研究課題の目的
事前評価
自動同定定量システム(AIQS)を用いた災害・事故時における河川等の水質汚染原因の調査に関する研究
当課では令和5年度より、県内事業場が保管している第一種指定化学物質の情報から、県内中小企業が扱う環境汚染の原因となる化学物質の把握を行っている。これを基に、AIQSデータベースに登録されていない化学物質について新規登録を進めるとともに、災害時に化学物質が環境中に流入した場合に迅速な対応ができるよう機器分析に関するマニュアルの策定を行っている。しかし、災害・事故時にAIQSを用いたスクリーニング調査で環境汚染の原因となっている化学物質の同定を行うためには、検出された物質が事故由来なのか、もしくは定常的に河川等で検出される物質なのかを判断する必要があることから、平常時の環境中に存在する化学物質の分布状況を把握すること、及び環境中に流入するおそれのある化学物質をAIQSデータベースに登録して、分析することができる体制を構築することが必要となる。
そこで本研究では、災害・事故時における化学物質による河川等の汚染への迅速な分析体制の整備を目的として、河川へ流出しうる物質についての情報収集を行い、三重県内の河川地図情報と統合することで、災害・事故時に河川へ流入するおそれのある化学物質の見える化を行う。また、AIQSデータベースに登録されていない物質について、GC-MS測定が可能な物質のさらなる新規登録を行う。加えて、県内河川における平常時の水質データを収集し、災害・事故時のスクリーニング分析におけるバックグラウンドデータとして用いることができるよう、データの蓄積を行う。
中間評価
伊勢湾流入河川の流域別負荷量評価に関する調査研究
三重県の北東側に位置する伊勢湾は、漁業、観光、親水の場として地域の人々に様々な恩恵をもたらしてきた重要な環境資源である。伊勢湾は閉鎖性水域であることから、水質総量規制等により湾全体の水環境保全対策が進められ、赤潮発生件数は昭和50年代をピークに減少しているが、大規模な貧酸素水塊は現在も継続的に発生し、水生生物の生息環境を脅かしている状況にある。
これらの課題については、直接的には「伊勢湾再生に係る共同研究事業」として、四日市大学等と共同で実施している。その結果、伊勢湾内への有機物負荷、換言すると有機物供給についてはエリアによって大きく異なっている状況が明らかとなってきた。
また、伊勢湾では、窒素・りん等の栄養塩類の偏在に伴う栄養塩類の低下が、近年の海苔の色落ち等の生育不良につながっている可能性があると示されている。
伊勢湾において汚濁負荷及び栄養塩供給が偏在している状況を考えると、伊勢湾そのものの研究を継続的に実施するとともに、陸域(三重県側湾岸)からの影響という視点での陸域側の研究も必要となる。が、これまでこれに関する研究成果は殆ど発表されていない。
なかでも陸域からの主要な供給ルートである河川(流域)の影響は大きい。人の生活や生活排水処理の方法は、常に変化しており、流域それぞれの「水量(総量)」や季節的な「偏在の可能性」の視点から河川(流域)を研究することは重要である。
伊勢湾を「きれいで豊かな海」とするには、生物がそれぞれの場所に生息する以上、伊勢湾を総体として捉えるのではなく、時間的、地理的偏在を意識した詳細な検証を行うべきである。そのため、三重県側の河川に適した評価手法により、有機物、窒素、りん及び栄養塩類を供給している個別河川(流域)のどこから負荷が発生し、三重県側伊勢湾のエリアに合ったものであるかを検証する必要がある。