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新品種によるスギ・ヒノキ実生1年生コンテナ苗の生産

林業研究所 奥田清貴
はじめに
 コンテナ苗は根に培地がついたまま出荷されるため、植栽適期以外でも活着率が高いとされ、国では、伐採-地拵え-植栽を切れ目なく行う一貫作業システムが導入でき、再造林の低コスト化が可能であるとして普及に努めている。このため、コンテナ苗は林野庁の施策と国有林での需要に支えられて生産量が増加している。
 三重県内でも、国有林や水源林造林でコンテナ苗が使用されるため、平成26年度から試験栽培が始められ、コンテナ苗生産を始める苗木生産者も現れている。しかし、県の人工林面積の大部分を所有する森林所有者のコンテナ苗に対する関心は低く、民間需要が期待できる状況にはない。
 このため、本県では、平成27年度から森林所有者の再造林意欲を喚起するために、林木育種センターが開発したエリートツリ-のコンテナ苗の効率的な生産技術を開発するための研究に取り組んでいる。

エリートツリ-種子の生産
 エリートツリ-は、林木育種センターが従来の精英樹より初期成長が2倍以上期待できる品種として開発した。本県では、関西育種場よりスギ、ヒノキエリートツリ-の配布を受け、平成25年度にミニチュア採種園100本植栽(25系統)を造成した。コンテナ苗の生産に際しては、平成27年度はジベレリン処理して採取したスギ種子と関西育種場から提供を受けたヒノキ種子を使用した。今年度はスギ、ヒノキともミニチュア採種園産種子を使用した。
 今年6月にスギ、ヒノキ採種木にジベレリン処理で着花させており、来春には人工交配(ヒノキは閉鎖型施設での半自然交配)を行い、来年度はエリ-トツリ-、特定母樹の種子採取を行う予定である。


図-1 エリートツリ-のミニチュア採種園

コンテナ苗の課題と苗木価格の引き下げ
 一般にスギ、ヒノキの2年生コンテナ苗は価格が普通苗の2倍近いこと、根鉢に培土が着いて重いこと、また、林業家や作業者がコンテナ苗に対する知識がないなどの課題がある。さらに苗木づくりには散水施設、コンテナ容器購入などの初期投資も必要になるなどデメリットもある。しかし、苗木生産者では重労働とされる苗畑での除草や病虫害防除などがほぼ不要になるなどのメリットも多く、新たな苗木生産者の参入も期待される。
 現在、コンテナ苗生産の主流となっている2年生コンテナ苗は苗高、根元径が充実するものの苗高が大きくなり、形状比が大きくなり過ぎて植栽後に倒伏しやすいという報告もみられる。このようなことから、苗高を低く抑えた苗木づくりが求められている。さらに、2年生コンテナ苗生産では、直播き方式での発芽の不揃いを避けるために、別に播種し発芽させた稚苗をコンテナに移植する方式での生産も行われているが、稚苗移植作業は作業効率を著しく低下させる。低コスト苗木づくりのため、各地で1年生コンテナ苗生産が検討されている。
 本県では、苗木価格の引き下げには稚苗移植を必要としない直播き方式による実生1年生の苗づくりが最良と考え、JFA150マルチキャビティコンテナに種子を直接播種する実生1年生のコンテナ苗木づくりに取り組んでいる。直播き方式では、種子の発芽率により、不発芽や複数発芽したりする場合があり、補植や間引きの手間を省くために、使用する種子の発芽能力をできるだけ高くすることが求められる。このため、台所用洗剤液に種子を浸漬して種子選別している。これにより、ヒノキでは90%以上の高発芽率種子を選別できるようにったが、スギでは発芽率はさほど向上していない。

実生コンテナ苗の成育状況
 マルチキャビティコンテナに詰める培土には根鉢の軽量化を主目的にココピート(ヤシ殻繊維)が使用され、少量のバーク堆肥、鹿沼土を混用し、緩効性肥料を添加している。初年度はココピート主体の培土上に種子を播いたところ、ココピートの吸水性・排水性の悪さと散水条件の不適合から、発芽しない種子や発芽直後に枯れてしまう稚苗が発生し、成育も不揃いになった。そのため、育苗箱で発芽させた稚苗を移植して、ココピート培土でのスギ、ヒノキの成育状況の経過観察を行った。コンテナに移植したスギ、ヒノキ稚苗はココピート主体の培土でも問題なく成長した。播種13か月経過後には、実生1~2年生苗木の標準規格(苗高30㎝、根元径3.5mm)をクリアする苗木はスギで45%となったが、ヒノキでは2%と少なく、根元径の成長が遅れていた。ところが、15か月経過では、スギは64%(図-1)、ヒノキでも59%(図-2)が標準規格を超えた。JFA150コンテナでは、上長成長は見込めてもキャビティの間隔が狭いため、枝張り成長は難しくなり、根元径が肥大しにくくなる。初年度JFA150コンテナに播種したスギ、ヒノキ苗は現在1年半を経過して、苗高60cmに達しているが、150mlキャビティでの成育限界に近づいているように思われる。
 

図-2 スギの播種15か月後の成育状況

図-3 ヒノキの播種15か月後の成育状況

 2年目となる今年度は種子のコンテナへの直播きに際し、ココピート培土表層に鹿沼土、赤玉土の混合土を敷いて播種したところ、良く発芽して稚苗は生え揃い、順調に成育している。播種6か月経過時において、スギの平均苗高は20cmを超え、大きい苗は30cmに達するものもある(図-4)。ヒノキはスギよりはやや劣るものの、平均苗高は15cmになっている。上長成長は今後も期待できると思われ、昨年度より良好な成育が見込める予想である。
 
図-4 播種6か月後のスギ特定母樹苗
(黄テープは5cm間隔、赤テープは20cm)


  図-5 播種6か月後のヒノキ特定母樹苗

 新品種による実生1年生コンテナ苗生産に向けてこれまでは4月上旬に野外でコンテナや育苗箱に播種、養苗してきたため、苗木の成育が遅れ気味であった。このため、苗木の成育期間を伸ばすために、3月にビニルハウス内で播種し、4月中旬以降に露地へ出して養苗することを計画している。併せて、エリ-トツリ-、特定母樹という新品種とこれまでの精英樹品種との発芽後の成育状況の比較も検討することとしたい。

おわりに
 コンテナ苗に関する研究や事業による植栽事例が増え、これまでの情報が整理されつつある。本県の民有林では、水源林造林を除いて植栽事例はまだない。特に、ヒノキのコンテナ苗植栽について、活着率や植栽コストは普通苗とほとんど差がないと報告もあり、今後さらに事例調査等を実施し、本県にあった苗木の選定や植栽法を検討していく必要がある。
 

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602 
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
ファクス番号:059-262-0960 
メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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