三重県情報公開審査会 答申第79号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書の部分開示決定のうち「指導内容」に該当する部分を非開示としたことは妥当ではなく、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年7月5日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「上野市内における産業廃棄物処理施設に関する業務報告」(以下「本件対象公文書」という。別紙 1)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成11年7月16日付け及び平成11年7月19日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第5号(行政運営情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
- 本件対象公文書について
本件対象公文書は、廃棄物対策課及び伊賀県民局生活環境部の職員が産業廃棄物処理業者の操業状況を監視するため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第19条第1項の規定に基づいて、実施機関が産業廃棄物処理業者に対して行った立入検査の内容であり、その内容は、大きく「現場において確認した事項(以下『現認事項』という。)」、「聴取内容」及び「指導内容」に分けられる。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
実施機関が非開示とした情報は、「聴取内容」及び「指導内容」であり、これらは以下の理由により、条例第8条第5号(行政運営情報)に該当するものである。「聴取内容」は、現場にて事業者から聴取した情報であり、実施機関が今後の指導方針等を検討、判断するうえで必要不可欠なものであるが、必ずしも真実であるとは判断しがたく、業務報告書作成後に真実か否か確認される事項もある。
したがって、これら不確定な情報を開示することにより、結果的に第三者に誤った情報を提供する場合もあり、関係当事者との信頼関係が損なわれ、今後必要な情報を収集することができなくなるおそれがあると判断される。
また、「指導内容」は、立入検査の結果、不適正処理等の行為が判明した場合、口頭指導した事項を記載したものである。通常、産業廃棄物処理行政においては、悪質な事例を除き、行政処分を行う前に、口頭指導又は文書警告等により適正処理を指導し、改善を促すことによって法による規制を補完し、より実効性のある規制を果している。
したがって、これらの「指導内容」を全面的に開示することは、立入検査の具体的態様を規制対象者(本件事業者及び他の処理業者)にも明らかにすることになることから、行政指導の有効な実施の妨げとなる。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で述べ、また、審査会で口頭意見陳述している異議申立ての主たる理由は次のように要約される。
- 本件産業廃棄物処理業者について
本件産業廃棄物処理業者は、長年「野積み」をしてきており、それは10万トンにも上る。改正廃棄物処理法の保管基準違反で、実施機関は、本件事業者に対し本年4月に改善命令を出している。ところが、この改善命令に対して本件事業者が、「直ちには改善できないから延期してほしい」との延期申請を行ったため、実施機関はこれを認めてしまった。
また、本件事業者には、移動式破砕機や焼却炉などの設備の稼働に関して法違反の疑いがある。 - 実施機関の監視体制等について
実施機関は、廃棄物処理等の違法行為等を是正する権限が与えられているが、こういった監視体制等廃棄物行政に携わる職員の数が少ない。三重県警から10名程の警官を県に出向させて、監視・指導にあたってはいるものの、行政需要が非常に増えている現在、廃棄物対策課や各県民局生活環境部の職員だけで監視・指導するには、どうしても人為的な限界がある。
こういった中で、廃棄物の適正処理を図っていくために、地域住民や環境NGO等をパートナーと位置づけて、その人たちが事業者の監視をするといった新しい体制を構築する必要がある。 - 実施機関の対応について
実施機関は、行政指導に従わない事業者に対して改善命令を出し、その改善命令に従わないものには行政処分をしている。しかし、事業者が適正処理をしていない、法違反をしているにもかかわらず、実施機関は改善命令を出さずに繰り返し行政指導を行い、事業者の違法行為を合法化するためや、事業者の操業を延命化させるような指導をしている。
本件対象公文書は、人の生命・身体・健康に関わる情報であり、これを非開示とするのは、情報公開条例の趣旨に反する処分である。
実施機関は住民と情報を共有し、事業者の不適正処理や行政の不作為に対する監視などを、住民が行うためにも非開示にした情報を開示すべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第8条第5号(行政運営情報)に該当するので部分開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質から見て、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も、非開示とすることができるとするものである。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
実施機関は、「現認事項」については平成10年10月2日付け審査会答申第59号を受けて既に開示しているが、「聴取内容」及び「指導内容」については非開示としている。そこで、以下では、「聴取内容」及び「指導内容」のそれぞれについて検討する。
イ 「聴取内容」について
実施機関は、現場での不確定な事項を開示することにより、結果的に第三者に誤った情報を提供する場合があり、関係当事者との信頼関係が損なわれるおそれがあると主張しているが、不確定な情報であると説明したうえで開示すれば、誤解による無用の混乱を避けることができるので、実施機関のこの主張は説得的ではない。 しかし、実施機関には、立入調査権は認められているものの、事業者及び関係者に供述を強要することまではできないため、聴き取り調査には対象者の協力が不可欠と言わざるを得ない。したがって、「聴取内容」を開示することにより、事業者と供述した関係者との信頼関係を損ね、事業者の反発や警戒心を招き、将来の効果的な聴き取り調査が困難となるおそれや、将来関係者から有効な情報提供を得ることが困難となるおそれも否定できない。
したがって、「『聴取内容』の開示が、将来の同種の事務事業の適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」との実施機関の主張は理解できなくはない。しかしながら、将来にわたり、事業者が行政指導等に適正に対応することが期待できないなど、実施機関の将来の情報収集活動に何ら影響を及ぼさないと認められるような特段の事情がある場合には、この限りではない。そこで、本件事案について、この特段の事情があるか否かについて判断する。
本件事案の場合、本件事業者は聴き取り調査等にも協力的で、有効な情報収集が行われていると実施機関は審査会において説明している。また、審査会が対象公文書をインカメラで審理したところ、本件事業者は、実施機関の聴き取り調査等へ適正に対応していると見受けられる。
よって、本件事案については、上記特段の事情は認められないので、非開示が妥当である。
ロ 「指導内容」について
実施機関の主張するとおり、産業廃棄物処理行政において、立入検査の結果、不適正処理等の行為があった場合は、悪質な違反例を除いては、行政処分を行う前に口頭指導又は文書警告等により適正処理を指導し、改善を促すことによって法による規制を補完し、より実効性のある規制を果たしている現状が認められる。
したがって、これらの指導内容を全面的に開示することは、立入検査の具体的態様を規制対象者(本件事業者及び他の処理業者)にも明らかにすることになるので行政指導の有効な実施の妨げとなる、との実施機関の主張は否定できない。
しかし、昨今、廃棄物処理場が付近住民の身体、健康、生活環境に対し悪影響を及ぼすおそれがあり、社会的な関心も高く、廃棄物処理が適正になされているか、行政が適正な指導等を行っているかを明らかにする必要性も高くなってきている。また 、廃棄物処理行政については、近年何度も法改正等が行われる等、行政(国)の姿勢も変わってきており、実施機関においても、これまで非開示としてきた行政指導文書に係る事業者名を本年2月から開示している。所属長の決裁を経て送付される行政指導文書と現場における職員の口頭指導の結果を記した本件対象公文書の「指導内容」との差は相対的なものに過ぎず、行政指導文書を開示し、口頭による指導内容を記載した業務報告書を非開示にする理由はない。
さらに、行政指導の相手方(廃棄物処理業者等)との信頼関係が失われるという実施機関の主張は、上記廃棄物処理場の諸問題を考慮すると、相手方との信頼よりも住民の信頼を得る利益の方がより重要であるため、審査会として採用することはできない。
よって、実施機関が条例第8条第5号に該当するとして非開示とした情報のうち、「指導内容」に該当する部分を非開示としたことは、妥当ではなく、開示すべきである。 - 結論
よって、冒頭の「1 審査会の結論」のように判断する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
開示請求対象公文書
廃棄物対策課分
平成10年9月4日 | 業務報告書 |
平成10年9月8日 | 業務報告書 |
平成10年10月2日 | 業務報告書 |
平成10年10月17日 | 業務報告書 |
平成10年10月29日 | 業務報告書 |
平成10年11月11日 | 業務報告書 |
平成10年12月24日 | 業務報告書 |
平成11年 2月15日 | 業務報告書 |
平成11年 2月20日 | 業務報告書 |
平成11年 2月26日 | 業務報告書 |
平成11年3月4日 | 業務報告書 |
平成11年3月25日 | 業務報告書 |
平成11年4月13日 | 業務報告書 |
平成11年5月1日 | 業務報告書 |
平成11年5月11日 | 業務報告書 |
平成11年6月3日 | 業務報告書 |
平成11年6月10日 | 業務報告書 |
伊賀県民局生活環境部分
平成10年 8月31日 | 業務報告書 |
平成10年 8月31日 | 業務報告書 |
平成10年 9月 3 日 | 業務報告書 |
平成10年 9月 4日 | 業務報告書 |
平成10年 9月 4日 | 業務報告書 |
平成10年 9月 7日 | 業務報告書 |
平成10年 9月 8日 | 業務報告書 |
平成10年 9月14日 | 業務報告書 |
平成10年 9月16日 | 業務報告書 |
平成10年 9月17日 | 業務報告書 |
平成10年10月 2日 | 業務報告書 |
平成10年10月 7日 | 業務報告書 |
平成10年10月17日 | 業務報告書 |
平成10年10月29日 | 業務報告書 |
平成10年11月11日 | 業務報告書 |
平成10年12月 2日 | 業務報告書 |
平成11年 1月12日 | 業務報告書 |
平成11年 1月12日 | 業務報告書 |
平成11年 1月26日 | 業務報告書 |
平成11年 2月15日 | 業務報告書 |
平成11年 3月 4日 | 業務報告書 |
平成11年 3月24日 | 業務報告書 |
平成11年 4月13日 | 業務報告書 |
平成11年 5月 1日 | 業務報告書 |
平成11年 5月11日 | 業務報告書 |
平成11年 6月10日 | 業務報告書 |
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.8.4 | ・諮問書受理 |
11.8.4 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
11.8.9 | ・部分開示理由説明書受理 |
11.8.9 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.8.30 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取(第101回審査会) |
11.10.1 | ・審議
(第102回審査会)
|
11.11.8 | ・審議 ・答申 (第103回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |