三重県情報公開審査会 答申第51号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示部分のうち、次の部分を開示すべきである。
- 土地の取得価額(単価、金額)及び支払金額
- 不動産鑑定書(鑑定評価額、単価、鑑定評価額算定の標準地価格及びその算定基礎となる比準価格単価、収益還元価格及び原価法により求めた価格)
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年8月19日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った、別紙1の1の文書の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が9月22日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 審査の対象について
本件請求及び開示の対象となった公文書は大量であり、また、実施機関が非開示とした情報及びその理由も多岐にわたるものであるが、異議申立人はこのうち、用地の購入価額及び価額の決定プロセスの情報に関する非開示部分については争うが、その余の部分については争わない旨を、審査会の口頭意見陳述の際に主張している。
本件では、この分野に関する情報として、下記①及び②が審査対象となるが、異議申立人は別件の異議申立事案において、実施機関に対し下記①と類似の「土地の価額(単価、金額)及び支払金額」の開示を求めている。これに関しては、実施機関及び異議申立人の主張並びに当審査会の判断について、平成10年8月19日付け答申第50号において詳述しているところである。
従って、下記①に関する部分については同答申を引用し、本件においては下記②(以下「本件対象公文書」という。)を審査の対象とする。
記
- 別紙1の3の各文書のうち、土地の取得価額(単価、金額)及び支払金額
- 別紙1の3(5)不動産鑑定書(鑑定評価額、単価、鑑定評価額算定の標準地価格及びその算定基礎となる比準価格単価、収益還元価格及び原価法により求めた価格)
4 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は部分開示が妥当というものである。
・条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
鑑定評価額算定の標準地価格及びその算定基礎となる比準価格単価、収益還元価格及び原価法により求めた価格は、これらを開示すると将来同種の事務事業の執行に著しい支障を生じるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、実施機関の処分は、次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
公共用地の取得価額は公金の支出に関わる情報であり、地方自治法においても、公金の支出の不当・違法なものについては、住民監査請求ができる事項となっており、本来、住民監視にさらされなければならない情報である。
しかも、取得価額は、公共用地取得の際には地元説明会で公にされており、秘匿されるべき秘密性はない。
また、取得価額の決定については、担当職員の恣意によるのではなく、鑑定人の鑑定を経ており、恣意性が排除された公の情報である。
なお、所有者の住所・氏名や詳しい地番の公開まで求めておらず、取得価額と価額決定のプロセスの情報の公開を求めたのであって、これらまでも非開示とした決定は誤りであり、速やかに取り消されるべきである。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、本件対象公文書は条例第8条第5号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。 条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるとするものである。
実施機関は、本件対象公文書のうち、不動産鑑定書(鑑定評価額算定の標準地価格及びその算定基礎となる比準価格単価、収益還元価格及び原価法により求めた価格)が本号に該当すると主張しているので、これについて検討する。
実施機関は今後の用地買収事務への悪影響を懸念するが、本件情報を開示することによって、県が適正に土地の鑑定・用地買収等の事務を行い、公金を適正に支出していることを説明することは、県民の県政に対する信頼を得る上で大きな意義がある。
また、実施機関の説明によると、当該用地の買収は完了していることから、当該の事務事業への著しい支障は考えられず、また、公共事業の性格上、価額は県と地権者との交渉によって決定されるものではなく、不動産鑑定所等が鑑定した客観的な価額に基づいて用地交渉が進められる以上、本号の「将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行の『著しい支障』を生ずるおそれがある」とまでは認められない。
(3)結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示部分のうち、次の部分を開示すべきである。
- 土地の取得価額(単価、金額)及び支払金額
- 不動産鑑定書(鑑定評価額、単価、鑑定評価額算定の標準地価格及びその算定基礎となる比準価格単価、収益還元価格及び原価法により求めた価格)
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
1 異議申立人が請求した公文書の内容
- 一般国道 422号、一般地方道信楽上野線、高倉佐那具線、一級水系淀川水系東高倉川の公共用地取得に関する一切の情報の目録
(平成4年度以降 上野市諏訪、三田、東高倉、西高倉地内) - 上記情報の一切
2 実施機関が特定した公文書の件名
下記各事業に関する収容等の場合の課税の特例についての事前協議
〃 税務署事前協議買い取り等の証明書
〃 土地取得台帳
〃 道路橋梁事業・砂防事業契約書
〃 不動産鑑定
記
(平成4年度) 一般国道 422号県単道路改良工事
〃 一般国道 422号諏訪工区国補道路特殊改良(二種)工事
(平成5年度) 一般地方道信楽上野線県単道路改良工事
(平成6年度) 一般国道 422号平成5年道路災害復旧工事
〃 一般国道 422号県単災害防除施設工事
〃 一般地方道高倉佐那具線県単道路改良工事
〃 一般地方道信楽上野線県単道路改良工事
(平成7年度) 一級水系淀川水系東高倉川県単通常砂防工事
3 実施機関が部分開示とした文書
(1)収容等の場合の課税の特例についての事前協議
- 事前協議書
- 執行計画書
- 丈量図(用地測量図)
(2)税務署事前協議買い取り等の証明書
- 収容証明書
- 対価の支払い調書及び買い取り申し出証明書
(3)土地取得台帳
(4)道路橋梁事業・砂防事業契約書
- 請求書
- 支出命令書
- 立竹木放棄書
- 支出負担行為書・支出命令書(補償費)
- 支出負担行為明細表
- 物件移転補償契約書
- 補償金支払整理表
- 用地補償総括一覧表
- 土地調査書
- 立木の写真
(5)不動産鑑定書
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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9.10.9 | ・諮問書受理 |
9.10.29 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
9.11.27 | ・部分開示理由説明書受理 |
9.12.4 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.7.23 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第86回審査会)
|
10.8.7 | ・審議
(第87回審査会)
|
10.8.19 | ・審議 ・答申 (第88回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |