伊勢湾で初夏に水揚げされるシラスがカタクチイワシの稚魚だということをご存知でしょうか?シラスという言葉はイワシ類、ウナギ、アユなどの稚魚を示す総称ですが、カタクチイワシの稚魚は一般的にシラスと呼ばれ、1~2cmのものがチリメンに加工されます。もう少し大きくなった3~4cmのものはおせち料理のタツクリに用いられ、5~7cmのものは煮干として、さらに大きくなったものはそのまま、あるいはめざし(干物)などに加工され食用になったり、養殖魚や畜産関係の餌となるなどカタクチイワシは大活躍しています。
サイズ別カタクチイワシ
伊勢湾では初夏にイカナゴ(コウナゴ)漁が一段落した後にシラスの水揚げが盛んになります。水揚げされたシラスは鮮度が低下する前に速やかに釜茹でにされ、そのまま流通したり干し上げられてチリメン(ジャコ)と呼ばれて流通します。シラスを食べることは、魚を丸ごと食べることでもあり、魚の持つ栄養成分をすべて摂取することになるのでおすすめです。例えばカタクチイワシの成魚を身の部分だけ食べることと、丸ごと食べることを栄養摂取の面から比較すると、たんぱく質、脂質ともに丸ごとの方が多く、特にミネラル分では鉄で約2倍、亜鉛で約5倍、カルシウムで15倍にもなります。シラスを食べれば労せずして丸ごと食べられますので、ぜひ食卓にはシラスを登場させてあげてください。シラスのチリメンはそのまま大根おろしと合わせて食べたり、掻き揚げの具にしたり、いろいろな食べ方が楽しめます。
夏のおすすめ料理は、シラスのチリメンをごま油で焦がさないように注意しながらカリカリに揚げたものを、ミョウガ、すりゴマ、小口切りにしたねぎと合わせて、たっぷりと冷奴にのせる食べ方です。濃い目に作ったカツオベースのそうめんツユ、または生醤油をかけてご賞味ください。
チリメン山椒
このほか、シラスと山椒の実を炊き合わせたチリメン山椒も侮れないおいしさを有しています。5分ほど水道水で塩抜きしたシラスのチリメンと初夏に流通する山椒の実を、酒、みりん、砂糖、醤油で汁気がなくなるまで煮るだけです。山椒の実は灰汁(あく)が出ますので、房から取り分け、枝を丹念に取り除いてから、10分ほど塩茹でをしておいたほうがよいでしょう。生のシラスがあればそれを使うのがよいのですが、煮崩れないように作るにはとても高い技術が要求されます。チリメンを使えば簡単にできますのでぜひチャレンジしてみてください。
シラスを獲って、カタクチイワシがいなくなることはないの?
前述のようにシラスはカタクチイワシの稚魚です。小さなシラスを漁獲してしまっては、カタクチイワシの資源に大きなダメージを与えてしまうのではないかと心配になってしまいますが、他の海域における調査では、シラスの漁獲がカタクチイワシの資源量に大きな影響を与えていないことが分かっています。もともと、カタクチイワシの稚魚の多くはヒトを含めて多くの魚などの餌となっており、彼らは少しばかり食べられても資源変動に影響を及ぼさないくらいの大量の産卵を行っているようです。
カタクチイワシの仲間で南米の太平洋岸に生息するものは、アンチョビとして、世界中で重要な調味料としても知られています。また、カタクチイワシは畜産や養殖向け飼料の原料として世界中の人々の生活に貢献する重要な魚種でもあります。 私たちの生活を支える重要な資源として、また、夏を吹き飛ばすスタミナ食として、カタクチイワシとそのシラスを改めて見直してみませんか?