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平成25年08月05日

内装材への利用に向けたヒノキと無機質の複合化

三重県林業研究所 中 山 伸 吾

 

 近年、一戸建て、マンションなど住宅の新築やリフォームにおいて、フローリングなどの内装材にスギ・ヒノキなど国産針葉樹材を選択する事例が見受けられるようになりました。こうした中、構造材では要求されなかった表面硬さや撥水性などの性能や付加価値が求められるようになっています。三重ブランドに認定されているヒノキを用い、内装材としての用途を拡大するための表面改質技術の一つとして、ゾルゲル法を用いた無機質であるガラス材料との複合化について検討を行いました。

 

◆ゾルゲル法とは

 一般的なガラス材料の作製法は1000℃を越える高温において原料粉末を溶融し、徐々に冷却することで再固化させます。ゾルゲル法とは原料溶液から出発し、加水分解、縮重合などの化学反応を経てゲル(ゼリー状の固体)を作製し、熱処理をすることによりガラス材料を得る方法です。

 一般的な方法と比較して低温で作製することが可能であるため、木材のような熱に弱い有機物と高温で安定である無機物の複合化が可能となります。

 

◆実験方法

 試験には厚さ15mmのヒノキ板を、幅26mm、長さ30mmのブロックに加工したものを用いました。無機質との複合化には、金属アルコキシドとして無機ガラスの成分となるテトラエトキシシラン(以下シリカと略)とチタンを含むモノマーのチタン酸テトラ-n-ブチル(以下チタンと略)をヒノキ板に減圧注入した後、105℃で48時間加熱処理を行いました。また、チタンは水と急激に反応することから、安定化剤としてジエタノールアミン(以下DEAと略)を使用しました。

 

◆含水率等の影響

 どのような条件で処理をすれば、ヒノキ板へ無機質をたくさん入れることができるかを調べるため、シリカとチタンとDEAの比率を変え、反応後の重量増加率を測定しました。

 絶乾および気乾(含水率約13%)状態にしたヒノキ板へ、シリカとチタンのモル比を変えて反応させたときの重量増加率を測定した結果、図-1のように絶乾状態ではシリカのみでは重量増加がほとんど見られず、チタンを混合することでその混合比にかかわらず50%程度の重量増加が見られました。一方、気乾状態ではシリカのみの場合は重量増加率がわずかに増加したものの、混合したものは24:1以外で減少しました。この重量増加率の減少は、木材中の水分との反応に起因するもので、水との反応性の高いチタンが特に影響していると推定されます。



 安定化剤としてDEAをチタンに対しモル比2の割合で加えたところ、図-2のようにシリカとチタンが1:1および3:1の条件において大幅な重量増加が見られました。逆にシリカとチタンが24:1ではDEAを加えない場合と比較して重量増加率は大きく減少しました。また、DEAの添加量の影響については、図-3のとおりシリカとチタンが1:1の場合にはチタンに対し2倍量加えたときに重量増加率が最大となりましたが、24:1の場合にはDEAの添加量による影響があまり見られず、重量増加率にも変化がありませんでした。

 溶液の濃度の影響について、気乾状態で重量増加の見られたシリカとチタンが24:1およびシリカとチタンとDEAが1:1:2の溶液のエタノール添加量を変化させたところ、図-4のとおり24:1の場合は濃度が重量増加に影響を与えているようでしたが、図-5のように1:1:2の場合にはあまり影響が見られませんでした。

 

◆処理材の性状

 無機質との複合化処理をしたヒノキ板表面の性状を見るため、それぞれの処理面について水接触角を測定しました。

 接触角とは液体が固体に接触しているとき、液体の自由表面が固体の平面となす角度のことで、ぬれ性の評価を行うのにわかりやすいため、よく用いられています。木材の表面はぬれ性が高く、水は広がりやすいのですが、ぬれ性が低くなると水玉ができるようになり、撥水効果が現れてきます。

 絶乾および気乾状態で処理した表面では、シリカとチタンが3:1のときに最大となり、木材表面に撥水性が付与されたことを確認しました(図-6)。

 一方、DEAを添加した場合は、シリカの割合が高くなるほど水接触角は低下しており、特にシリカとチタンとDEAが24:1:2では無処理と同じ程度まで低下し、撥水効果が見られませんでした。

 

◆まとめ

 シリカにチタンを添加することにより、ヒノキ板への無機物の導入が促進されますが、チタンの量が多くなると木材中の水分との反応が優位に起こることでゲル化が急速に進行し、減圧注入の妨げや重合度低下などを引き起こすため、無機物の導入が悪くなることが確認できました。

 また、DEAを添加することでチタンの反応が抑えられ無機物の重合度が高くなりますが、過剰な添加はチタンの効果を妨げることになることも確認できました。

 表面撥水性については、シリカとチタンでの処理により水接触角が大きくなり、モル比3:1で最大となりましたが、安定化剤としてジメタノールDEAを加えた場合には低下することが確認できました。

 現在のところ小さなヒノキのブロック片を用いていますが、今回の結果等からさらに大きな試験片を用いてヒノキの表面改質技術に取り組んでいきます。

 

 

    図-6 無機質と複合化し撥水処理されたヒノキ

 

 

 

 

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