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平成27年03月18日

採種園の作り方

林業研究所  山中 豪

◆はじめに
 かつて、スギやヒノキの種は山から採ってくるのが通常でしたが、1950年代に始まった精英樹選抜育種事業により「精英樹」が選抜されてからは、県営にて精英樹採種園を造成し、種子生産を行い、苗木生産者へ配布するという仕組みが主流となりました。その後、花粉症対策が重要視されるようになり、「精英樹」を主な素材として、花粉の少ない品種の開発が進みました。特に平成25年に登場した「特定母樹」は、花粉が少なく、かつ成長が良いため、県営採種園において、「精英樹」から「特定母樹」への切り替えが急務となっています。
 この「特定母樹」は、民間事業者でも、正式な手続きを踏み、認定を受ければ購入可能です。現在、「特定母樹」の種子供給量は非常に少ないため、民間事業者による「特定母樹」の採種園により、供給量が増えることが期待されています。
 しかし、実際に採種園を造成した経験を持つ者は少なく、さらに、近年では母樹の樹高を1.2m程度で管理するミニチュア採種園方式で採種園を作るケースがほとんどで、皆が試行錯誤を繰り返しながら種子生産している状況です。三重県では平成31年に津市白山町二本木地内で、スギ特定母樹、ヒノキ特定母樹、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの3種で構成される新たな採種園(以下、新採種園)を造成しましたので(図1)、それらの事例とともに、実際の採種園造成手順を紹介します。


図1.新採種園の配置図

◆用地の選定と整地
 採種園用地としては、周囲から同樹種の花粉が飛散してこない場所が適していますが、そのような土地を見つけることは至難です。かといって、田畑を活用するにも危険があります。過去に造成したミニチュア採種園では、苗畑を利用しましたが、台風で植栽木が倒れてしまいました(図2)。畑のようによく耕された場所では、大雨により土壌が軟弱化してしまい、母樹が倒れやすくなることがあります。母樹の断幹や剪定を欠かさず、風を受ける面積を小さくするなどの対策が必要です。


図2.平成29年の台風により倒れた苗畑のミニチュア採種園の母樹(平成26年に植栽)

 新採種園では、古いクロマツ採種園の跡地を利用しました。除草と除根に多大な労力を要しましたが、広く平坦な土地を確保できました(図3)。また、耕耘をしっかりと行ったことで、自走式除草機の走行に支障となる凹凸はなくなり、耕耘前に繁茂していたササやススキも、今のところほとんど見られません。このように丁寧に土地を耕耘することで、後の作業が効率化すると言えます。


図3.植栽前の新採種園用地

◆配植計画
 採種園を作るうえで最も重要となるのが、どのクローンをどんな配置で植栽するか、つまり配植の計画です。スギやヒノキでは、自家受粉または近縁個体との交配により、種子の品質が低下することがあります。これを避けるためには、隣り合う母樹が別のクローンとなるよう配置しなくてはなりません。
 配植方法については、古くはギールテッヒ法や配置定規による手法が用いられていましたが、近年では、よりランダムに配置すべく、新しい配植方法が考案されています。よく用いられるのが、Excel上で稼働するMIX-WEXで、各クローンのランダムかつ適正な配置が可能です。ほかにも、統計ソフトR上で稼働するONA(Optimum Neighborhood Algorithm)というプログラムもあります。これは、各クローン間の隣接回数の分散が最小になる配置を導くものです。なお、新採種園においては、スギおよびヒノキをMIX-WEXで(図4)、マツをONAで配植しました。


図4. MIX-WEXによるヒノキ採種園の配植

 次に重要になるのが、植栽間隔です。ミニチュア採種園では、母樹を1.5m間隔で植栽するケースが多くありますが、この植栽間隔が必ずしも適切とは限りません。1.5m程度の間隔では、剪定をおろそかにすると、たちまち人が入る隙間すらなくなってしまうこともあります。母樹の側面に光が当たらない状況は、種子生産上も好ましくありません。また、除草に用いる機械によっても、植栽間隔を見直すべきです。大型除草機を使うのであれば、機械が支障なく入れる間隔でなくてはなりません。新採種園のうちヒノキ採種園では、これらを考慮し、4.0m間隔で配植しています。
 さらに、最終的にどのくらいの量の種子を生産したいかを考え、母樹本数を決める必要があります。しかしながら、ミニチュアに仕立てた母樹1本あたりから得られる種子量についての情報は少なく、また、母樹をどう管理するかで、種子生産量は大きく変わります。このため、目標とする種子生産量から母樹本数を算出することは難しく、実際には、敷地面積の制限により、母樹本数を決定するケースが多くあります。

◆植栽とその後の管理
 母樹は、一般的な植栽木以上に丁寧に植栽し、管理しなければなりません。特にミニチュア採種園で粗放的な管理をすると、種が着かないばかりか、図2のような結果にもなります。また、花粉の少ない品種では通常、ジベレリンによる着花促進処理をしたうえで採種しますが、その後1~2年間は樹勢回復のための手入れが必要です。他にも、害虫防除など、種子生産が続く限り作業は絶えません。

◆おわりに
 林業従事者のうち、採種園に関わる方は僅かです。しかし、採種園の整備なくして、今後の持続的な林業の発展はありません。今回、新採種園の事例を挙げ、採種園の造成手順について紹介しましたが、これにより、より多くの方に採種園への興味を持っていただき、さらにはより多くの事業者が採種園造成を検討していただけたらと考えています。また今後、新採種園を活用し、どのような管理をすればどのくらいの種子が生産できるか、またその品質はどう変化するのかを調査し、効率的な採種園経営方法を検討していきたいと考えています。

本ページに関する問い合わせ先

三重県 林業研究所 企画調整課 〒515-2602 
津市白山町二本木3769-1
電話番号:059-262-0110 
ファクス番号:059-262-0960 
メールアドレス:ringi@pref.mie.lg.jp

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