先輩獣医師からのメッセージ
現在活躍する先輩たちも、最初はみんな新人でした。
今日は、松阪食肉衛生検査所に勤務経験のある中野さんと、山本さんに、初々しかった頃?を思い出してもらい、いろいろとお話を伺ってみましょう。
○こんにちは。今日は、三重県に獣医師として勤務されている、お二人をお招きしました。
(中野さん、山本さん)よろしくお願いします。
○獣医師の仕事には色々なものがあると思うのですが、なぜ三重県職員になろうと思ったのですか?
(中野さん) 生まれ育った三重が好きだったからです。私は松阪育ちなのですが、食べ物は美味しいし、気候は温暖だし、住みやすい。大学時代は三重を離れていましたが、それが逆に三重の良さを実感することになり、いずれは三重に帰ってきたいと思っていました。
また、私が育った松阪は全国に名を轟かせている松阪肉の産地です。高校時代まではそれほど意識したことはありませんでしたが、大学時代、周囲からの「松阪出身!?松阪肉美味しい?」という質問に何度も答えるうちに松阪は高級肉の産地だということをいつの間にか強く意識するようになり、それに伴いそれまであまり興味がなかった畜産の分野に興味を持つようになりました。大学入学当初は漠然と小動物臨床の道に進むと思っていたのですが、就職を考える時期になるといつの間にか畜産に携わることはできないかと考え始めていました。
三重に帰る、畜産に携わる、これらを同時に満たせるものは何か・・・? それが、三重県職員だったわけです。
(山本さん) 三重が魅力的な県であることは大きな理由です。
また、大学時代にどの自治体の採用試験を受けるか迷い、いくつかの自治体に獣医師の業務について質問した際、三重県の担当者の方に本当に親切に対応していただきました。その時に私も三重県職員になってがんばりたいと思いました。
○三重県に勤務する獣医師として、これまでどのような業務に携わってきましたか?
(中野さん) 私の勝手な当初予定に反し、最初の配属先は南勢志摩県民局保健福祉部阿児町駐在(現伊勢保健福祉事務所志摩市駐在)でした。綺麗な志摩の景色の中で、狂犬病予防、動物愛護、食品衛生などの仕事に携わりました。中でも、志摩の特徴であるフグの講習やカキの安全安心システムに関わったことが印象に残っています。上野県民局保健福祉部(現伊賀保健福祉事務所)に異動してからは、と畜検査業務も加わり、薬事や麻薬取締り等、志摩では経験していなかった業務も経験することになりました。その後、中央家畜保健衛生所伊賀支所で家畜防疫の業務に携わることになりました。規模の小さい事務所だったので、扱っている全ての畜種の農家さんにお邪魔することができ、様々な話を聞かせていただいてとても勉強になりました。
(山本さん) 最初に配属されたのは松阪食肉衛生検査所でした。県職員になった初年度にBSEの問題が発生し、食肉の安全性を確保する仕事に携わることで獣医師としての仕事にやりがいを感じました。
また、保健所では、主に狂犬病予防、動物愛護に関する仕事を担当しました。
次に異動になった県庁の薬務食品室では、主に食品衛生に関する仕事を担当し、不適正表示事案の対応などを経験しました。
○現在は、どのような業務に携わっていますか?
(中野さん) と畜検査です。人にどんな仕事をしているのか聞かれると「食べて良いお肉かどうかを検査しています」と言っています。そうとしか簡単には答えようがないのです・・・。
現場での検査以外には、BSE検査、理化学検査、見学者対応などを担当しています。
(山本さん) 現在は、保健所で狂犬病予防、動物愛護、食品衛生、生活衛生などに関する業務を行っています。
○これまで経験した中で、やりがいを感じたこと・魅力を感じたことを教えてください。
(中野さん) 偶然にも今まで所属した事務所では三重県の特産物と関わることが多くありました。どこでどんなふうに育てられて(作られて)、旬はいつごろで、地元ではこんな取り組みをしていて・・・。たぶん、県職員になっていなければほとんど知らなかった世界です。知らなかったことを知る、というのはとても面白いことだということに改めて気づきました。
それから、仕事で関わった人の笑顔がとてもうれしかったのを覚えています。無事に営業許可が下りた時のお客様の笑顔、保護した犬の飼い主さんが見せてくれた笑顔、作業が無事終わり相談ごとも終わった後の農家さんの笑顔。些細な出来事かもしれませんが、何とも言えない暖かい気持ちにしてくれます。「ありがとう」の言葉と笑顔は人を元気にさせるものだと知りました。
(山本さん) 私たち公務員の仕事は、事業者や県民の方に対して厳しいことを言わなければならない場合もあります。でも、最終的には県民の方に「ありがとう」と言ってもらえるような仕事ができたときには本当にうれしく感じ、やりがいを感じます。
○その反面、大変だったこともあったのではありませんか?
(中野さん) そうですね・・・。
言葉を伝えるのは難しいです。こちらは一生懸命説明していても、思うように伝わらず、それが苦情につながったり、お互い苦手意識を抱いてしまったり。相手が理解してくれているか、どんな話し方が理解してもらいやすいのか、何を聞きたいのか、想像力を働かせながら話をすることが大切だとようやく最近気づきました。が、実行するのは・・・なかなか・・・。いまだに上司や先輩方からフォローを入れていただいているので、しっかりしないとなぁと思っています。
(山本さん) 自分のスキル不足で上司や先輩に迷惑をかけてしまったり、県民の方に上手に説明できず理解が得られなかった時は落ち込むこともあります。でも、同僚や先輩が支えてくれて本当にうれしかったです。
○最後に、公務員獣医師をめざす人たちに向けて一言お願いします。
(中野さん) 私は、大学を卒業してすぐに公務員になりました。正直、少し短慮だったかなと思ったこともあります。世間一般にイメージされる「獣医師」の仕事からかけ離れた仕事しかしていないので、「獣医師だからわかるよね?」と聞かれてもしっかり答えられないのが歯がゆかったり。でも、公務員になったおかげで、いろんな人と巡り会い、同じ公務員でも全然違う職種の人と友達になれたりしました。そうすると、自分の世界は広がります。それだけでもこの仕事を選んで良かったんじゃないかなぁと思っています。
もし、公務員はラクができる、とか、そんな風に思って公務員獣医師になろうとするならそれは間違いです。どんな仕事にも責任はついてきますし、そもそもラクな仕事などありません。でも、責任を持って仕事をこなしつつ、余暇の時間を充実させたい人にはとても良い職場なんじゃないかと思います。
それから、三重県という大きな組織の中で働くことになるので、どうしても希望と違う仕事をしなければいけない時もあります。もちろん、希望通りの仕事ができるのが一番良いですが、逆に興味のなかった分野でも面白いことはたくさんあるという発見もできました。
道は、ひとつではないと思います。迷っている方は是非前向きに検討していただけたらなと思います。
(山本さん) 獣医師で公務員というイメージはないかもしれませんが、とてもやりがいのある仕事です。皆さんも三重県で私たちと一緒にがんばりましょう。
○今日は、どうもありがとうございました。これからも、公衆衛生に携わる獣医師としてご活躍されることを期待します。
※コメントは平成22年5月、お二人に聞きました。