現在位置:
  1. トップページ >
  2. スポーツ・教育・文化 >
  3. 文化施設 >
  4. まちかど博物館 >
  5. まちかど博物館のご案内 >
  6.  まちかど博物館体験レポート特別版 ~醉月陶苑(醉月窯)~
担当所属:
  1.  県庁の組織一覧  >
  2. 環境生活部  >
  3. 文化振興課
  • facebook
  • facebook share
  • twitter
  • google plus
  • line
令和03年04月22日

まちかど博物館体験レポート特別版 ~醉月陶苑(醉月窯)~
掲載日:2021.04.22

目次
・寄稿にあたり
・清水醉月さんの作陶
・産業と芸術
・伝統と革新
・萬古焼を広める地道な活動

・館の情報

 

寄稿にあたり


 四日市まちかど博物館「醉月陶苑(醉月窯)」の館長さんでもある、陶芸家・三代目 清水醉月(すいげつ)さんが、令和2年度の文部科学大臣による地域文化功労者表彰を受彰されました。

 醉月さんは、四日市に窯を構える萬古焼の陶芸家として、朝日陶芸展、日本伝統工芸展、日陶展などにおいて複数回の入選を果たすとともに、平成9年、15年に東海伝統工芸展東海伝統奨励賞、平成23年に四日市市文化功労賞、平成28年に三重県文化賞文化大賞、平成30年には東海テレビ文化賞を受賞するなど、数多くの受賞歴を誇ります。
 
 さらに今回のご受彰が加わりました。そこで、清水醉月さんのご功績やご作陶に迫るべく、インタビューさせていただきました。

 

 

※萬古不易【ばんこふえき】
萬(万)古とは、「遠い昔」のこと。転じて、「遠い昔からずっと、永久に」の意。不易とは、「変わらないこと」の意。萬古焼の創始者である、江戸時代中期の桑名の豪商・沼波弄山(ぬなみろうざん)が、自身の作品にこの言葉の印を押したことが、萬古焼の名前の由来とされる。



 (目次に戻る
 

 

清水醉月さんの作陶


 清水醉月さんが最も得意とする作陶は、萬古焼の典型である紫泥(しでい)の表面に、幾何学文様等マスキングによるデザインを施すものです。これは、筆などで書き入れたものではなく、また、焼いたことで生まれるものでもありません。

 この文様やデザインは、陶器を焼いた後に、陶器の表面を削ることで生まれます。削る深さによって色が変わることを利用し、複雑な文様を表現します。その上で、その削った場所に金箔を焼き付けるなど、さらにデザイン性を高める加工をすることもあります。それらの手法で、醉月さんは、多彩で華やかな作品を生み出していきます。

 陶器の表面を削るのに、サンドブラストという機械を使用します。研磨材を吹き付けて様々なものを研磨する機械です。この機械は、かなり以前から、ガラスや石の表面を削って文様をつけることにも使われていました。ご友人に石屋さんがいたことがきっかけで、醉月さんはこの機械を陶器にも使ってみることにしました。石を削る機械ですから、さすがに最初は陶器が割れてしまったそうですが、圧力を下げるなど工夫を重ね、今では自在にデザインを施すことができるようになりました。

 その技法を確立した40年前には、「何これ?」という反応の方が多かったそうです。しかし、醉月さんは、そんな声に負けずに様々なデザインで勝負しました。その中で、千羽鶴のデザインが高く評価され、醉月さんの作陶が注目されることになりました。

 陶芸というと非常にアナログなイメージがありますが、醉月さんはそこに、機械でデザインを加えるという、いわばデジタルな技術を導入しました。

 

目次に戻る


 

産業と芸術


 四日市萬古は大変美しい焼き物です。そこに芸術性を見出し、素晴らしい作品を制作している陶芸家が何人もいます。そして、醉月さんの作品も、当然、全て一点ものです。優れた作品を焼き、その上で、さらに高い芸術性を機械加工で付与するのです。機械で研磨材を吹きつけ削りますが、作品はあくまで一点ものであり、その作品だけの美しさを実現しています。

 一方で、四日市萬古は(伝統)産業でもあります。萬古焼の土鍋が有名なのは、耐熱性の高さという機能性に大きな理由があります。また、急須が有名なのは、木の型で同じ形の急須を効率よく作る「木型萬古」という手法が確立されたことで、当時としては画期的な大量生産が可能になったからです。そういった「商品」の魅力が、「産業」としての萬古焼を四日市に発展させた歴史があります。

 そのため、醉月さんには、「地場産業は文化として広がっていく」という思いがあります。平たく言ってしまえば、「売れないと、作る人が生活できない。そうすると産業でなくなってしまう」と考えています。「伝統や芸術性にだけ胡坐をかいていても、その仕事をして生活できなければ後継者が現れず、その文化は衰退する」と。

 そんな醉月さんの作品は、基本的に、飾ってもらうのではなく、使ってもらうことを前提として作られています。もちろん、精魂込めて作った美しい作品ですから、一般人が普段使いするにはさすがに高級かもしれません。しかし、たとえば、記念日にちょっとしたディナーをいただくときに、そのお皿が美しかったらどうでしょうか。そんな発想から、有名フレンチのお店が醉月さんのお皿を使って料理を提供するイベントが何年も継続しました。醉月さんは、芸術性の高い作品を使って、そのようなビジネスに発展させています。

 さらに、デジタルな加工を施すことで統一的な世界観を表現できることから、工業の世界とのコラボも可能になります。最近、醉月陶苑は、高級スイス時計の有名メーカーとコラボし、陶器に数字がデザインされた作品を提供しました。従来の日本の陶芸ではなかなか実現しないことではないでしょうか。

 従来の日本の陶芸には和のイメージが非常に強いと思いますが、醉月さんの編み出した作陶は、欧米の文化とも融合するチャンスが多くあり、それが商業的な発展に結びついていきます。

 

目次に戻る


 

伝統と革新


 今の醉月さんは三代目で、「醉月」はおじいさんの代から名乗っている雅号です。江戸時代に興(おこ)り一度途絶えた後、萬古焼が復興して四日市に産業として根付いていく歴史は、代々の「醉月」さんとともにありました。醉月さんは伝統的な萬古焼の作陶を深く身につけています。

 そもそも、陶器の表面を削ることで文様をつける技法は、萬古焼ならではといえるものです。萬古焼では基本的に釉薬を使いません。土を焼くだけの「焼〆」です。いわば素焼きであるにもかかわらず、表面がガラスのように滑らかです。釉薬が溶けて表面がガラス状になるのではなく、土本来の素肌のままです。これは土の限界まで焼しめる萬古焼独特の技法から生まれるものです。このような表面だからこそ、削ることで文様が生まれます。

(ちなみに、その表面の様子から、萬古焼を「陶器と磁器の中間」と表現することがあります。それに対しては、醉月さんは否定的です。陶器と磁器では材質が違い、焼く温度も違うのであって、あくまで萬古焼は「陶器の中で炻器【せっき】に分類されるものである」とのお考えでした。)

 伝統的な作陶を知り尽くしている醉月さんですが、保守的に伝統を守ることだけを良しとはしません。醉月さんは「伝統を模倣しているだけでは、新しい時代に対応できず、いずれ衰退していってしまう」と言います。そもそも、萬古焼が産業として発展したのも、木型萬古のような新しいアイデアが生まれてきたからであって、そういった様々な工夫が、萬古焼を今のように多彩なものにしたのだと。醉月さんは「伝統はあくまで基礎に過ぎない」と言い切ります。

 そのような開拓精神が、萬古焼を日本のみならず世界にまで発信していく醉月さんの原動力なのだと思いました。



 (目次に戻る


 

萬古焼を広める地道な活動


 美しい作品を生み出し続け、世界を舞台に華やかなビジネスに結び付ける醉月さんですが、同時に、地域の文化振興や、地元での萬古焼の普及という地道な活動にもとても熱心に取り組んでいます。

 とくに、小学校の社会科見学を積極的に受け入れています。地元四日市だけでなく、三重の各地から、バスに乗って毎回100人単位で子どもたちがやってきます。その子たちに実費だけで陶芸の体験をしてもらっています。陶芸の本業だけでなく、文化関係の委員を多く務める多忙な醉月さんが、未来ある子どもたちにご自身が作り上げたものを分け与えています。

 また、最初に述べた通り、醉月さんはまちかど博物館も開いています。望めば誰でも作陶などを見学でき、手ごろな費用で陶芸体験をすることができます。

 私も少しだけ窯を見学させていただきました。表に飾られた作品や業績の華やかさにもかかわらず、窯で行われていることは、とても素朴で自然な作陶に思えました。醉月さんの作品の魅力は、地元四日市に根ざした萬古焼の伝統とともにある、地道な活動から生まれたものなのだと感じました。

 

目次に戻る
 
 

館の情報

 
すいげつとうえん(すいげつがま)
醉月陶苑(醉月窯)
清水醉月 館長
 
四日市市南いかるが町19-4
近鉄霞ヶ浦駅下車徒歩20分
駐車場 普通車10台 大型バス2台
 
開館時間9:00~17:00 要予約
陶芸体験あり
入館無料
 
同館の公式サイト
(県ホームページでのご紹介はこちら


 (目次に戻る
 


 

本ページに関する問い合わせ先

三重県 環境生活部 文化振興課 〒514-8570 
津市広明町13番地
電話番号:059-224-2176 
ファクス番号:059-224-2408 
メールアドレス:bunka@pref.mie.lg.jp

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

ページID:000249850