ツヅラト峠は度会郡大紀町大内山と北牟婁郡(きたむろぐん)紀北町島原を結ぶ峠、荷坂峠は大紀町大内山と紀北町町長島を結ぶ峠です。荷坂峠越えの道は江戸時代に入ってから紀州藩が新たに開いたもので、それまではツヅラト峠越えが紀伊国へ至る主要道でした。
ツヅラト峠越えの古道は、「つづら折れ」がその語源となったといわれるように、いくつものヘアピンカーブを歩くことになります。紀北町側の山裾付近には石畳がみられます。伊勢から熊野へ向かう場合、それまで山間の風景が多かったのですが、峠からは初めて熊野の海や島嶼を眺めることができます。その島嶼群の一つである大島の暖地性植物群落は現在、国の天然記念物に指定されています。暖地性植物群落とは、スダジイなどの照葉樹林の群落を指します。東紀州地域が黒潮の恵みを受けた温暖の地であり、かつその自然美を今に伝えている地域といえます。
荷坂峠は、ツヅラト峠同様、大紀町と紀北町の町界となっており、峠には茶屋跡もみられます。現在国道沿いの祠に移された如意輪観音石仏(にょいりんかんのんせきぶつ)は、もとはこの峠にあり、熊野へ参詣する人々などが旅の無事を祈っていたと思われます。