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 2014(平成26)年5月に開催した県立学校管理職研修会では、立命館中学校・高等学校校長 成山治彦(なりやま はるひこ)さんを講師にお迎えし、「人権感覚あふれる学校づくり」と題してご講演いただきました。成山さんのお話は、人権教育の意義や人権感覚あふれる学校をつくっていくうえで必要な観点など、すべての教職員にとって有意義な内容となっています。ぜひご一読ください。  #

2014年度 県立学校管理職人権教育研修会 講演記録

「人権感覚あふれる学校づくり」

立命館中学校・高等学校 校長 成山 治彦 さん
(2014年10月作成)

1 日本の人権意識 ~最近の出来事から~

 ご存じの通り、関東地方で、『アンネの日記』やアンネ・フランクについての本が300冊ほど次々に破られたり汚されたりするという事件が起こりました。「こんなことがあるのか、そんな時代になったのか」と強い衝撃を受けました。また、東京の新大久保や大阪の鶴橋などで、いわゆるヘイトスピーチが行われました。京都で行われたヘイトスピーチについては、京都地裁から人種差別撤廃条約の違反であるという判決を出されました。しかし、残念ながら今の日本社会には、アンネ・フランクの本が破られたりヘイトスピーチが温存されてしまったりする雰囲気があると思います。

2 人権についてのグローバルスタンダード

 Jリーグのサポーターが「JAPANESE ONLY」という横断幕を掲げた事件をご記憶だと思います。この横断幕を見て、「何でこれが悪いのだろう」と思った人たちも、たぶん世間には多かっただろうと思います。

 それに対し、浦和レッズとJリーグ機構はいち早くこの問題を取り上げて、無観客試合等の非常に厳しい処分を下しました。この問題に係わって中心となって動いたのは、大きな企業から転職された事務局の方だったようです。グローバルな領域で活躍している企業の人たちからすれば、「これは許されないことだ。いち早く対応しなければ、今後1~2年、海外のプロサッカーチームを日本に招くことができなくなる」というくらいの危機的な状況だったのだと思います。

 これが、人権についてのグローバルスタンダードだと思います。しかし残念ながら日本社会では、人権がまだまだスタンダードになっていないように思われます。「あまり人権、人権と言い過ぎると『世の中住みにくいよね』『子どもが野放図に好き勝手するようになるよね』『学力が低下するよね』」こんなことが平然と語られる雰囲気があります。

 しかし、世界においては、「差別は許さない」がスタンダードなのです。文部科学省もグローバル人材の育成について声高く言っております。私たちは、「世界で仕事をし、世界を舞台に活躍するためには、それぞれの民族・人種を差別しないこと、リスペクトすることが必要だ。そのうえで初めて協力・協働があるんだ」ということを子どもたちに伝えていかなければなりません。

 もちろん、自己主張は必要です。言うべきところはちゃんと言ったらいい。しかし、基本はお互いをリスペクトして、協働共栄していくというのがグローバルスタンダードだということです。

3 いじめの問題について

  「お互いをリスペクトして、絆をつくる」ということは、いじめの問題に取り組むうえでも、とても大切です。とはいえ、いじめの問題をどう解決するかというのは、たいへん難しい。実は今、本校でもそれに類した生徒指導事案があり、4月以来、ずっと取り組んでいます。取り組むにあたって先生方にまず申し上げたのは、「いじめられた子の立場に立ちきろう」ということです。これはなかなか難しいことです。日頃の子どもたちの様子を知っているので、「あの子もあんなところもある」という風になってしまいがちです。しかし、そういうことを断ち切らないといけない。「いじめる」「いじめられる」の間に、第三の立場はないのです。

 いじめは多くの場合、いじめられている子は一人、いじめている子は数人。圧倒的多数は傍観者です。この圧倒的多数の傍観者が一斉に「いじめはよくない。不満があるならきちんと言葉にして言うべきだ。陰口を言ったり、ネット上で悪口を書いたり、仲間外ししたりすることはよくない」と声を上げたら、いじめはなくなります。

 差別においても、差別する人もされる人もごく少数です。その他の圧倒的多数が関与しないで傍観していると差別は温存されます。逆に「差別は、人の心を傷つけ、時には命さえ奪う。やめよう」という声を上げれば、差別はなくなっていくでしょう。

 これを実行するのはもちろん簡単ではありません。私も毎日悩んでいるところです。なかなか具体的な成果を見ることができないのですが、「解決の方向はそこしかない」と私は考えています。

4 なぜ人権教育を大切にするのか

 ある校長先生から「本校の生徒に人権問題は関係ない」と言われたことがあります。これをどう解釈したらいいかわかりません。「被差別の立場にある当事者がいません」という意味なのでしょうか。

 外国籍の生徒はいないのでしょうか。障がいのある生徒はいないのでしょうか。文部科学省の調査では、「通常学級に発達障がいのある児童生徒が6.5%在籍している可能性がある」ということですから、いないということはほとんど考えられません。本人に障がいがなくても、家族に障がいがある生徒もいます。その子どもは学校での障がい者に関する話題で、心を痛めていないでしょうか。

 私が担任した中に、お兄さんとお姉さんが重度の障がい者で、そのことで中学校時代にいじめを受けて不登校になった生徒がいました。周りの心ない言葉で、いたたまれなくなったそうです。その生徒は、進路を考えるとき、障がいのある家族とともに地元で生きるか、それとも、そこから離れて東京で一人暮らしをするか、ということで随分悩みました。家族に障がいがある子どもが、こういう思いを持って進路について考えている。これも人権問題です。

 2年前の岡山での全国人権・同和教育研究大会で、ある被差別部落出身の先生の体験談を聞きました。それは、その先生が他県の大学に進学して、教職の人権教育に係わる講義を受けていたときのことです。周りはみんな、教員免許をとるために学んでいる学生ばかりです。その講義の真っ最中に、ある学生が「また人権の話か、うっとうしいな。聞かなくてもいいだろう。試験のときに、差別はよくないって書いたらいいんだろう」と言うのが、聞こえたそうです。その先生は、これから教師になろうとしている人の発言に、絶望状態になります。教師になろうという夢も、一時、捨てかけます。しかし、故郷の家族やおじいさんやおばあさんの思いに触れたときに「いや、こんなことで負けてたらいかん。故郷に戻って自分もがんばらなあかん」ということで、再度、一念発起して教師になられたそうです。

 私たちが教えている子どもたちには、人権問題の悩みを当事者として抱えている人がいるということに思いを馳せることができる人になってほしいと思います。子どもたちを人権問題に後ろ向きな人として、社会に送り出したくないと思います。

5 学力と人権教育

 学校現場において、「人権教育は大事」としながらも、「学力向上で必死だから、人権教育をやっている暇はない」といった声を聞くことがあります。しかしこの二つは対立するものでしょうか。確かに、時間割を考えたら、「ここに教科学習を入れるか、人権学習を入れるか」という、限られた時間の中での対立関係はあります。しかし、子どもたち一人ひとりが、人権問題に向き合わないで、学力を身につけていくということはたいへん難しいと思います。

 例えば、いじめられている子どもは安心して学校で勉強できません。いじめられている学習環境を、「いじめられない」という安心できる学習環境に変えてあげなければ、その子どもの学力は伸びません。家庭が不安定で毎日がつらくて仕方がないという子どもが学校に来て、安心して学習に臨むということは難しい。もちろん、家庭の問題に対して、学校がどれだけのことをできるかという問題はありますが、少なくとも「そういうことで悩んでいるんだ」ということを受け止めながら、家庭の問題にどう向き合っていくかを一緒に考えたり、「進路のために、今、こんなふうに考えてがんばることが大切じゃないか」という助言をしたりしないと、子どもたちの学ぼうという意欲にはつながりません。あるいは、家が破産して「自分は大学に行けるんだろうか。奨学金制度はあるけど、大学卒業のときに400万円の借金を抱えているのと同じだと言われた。返せるんだろうか」といった不安を受け止めずに、「最近成績悪いな。もっと努力しないと大学行けないぞ」と繰り返すだけでは心に響かないと思います。人権教育を通して「人権問題に向き合う」、「逃げないで考える」、「ポジティブに生きようとする」ことで、学力を高め、生きる力を身につけられるのです。

6 人権の視点に立った教職員集団づくり

 今、先生方は、非常に多忙です。また教職員の年齢構成が大きく偏っています。大阪で言いますと、50歳以上の親世代と、20歳代の子ども世代が同居している学校がほとんどです。そして、この間をつなぐ30歳代、40歳代の教職員がいないので、意思疎通がうまくいきません。最近の若い先生方の特徴としてよく聞くのは、自分に自信があるということです。でも反面、プライドが勝ちすぎて、先輩の言うことになかなか耳を傾けない。アドバイスも聞き入れない。その結果、保護者や生徒への対応がうまくいかない。職場としては「あの先生、困った先生だな」ということになります。その雰囲気は伝わりますから、若い先生は萎縮し、職場としてまとまらない、という状況があちこちで見られます。

  「困った先生」というのは、その先生自身が困っている先生。この言い方は、発達障がいなどの子どもたちに対する指導にあたって、よく使われる言葉です。「教職員から見て困った子どもは、困っている子どもだ」と。「困った先生」も実は本人が困っているのです。何に困っているかを把握して、解決してあげれば、その先生は救われるのです。

 学校が、あるいは学年がチーム力を発揮できるかどうかは、そのチームの構成員のつながり次第です。いわゆる同僚性です。個々の力量には差があることを前提としながら、いかにチームとしての力量を上げるかということを考えていかなければなりません。同僚性を高めることで、「困った先生」を育てていくことを考える必要があります。職場で「あの先生、困ったな」という愚痴が出るとき、その後よく聞くのは「どっか他へ異動してもらおう」という排除論だと思います。しかしそれはモグラ叩きのようなものです。一人いなくなってもまた出てきます。大切なのは、その職場の風土を変えていき、同僚性を高めていくことで、この問題を解決していくことだと思います。

7 元気な学校づくりのための組織論

(1)みんなを引っ張る目標の設定

 何か取組を行うときには、目標を設定しないといけません。その目標は、わかりやすい合言葉で、みんながそれに向かってがんばろうと思えるものでないといけません。星野仙一さんが監督として阪神を優勝に導いたときの合言葉を覚えてみえますか。非常にわかりやすい、どこのチームでも言えそうなことです。星野さんが言ったことはただ一つ「勝ちたいんや」。

 当時、阪神は毎年のように最下位に低迷していました。選手も、球団も、ファンもみんなが勝ちに飢えていました。その状況にフィットして、チームを優勝に導いたのが、「勝ちたい」でした。目標が設定されれば、そこから先は自然に動いていきます。勝つためにどうしたらいいのか、自分は何をしたらいいのか、それをみんなで考える。みんなを引っ張る言葉というのは、単純明快、シンプルイズベストです。

 学校においても、中心的なメンバー、ミドルリーダーたちが校長先生と一緒になって、シンプルな目標を設定できれば、半分以上動いたようなものではないでしょうか。問題は、目標を設定する時に、人権の視点で子どもたちを見ているかどうかです。いろいろな課題を抱えた子どもがそれぞれ輝くためにはどうしたらいいか。人間関係、学力、進路、生活指導、どの課題に集中的に関心を注ぐべきか。子どもが人権課題や自分のしんどい生活環境に向き合って力をつけていくためには、今、学校では何を合言葉にしたらいいのか。これらをふまえた観点、言葉が出せるかどうか。校長先生を中心としたリーダーたちの結束力や資質が問われるところだと思います。

(2)意欲を引き出し、人を育てる

 我々校長の仕事の半分以上は、人を育てることだと思います。そのために私が心掛けていることの一つ目は、「見守り、声掛け、アドバイス」です。言葉にすると簡単ですが、これは注意深く観察していないとできません。いつ声掛けするか、どんなアドバイスをするか、その先生に一番フィットする言葉とタイミングを選ばなければならないからです。例えば、ある先生が学年集会で発言したとします。私は、職場内のネットを使ってその先生に直接書き込みをします。あるいは職員室に行って声掛けをします。「先生、あの発言よかったね。子どもはよく聞いてたよ。観点がよかったね。こんなこともあったらいいね」とアドバイスします。そうすることでその先生の顔が輝きます。

 二つ目は「ともに喜びを分かち合うこと」です。がんばっている先生は信念をもってやっていると思いますが、周りとのつながりがないときには、孤立感があります。それが過ぎると被害者意識になります。何か一つのことを越えてやり終えたときに、校長なり教頭なりが傍にいて、「先生、よかったな。今度の文化祭うまくいったな」「体育祭よかったな」と声をかければずいぶん気持ちが変わるのではないでしょうか。あるいは、家庭訪問に行って、保護者との関係をうまくつくれずに帰ってきた時に、「どうやった」「自分も保護者との関係をつくるのに悩んだことがあったよ」と気持ちを共有してもらうことで、私自身も若い時に、多くの先輩に救われました。それがなかったら、誰でも落ち込んでしまいます。次に家庭訪問に行くときも心の敷居が高くて仕方がない。胃が重い。それを軽くしてくれるのは、そばで声を掛けてくれる先輩なのです。

 若い先生は、失敗を恐れていると思います。しかし、失敗をしない先生はいません。でも失敗を成功に結び付ける先生はたくさんいます。それができるのは、その人だけの力ではなく、周りの同僚、あるいは先輩の先生方の声掛けやアドバイスやサポートがあるからです。心のつながりが、失敗を越えて大きく教職員として成長させてくれるのではないかと、自分自身の教員生活を振り返って感じます。その経験を活かして今の職場で出会う若い先生方に接することで、少しでも恩返しができたらと思っています。

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