三重県情報公開審査会 答申第61号
答申
1.審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、別紙1知事交際費使途別一覧表の1、2、7、9、10及び11の公文書の交際の相手方の記載に関する部分を除き、開示すべきである。
2.異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年10月27日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った、「知事が平成9年6、7、8月に支出した交際費に関する一切の資料及び現金出納簿」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。なお、本答申においては、公務を遂行する個人としての知事は「知事」とし、条例の「実施機関」と区別することとする。)が11月7日付けで行った「(平成9年6、7、8月支出分)知事交際費内訳書」(以下「本件対象公文書」という。)の非開示決定の取消しを求めるというものである。
3.実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は非開示が妥当というものである。
(1)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要がある。
現在、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化するのは困難であることから、特定の個人が識別される相手方氏名等の情報は条例第8条第1号に該当する。
(2)条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本件対象公文書には、県又は国の事務事業に係る意思形成過程において、知事が調整、打合せ等を行った相手方等が記載されており、最終的な意思決定に至らない未確定な情報が多く含まれているので、これを開示することにより、その内容が類推され、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられたり、県民に無用な混乱を招くなど、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。
(3)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本件対象公文書には、知事が事務事業を遂行するうえで行った交渉、渉外等の相手方、懇談の場所(飲食店)、贈答品の購入先等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、また、県による相手方に対する評価・位置付けが明白になり、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなる等、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。
(4)知事交際費は性格上、行政機関の長である知事の交際に伴い必要となる経費であることから、旅費、食糧費等とは異なり、一律には論じられない。
4.異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、実施機関の処分は次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
(1)非開示理由と政官財癒着
知事交際費内訳書が全面的に非開示となった。非開示の理由は、①特定の個人が識別される、②当該又は同種の事務事業に係る意思形成過程に著しい支障を生ずるおそれがある、③関係当事者との信頼関係が損なわれる等、事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある、とのことである。現在の政治・行政は政官財の癒着により大きく歪められている。
(2)原則公開の公正な行政の確保
公務員は大きな権力を持ち、情報を隠すことにより、不当又は違法なことをし続けてきた。ところが、食糧費等が原則開示となってからは食糧費の支出や官官接待が激減した。このことは、情報公開が政治と行政を正すために如何に重要なことかを明らかにしている。民主主義を担保するものは情報公開であるというべきである。
実施機関は様々な理由を付けて知事交際費を非開示としているが、非開示にすることにより、公務員が如何に違法不当なことを起こす可能性を大きくしているかを全く考慮していない。原則公開は政官財癒着をなくす大きな力になり、住民のための政治と行政が執行されるために是非必要であり、民主主義の基礎である、ということは最近の経験から明らかであり、一般市民のコンセンサスを得つつある。
(3)行政の意思形成と事務事業の適正な執行のためには情報公開が不可欠
自治体と交渉する場合は、私人と雖も原則としてプライバシーを主張すべきではない。地方自治体は住民のために住民の税金で運営されているのであるから、意思形成過程も交渉事も原則として住民に開示されることは当然である。また、開示されてこそ公正と適正が担保されるのである。
開示すると意思形成過程に著しい支障を生じるとか、事務事業の公正な執行に支障を生じるとかの主張は、非開示により違法不当な行政の執行が行われる可能性を無視するものであり、上記4(2)(原則公開の公正な行政の確保)の経験を踏まえていない。
また、開示すると不都合な場合があることは否定できないが、殆どの場合は、開示した方が適正に意思形成がなされ、事務事業が適正に行われる可能性が高いと考えられるし、民主主義にとって極めて重要なことであることは明らかである。原則非開示の理由は全くない。
(4)知事交際費の公開度は全国最下位
全国市民オンブズマンの公開度ランキングによると、三重県は、食糧費と旅費の公開度は全国トップクラスであったが、知事交際費の公開度は最下位であった。
(5)公開しても不都合はなかった
三重県は平成10年4月以降知事交際費の原則全面開示に踏み切り、新聞で報道されているとおり、交際の場所、金額、相手方、支払先等ほぼ全面的に開示されている。非開示となったのは病気見舞いの相手方のみであった。これをみても開示しても何ら意思形成過程や事務事業に支障を生じることはほとんどないことが明らかになった。
三重県は、知事交際費につき平成10年4月以降のものだけを開示し、それ以前のものは非開示としている。平成10年4月以降は開示しても不都合はないが、それ以前は開示すると不都合という合理的理由は全くない。
(6)結論
以上のとおり、開示することによるデメリットは殆どないのに、開示することの公益性は極めて高いというべきである。
5.審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)非開示の理由について
実施機関は、本件対象公文書は条例第8条第1号、第4号及び第5号に該当するので、非開示にできると主張している。
そこで、各号に該当するか否かについて判断する。
- 非開示事由各号の意義について
- 第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 第4号(意思形成過程情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定めたものである。
行政における審議等に関する情報の中には、決裁等の手続は終了していても、行政としての最終的な意思決定に至らない未確定な情報が多く含まれている。これらの情報がそのまま開示されると、行政内部の自由な意見交換が阻害されるなどのおそれがあるので、このような情報については、非開示とするものである。
また、最終的な意思決定に至った後においても、その過程における情報を開示することにより、将来の同種の審議等に支障を及ぼす場合には、このような情報も非開示とするものである。 - 第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とするものである。
- 第1号(個人情報)の意義について
- 各号への該当性について
- 第4号及び第5号への一般的・抽象的該当性について
知事の交際費は、県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際のうち、懇談については第4号の検討等事務又は第5号の交渉等事務に、その余の慶弔等については第5号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解される。これらの事務に関する情報を記録した文書を開示しないことができるか否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の目的を達成出来なくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同種の検討等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定される。
ところで、本県においては、いわゆる「官々接待」や「カラ出張」問題の反省を踏まえて、「旅費、食糧費等に関する開示基準規則」を制定し、平成8年10月以 降公金の使途に関し、懇談相手方氏名等を含む公文書の原則全面公開や、四半期毎の「旅費、消耗品費、食糧費、交際費の支出状況」の記者発表、インターネットへの掲載等積極的な情報提供を行い、県民の信頼回復に努めていることが認められる。
本件開示請求は、このように、県が各種の改善策を発表した平成8年10月以降に支出された知事交際費(平成9年6月~8月分)に関するものであり、改善状況の確認という意味で県民の関心は高いものであり、また、交際費支出の相手方にとっても公金を使って交際がなされる以上、県が責務として、その使途の説明をすることについては受忍しているものと考えられる。
そうすると、特段の事情のない限り、平成8年10月以降の交際費に関する文書の開示によって、相手方に不快、不信の感情を抱かせたり、相手方が今後の知事との交際を避ける等の事態を生ずることも考えにくい。また、知事においてもこのような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控える等の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれは少ないと思われる。
一方、交際費の使途公開による県民の信頼の獲得には、県にとって大きな意義があると認められる。 - 第4号への個別的・具体的該当性について
本件対象公文書について、当該懇談等が第4号所定の審議、検討、調査研究等の事務に関して行われる場合であっても、本件対象公文書にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において、非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
よって、第4号には該当しないというべきである。 - 第5号への個別的・具体的該当性について
本件対象公文書について、当該懇談・贈答等が第5号所定の交渉、渉外、争訟等の事務に関して行われる場合であっても、本文書にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
よって、第5号には該当しないというべきである。 - 第1号の該当性について
本件における知事の交際は、それが知事の職務としてなされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。第1号は既に述べたとおり、個人のプライバシー保護のため、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができるとしているものであり、このような交際に関する情報は、その性質、内容等からして交際内容が一般に公表・披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである。
なお、公務員の職務に関する個人情報は、そもそも公務員の職務の性格上、公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まれないというべきである。 - 対象公文書ごとの個別的判断
以下に、対象公文書ごとの判断を行う。
○全部公開すべき公文書(別紙1一覧表3、4、5、6、8)
次の公文書については、第1号により開示しないことができるものとは認められない。
・パーティー会費(別紙1一覧表4)
これは、知事が政党主催のパーティーに出席した際に、会費として支払ったもので、知事がそのようなパーティーに出席すること自体は秘密でないと認められ、知事の出席が秘密でない以上、この交際は公開されたものと認められる。
また、個人名の記載はない。
よって、これら公文書については、第1号の適用はない。
・贈答(別紙1一覧表6)
6には相手方の記載がないため、第1号の適用はない。
・懇談会(別紙1一覧表3、5、8)
3、5、8は公務員のため、第1号の適用はない。○交際の相手方の役職・氏名の記載を除きその余を公開すべき公文書(別紙1一覧表1、2、7、9、10、11)
次の公文書のうち交際の相手方を除く部分については、第1号により開示しないことができるものとは認められない。
・懇談(別紙1一覧表2、7)
2、7は相手方が民間人のため、第1号の適用が認められる。
・個人への贈答(別紙1一覧表1、9、10、11の一部)
1、9、10、11の一部は相手方が民間人のため、第1号の適用が認められる。- 1、2、7、9については、法人名・所属名を開示すべき。(役職名・氏名は非開示が妥当)
- 11については、公務員の役職名を開示すべき。
- 第4号及び第5号への一般的・抽象的該当性について
(3)結論
以上によると、本件対象公文書のうち、別紙1一覧表の3、4、5、6、8については全部開示すべきであり、これらの文書についての本決定は、違法であり取り消すべきであり、本件1、2、7、9、10、11の交際の相手方を記載した部分を除き、部分開示すべきであり、これらの文書についての本決定は、交際の相手方を記載した部分以外の部分まで非開示とした部分が違法であり、その部分を取り消すべきである。
6.当審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
知事交際費使途別一覧表
番号 | 交際月日 | 支出月日 | 種類 | 相手方の区別 | 相手方の開示に関する審査会の判断 | 審査会の判断理由 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 5.16 | 6.27 | 贈答 | 民間人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
2 | 5.16 | 7. 9 | 懇談 | 民間人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
3 | 6. 2 | 7. 9 | 懇談 | 公務員 | 開示 | |
4 | 6.15 | 6.27 | 会費 | 政党 | 開示 | ― |
5 | 6.26 | 7. 9 | 懇談 | 公務員 | 開示 | |
6 | 7. 2 | 7.23 | 贈答 | 記載なし | 開示 | ― |
7 | 7. 9 | 7.24 | 懇談 | 民間人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
8 | 7.11 | 7.23 | 懇談 | 公務員 | 開示 | |
9 | 7.13 | 8.12 | 贈答 | 民間人等12人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
10 | 7.18 | 7.23 | 贈答 | 民間人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
11 | 8. 6 | 8.15 | 贈答 | 民間人 | 非開示 | 1号(個人情報) |
公務員 | 開示 |
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
9.12.17 | ・諮問書受理 |
9.12.25 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
10.1.21 | ・非開示理由説明書受理 |
10.1.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.2.10 | ・異議申立人の口頭意見陳述申出書受理 |
10.9.25 | ・異議申立人の意見書受理 |
10.10.2 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 (第90回審査会)
|
10.11.10 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第92回審査会)
|
10.12.8 | ・審議 ・答申 (第93回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
(注)本委員中、室木委員は平成10年10月31日付けで委員を辞任している。