伊勢湾産マアナゴ資源に関する研究 - Ⅰ
三重県におけるアナゴ漁業の現状
平成15年度第1回日本水産学会中部支部大会講演要旨(2003年7月11日)
沖 大樹・藤田弘一(三重科技セ水)
目的
伊勢湾産マアナゴは2002年に資源回復計画対象種となり,資源を回復するための取り組みが小型底曳網漁業を対象に実施されている。しかし,小型底曳網漁業におけるマアナゴ漁獲に関する近年の知見は得られていない。また,同じ水域で操業するアナゴ籠漁業については資源回復計画の対象漁業でないことから資源回復への取り組みはなされておらず,その操業実態についても十分に把握されていない。今回,伊勢湾産マアナゴ資源の回復および持続的な利用を図るための管理手法を確立するうえで必要とされる操業実態および流通に関する知見を把握することを目的とし調査を実施した。
方法
桑名郡木曽岬町から鳥羽市に至る伊勢湾三重県側沿海の15市町村23漁協において漁業種類ごとの経営体数,操業規模および操業時期,漁獲物の出荷先および銘柄組成などに関する知見を得るため,聞き取りおよびアンケート調査を実施した。また,資源の現状を把握するため鈴鹿市漁協の統計資料をもとにCPUEを算出した他,漁獲物組成に関する知見を得るため伊勢市漁協所属の小型底曳網漁船における漁獲物の測定を行った。
結果
三重県ではマアナゴを漁獲する地区は小型底曳網漁業で7地区,アナゴ籠漁は14地区であった。小型底曳網ではいずれの地区も周年操業されているが,アナゴ籠漁の操業期間は地区により異なっていた。アナゴ籠漁で用いる最大の籠数は鈴鹿市漁協の800個であったが,多くの地区は100~300個程度であった。小型底曳網の主な操業海域は鈴鹿市,香良洲町および伊勢市沖合で,これに加え愛知県側の常滑から渥美半島沖にかけても漁場が形成されている。アナゴ籠漁は主に地先で操業され,その漁場は伊勢湾沿岸に沿って広く形成されている。
漁獲量は年により大きな変動がみられ,2001年には約125トンと1980年以降で最も少ないものであった。漁業種類別では一部の年を除けば小型底曳網漁業による漁獲量が最も多く,定置網などのその他の漁法による漁獲はごくわずかであった。なお,2001年の小型底曳網漁業による漁獲量はアナゴ籠漁の約3倍であった。
鈴鹿市漁協所属のアナゴ籠漁および小型底曳網漁業のCPUEは年による増減がみられ,2001年は前年に比べ両漁業とも大きく減少した。なお,アナゴ籠漁業では1989年以降最も低い値であったが,小型底曳網では4番目に低い値であった。
小型底曳網による漁獲物の全長組成の推移によれば6月にはTL270mm前後のサイズが漁獲主体となるが,7月になるとそのサイズは300mm前後に達した。9月になると新規加入と思われる250mmに満たない個体も入網しはじめ,11月以降になると270mm前後に成長した個体が漁獲の主体となる傾向がみられた。
漁獲物の荷揚げ先は経営体数が多い地区では漁協市場へ荷揚げするケースが多く,少ない地区では最寄りの公設または民間市場へ荷揚げされる傾向がみられた。また,操業者により荷揚げ先が異なる地区も存在し,相対販売が行われている地区もみられた。
銘柄組成は多くの地区では大・中・小に区分されるが,同一銘柄であっても地区によりその大きさは異なっている。大,中銘柄は主に寿司ネタとしての需要があり,県外へ出荷されることが多い。,小銘柄は天ぷらや巻きずしとして地元消費され,一部の地区ではゴボウ巻きやみりん干しなどの加工品として利用されている。