。

 エ 本件非開示部分の条例第7条第1号への該当要件

 本件対象公文書は、平成24年に実施された学校基本調査に関するものであるが、同調査は、統計法第2条第5項に規定される基幹統計調査に該当するものである。そして、本件対象公文書は、同法第33条の規定により文部科学大臣から実施機関に提供されたものであると認められる。
 したがって、本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報が、本号に該当するというためには、当該情報が同法第2条第11項に規定される調査票情報に該当し、かつ当該情報の開示が同法第40条又は第43条の規定の趣旨、目的に反するものと認められることが必要である。

 オ 本件非開示部分は「調査票情報」に該当するか

 実施機関は、本件対象公文書のうち、「外国人、帰国子女又は長期欠席者である児童又は生徒の市町・学校種別集計値」について1つの市町に同種学校が1校又は2校の場合の同数値を非開示としている(以下、1つの市町に同種学校が1校の場合の非開示部分を「非開示部分1」と、同じく2校の場合の非開示部分を「非開示部分2」という。)。そして、その非開示の理由として、非開示部分1については、調査票情報そのものであるとし、他方、非開示部分2については、2校のうちの1校の情報を知る者にとっては、もう1校の数値が判明するため、非開示部分1と同様に調査票情報に該当するとしている。
 確かに、非開示部分1については、個々の学校が学校基本調査において調査票に記入した情報と同視できるものであり、統計法第2条第11項に規定される「調査票情報」に該当すると認められる。
 しかしながら、非開示部分2については、2校分の合算値であり、「調査票情報」そのものではない。なぜなら、1校の情報を知る者にとっては、もう1校の数値が判明することになるという実施機関の主張は、極めて限られた者にだけ当てはまる論理であって、そうした特殊事情は本号の解釈に影響を与えるものではないからである。
 したがって、非開示部分1については、「調査票情報」に該当するものの、非開示部分2については、「調査票情報」には該当しない。

 カ 本件非開示情報は統計法第40条及び43条の趣旨、目的に反するか

 本件学校基本調査に関しては、その調査結果の概要が実施機関によりホームページ等で公表されていることが確認できる。また、学校基本調査の調査項目の一部については統計法とは根拠を異にする独自の調査、照会が行われており、その結果が同様に公表されている例も確認できる(例えば、県内の各学校の生徒数や教員数については、三重県教育委員会のホームページ等で学校名簿として公表されている。)。
 しかし、本件非開示情報である「外国人、帰国子女又は長期欠席者である児童又は生徒の数」に関して、調査対象となった各学校が調査、記入した個々の数値は学校基本調査の調査結果として実施機関においては公表しておらず、加えて同種の情報が他の調査、照会等により公にされているといった事実も確認することはできない。
 このことからすると、非開示部分1については、これを開示することで、被調査者にとって、秘匿されるべき事項が保護されなくなることとなる。その結果、今後の学校基本調査において、被調査者が調査票の個票の開示を危惧することが想定され、単に調査実施者と被調査者との信頼関係が損なわれるだけでなく、申告拒否や虚偽申告が起こり得る可能性を否定することはできず、ひいては統計調査により得られた結果の真実性・正確性に疑義が生ずることとなり、統計としての意義を失わせることとなりかねないものと認められる。
 この点に関し、異議申立人は、調査票情報の秘匿は文言どおり厳密に解釈するのではなく、秘匿によってしか守られない個人情報の存在とその重要性と、その情報が公表されることで社会が得られる便益を比較衡量して判断すべきであり、実際そのような運用がなされていること、さらに、本件非開示部分と同様の情報を公表している都道府県も多数存在することから、当該情報は開示されるべきであると主張する。
 調査票情報の秘匿に関する当審査会の考え方は前記ウのとおりであり、異議申立人の主張について、これを完全に否定するものではない。しかしながら、調査票情報の公表についての実際の運用は、統計法第40条又は第43条における統計の目的内使用としての位置づけで公表を行っているものも多数存在することが推認できること、統計調査とは異なる調査等により収集された同種情報としての位置づけで公表している場合は、公表を前提として調査等を実施していると想定され、被調査者との信頼関係を損なうおそれがないものと認められることから、このような運用をもって本件非開示部分を開示すべきとする異議申立人の主張は首肯することはできない。そして、本事案における非開示部分1については、前述のとおり公知のものとは認められないことから、今なお秘匿されるべき調査票情報であるというべきである。
 なお、実施機関は、本件対象公文書が統計法第33条の規定により提供を受けたものであること、及び「統計法第33条の運用に関するガイドライン」の規定により非開示部分1及び非開示部分2の双方とも本号に該当する旨主張している。しかしながら、同ガイドラインは総務省政策統括官が決定した事務処理の指針に過ぎず、本号に該当する実施機関が従う義務を有する国の機関の指示であることが明らかに認められる訳ではない。さらに、実施機関は、非開示部分2を非開示とした理由として、同ガイドラインに「公表の際、事業所数が1若しくは2となる場合には秘匿する」との記載例があることを挙げているが、同記載はあくまで記載例であって、実施機関を拘束するまでの規範性を認めることはできない。したがって、同ガイドラインにより非開示部分2が本号に該当するとの実施機関の主張は受け入れることはできない。

 キ 本件非開示情報は条例第7条第1号に該当するか

 以上検討した結果により、非開示部分1については、調査票情報であって、これを開示することにより統計法第40条又は第43条の規定の趣旨、目的に反すると認められるため、当該情報は、本号の「法令の定めるところにより公にすることができないと認められる情報」に該当し、これを非開示とした実施機関の決定は妥当である。
 他方、非開示部分2については、調査票情報とは認められず、本号の「法令の定めるところにより公にすることができないと認められる情報」には該当しない。

(5) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について

 個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
 しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。

(6) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について

 実施機関は、本決定について、条例第7条第2号、第3号及び第6号にも該当するとしているが、上記のとおり、非開示部分1については同条第1号に該当すると認められるので、同情報については判断するまでもないことから、以下においては、非開示部分2について非開示情報該当性を判断するものとする。
実施機関は、非開示部分2について、別の1校の数字を知る者から見れば、差し引きにより容易に計算でき、また、児童・生徒の氏名、外見、習慣、家庭状況をよく知る地域住民等の一部の者にとっては、当該地域住民等が持っている他の情報と結びつけることにより、間接的に特定の個人を識別することができる情報となるとの理由から、本号に該当すると主張する。
 しかし、条例第7条第2号の個人識別性の判断は、原則として一般人が通常入手し得る他の情報と照合することにより特定の個人を識別できるか否かによって判断すべきものである。仮に、実施機関の主張に拠った場合、特定の個人が識別され得ることとなるのは、1校の数字を知り、かつ別のもう1校についての間接情報を知る者など極めて特殊な範囲の者に限定されるものであり、このような解釈は本号の適用範囲をいたずらに拡大するものであって、これを採用することはできない。
 したがって、非開示部分2については、これを開示しても特定の個人を識別され得るものではなく、本号に該当するとは認められない。

(7) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について

 本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。

(8) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について

 ア 条例第7条第3号該当性は判断の対象となるか

 実施機関は、本件非開示部分のうち、私立学校に係る部分を開示することは、当該私立学校を経営する学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとして、本号に該当すると主張している。
 これに対して、異議申立人は、当該情報について、その開示が必要不可欠なものではないとして、実施機関の主張に対しては特に反論を行わないとする。
 しかしながら、異議申立人にとっては当該情報を開示されることの利益が依然認められること、異議申立人自身もこれらについて争う余地を完全に否定するものではないと推認できることから、当審査会の職権により非開示部分2のうち私立学校に係る部分についても判断することとする。

 イ 当該非開示部分は条例第7条第3号本文に該当するか

 一般に、個々の私立学校に係る「外国人、帰国子女又は長期欠席者である児童又は生徒の数」については、これを開示することにより、当該私立学校の受け入れ体制の充実度等や対応状況等を明らかにすることとなる。その結果、児童、生徒の保護者にとって、これらの情報が要因となり当該私立学校がその選択肢から外れる可能性も否定できないため、個々の私立学校の当該情報の開示が、当該私立学校を運営する学校法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする実施機関の主張も理解できなくはない。
 しかし、非開示部分2は、2つの私立学校に係る合算値であり、個々の私立学校に係る情報そのものではない。そのため、当該2校に極端な差異がある等の場合を除き一般論としては、一般人あるいは一般の保護者等が本件非開示部分2の情報を知り得たとしても、それだけでは個々の私立学校の情報を把握することには直結せず、これをもって、当該私立学校の運営する学校法人の競争上の地位や利益が害されるとまでは認めることはできない。
 したがって、非開示部分2のうち私立学校に係る部分は、本号本文に該当しない。

(9) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について

 本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。

(10) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について

 実施機関は、基幹統計である学校基本調査は、統計法上、被調査者と調査実施者の相互の信頼協力関係を基盤とするものであって、これによって統計の真実性が保たれているものであることからすれば、非開示部分2を開示することは、その信頼関係を損ね、今後の協力を得ることが困難となる可能性を生じさせるなど、今後の学校基本調査の遂行に著しい支障をきたすことになるため、非開示部分2は本号に該当すると主張する。
 しかしながら、前記(4)のとおり非開示部分2は被調査者である学校の個別の情報ではなく調査票情報とは同視できないことを勘案すると、本件においては、これらの情報を公にしたとしても、被調査者との信頼関係が損なわれるとは認めがたく、実施機関の主張は具体性に乏しいといわざるを得ない。
 したがって、非開示部分2は、本号にも該当するとは認められず、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当ではない。

(11) 条例第10条(公益裁量開示)の意義について

 本条は、条例第7条により開示が禁止される情報(条例第7条第1号に該当する情報を除く)が公文書に記録されていても、実施機関の高度な行政的判断により裁量的開示を行うことができる旨規定している。

(12) 条例第10条(公益裁量開示)の該当性について

 異議申立人は、学校情報の提供は公益上の意義が大きいものであり、本条により開示されるべきであると主張する。
 しかし、異議申立人が開示を求める1つの市町に同種学校が1校の場合の「外国人、帰国子女又は長期欠席者である児童又は生徒の数」については、前記(4)のとおり条例第7条第1号に該当する情報であることから、本条の規定によりこれを開示することはできないというべきである。
 したがって、かかる異議申立人の主張は認められない。

(13) 異議申立人のその他の主張について

 異議申立人は、他の都道府県においては、本件非開示情報と同種の情報を公文書開示請求に対して開示している県等が多数あるとし、このような状況からすれば、実施機関においても本件非開示情報を開示すべきである旨主張している。
 しかし、当審査会は情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、判断を行うのであって、他の都道府県における同種条例の解釈等に直接左右されるものではなく、異議申立人のこれらの主張は、当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。

(14) 結論

 よって、主文のとおり答申する。

7 審査会の処理経過

  当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。

別紙1

審査会の処理経過

年 月 日 処理内容
24.11.30 ・諮問書の受理                                          
25. 1.29 ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼
25. 1.30 ・理由説明書の受理
25. 2.21

・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認

25. 3.13

・異議申立人からの意見書受理  

25. 3.22

・書面審理  
・実施機関の補足説明                       
・審議

     (平成24年度第11回B部会)

25. 4.26

・審議
・答申

(平成25年度第1回B部会)

 

三重県情報公開審査会委員

職名  氏名   役職等   
※会長

早川 忠宏  

三重弁護士会推薦弁護士          

会長職務代理者 樹神 成 三重大学人文学部教授
※会長職務代理者 丸山 康人 四日市看護医療大学学長

委員     

岩﨑 恭彦

三重大学人文学部准教授

※委員 川村 隆子

名古屋学院大学経済学部准教授   

委員 竹添 敦子

三重短期大学教授

※委員  藤本 真理

三重大学人文学部准教授

 なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 総務部 情報公開課 情報公開班 〒514-0004 
津市栄町1丁目954(栄町庁舎1階)
電話番号:059-224-2071 
ファクス番号:059-224-3039 
メールアドレス:koukai@pref.mie.lg.jp

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