三重県英虞湾における底質富栄養化の現状と近年の進行
平成13年度日本水産学会春季大会講演要旨(2001年4月1日~5日)
中西克之・増田 健・畑 直亜(三重科技水)
目的
英虞湾は県下の年間真珠生産額,約87億円の大半を産し,地域の産業基盤として極めて重要な水域と位置付けられる。水産技術センターは英虞湾において過去 25年あまりにわたり底質のモニタリングを継続してきた。その結果を解析し水域の富栄養化の現状と近年の富栄養化進行についてとりまとめた。
方法
1976~2000年の毎年夏期に英虞湾の20測点(1976年は18測点,1977年は欠測,1978年は19測点)において,エクマンバージ採泥器により採泥を行った。表層3cmを分析試料とし,COD,AVS,水分含量,TN,OC,酸化還元電位を分析,計測した(項目により分析開始年次が異なる)。TN,OCはYANACO製CN-CORDER(OCは低温燃焼法,鈴木1986)によったほか,分析は常法によった。
結果
COD, AVS,水分含量,TN,OC,酸化還元電位について測点ごとに1998~2000年の平均値を求め,この値を用いてクラスター解析(ウォード法)による測点のグループ分けを試みた。得られた3つのクラスターは属する測点の地理的分布と分析値の大きさから「湾口クラスター;富栄養化していない」,「湾中央クラスター;富栄養化の程度は中」,「湾奥クラスター;富栄養化の程度は強」と表現できた。
分析項目のうち,長期間のデータが存在するCOD,AVS,水分含量,TNの経年変化について測点ごとにトレンドの検定(Kendall型)をおこなった。湾口クラスターに属する測点では富栄養化の進行傾向は認められなかったが,湾中央および湾奥クラスターの多くの測点では,複数の分析項目で富栄養化の進行傾向が認められた。真珠生産量や周辺人口,河川水質の経年変化は富栄養化進行の原因とは考えにくく,「真珠養殖による継続的なオーバーユースの可能性」あるいは「噴射ポンプ式貝掃除機の普及にともなう負荷増大の可能性」が指摘された。