三重県情報公開審査会 答申第56号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件対象公文書を部分開示決定(別紙1の(2)を非開示)したことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年11月28日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「四日市市西山町に建設された産業廃棄物処理施設(安定型)の許可申請及び許可に関する一切の情報(以下「本件対象公文書」という。)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成10年1月28日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
なお、本件対象公文書は、三重県産業廃棄物処理指導要綱の規定に基づき事業者が取得した関係地域住民等の同意書、承諾書等である。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を部分開示決定にしたというものである。
・条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書(別紙1の(1))のうち条例第8条第1号を理由に非開示とした情報は、別紙1の(2)である。
これらは、個人に関する情報であり、開示することにより特定の個人が識別され、または識別され得るので、条例第8条第1号(個人情報)に該当する。
また、これらの情報が条例第8条第1号ただし書き「イ、ロ」に該当して開示すべき情報とは認められず、ただし書き「ハ」についても、これらの情報は純粋に個人の私的な情報であり、それが公にされること自体に客観的かつ具体的な公益性があるとは認められないことから、「ハ」にも該当せず、非開示とした。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で述べ、また、審査会で口頭意見陳述している異議申立ての主たる理由は次のように要約される。
条例では、個人が識別され、または識別され得る情報は非開示とすることができるとなっているが、「原則公開」の理念のもと、これは限定されるべきであり、個人識別情報であっても、公益上の必要性がある情報は開示されるべきである。
秋田県知事が「水利権者の同意書」中の住所、氏名及び印影について非開示とした決定について、仙台高裁秋田支部判決(平成9年12月17日)は、原判決を取消し、公益上の必要があるとして同意書の開示を命じている。本件同意書は、農業用ため池「大池」の水利権者の同意書であるから、公益上開示の必要があり、三重県知事の非開示決定は違法である。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第8条第1号(個人情報)に該当するので部分開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。
本件で非開示とされている情報は、別紙1の(2)のとおりである。これらは個人に関する情報であり、開示することにより特定の個人が識別され、または識別され得る。
また、非開示とした情報が同号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書き「イ、ロ」に該当して開示をすべき情報とは認められない。これらは、個人の私的な情報であり、それが公にされること自体に公益性があるとは認められないことから「ハ」にも該当せず、非開示としたことは妥当である。
なお、水利権者の同意書については、仙台高等裁判所秋田支部(平成9年(行コ)第1号・H9.12.17)の判決では、「個人の内心に関わる情報であってプライバシーとして保護されるべき情報であるとはいうものの、純粋に私的な事項についてのものでなく、…(中略) …、許可不許可の判断に重大な影響を及ぼしかねない重要性を持つとすれば、…(中略)… 、同意書が公開されることの意義は大きい。」と判示している。異議申立人は同判決を根拠として、当該同意書を開示すべきであると主張するが、本件対象公文書の同意書、承諾書は河川法等法的根拠を有する水利権者のものと認定するだけの根拠はない。
さらに、本同意書、承諾書は要綱に基づき事業者の任意の協力のもとに提出されたものであって、公表を前提とされたものではなく、事業者の意思に反して公表されると、今後の要綱に基づく行政指導に著しい支障を及ぼすことが予想される。
(3)結論
以上のとおり、実施機関が本件対象公文書を部分開示決定(別紙1の(2)を非開示)したことは妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
(1)本件対象公文書
- 「(平成2年度)特定の産業廃棄物処理事業者の産業廃棄物処理事業計画に係る指摘事項について」
- 「(平成2年度)産業廃棄物処理施設設置届出書の受理について(伺い)」
(2)本件対象公文書のうち、非開示とした部分
- 「産業廃棄物処理施設計画地等の一覧表」の土地使用者氏名(3名)
- 「地主同意書」の土地所在地、土地所有者の住所・氏名
- 「承諾書」の土地所在地、抵当権者の住所・氏名
- 「土地使用契約書」の貸主の住所・氏名
- 「隣地承諾書」の土地所在地、土地所有者の住所・氏名
- 「岐阜市の許可証」の許可受者の生年月日
- 「経歴書」
- 「従業員名簿」の生年月日、免許・資格、法人登記に記載されていない住所・氏名・役職
- 「同意・承諾等取得状況」の自治会長の住所
- 「関係地域住民同意書取得状況」の個人の氏名、同意書の住所・氏名
- 「自治会長の証明書」の自治会長の住所
- 「放流同意書」の同意年月日・住所・氏名
- 「協定書」の自治会長の住所
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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10.2.26 | ・諮問書受理 |
10.3.4 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
10.3.12 | ・部分開示理由説明書受理 |
10.3.18 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.3.23 | ・口頭意見陳述申出書及び意見書受理 |
10.10.19 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第91回審査会)
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10.11.10 | ・審議 ・答申 (第92回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
(注)本委員中、室木委員は平成10年10月31日付けで委員を辞任している。