2005年2月、3月に熊野灘で放流したブリの移動
2006年度水産海洋学会研究発表大会講演要旨(2006年11月28日)
久野正博(三重科技セ水産)・阪地英男(中央水研)
キーワード : ブリ ・ 標識放流 ・ アーカイバルタグ ・ 回遊様式
1)はじめに
太平洋側におけるブリの回遊生態を明らかにするために,我々は志摩半島沿岸の熊野灘において2004年からアーカイバルタグを用いた標識放流調査を行っている。ここでは2005年に行った調査の結果をとりまとめ,2004年の結果(2005年度水産海洋学会研究発表大会で報告)と合わせて三重県熊野灘沿岸に来遊するブリの回遊について検討した。
2)材料と方法
調査には,志摩半島片田沖の大型定置網に入網した個体を用いた。2005年2月17日には体重4kg級のワラサ銘柄6個体と10~13kgのブリ銘柄10個体の計16個体,2005年3月24日には9~13kg級のブリ銘柄6個体と7~8kg級のブリ銘柄6個体の計12個体,合わせて28個体にアーカイバルタグを装着し,それぞれ同日の昼過ぎに片田漁場の南西約2km沖の熊野灘北部で放流した。使用したアーカイバルタグはWildlife Computers Mk9であり,1分毎の体内および体外の水温,水深,照度を測定した。再捕されたブリからアーカイバルタグを取り出し,データを回収した。日出と日入の時刻より標識魚の通過した毎日の経度を推定し,水温・水深データを人工衛星による海面水温画像や調査船によるCTDデータ等の海況情報と照合することによって,移動経路の推定を行った。
3)結果
2月に放流したワラサ銘柄では,4月後半~5月前半に熊野灘沿岸で3個体が再捕され,11月末に1個体が体重7.1kgのブリ銘柄に成長して志摩半島沿岸で再捕された。一方,2月に放流したブリ銘柄では,2月に熊野灘で3個体(うち2個体は再放流),3月に室戸岬東岸で1個体,4月に足摺岬西岸で2個体,6月に熊野灘で1個体,翌年4月に熊野灘で1個体が再捕された。3月に放流したブリ銘柄では,4月に熊野灘で3個体,5月に熊野灘で1個体,翌年2月に熊野灘で1個体,3月に室戸岬東岸で1個体,5月に熊野灘で2個体および足摺岬西岸で1個体が再捕された。
4)考察
アーカイバルデータの解析から,ワラサ銘柄は2月から11月まで大きな移動をしていなかったと推定された。ブリ銘柄では,3~4月に熊野灘から速やかに四国沖に移動し,5~6月に再び熊野灘・遠州灘に移動して翌年の2月頃まで同海域に生息するという年間の回遊様式が推定された。また,放流年に上記の回遊をした後,翌年の春には薩南海域に達したと推定される個体も存在した。このことから,高齢または大型の個体ほどより南方の海域に回遊する傾向が伺われた。一方で,翌年の春まで熊野灘・遠州灘に滞留したと推定される個体も存在し,回遊経路には個体差もあるものと考えられた。これまで,太平洋側におけるブリは成魚になるまで大きな移動をせず,成魚では三陸沿岸と熊野灘の間および相模湾と九州沿岸の間の2つの回遊経路があると考えられていた。本研究において,ワラサ銘柄ではこれまでの推定とほぼ同様の結果であった。一方,ブリ銘柄では房総半島以北に回遊したと推定される個体が認められなかったことなどから,回遊範囲はこれまで考えられていたものより狭い可能性が考えられた。太平洋側全体のブリの回遊様式を詳細に把握するためには,放流実施海域と放流魚の体サイズ範囲をさらに拡げる必要がある。