黒潮接岸期に潮岬を通過するブリの行動と海洋環境
2007年度水産海洋学会研究大会講演要旨(2007年11月23日)
久野正博(三重科技セ水)・竹内淳一(和歌山栽培セ)・阪地英男(中央水研)
1)はじめに
黒潮接岸期の潮岬沿岸には顕著な水温フロントが形成され,潮岬の東西で海洋環境が大きく異なる。この時の串本と浦神の水位差は大きく,潮岬沿岸は東向流が速いため,太平洋沿岸を産卵回遊するブリにとって潮岬は関門となっていることが古くから報告され,この関門が開かれた時にブリは南下回遊すると推測されている(宇田・山本 1955)。我々は熊野灘において2004年からアーカイバルタグを用いた標識放流を行い,ブリが潮岬を通過した日時を推定した。その時期の潮岬周辺の海洋環境を詳細に調べて,ブリが潮岬を通過する時の海洋環境の変化の特徴について明らかにした。
2)材料と方法
熊野灘北部の大型定置網に入網したブリの腹腔内にアーカイバルタグを装着し,2004年から2006年の1~4月に合計66個体のブリ(FL:45-93cm)を放流した。本研究ではこれまでに回収された45個体のうち,データの得られた38個体のアーカイバルタグデータを解析した。海洋環境の解析には,衛星による海面水温画像,串本・浦神の潮位データ,調査船による観測データ,沿岸域で観測した係留連続水温データ等を用いた。
3)結果
データの得られた38個体中10個体が潮岬を通過したと推定され,東西両方向の通過を合わせると延べ16例になる。2005年の春季は黒潮が大蛇行流路をとり,黒潮が潮岬沖で離岸していたため,この時期に潮岬を通過したと推定される7例の通過日時は特定できなかった。一方,2004年,2006年と2007年の春季は,黒潮が潮岬に接岸し,潮岬沿岸の水温フロントが明瞭であり,通過日時を特定できた。この時期に潮岬を通過した事例は9例で,東から西への移動が6例,西から東への移動が3例であった。
4)考察
ブリが潮岬を通過した前後の海洋環境を検討した結果,串本と浦神の水位差が短期間小さくなる時にブリは潮岬を通過していると推定された。また,ブリの潮岬越えはほとんどの事例で南岸を通過する低気圧と深く関連していることも分かった。串本と浦神の水位差が小さくなるパターンとして,黒潮北縁を冷水渦が通過して黒潮が潮岬沖でわずかに離岸する場合と,低気圧の通過に伴う強い北東風が吹いた後に短期的な水位差の低下が起こる場合がある。これらの時は潮岬沿岸の東向流が緩むと推定され,黒潮接岸期に潮岬を通過するブリは,黒潮北縁の微細な変動や低気圧通過に伴う潮岬沿岸の短期的な海洋環境の変化をとらえて行動していると考えられた。