紀伊半島沿岸における漁業と海洋環境モニタリング
平成13年度水産海洋学会シンポジウム講演要旨(2002年3月31日)
久野正博・藤田弘一(三重科技セ水)・竹内淳一(和歌山水試)
キーワード:紀伊半島沿岸・漁業・海況変動・海洋環境モニタリング・海洋観測
都道府県の公設水試が行う海洋環境モニタリングには,地先の海況が現在どのような状態にあり,地域の漁業などにどのような影響を与えているかを明らかにするとともに,その地先独特の海況現象を解明する役割を担っていると考える。このことが,全国的な漁業資源の変動では説明のつかない地域レベルでの漁況変動を理解する基になる。紀伊半島沿岸域の漁業は,その魚種構成や漁獲量の多寡等について,沖合を流れる黒潮の影響を大きく受けている。和歌山県並びに三重県の水産試験場では長年にわたり,沿岸漁業の動向と地先の海洋環境をモニタリングしてきた結果,この海域における特徴的な漁海況変動が明らかとなってきた。
紀伊半島沿岸域における計画的な海洋環境モニタリングは,1968年以降和歌山県並びに三重県の水産試験場で月1回の頻度で調査船を用いて実施されている「漁況海況予報事業」関連の海洋観測である。このデータは30年以上にわたって蓄積されてきており,数十年の時間スケールでの海況変動を論じるには未だ期間が不足しているが,数ヶ月から数年の時間スケールでの海況変動について説明することを可能としている。また近年では,調査船による定点観測の他に自動記録式の水温計等の使用,人工衛星によるリモートセンシングデータの利用や多層式流向流速計(ADCP)による観測が地方水試でも行われるようになり,より短い時間スケールでの海況変動やより広域での海洋構造を把握することが可能となっている。このため従来,紀伊半島沿岸の漁業者にとって経験的に受け止められてきた漁況や海況の「移り変わり」あるいは「特異現象」が,この海域に特徴的な現象として説明できることがわかってきた。
平成9(1997)年1月にはTAC(漁獲可能量)制度がスタートし,イワシ類,サバ類,マアジ等主要な魚種について年間漁獲量の上限が設定されるようになった。TAC制度下においては,漁業者には計画的な操業が求められることになり,的確な漁海況情報が必要となる。また今後は資源管理の推進によりTAC対象魚種が増加することが予想され,これまで以上に漁況予測に利用可能な海況情報,海況予測が必要となる。さらにレジーム・シフトなど海況要因を加味した資源変動予測が求められつつあることから,地方水試が継続して行う海況モニタリングの重要性はますます高まるものと考えられる。