一介の獣医師による2010年宣言!? by週末イクメン
平成17年度に三重県へ入庁し、食肉検査所と保健所勤務を経て、この4月より再び食肉検査のお仕事をさせてもらっています。
こちらの検査所で勤務がはじまったのと時期を同じくして、私も一児の父親となることが出来ました。今回は、三重県職員となり6年目を迎えた一人の公衆衛生獣医師であり一人の父親が、自分を支える「座右の銘」と己の気骨についてお話ししたいと思います。
まず我々、食肉衛生検査所で働くと畜検査員は、全て獣医師でなければならないと『と畜場法施行令』にあります。突然ですが、『獣医師の誓い-95年宣言』と言うものをご存知でしょうか?恥ずかしながら私も獣医師となり数ヶ月が過ぎた頃、この宣言を知りました。これは獣医師の基本的な心構えが記されたものであり、また獣医師の全てが記されています。
まだ色々な意味で若かった私は、本文ではなく冒頭部分に心を打たれたのですが、これがその一文です。「獣医師は、~~動物の健康に責任を有するとともに、人の健康についても密接に関わる役割を担っており、人と動物が共存できる環境を築く立場にある」。ここにとても感銘を受け、今も心に留め働いています。
獣医師にとっては、当たり前と思われる方もみえるでしょうが、これを見知った当時、と畜検査員として右や左どころか上も下も分からず、大学で教わった教科ごとの知識が、いかに獣医学の一部分であったかを身を持って体験し、自分なりにと畜検査の精度や技術を高め、いかに効率良く検査を進めるかについて、日々悪戦苦闘・七転八倒しておりましたので、この宣言の意味を考えられずにいました。
“自分が検査したお肉を多くの方が口にする”理解はしていてもなかなか現実味がなく、検査するという仕事(作業)に集中してしまう私へ上司が掛けた言葉が、「身の回りにいる大切な人が、食べていると思って毎日のと畜検査を行いなさい」と言うものでした。
当時は、このアドバイスの意味も判然とせず、捻くれていたのか「大切な人じゃなかったら、検査しなくてもいいのか?」などと馬鹿げた考えも浮かびました。
その後、3年間のと畜検査に従事し、人の健康に直接影響を及ぼす食肉を検査する重要性と信頼を得ることの難しさを知りました。続く2年間の保健所勤務において動物愛護業務を通じ、人と動物の共存について深く考え、一つの事柄に対して様々な方向から見る目を養う必要性を知りました。
保健所での業務は、人間的に私を成長させてくれるものでした。多種多様なご意見を持たれる方々のお話を聞き、調整し、判断し、結果を導き出すことの困難さを知り、スピード感ある決断への要求に、悩み・へこたれ・足踏みしたことを思い出します。時には感情的になってしまうこともありました。
これらの良き経験のうえ結婚し子供を持つようになり、徐々に95年宣言と上司の言葉を自分のものにできたように思います。上司は、消費者の方々の顔が見えず、検査と言う作業にしか目の行かない私に対し、なぜと畜検査が必要か、動物達がと畜場へ来る前と食肉としてと畜場を出てからのことなど、と畜検査を取り巻く多くの事象を「大切な人が食べる」の表現を使うことで、広い視野を持って業務に取り組めと教えて下さったのだと思っています。
まだまだ獣医師として人として、さらに父親としても成長過程にあり、一味も二味も足りない私ですが、これまで私の糧となった言葉をモットーに、自分に正直で、障害に屈しない強さを持った公衆衛生獣医師に、また将来、娘が動物のお医者さんになりたい!と言って憧れる父親なれるよう、日々努力したいと思います。
一つ新たに加えるとすると、『天空海闊』なお父さんになります!しかし、子供のおもちゃを一つ買うのに、メーカーや材質・耐久性などに細々とこだわり、両手の商品を眺めながら、なかなか決められず妻を困らせているようでは無理ですね。