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スギ実生コンテナ苗の育苗期間短縮方法
 ~ 強い苗を早く生産できるか

林業研究所  山中 豪

◆はじめに
 マルチキャビティコンテナで育苗した苗(以下、コンテナ苗)の生産は全国各地で行われていますが、その生産方法は様々であり、改善する余地も多々あります。特に、育苗期間を短縮することは、育苗コストを下げるとともに、需給の調整を容易にし、廃棄する苗を減らすことが期待できます。
 通常、スギ実生コンテナ苗の生産には1年半から2年を要します。今回、春に播種し、翌年の春に出荷可能となる生産技術の開発を目的とし、試験を行いましたので、その内容を紹介します。なお、使用したコンテナはJFA150(40孔/枚、150cc/孔)です。

◆ガラス温室を使用する効果
 平成29年3月、ガラス室内でコンテナに播種し、発芽させた苗を、5月にすべて野外に移しました。9月、一部のコンテナをガラス室に戻し、ガラス室と野外で、苗の成長に差が生じるか調査しました。ガラス室で育苗した苗(図1、2中△)と野外で育苗した苗(図1、2中〇)の成長を比較すると、播種翌年2月時点では、苗長の差はほとんどなく(図1)、秋から冬にかけて、成長を促進させる効果は得られませんでした。その後、5月時点では、ガラス室の苗で苗長の伸びが大きくなりましたが(図1)、その影響で比較苗高(苗長/根元径)が平均92と高くなりました(図2)。比較苗高は50から60程度が良いとされ、これが高い苗は細長く弱々しいので、苗としては好ましくありません。ガラス室の効果により、成長が促されるものの、安易な使用は控えるべきと考えられました。


図1.各区分における苗長の推移

野外(施肥あり)の区分(●)については播種翌年3月に
絶乾重の測定に供したため5月のデータなし。図2、表1も同様。


図2.各区分における比較苗高(苗長/根元径)の推移
   凡例は図1と同じ

◆追肥を行う効果
 コンテナの培地には元肥として、緩効性肥料(N16-P5-K10:360日タイプ)を5g/L混合していますが、一部のコンテナにおいて、7月から12月の間、追肥として毎週液肥(N12-P5-K6:1000倍希釈)を散布し、その影響を調査しました。播種翌年2月時点で比較すると、追肥ありの苗(図1、2中▲●)は追肥なしの苗(図1、2中△〇)に比べ苗長が大きくなりました。しかし、追肥した苗の比較苗高は平均90~95と高く、また、T/R率(地上部絶乾重/地下部絶乾重)を計測したところ、追肥ありの苗は追肥なしの苗に比べ地下部の割合が少ないことが分かりました(図3、4)。低いT/R率は、植栽時の活着率を低下させる危険があります。これらのことから、追肥によって苗の成長は早くなるものの、その使用は最低限とすべきと考えられました。


図3.野外育苗個体における追肥の有無と苗長に対するT/R率(地上部絶乾重/地下部絶乾重)
播種翌年3月に計測




図4.播種翌年3月時点の苗
上:地上部、下:地下部、左:野外(追肥あり)中央:野外(追肥なし)、右:2年生苗(参考)
 

◆低密度育苗の効果
 地上部が混み合ってくる8月上旬、一部のコンテナにおいて、1コンテナあたり40本から12本に間引きし、低密度で育苗する影響を調査しました。ガラス室で低密度にした苗(図1、2中□)は、同条件の通常密度の苗(図1、2中△)と比較し、苗長低くなり(図1)、比較苗高も低く保たれました(図2)。低密度で育苗することによって、上長成長を抑え、比較苗高を低くする効果が得られると考えられました。
 また、追肥、ガラス室、低密度を合わせた条件(図1、2中■)では、播種翌年5月時点で比較苗高は平均79と比較的低く(図2)、上長成長も良好でした(図1)。

◆得苗率
 播種した孔数のうち、苗長30cm以上かつ根元径3.5mm以上を満たす苗数の割合を得苗率とし、各試験区分における得苗率を表1に示します。
 播種翌年5月において、野外(追肥なし)の得苗率は51.5%となりました。特別な処理をしなくても、およそ半分程度は出荷できるということですが、得苗率としては低く、十分とは言えません。これと比較し、ガラス室や追肥を活用したものは高い得苗率が得られているものの、比較苗高が高い等の問題があります。一方、ガラス室や追肥を活用しつつ、低密度で育苗した苗は、十分な苗長を得つつも、比較苗高が比較的低かったことから、早期に強い苗を作るための良い手段であると考えられました。

表1.各区分における播種孔数と得苗率

 

◆おわりに
 今回、ガラス室や施肥等で成長を促進させつつ、育苗密度を調整することで、苗の成長と形状をコントロールできる可能性が考えられましたが、これらはいずれもコストがかかります。今後、必要最低限の処理で、必要とされる形状の苗を作る技術の開発が必要です。
 また、実生苗は各個体が遺伝的に異なり、早く育つ個体もあれば成長が遅い個体もあります。今回の試験においても、個体差が生じ、苗のサイズが大きくばらつきました。苗のサイズは均一であることが望ましいため、サイズのばらつきを小さくする方法の検討が必要です。
 

本ページに関する問い合わせ先

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