保環研年報 第24号(2022)
三重県保健環境研究所年報 第24号(通巻第67号)(2022)を発行しましたのでその概要をご紹介します。
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研究報告
ノート
・2022rep1 ゲノム分子疫学解析におけるSARS-CoV-2(デルタ株)の遺伝子変異および欠損 -三重県-
矢野拓弥,北浦伸浩,中井康博
キーワード:新型コロナウイルス,デルタ株, SARS-CoV-2,ゲノム解析,NGS
2021年5月~2022年1月に新型コロナウイルス行政検査において,Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(SARS-CoV-2)陽性となった患者検体を用いてゲノム解析を実施した.このうちデルタ株と確定された629件を調査対象とした.解析したデルタ株の系統はAY.1系統,AY.24系統,AY.29系統(AY.29.1系統,AY.29.2系統)およびAY.75.3系統に分類された. 全ての解析例はデルタ株の代表的なアミノ酸変異(L452RおよびP681R)を含む,9箇所にアミノ酸変異(T19R,T95I,G142D,R158G,L452R,T478K,D614G,P681R,D950N)を保有していた.特に検出事例の多くが主流となったAY.29系統に属するデルタ株であり,このAY.29系統は複数の異なるアミノ酸変異や欠損が多数確認され遺伝子的に多様化の傾向がみられた.また,AY.29系統における塩基の比較解析では,デルタ株流行の後半に,塩基置換(C5365T,C28170T)を基点に系統分岐がみられる特徴があった.
・2022rep2 SARS-CoV-2(オミクロン株)のゲノム分子疫学解析(2022年1月~2022年10月)-三重県-
矢野拓弥,北浦伸浩,中井康博
キーワード:新型コロナウイルス,SARS-CoV-2,ゲノム解析,NGS,オミクロン株
国内第6波~第7波の流行に関与したSevere Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(SARS-CoV-2)の変異株であるオミクロン株等のゲノム系統別の動向監視調査を実施した.調査期間中のゲノム系統分類はオミクロン株のBA.1系統(1,352件),BA.2系統(1,097件),BA.4系統(2件),BA.5系統(926件)およびデルタ株(20件)であった.流行の主流となったオミクロン株流行像は,2022年1月から感染者が増加し,本格的に国内第6波の流行が開始した.月別の流行系統の内訳は,2022年1月~3月はオミクロン株の派生株であるBA.1系統が主流であった.しかし,2022年2月以降,BA.1系統と並行して,BA.2系統が徐々に増加し,同年3月~4月にBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが急速に進展し,以降はBA.2系統が主流となった.
2022年6月以降は,国内第7波の流行に関与した新たな系統であるBA.5系統が検出されはじめ,同年7月~8月にBA.2系統からBA.5系統への流行シフトがみられ,以降はBA.5系統が主流となった.第6波から第7波に主流行したBA.1系統,BA.2系統およびBA.5系統は,各々の系統で複数の亜系統が流行に関与し,遺伝子的に多様化の傾向がみられた.
・2022rep3 小児の感染性胃腸炎患者から検出されたアデノウイルス(2010~2022年)-三重県
楠原 一,小林章人,前田千恵,中野陽子,北浦伸浩
キーワード:ヒトアデノウイルス,腸管アデノウイルス,感染性胃腸炎
2010年1月~2022年9月のアデノウイルスによる感染性胃腸炎の流行疫学および検出されたアデノウイルスの遺伝子型について調査した.感染性胃腸炎患者1,971名中113名(5.7%)からアデノウイルスが検出された.検出されたアデノウイルスの76.1%はF種の腸管アデノウイルスであったが,非腸管アデノウイルスであるC種も18.6%を占めた.また,2022年はアデノウイルス41型の検出が増加しており,他の感染性胃腸炎起因ウイルスを含めた今後の流行状況の変化を注視する必要がある.
・2022rep4 茶中の残留農薬一斉試験法の妥当性評価について
内山恵美,大市 真梨乃,竹内 浩,吉村英基
キーワード:妥当性評価,茶,残留農薬,LC-MS/MS, 一斉分析
厚生労働省通知の「LC/MSによる農薬等の一斉試験法Ⅰ(農産物)」を改良した試験法について,厚生労働省の「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン」(以下「ガイドライン」という.)に基づき,LC-MS/MSを用いて三重県内で使用実績のある農薬をもとに選定した50化合物について,茶における妥当性評価を行った.その結果,対象としたすべての化合物において2.5-100 ng/mLの範囲で決定係数0.98以上の検量線が得られるとともに,真度の目標値も満足した.併行精度,室内精度については,テトラニリプロールを除く49の化合物でガイドラインに示された目標値を満足した.対象とした農薬50化合物の一斉分析について,分析条件の妥当性が概ね確認できたことから,本法は三重県産茶の収去検査において適用可能と考えられる.
資料
・2022rep5 2021年感染症発生動向調査結果
楠原 一,小林章人,矢野拓弥,永井佑樹,北浦伸浩
キーワード:感染症発生動向調査事業,病原体検査定点医療機関,日本紅斑熱, 感染性胃腸炎,手足口病,
新型コロナウイルス
感染症発生動向調査事業の目的は,医療機関の協力を得て,感染症の患者発生状況を把握し,病原体検索により当該感染症を微生物学的に決定することで流行の早期発見や患者の早期治療に資することにある.また,感染症に関する様々な情報を収集・提供するとともに,積極的疫学調査を実施することにより,感染症のまん延を未然に防止することにもある.
三重県では,1979年から40年以上にわたって本事業を続けてきた.その間,検査技術の進歩に伴い,病原体の検出に必要なウイルス分離や同定を主としたウイルス学的検査,さらに血清学的検査に加えてPCR法等の遺伝子検査やDNAシークエンス解析を導入し,検査精度の向上を図ってきた.また,検査患者数の増加により多くのデータが蓄積されてきた結果,様々な疾患で新たなウイルスや多様性に富んだ血清型,遺伝子型を持つウイルスの存在が明らかになってきた.
本報では,2021年の感染症発生動向調査対象疾患の検査定点医療機関等で採取された検体について,病原体検査状況を報告する.
・2022rep6 2021年度感染症流行予測調査結果(日本脳炎,インフルエンザ,風疹,麻疹)の概要
矢野拓弥,楠原 一,小林章人,北浦伸浩,中井康博
キーワード:感染症流行予測調査,日本脳炎,インフルエンザ,風疹,麻疹
本事業は1962年に「伝染病流行予測調査事業」として開始された.その目的は集団免疫の現状把握および病原体の検索等を行い,各種疫学資料と併せて検討することによって,予防接種事業の効果的な運用を図り,さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することである.その後,1999年4月「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行に伴い,現在の「感染症流行予測調査事業」へと名称変更された.ワクチンによる予防可能疾患の免疫保有調査を行う「感受性調査」およびヒトへの感染源となる動物の病原体保有を調査する「感染源調査」を国立感染症研究所および県内関係機関との密接な連携のもとに実施している.これまでの本県の調査で,晩秋から初冬に日本脳炎ウイルス(JEV)に対する直近の感染を知る指標である2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体が出現したことなど興味深い現象が確認されてきた.また,以前は伝染病流行予測調査事業内で実施されていたインフルエンザウイルス調査において,1993/94シーズンに分離されたインフルエンザウイルスB型(B/三重/1/93株)が,ワクチン株に採用された等の実績がある.ヒトの感染症における免疫状態は,各個人,地域等,さまざまな要因で年毎に異なるので,本年度採取できた血清は同一人であっても毎年の免疫状態とは必ずしも同じではないことが推察される.これらのことはヒト血清だけでなく動物血清についても同様であり,毎年の感染症流行予測調査事業における血清収集は重要である.集団免疫の現状把握と予防接種事業の促進等,長期的な流行予測調査が感染症対策には不可欠であるので,本調査のような主要疾患についての免疫状態の継続調査は,感染症の蔓延を防ぐための予防対策として必要性は高い.本報では,2021年度の感染症流行予測調査(日本脳炎,インフルエンザ,風疹,麻疹)の結果について報告する.
・2022rep7 三重県における2021年度環境放射能調査結果
佐藤大輝,森 康則,吉村英基
キーワード:環境放射能,核種分析,全ベータ放射能,空間放射線量率
日本における環境放射能調査は,1954年のビキニ環礁での核実験を契機に開始され,1961年から再開された米ソ大気圏内核実験,1979年スリーマイル島原発事故,1986年チェルノブイリ原発事故を経て,原子力関係施設等からの影響の有無などの正確な評価を可能とするため,現在では全都道府県で環境放射能水準調査が実施されている.
三重県は1988年度から同事業を受託し,降水の全ベータ放射能測定,環境試料および食品試料のガンマ線核種分析ならびにモニタリングポスト等による空間放射線量率測定を行って県内の環境放射能のレベルの把握に努めている.
さらに福島第一原子力発電所事故後は,国のモニタリング調整会議が策定した「総合モニタリング計画」に基づき原子力規制庁が実施する調査の一部もあわせて行っている.
本報では,2021年度に実施した調査の結果について報告する.